第三話『ちっちゃくてかわいい先輩と、おおきくてきれいな????が照れる話』3
「うん、捻挫だね」
保健室に
「そこまでひどくはないみたいだから、湿布を貼って固定しておくよ。二、三日様子を見て、もしも悪化するようなら病院に行くといい」
「分かりました。ありがとうございます」
「いいさ、これが私の仕事だからな」
手早く処置をしてそう口にすると、「それじゃあ私はタバコを吸ってくるから」と言ってそのまま保健室を出ていってしまった。
「……」
「……」
しばしの沈黙。
さっきまでの塩対応な様子からして、たぶん女子生徒は
「…………ました……」
「え?」
「…………あ……ありがとう、ござい……ました……。その……た、助けて……い、いただいて……」
消え入りそうな小さな声。
だけど初めて聞いた女子生徒のその声は、見た目に
「……そ、それに……さ、さっきは、すみません…………でした……こ、こちらから訪ねていったのに、ちゃんと事情を説明できないで……」
「いえ、気にしていないので」
きっと自分に威圧感があって
こういう反応をされるのは昔からよくあったことで、何とかしなければならないと常々思っていた問題点だ。そういう意味では、むしろ謝らなければならないのは
「足は大丈夫ですか?」
「………あ、は、はい……おかげさまで……」
「そうですか。それならよかったです」
対応を頼まれたクラスメイトに何かがあったら、先輩に顔向けができない。
大事にならなかったことに
「…………あ、で、でも……」
「? 何ですか?」
「………そ……その……」
何かをためらうような素振り。
やがて女子生徒は、思い切ったようにこうぽつりと漏らした。
「………………お、重く、なかったですか……?」
「え?」
「……だ、だって……わ、わたしなんかを……も、持ち上げて……ここまで運ばせてしまって……」
顔を伏せながら心の底から申し訳なさそうにそう言ってくる。
ああ、なるほど、そういうことか……
「ぜんぜん大丈夫でしたよ。むしろ軽いくらいでした」
女子生徒の顔を見ながらそう答える。
それは本当のことだ。
野球部の練習で走りながら抱えていたタイヤ(×三)に比べれば、何もなかったに等しい。
「あ……」
その言葉に、女子生徒が驚いたように口元に手を当てる。
「…………あり、がとう……ございます……わ、わたし……こんな風に
最後の方はほとんど聞こえないくらいの声でそう言う。
詳しい事情はよく分からないけれど、それは単純にスタイルが普通にいいだけなのではと思う。
なので
「そんなことないですよ」
「……え……?」
「ムダな脂肪は付いていないし、二の腕も
「……そ……その……」
「どこに出しても恥ずかしくない、魅力的でキレイないい身体をしていると思います」
「……あ、あの、あの……あああ……」
女子生徒が激しく
と、次の瞬間。
ひっく……
女子生徒から発せられたそんな音が、保健室に小さく響いた。
「……あ、す、すみません……しゃ、しゃっくりが……っ……」
「大丈夫ですか?」
「……は、はい……ひくっ……そ、その、わたし…………すると、しゃ、しゃっくりが出てしまって……」
「え?」
声が小さかったので最後の方はよく聞こえなかった。
「…………あ、ひゃっ……な、何でもないです……! ……そ、それじゃあわたしはこれで失礼します……! ひっく……」
「あ」
まだしゃっくりをしたまま、女子生徒は足を引きずりながらも逃げるようにして立ち去っていってしまった。
その背中を見送るしかできなかった
ワンアウト──
そんな声が、どこからか聞こえたような気がした。