第三話『ちっちゃくてかわいい先輩と、おおきくてきれいな????が照れる話』2
放課後。
授業を終えた
先輩に頼まれ事をされたのだから、それは何よりも最優先しなければならない。
この日も
「……」
鍵を開けて放送室に入る。
放送室には人の気配はなかった。
普通に考えれば他の部員の一人や二人やって来ていそうなものだが、そういう様子はこれっぽっちもない。
なぜなら放送部(仮)は現状……先輩と龍之介の二人だけの集まりなのである。
部とは名乗っていて昼休みの放送や行事でのアナウンスなどは任されてはいるものの、規定人数に達していないため実のところ正式な部活としては認められていない。扱いとしては同好会と同じレベルだ。いつか部員を集めて正式な部活として認められるのが目標なのだと、先輩は目を輝かせながら熱弁していた。
「部員を集めて、か……」
壁に掲げられた『今年こそゲットだぜ、新入生!!』の垂れ幕を見ながら一人そうつぶやく。
先輩が望んでいるのなら、その目標を
放送部(仮)が正式な部活になることができたら、先輩はきっとものすごく喜ぶだろう。アジの干物を目の前にしたニャン
だけど。
「……」
規定人数まで部員が集まるということは、これまでのように先輩と二人だけではなくなってしまうということも意味する。
そうなってしまえば先輩と接する時間も必然的に少なくなってしまうだろうし、先輩を喜ばせることができる機会も減ってしまうかもしれない。
それは少し……いやかなり、
もちろん、先輩の夢が
「……よくないな」
頭を水飲み鳥のように振って雑念を振り払う。
部員の案件は
そう結論付けて、作業に移ることにする。
先輩に頼まれた機材の準備。
放送室奥の物置に入っていた段ボール箱を
マイクや小型のスピーカー、それらを
それらをまとめていると、コンコンと入り口のドアを
「はい、どうぞ」
「……」
ドアの向こうに立っていたのは、一人の女子生徒だった。
きれいに整えられた長い髪、百七十センチを超えているだろうモデルのような長身、はっきりとした目鼻立ち。
その落ち着いたどこかクールな表情とも相まって、ものすごく大人びて見える。
とても先輩(ちっちゃい)と同級生に見えないというか、
少しばかり身構えつつ、
「ええと、先輩の──
「……」
「機材を借りていくことになっているんですよね? 用意しておいたんですが、これで大丈夫そうですか?」
「……」
返事はない。
ただ胸の前で固く腕を組んで、どこか警戒するような様子で
「あの」
「……」
「これ、持っていきますか? それとも少し重いので、よければ指示された場所まで運びますが」
「…………」
やはり無言。
相づちの声すらもない。
何か失礼なことでもしてしまったのだろうか。
普段から顔が怖いだとかそこにいるだけで威圧感があるだとか、夜道で会ったらヒットマンと間違えて絶対に逃げ出したくなるだとか言われることがよくあるため、周囲からこういった反応をされることは珍しくはない。
沈黙を貫く女子生徒に、
「あの、ひとまずこれで大丈夫かを確認してもらえると──」
その瞬間。
「……ひっ……」
小さく声を上げて、女子生徒が
まるでサバンナで飢えたライオンと遭遇した栄養たっぷりのシマウマみたいな反応。
その拍子に、入り口すぐ脇にあった棚に
「……あ……っ……」
一瞬の出来事だった。
弾みで棚が大きく揺れて、載っていた段ボール箱が崩れ落ちてくる。その先にはもちろん女子生徒の姿があって──
「……っ……!」
反射的に床を蹴る。
ドサドサドサ……!
直後に、背中に軽い衝撃と段ボール箱と中に入っていた紙束が床に落下する物音。
「……」
「大丈夫ですか?」
「……え……」
とっさに駆け寄り
「すみませんでした。怖がらせるつもりはなかったんですが……」
「……」
「ケガはないですか? 立てます?」
「……」
こ、こくん。
こちらからは目を
だけど立ち上がろうとした際に、女子生徒は顔を
足を押さえているみたいだったので、断って靴下を下ろして見てみると、くるぶしのところが赤く晴れ上がっていた。
「痛みますか?」
「……っ……」
軽く触れてみただけで、女子生徒が苦しげに声を上げた。
これはおそらく……捻挫だろう。
野球部時代によく経験していたため、
「保健室に行きましょう。湿布を貼って、固定した方がいいと思います」
「……」
無言でうなずいて、女子生徒が
だけど痛みが激しいのか、すぐに「……っ……」と小さく声を上げて座りこんでしまう。
これはとてもじゃないが、歩いていけるような状態じゃなさそうだ。
だったらここは……
「……失礼します」
「……? えっ……!?」
目を丸くする女子生徒を、
俗に言う、お姫様抱っこというカタチである。
「すみません。このまま保健室まで運ばせてもらいます」
「……っ……っつつつ……!?」
女子生徒が声にならない叫びを上げる。
混乱状態のままの女子生徒を腕に抱えて、