ライアー・ライアー 久追遥希

篠原―オフモード彩園寺




「はぁあああ~~~…………」


 ――学園島第三番区と四番区の境界付近に存在する、異様に発見しづらい喫茶店。

 今日も今日とてウエイトレス以外の人影が見えないその店の一番奥の席で、俺は一人の少女と向かい合っていた。


 彩園寺更紗――の名前を騙る、朱羽莉奈という名の少女。とある事情からいつもは〝お嬢様〟を演じているのだが、誰にも見られる心配のない今は完全に〝オフ〟の状態なのだろう。流麗な赤の長髪をぶわさっと投げ出し、ぐったりとテーブルに突っ伏している。


「……いきなり呼び出したかと思えば、どうしたんだよそんなに疲れて」


 はあ、と小さく息を吐きながら、俺はウエイトレスが持ってきてくれたコーラのグラスを彩園寺の前に押し出した。すると彼女は少しだけ顔を上げ、ちらりとそれを一瞥する。そうしてヤケ飲みするかのような勢いで半分ほど飲み干したかと思えば、そのままぐいっと身を乗り出してきた。


「聞いて、篠原。……春休みが終わったわ」

「……? ああ、そうだな。……それがどうかしたのか?」

「それがどうした、ですって……?」


 何の気なしに訊き返した途端、大きなルビーの瞳でぎゅっと睨み付けてくる彩園寺。


「大問題に決まってるじゃない……! あたし、家以外ではずーっと〝お嬢様〟のフリしてるのよ!? 登下校中どころか休み時間も授業中も気が抜けないの! だって〝彩園寺更紗〟が居眠りなんてするはずないもの!」

「ああ……なるほど、そういう」

「雑談してる時だって清楚に笑ってなきゃいけないし、誰に話しかけられても適当な応対なんかまず出来ないし……ああもう、声のトーンなんてどうだっていいじゃない聞こえれば! うぅ……こんな日がまた何か月も続くのね」


 小さく呻き声を上げながらそう言って、彩園寺は再びパタッとテーブルの上に倒れ伏した。……とある〝嘘〟の関係で似たような境遇にいる俺だが、少なくとも〝仕草〟や〝振る舞い〟といった部分に関しては俺よりも彼女の方が圧倒的に気を遣わされている。そう考えると、少し申し訳ないような気がしないでもない。

 ――と、


「でも。……それでも、去年に比べたらちょっと楽かもしれないわ。ちょっとだけ、ほんのちょっとだけだけど……こうして〝あたし〟を見せられる相手が出来たから。……だ、だから、そこだけはあんたに感謝してあげるっ」


 彩園寺が不意にそんなことを言った。あまり意識して紡いだ言葉ではなかったのか、口を閉じた後でその顔がかぁっと赤く染まり、やがてぷいっとそっぽを向いてしまう。


「…………」


 ただでさえとてつもなく可愛いんだから、不意打ちで素直になるのは反則だろう――そんなことを思ったが、さすがに恥ずかしかったので適当に頷いておくことにした。



初出:『ライアー・ライアー①』メロンブックス様特典

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