ふ、諦め切れぬと諦めた奮闘話 第三話


 後ろ手をついたとき、かたい物が指先にあたり、八重は飛び上がりそうになった。

 こちらを見つめる黒葦を警戒しながら、八重は指にれた物がなにか確かめようと背後にすばやく視線を走らせた。

「……はっ!? くろ太刀たち?」

 盛り上がった黒土から、ウイスキーハウスに置いてきたはずの黒太刀の一部が飛び出ている。

 八重はとっさにその黒太刀を黒土の中から引き抜いた。ちがいなく例の太刀だった。

 両手でにぎりしめたその黒太刀をぜんぎようしていると、突然『行け』という男の声が聞こえた。

 八重は、ぱっと顔を上げた。目の前にいるのは黒葦のみでほかには誰もいない。

「いまの声は黒葦様なの?」

 おそる恐る問うと、黒葦は向日葵色の目を細めた。八重の問いをこうていしたように見える。

「行けって、どこに──」

 のしのしと近づいてくる黒葦から距離を取ろうと、八重は急いで身を起こし──ひゅっと息をんだ。

 いきなり、周囲の景色が様変わりしていた。

 三日月形をしたがんくつのそばにいたはずなのに、なぜか八重たちはうすやみに包まれた花耆部にもどってきている。

(なぜ!?)

 予想外のかいにおののき、八重は黒太刀をきしめて身をこわらせた。

「ねえ黒葦様、どうなっているのこれ」

 激しく混乱しながらも、この怪異を引き起こしたのは黒葦に違いないと八重は確信していた。結果として朧者から助けてくれたが、それが黒葦の本来の目的ではないだろう。いったいなにに八重を巻き込むつもりなのか、事情を問おうとして口を開けば、もうしゃべるなというように黒葦がうなる。

まわれ』

 黒葦の声が頭の中でひびいた。若い男の声だった。

 八重はぎゅっと口を結ぶと、ふるえながら周囲を見回した。

 自分たちがいる場所は、花耆部の地で間違いない。薄闇におおわれた山のけいしやに、無数の段々畑が作られている。そのなかほど辺りに八重が暮らすウイスキーハウスのりんかくが見える。欠けた注ぎ口のみひょろっと細い、ずんぐりとしたボディ。独特の輪郭だ。

 段々畑の下のぼんにも畑があり、こうする川がぼんやりと見て取れた。

 きるほどに見慣れた景色。けれども、なにかが違う。

 ほんの少し次元がずれているようなかんがある。

 そのしように、たみの気配がない。虫の鳴き声も、鳥の歌も、風の音も存在しない。

 奇祭〈廻坂廻り〉を行うときと、いまのじようきようはよく似ている。

(まさかここで私に奇祭をやれって……?)

 なぜだ。そう疑問をいだくも、ゆうちように考え込むゆうはないのだと八重は気づいた。

 民の気配はないが、大気がおんな感じにざわざわとしている。恐るべきものが闇の奥にひそんでいると、八重は理解する。

「……つちや」

 八重はかわぐつぎ捨てると、声を絞り出した。

 へたり込みそうになる自分の足をしつしながら、黒太刀を両手で捧げ持ち、一歩進む。

 黒葦がとなりに並んだ。やはり奇祭の真似まねごとをしろということだ。

 それにしても──いまごろ気づいたが、黒葦にはかげがない。黒葦が身から流していた血だって、地面に残らず幻のように消えていた。

(黒葦様の存在自体が、幻のため、とか……)

 思い返せば八重以外に、黒葦に触れた民はいなかった。その八重だって、黒葦に触れられるようになるまで何年もかかっている。

つちや あめつちや」

 進むごとに、周囲に満ちる不穏な気配がよりのうこうになる。

「祭ろ 祭ろ 祭ろや ちまた

 なにかが、ついてくる。

「祭りゃ 祭りゃ 祭りや こんこん

 気配は、ひとつきりではない。

 獣の足音、人の足音、むしの足音。羽音。化け物の息。

 ひやつこうのように、恐ろしい集団が八重のあとをぞろぞろとついてくる。

 そんなきつな確信を抱いてしまった。

「今々    こん

 きようで、指先までじんとしびれた。

(隣の部の男にとつぐはずが、どうしてこうなった)

 八重は頭をなやませた。おかしいな、けつこんってこんなにいのちけのものだっけ?

「祭ろ 祭ろ 祭ろエ まにま

 振り向きたい。

 後ろになにがいるのか、確かめたくてたまらない。本当に百鬼夜行なのか。それとも。

 だが、八重がゆうわくくつして立ち止まりかけると、黒葦が警告するようににらみ上げてくる。

(だいたい、どこへ向かえばいいのか)

 本来の奇祭では、びひん様をついのように追い回すはずだ。

 だがいまは追い払う対象がいない。

 八重は段々畑を上がり、細道をける。とりあえず、盆地の一帯からはなれた場所にあるあのしゆいろの大柱を目指せばいいのだろうか。

ついや 槌や あまがつや」

 ほおの筋肉が強張り、うまく口が回らない。しゆをとちった気がする。

(私、奇祭の使いを長くやってるけど、本当はビビリの小心者だからね!?)

 ホラー映画は見ない。しんれいスポットにも絶対行かない。前の世ではそういう人種だったのだ。

「末の まつの 末路 はちまた

 後ろの集団がすきあらば八重をおそおうとしているのがわかる。えきすする音が聞こえてくる。

 そのせいで身の震えがおさまらず、呪を何度も間違えてしまう。

 しかし手を出してこないのは、そばに黒葦がいるからか。

ぎや 覓ぎや ぐわせ こんこん

 額をあせが流れる。

 そういえば、面紗ベールがいつの間にか外れてしまっている。

こんこん  こうこう  こう

 八重は背後のざわめきを背中で意識しながら、集落を離れる。

「まほろ まほろへ まつろえ 隨意まにま

 八重は、いやな汗がとまらなかった。

 奇祭のたびに唱えてきて、ある意味もりうたのようにんでいるこの呪について、なぜかいまさら疑問を抱く。

 はじめはみよういんんでいるとしか思わなかった。何度か口にして、あぁこれは平たく言えば「この地でずっとお祭りをかいさいするよ。だから追いはらわれてもおこらないでね」という、ある種びひん様をけんせいするような意味を持っているのだろう。そう信じていた。

 びひん様は日本から流れてきたがみのなれの果てではないか、と八重は仮説を立てている。だれにもまつられなくなったから堕つ神と化し、あたりにけがれをくようになった。そこで、悪さをせぬようにと、この奇祭が生まれたのでは、と考えていたのだ。

 だが、そう単純な呪ではない気がしてきた。

 ひょっとしたら、「末までも、道をたがえようとも、もつささげて穢れをはらい、祀り続けよう。だから赤子のように泣くな、かねが鳴るようにわめくな。祀ってやるんだから永遠に服従しろ」というようなひどくおごった呪ではないのか。

 もしもそうだとしたら、いったい誰に対してくつぷくしろと呪を投げている?

 ──そんなの当然、びひん様だ。

(待って待って。私はなにをずっと、やらされてきたんだ)

 なんだこれ。本当はこわい祭りの起源ってやつか。

 八重はもうなにもかも投げ捨ててげ出したくなった。

 しかし、背後の集団は、はっきりと八重に悪意を向けてきている。奇祭を中断すれば、この集団はとして八重を襲うだろう。いまは進むしかない。

 祭りの裏事情はともかくも、集落を出て以降のきよかんがあからさまにおかしい。

 なぜ段々畑の横手に回ったら、すぐそこに朱色の大柱があるのか。

(指一本分ずれた次元に迷い込んでいる説が濃厚になってきた)

 八重はくろ太刀たちかかげたまま、おののきながら大柱の横を通り抜けた。本来のさいならここで八重の役目は終わるが、かんじんのびひん様がいないので、どこで足を止めていいのかわからない。

 悩むうちに、いよいよ怪異が八重に向かってきばき始めた。

 柱の横を抜けた直後、景色が再び一変する。なぜか足元は前方へまっすぐ延びたいしだたみに変わっていた。石畳の左右には、くずれかけのいしどうろうがずらっと並んでいる。八重が通過した場所のみ、石灯籠に明かりがつく。

 その様子をちらっと横目でかくにんして、見なきゃよかったと八重は死ぬほどこうかいした。石灯籠の中で青白く燃えていたのはろうそくではなくさるの頭だった。

(大人ぶって奇祭の使者を引き受けるんじゃなかった)

 時間をもどせるのなら、安易に受け入れた子ども時代の自分をとめてやりたい。

 いやいや前進して、八重はさらに後悔をつのらせた。

 石畳の先には八重のたけ以上も高さがある、ごつごつとしたせきのようなものが正方形のたまがきの中心に立っている。そしてその石碑の下部から金色のとらどうの半分あたりまでていた。

 石の中からどうやって顔を出したんだ、という疑問はもうこれだけかいが発生している状態なので今更だ。

 八重は恐怖でまばたきもできなかった。

 白と金色のまざった毛並みの虎をまじまじとる。額部分にはぼんのように見える黒文字がうっすらとかんでいる。くさった卵みたいによどんでいる黄金の目のまわりにも黒いくまりがあった。さらにはさるぐつわのように黒玉の数珠じゆずを口にかまされている。数珠はまえあしや首、石碑自体にも巻き付けられていて、いかにもこの虎を全力でふうじていますと言わんばかりだった。

 しようさいを説明されずともわかる、これは化け物に属するやばい虎だ。

 それにこのぶつそうな目付きは、とても黒葦に似ている。分身なのかというほどにだ。そう思って、さっと隣に視線を向ければ、横を歩いていたはずの黒葦の姿が消えていた。

 八重はたんに心細くなった。黒葦はいついなくなったのだろう。

(私一人でこの怪異をどう切り抜けろと……)

 長年、奇祭の使者役を任されているが、せいの自分に神通力はない。とくしゆ能力もゼロだ。

 無意識に八重が後ずさりすると、黄金の虎はうらみのこもった目で睨みつけてきた。

「いや、そんなどうかつするようにうなられても……」

 と、言い訳しかけて、八重ははたと気づく。

 背後にはまだおそるべき集団の気配がある。下がってはいけない、と黄金の虎はもしかして忠告してくれたのか。

 このじようきようがまさに前門の虎後門のおおかみといった状態で、八重は身じろぎすらできなくなった。

 気絶できたほうがましだと思ったとき、石碑にびっしりと刻まれていた黒い崩し文字が虫のようにうごめき始めた。け反る八重の前で、その崩し文字がぼんやりとしたかげに変わる。影は人の形を取り、『びひん様』にへんぼうした。

「びひん様まで出現するの!?」

 八重はその場にくずおれそうになった。

 話しかけてはいけない、などの決まり事がのうをよぎったが、こうもイレギュラーな事態が連続している状況で、そのいましめにどれほどの効果があるというのだろう。

 びひん様の顔はすみつぶしたように真っ黒だ。その代わり、はだかの上半身に、小さなじゆうめんかさぶたのようにいくつも浮かんでいる。頭頂部、胸、腹などには、それらの獣面より大きなサイズのおにめいた顔も浮き出ていた。ただ、やはり最初のころに比べるとびひん様はおとろえつつあるような気がする。穢れがうすまっていると言いえてもよさそうだ。

『びひん様』は、石碑から黒いうでを伸ばしてきた。まるで黄金の虎のとうぼうを防ぐかのように、背後から黒玉の数珠を引っぱる。すると虎のどうたいが少しずつ石碑の中にずずっと戻っていく。

 黄金の虎はあらあらしく頭を振ってあらがった。

 八重のほうも、黄金の虎の姿が石碑にしずんでいくにつれ、後ろにいる集団の気配がくなるのに気づいた。

 黄金の虎が八重をえる。死にたくなければふういんを解けと視線でうつたえている。

 どうすべきかちゆうちよしたのはいつしゆんだけだった。

 八重は、生きたいのだ。この世界に生まれ落ちた日だって、誰にも知られず一人で死ぬのが嫌だった。生きることになんの意味があるのか、自分にどんな価値があるのか、いまだにつかめていないけれども、死にたくないという気持ちは本物だ。

「助けるから、おまえも私を助けて」

 きようでがちがちと鳴る歯のすきから、八重は言葉をしぼり出した。

「神かものか知らないけれど、私のために、解き放たれて」

 虎のそうぼうが、ぎゅっと細くなった。

 八重は半ば自棄やけになり、手に持っていた黒太刀をさやから引き抜いた。

 刀身まで黒いその太刀は、黒曜石のようになめらかでぎらぎらしている。

 八重の動きを見た『びひん様』が数珠から手をはなした。今度は八重へと、小さな獣面が浮かぶ腕を伸ばしてくる。八重はのどの奥で悲鳴を上げながら、とっさにその腕に向かって黒太刀を振り下ろした。すると石碑全体からびりびりするほどのだんまつさけびがひびわたった。

「本当に無理、私は戦いに不向きなタイプなんだってば! 次にどうすればいいの!!」

 八重は勢いのまま、がっと石碑に黒太刀を突き立て数珠のひもを切った。

 数珠が散らばったその瞬間、せき止められていた水がほとばしるかのように黄金の虎が石碑から飛び出してきた。こちらをしゆうげきするつもりかとかんちがいした八重は再び悲鳴を上げ、その場にうずくまった。黄金の虎は八重の頭上を高くちようやくし、背後の恐るべき集団にらいついた。化け物たちのを引くようなぜつきようが周囲に広がる。

 八重には振り向くゆうがなかった。

 封印の数珠は、『びひん様』までも石碑の中から解き放とうとしている。

「ねえ、来る! 助けて!」

 八重は、石碑からずるずるとい出てこようとする『びひん様』を見つめたまま、後方でひやつこうの化け物たちと血のいをおどる黄金の虎に向かって叫んだ。

「早く、やばいから、ねえ!!」

「──うるせえわ」

 男の声で、冷静な返事があった。

「えっ」と八重がり向く前に、落とさずにまだにぎりしめていた黒太刀が後ろからだれかにうばわれる。その誰かがついでのように八重の腕を掴み、乱暴に横側へ突き飛ばした。

 八重はよろめいてしりもちをついたが、すぐに顔を上げ、自分を遠ざけたその人物を確かめた。身なりのいい、見知らぬ若い男だった。

「ようやくの自由か」

 そううそぶいて、石碑から這い出た『びひん様』へ切っ先を向ける男の姿を、八重は目に焼き付ける。

 花耆部のたみではなかった。金色のかみは短めだがもさもさと顔のまわりをおおっているため、目元をはっきりと確認できない。ほうは黒で、こしには黄金の帯、つつがたの黒いかわぐつというふうていだ。そのしようぞくだけなら花耆部の民とさほど変わりがないが、かたには風神やらいじんがまとっているようなあわい金色のてんがかけられている。

「いい加減、おまえはくにに沈んでしまえ」

 男はうつとうしげに告げると、『びひん様』にようしやなく太刀を振り下ろした。

『びひん様』はそうに吸い込まれるかのように、うめき声を上げて石碑の中に戻っていった。黒いもやが石碑の表面にうずを巻き、やがて崩し文字へと変わる。その様を見届けることなく男は袍のすそひるがえし、タンッと軽く地をって、化け物の残党──ここで八重ははじめて百鬼夜行の化け物たちを見た──にかる。でっぷりとしたかがみもちのようなたいおおがえるや、そうとう河童かつぱもどきにおおざるなど、見なきゃよかったと本気でこうかいする異形ばかりだった。

 男は楽しくてたまらないというように、喜びながら化け物たちを斬り刻んでいった。動きに合わせてなびく天衣は優美だがいかんせん男の動きは荒々しく、どうもうけものたけくるった武神かというような有様で、なおかつ彼がけんを舞わせるたびに血しぶきがいしだたみらすものだから、八重はしばらくの間放心してその光景をながめるよりほかになかった。

(一方的になぶっているような感じだ)

 八重は何度もえきを飲み込んだ。

 獰猛な獣というたとえは間違っていないだろう。

 目の前で心底楽しげに剣を振るう男が、きっとあの、額に梵字の浮かぶ黄金の虎の正体なのだ。虎から人間に変じたところを見ると、種族的にはじゆうになるのか。……いや、『びひん様』といつしよに封じられていたことを考えれば、悪い意味でもっと高位の存在のような気がする。

(まさか本当にしんじゃないよね。ひょっとして私はとんでもないモノを解放してしまったんじゃないか……)

 八重は頭をかかえたくなった。

 前方に『びひん様』、後方には化け物集団という恐怖のめんはさまれたため、やむにやまれず黄金の虎の封印を解いたが、すでにして八重はそのせんたくを後悔していた。

「これでしばらくは出てこないだろ」

 男は最後の化け物を仕留めると、くろ太刀たちを一振りしてのりはらった。そして地面にへたり込んだままの八重に近づき、いまださつりくの興奮がおさまらぬといったあやういしようを向けてくる。

「おまえも死にな」

 ……は? と八重は耳を疑った。

 なにを言われたか理解するより早く、男はいっさい躊躇せずにその刀身まで真っ黒の太刀を八重の頭に振り下ろした。

 ところが、やいばが八重の頭をたたき割ることはなかった。

 額の上で刃がとまっている。見えないたてこうげきを受けとめたかのようだ。かたかたと小刻みに刃がふるえているのは、それだけこの男が力をこめているしようだろう。

 八重はゆっくりと数度、まばたきをした。その間にじわじわと理解が追いつき、恐怖からいかり、おどろきと、めまぐるしく感情を変化させる。

(この男は私を殺そうとしたのか!)

 美冶部の男にはおとりにされ、せきから解放したこのとらには叩き斬られそうになった。じんな仕打ちがこうも続けば、さすがにもう物わかりのいい態度を取ることなどできない。

「なんで……っ」

 これほどみなに自分の命をかろんじられなきゃいけないのか、という意味での叫びだったが、男は違うかいしやくをしたようだ。

 つまらなそうに剣を下ろすと、たんたんと答える。

「おまえを殺せねえのはさっきの約定が原因か。めんどうなことになったな」

 男は乱れてますますもさもさになった黄金のまえがみの隙間から八重を見下ろした。あざやかな向日葵ひまわりいろひとみには、冷たいかがやきが宿っていた。

 数秒、ぼうぜんと見つめ合って、彼が思いがけずすぐれた容姿を持っていることに八重は気づいた。美冶部の男のようにたけが大きく、それでいてきらきらしたはなやかな美しさがある。りようはすっきりと通っていて、薄めのくちびる微笑ほほえんでいるようにやさしげな形をしていた。

 先ほどの猛る武神のごとききようれつな戦い方を見ていなければ、おだいさまのようなこのうるわしさと気品にかんたんしたかもしれなかった。

「俺はらい。殺したいほど不服だが、おまえのものだ」

 男は──亜雷は、その優しげな形の唇からもうれつな毒をいた。

(殺したいほど!?)

 八重は、ぜんとした。

「おまえのために俺は解き放たれた。その命が俺を自由にするかてだ」



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角川ビーンズ文庫

『かくりよ神獣紀 異世界で、神様のお医者さんはじめます。』

糸森いともり たまき イラスト/Izumi

2020年5月1日発売!


【あらすじ】

異世界に転生したら、神様(怪異)の医者でした。世直し和風ファンタジー!


異世界に転生した八重は、化け物に襲われ、かつて神だったという金虎・亜雷を解き放つ。

俺様な彼に振り回され弟捜しを手伝うが、見つけた弟・栖伊は異形いぎょうと化す病におかされており、なぜか八重が治療するはめに……!?


※くわしくはコチラから!

https://beans.kadokawa.co.jp/product/322001000113.html

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