一章 君が好きな私が好き。8

 不審に思って訊ねると、結朱は真っ赤な顔のまま、引き攣った表情を浮かべた。

「こ、腰抜けた……かも」

「はあ!?」

 俺が予想外の事態に声を張り上げると、それに負けずに結朱は混乱したまま声を張り上げた。

「だ、だって! いきなり倒れてびっくりしたし! 気付いたらなんかめっちゃ恥ずかしい状態になってるし! そりゃあ腰の一つも抜けますよ! ばか!」

「リア充のくせにどんだけ男への耐性ないんだお前は! あんだけモテるアピールしまくってただろ!」

「仕方ないじゃない! 私に見合う男が今までいなかったんだから! 私くらいの完璧超人になると、自分に釣り合う男を見つけるのも一苦労なんだよ!」

「この状況で自慢を入れてくる精神力だけは認めてやるわ! だからその持ち前の精神力を総動員してさっさとどけ!」

「できたらやってるよ! 大和君こそ男の子なんだから持ち前の腕力で私をどけてよ!」

「できたらやってるわ! こちとら虚弱なインドア派だっつうんだよ!」

 超至近距離で不毛な言い争いを繰り広げる俺たち。

 そんな状態に終止符を打ったのは、結朱の精神力でも俺の腕力でもなく――いきなり教室に入ってきた第三者だった。

「多分、教室だよなあ、俺のスマホ」

 現れたのは、今回のターゲットである桜庭颯太。

「まったく疲れてるのに、余計な……体力……を……」

 自分の席に向かって歩いてきた彼は、教室の真ん中までやってきたところで、床に寝そべった状態で重なった俺たちを発見したらしく、独り言を止めた。

「――――――」

「――――――」

「――――――」

 三者三様の沈黙。

 そこから最初に立ち直ったのは、やはりというか桜庭だった。

「わ、悪い!」

 言うなり、彼は自分のスマホを回収してダッシュで去っていった。

「待って颯太!?」

 弁解しようと名前を呼ぶ結朱だったが、もう遅い。

 既に桜庭の背中は廊下に消え、どんな言い訳も通用しなくなってしまった。

 まさかこんなことになるとは……。

 二発目の衝撃で逆に腰が抜けた状態から立ち直れたのか、結朱はよろよろと俺の上からどいた。

 続いて上半身を起こした俺は、まだ教室の出入り口を呆然とした様子で見つめる彼女の肩をぽんと叩く。

「まあ……結果としては作戦成功だな。よかったじゃん」

 放課後の空き教室で、こっそり抱き合う……どころか押し倒しちゃっているカップル。

 誰がどう見ても行為に及ぶ寸前である。

 自分の好きな子が、彼氏とそういうことをしようとしている場面に出くわした桜庭の心情を思うと、非常に忍びない。

 が、結朱にそんな励ましは効かなかったらしく、涙目でこっちを睨んできた。

「よ…………よくないよ! いいわけないじゃん! ああもうっ、最悪! ねえ、さっきの私たち、客観的にどう見えたと思う!?」

「彼氏を押し倒してコトに及ぼうとしてる超エロい彼女」

「だよね!? よりによって私のほうが積極的だったように見えるよね!?」

 まあ間違いなく。

「いやでもほら、当初の目的は達成したし」

「達成しすぎだよ! 過ぎたるはなお及ばざるがごとしって言葉知ってる!? 明日からどういう顔して颯太に会えばいいの!? 絶対『あ、学校でコトに及ぼうとしたエロい女だ』って目で見られるじゃん!」

 羞恥に堪えかねたのか、両手で顔を覆って足をばたつかせる結朱。

「あんまり気にするなよ。彼氏が出来た時点でクラスの男は、そういうことしてんだろうなあって目でお前のことを見てるし」

「キモい事実教えないでくれる!? 最悪、もう最悪……!」

 凄まじいへこみっぷりを披露する結朱。こいつ世間体とか超気にしそうだもんなあ。

 さすがにここまで落ち込まれると、こっちも申し訳なくなってくる。

「元気出せって。な? 明日ちゃんと釈明すればいいじゃん。俺のほうからも話す機会があったらそれとなく言っておくから」

 そう慰めると、結朱はようやく頭の整理が出来てきたのか、深呼吸を何度かして自分を落ち着かせていた。

「…………そうだね。とにかく、颯太への言い訳はあとで考えるとして、私たちはこの失敗を次に生かさなければなりません」

「お、おう?」

 妙に改まったテンションの結朱に、俺も反射的に背筋を伸ばす。

「私たちの問題点は、お互いのコミュニケーションに不備があること……ぶっちゃけ、あんまり仲が良くないことです」

「偽物のカップルだし、今まで接点もなかったしな」

 そもそも住んでいる世界も違うのだ。いきなり意気投合というわけにもいくまい。

「今まではそれでも最低限の仕事をこなしてくれればいいと思ってたけど……今回みたいな事故が起きるなら話は別。大和君、私たちはきちんとお互いのことを知って仲良くならなきゃいけないよ」

「うーん……一理ある、かな」

 正直、面倒な予感しかしなかったが、こんなふうに結朱にへこまれるのもごめんだし、解決策があるなら乗る姿勢を見せるのが誠意というものだろう。

「というわけで、遅きに失した感は否めませんが、まず私たちがちゃんとカップルの振りをできるよう、仲良くなる計画を立てます!」

 目が据わった結朱に若干の恐怖を抱きつつ、俺は小首を傾げた。

「具体的には、どうやって?」

 訊ねると、結朱はビシッと俺を指差しながら、自分のアイディアを披露した。

「仲良くなるには一緒に遊ぶのが一番。つまり――私たちでデートをします!」


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試し読みは以上です。


続きは2020年8月1日(土)発売

『とってもカワイイ私と付き合ってよ!』

でお楽しみください!


※本ページ内の文章は制作中のものです。実際の商品と一部異なる場合があります。


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『とってもカワイイ私と付き合ってよ!』書き下ろしSS

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