エピローグ1 そしてプロローグ2.④

「あの……ちょっと相談したいことがあるんだけど」

 と、そんな風に話しかけられたのは、数日った昼休みのことだった。

 ことはしさんの時と似た状況だが、案外に既視感はない。

 まず場所が違う。話しかけられたのは教室の俺の席で、弁当を広げ始めたタイミングだ。そして話しかけてきた相手は、ことはしさんと違ってひかえめな雰囲気の男子だった。

 同じクラスのくんだ。席は遠いが、自分から立候補して図書委員になっていたからよくおぼえている。全体的に線が細い印象でふとぶちの眼鏡が似合う、いかにも読書好きな男子だ。

 俺はなんとなく弁当箱の蓋を閉め直し、机の前に立つ津木くんを見上げた。

「ぇ……相談……って?」

 女子相手のような緊張はしないものの、同じくらい戸惑った声が出る。まともに話すのも初めての同級生に「相談」とはなんだろう。

 要領を得ないでまばたきする俺に、津木くんもまた自信なげに答えてくる。

「ほら、女子の間でウワサになってるでしょ、むらくん、で探偵してくれるって」

 ……おい。

「待って。なんでそんな話になってるんだ?」

「違うの? なんかはつしばさんが言ってたのが聞こえたんだけど」

 なに言ってくれてんだ初芝さんあのおんな……と、教室の中を見回すも、例によって教室内に初芝さんは見当たらなかった。代わりに、ぷぷぷ、探偵だって……と含み笑いしているあまが視界に入ったが、ひとまず無視しておく。

 どうしたもんか……と俺が頭を抱え、津木くんは雲行きの怪しさに戸惑っている。そんな中で、

「いったい、どんな相談事なんですか?」

 口を開いたのは──意外と言うべきか当然と言うべきか──右隣の席のクラス委員だった。何事もてきぱきとしているゆきはもう弁当を食べ始めていたが、箸を止めて津木くんの方を見ている。

 津木くんは「ぁ、委員長」と口の中でつぶやいて雪音に向き直った。よほど困っているのだろう。とにかく誰かに話を聞いてもらいたいらしい。

「それがその……『かいじようさつじんけん』の犯人が知りたいんだ」

「は…………?」

 意味がわからなかった。そして正直、これ以上ウワサを広めないためにも、津木くんには悪いが話を聞くこともなく断りたかった。

 しかし。

 そんな俺の足が、机の下でぎゅっと踏まれた。左足だ。つまり左隣のやま雨恵に踏まれている。見ると、午前中はずっと眠たそうに細められていた目に好奇心の光が宿っている。そして、

「聞くだけ聞いてあげればいいじゃん。ねっ……戸村くん」

 いつも通りの、気だるげで投げやりな声で言ってくる。しかし俺の耳には、「聞け、面白そうだから」と有無を言わせぬ要求に聞こえた。

 助けを求めるべく、姉のせいちゆうやくである妹を見るが、ゆきは雪音で、くんの発言が推理小説好きの琴線に触れたらしくとして俺を見返してきた──『マ、マニアってほどではないんですけどね』という、恥ずかしげな声が耳の中によみがえる。

 こちらはあまと違って遠慮がちだったが、それだけにその上目遣いの視線には逆らいがたいものがあった。

 そしてなにより、俺はこの姉妹に大きな借りを作ったばかりなのだ。

「………………とりあえず、詳しい話を聞かせてくれるかな」

 俺の言葉に含まれた苦渋のニュアンスには気付かず、津木くんは顔を輝かせた。


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