第三話『ちっちゃくてかわいい先輩と、おおきくてきれいな????が照れる話』4

「あれ、どこ行ってたのいちむら? ていうか何があったの?」

 放送室に戻ると、委員会が終わったのか先輩の姿があった。

 机の上に並べられた機材と床に転がった段ボール箱や紙束を見比べながら、首をかたむけている。

「すみません、アクシデントで先輩のクラスメイトにケガをさせてしまって……」

「え?」

「軽い捻挫だったんですが、その治療のために保健室に行っていました」

 りゆうすけが答えると、先輩は不思議そうな顔でこう返してきた。

「あたしのクラスメイトにケガ? え、なかじまさんは急に補習が入っちゃったから今日は来られないって連絡がきてたんだけど……」

「そうなんですか?」

「うん。だからいちむらに悪いことしたなーって思って……」

 先輩のクラスメイトは来なかった……?

 じゃあさっきのあの女子生徒はだれだったのだろう。

 そういえば、最後まで彼女の名前を確認することはなかった。

 というかそもそも会話らしい会話をしたのが保健室でのほんの五分くらいだ。

 彼女が先輩のクラスメイトでないだれかであったとしても……何もおかしくはない。

「んー、よく分かんないけどいちむらは色々大変だったみたいだよね。ごめんね、めんどくさいこと任せちゃって。このお返しはいつかぜったい全力でするからさ。あ、頼まれた機材はあたしからなかじまさんに渡しておくから心配しないで。……って、これ、コードがもう切れそうなのがある。新しいの買った方がいいかも……」

 机の上に置かれたままの機材を見て先輩がそう何かを考えこんでいるようだった。

「……」

 ともあれ、ひとまずは落着のようだった。

 あの女子生徒がだれだったのかは気になるけれど、もしも放送室に何か用事があったのなら、きっとまた会えるだろう。

 そう考えて、この件はひとまず思考の外に置いておくことにする。

 それよりも──大事なことがあった。

 高校生活を送っていく上で、この放送部(仮)で先輩と過ごす上で、りゆうすけにとって何よりも重要なこと。

 それは……

「先輩、お願いがあるんですが、いいですか?」

「ん?」

「あの」

 そう、今日はまだ日課を達成していない。

 原因のよく分からないワンアウトを偶然取ったきりで、きちんとスリーアウトチェンジになるまで先輩を喜ばせていない。

 だから。

「先輩を抱えて保健室まで運んでもいいですか?」

「何それ!? イヤだよ!?」

「大丈夫です。先輩は軽いので」

「それ遠回しにあたしがちっちゃくて色々とボリュームが足りないって言ってるの!?」

 先輩がシャーっと小動物がするような威嚇の仕草を見せる。

 おかしい、さっきの女子生徒にはこれで通じていたはずなのに。

「いえ、先輩はいい身体からだをしていると思います。ほどよい肉付きで、いつまでもじっくりと眺めていたくなります」

「セ、セクハラだよそれ! いちむら、いつからそんなことを言う子になっちゃったの!?」

「え、ですが、均整の取れたすごくバランスのいいスタイルなので……」

「え、ナ、ナイススタイル? ほ、ほんと……? そ、それは……ま、まあ、えへん、こう見えてこの身長の理想体型をキープしてるのはちょっとだけ自慢だけど……って、そ、そういうことじゃなーい!」

 そうは言うものの、頰がにやけるのを隠し切れていない。

 これは……ツーアウトと言っていいだろう。

 心の中でグッと拳を握りつつ、りゆうすけは続けた。

「謙遜することはないと思います。先輩の身体からだはミロのビーナスをほう彿ふつとさせるような素晴らしい芸術だと思います」

「う、え、げ、げーじゅつ……?」

「はい。もしもできることならば何らかの方法で美術館に収蔵して後世に残すべきではないかと」

「しゅ、収蔵って……だ、だから何でいちむらは発想がク●ミナルマインド的なの!?」

「ですが本当にそう思うので」

「お、思ってればいいってもんじゃないっていうのに……も、もうわけわかんない! 知らない! にゃ、にゃー!」

 先輩が全てを投げたように高らかに鳴く。

 この後も、めちゃくちゃ先輩を喜ばせた。


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