Only Sense Online ―オンリーセンス・オンライン― 23

一章【暖炉のダンジョンと壊力の悪魔】(1)

【迷宮街】に移動した俺たちは、【スターゲート】の列に並ぶ。

【スターゲート】とは、シンボルと呼ばれる固有のアイテムの組み合わせによるエリア生成と復刻されたエリアやダンジョンへ移動する機能を持つ転移オブジェクトだ。

 前に並ぶプレイヤーたちが次々とスターゲートを通って、様々なエリアに移動していく中、俺たちの順番が来る。

「それじゃあ、【暖炉のダンジョン】に繋げるわね」

 スターゲートを操作する台座から転移先を選び、スターゲートのリング内部に銀色の水面が現れる。

 もう何度もスターゲートを潜り抜けてきたために、銀色の水面に躊躇いなく飛び込めば、レンガ作りのダンジョンの入口に出た。

「ここが【暖炉のダンジョン】かぁ。結構暑いなぁ」

 レンガ作りの閉鎖空間には熱の逃げ場がなく、炎熱対策なしでダンジョンに入っただけで、見る見るHPが減り始めている。

「熱波が来る前に、対策装備を身に着けましょう」

 エミリさんに促された俺は、【炎熱耐性】の追加効果が付与されたマント【夢幻の住人】を羽織り、センス構成も変更する。


 所持SPセンス・ポイント65

【魔弓Lv50】【空の目Lv51】【看破Lv56】【剛力Lv30】【俊足Lv50】【魔道Lv48】【大地属性才能Lv36】【調教師Lv27】【潜伏Lv17】【付加術士Lv31】【念動Lv22】【炎熱耐性Lv12】

 控え

【弓Lv55】【長弓Lv53】【調薬師Lv54】【装飾師Lv18】【錬成Lv32】【料理人Lv30】【泳ぎLv26】【言語学Lv29】【登山Lv21】【生産職の心得Lv43】【身体耐性Lv5】【精神耐性Lv15】【急所の心得Lv20】【先制の心得Lv21】【釣りLv10】【栽培Lv27】【寒冷耐性Lv4】


 貴重なセンスの装備枠にも【炎熱耐性】のセンスを身に着け、センスと装備の相乗効果でダンジョンの炎熱ダメージを大分緩和できた。

「エミリさんは、暑さ対策は大丈夫そう?」

「スリップダメージは受けているけど、HPの自然回復と相殺して大丈夫みたい。レティーアとベルはどう?」

【炎熱耐性】付きの腕輪を身に着けたエミリさんは平気そうであり、レティーアとベルに振り返って尋ねる。

「私は装備による対策はありません。ですけど、サッちゃん──《召喚》!」

 成獣状態で召喚された氷属性のコールド・ダックのサツキは、体から冷気を振りまいている。

 そんなひんやりと冷たい、ふわふわモチモチの巨大な純白のアヒルにレティーアが抱き付く。

「サッちゃんの体がひんやり涼しいので暑さにも平気です」

『グワッ』

 どうだとばかりに、ドヤ顔するレティーアと自慢するように胸を張る巨大なアヒル。

「私の方は、ちゃんと対策装備があるから平気だよ〜」

 そして、ついでとばかりにベルも自分は平気であるとアピールしてくる。

「それじゃあ、ダンジョン攻略に必要な消費アイテムを配るけど、暑さが平気そうなら【炎熱耐性】付与の飲み物は無くてもいいよな」

「嘘です。実はめっちゃ暑いです。美味しい飲み物ください」

 サラッと掌を返すレティーアにジト目を向ける俺だが、レティーアの期待の籠もった視線に負けた。

 ダンジョン攻略に必要な消費アイテムである各種ポーションや【完全蘇生薬】などを10本ずつ渡す。

 だが、レティーアはそれらよりも、【炎熱耐性】を付与する【キャメルミルクのコーヒー牛乳】に目を輝かせている。

「おおっ、コーヒー牛乳。それもキンキンに冷えていますね。それでは、頂きます」

 レティーアは、腰に手を当ててキュゥゥッと一気に飲み干し、嘴で器用に瓶を咥えたコールド・ダックのサツキもゴクゴクとコーヒー牛乳を飲んでいる。

 そんな姿に苦笑を浮かべるエミリさんやベルたちにも、ポーションや完全蘇生薬、炎熱耐性付与の飲み物を配っていく。

「流石、ユンくんね。ありがたく後で頂くわ」

「私も探索中に、喉が渇いたら飲ませてもらうね」

 どうやら、耐性付与のアイテムを使い【炎熱耐性】を高めても【暖炉のダンジョン】の炎熱ダメージを完全にゼロにはできないようだ。

 そうして、なんだかんだでダンジョン入口で準備をしていると、ダンジョンの奥からゴォォォッと重低音が響いてくる。

「暑っ!? これって、熱波か!」

 ダンジョン奥から吹き抜けてくる熱波を浴びて、3秒で1%の勢いでHPが減っていく。

 吹き抜ける熱波を耐えていれば30秒程度で止み、その間のスリップダメージもHP全体で見れば1割程度のダメージであった。

「ふぅ、熱波が止んだか。でも、耐えられないほどじゃないかな?」

 だが、【炎熱耐性】が無ければ、熱波によるスリップダメージが更に跳ね上がってHPを一気に奪われる。

 そのことを考えると、中々に侮れないダンジョンである。

「みんな、熱波は耐えられそう?」

「サッちゃんに守ってもらったので平気です」

 冷気を放つサツキが熱波からレティーアを守るために翼の内側に抱えていたようだ。

「私もへーき。ああ、冷たくて癒やされる」

 そして、熱波のどさくさに紛れてベルがサツキの体に抱き付いている。

「……そう。それじゃあ、行きましょうか」

 そして、エミリさんは、レティーアとベルの姿を見ても軽く流し、【暖炉のダンジョン】を進んで行く。

 ダンジョン内は、オーソドックスな迷宮型ダンジョンであり、コールド・ダックのサツキを連れても十分な広さがある。

 そうしてダンジョンのボス部屋を目指して進んで行くと、奥から敵MOBが現れる。

「ゴブリンやオークがサンタ帽を被ってる」

「なんだか、楽しそうですね」

 通路の奥から現れたのは、赤いサンタ帽を被ったゴブリンとオークのグループであった。

 このダンジョン自体が、サンタクロースから盗まれた真っ赤なサンタ帽を中核として作られた設定になっている。

 そのために、出現する敵MOBは、全てクリスマス仕様となっているのだ。

「新規に敵MOBをモデリングするよりも既存の敵MOBのデータを流用した方がコストが掛からないわよね」

「凄く納得の理由だな」

 エミリさんのメタい発言に、俺たちは苦笑を浮かべる。

「ちなみに、敵MOBのステータスもダンジョンの難易度に合わせて強化されているらしいわよ」

「そりゃ、気合いを入れ直さないと!」

 続くエミリさんの補足説明に、ベルは、ポフポフと肉球グローブの拳をもう片方の掌に叩き付けて気合いを入れている。

 そうして、こちらが発見した敵MOBの集団が俺たちに気付く前に、後衛の俺とレティーアが先制攻撃を行なう。

 俺の弓から放たれた矢がゴブリンに、レティーアとコールド・ダックのサツキから放たれた魔法がオークに当たり、HPを大きく減らす。

「さぁ、私たちも行くわよ」

「レティーとユンさんに負けないように頑張るよ!」

 そして、俺たちの遠距離攻撃の後、エミリさんとベルが飛び出して敵MOBにトドメを刺していく。

 二人の攻撃を受けた敵MOBたちは、光の粒子を零しながら倒れていく。

「えっと、ドロップは……ベースとなった敵MOBの素材が3個」

「亜種の敵MOBに新規アイテムを設定するのは大変でしょ? まぁ、強い分、アイテムのドロップ数が多かったり、レアドロップの確率が若干高く設定されているはずよ」

 俺が敵MOBからのドロップアイテムを確認して落胆していると、戻ってきたエミリさんがそう説明してくれる。

「敵MOBが強い分ドロップアイテムの数も多いなら、素材の納品クエストを達成するには良いんじゃないですか?」

「それは時と場合によりけりかなぁ。このダンジョンに出てくるMOBの種類がバラけているから、逆に目当ての素材だけを集めるには向かないかも」

 レティーアの考えにベルは、そう意見を返す。

 この【暖炉のダンジョン】は、亜人系や人型MOBの亜種が中心にランダムで出現するらしいが、ベルの言うとおり狙った素材だけを集めるのは難しい。

 ダンジョンだけで素材を集めると言うより攻略中に広く浅く集まった素材で足りない分は、狙いのMOBが出現するエリアで集める、という事を運営が想定しているのかもしれない。

 そんな事を話しながらダンジョンを最短距離で進もうとするが、様々な要素で妨害してくる。

 その一つとして、ダンジョンに出現する色んな種類の敵MOBたちがいる。

 本来なら同時に出現しない敵MOBたちが様々な組み合わせで現れ、互いのスキルや特性を使って襲ってくる。

 特に亜人系や人型MOBたちは、様々なスキルをランダムで持っており、一見しただけでどんなスキル持ちか判別できない。

 そのために、パターン化して倒すのも難しく、一戦一戦に若干のアドリブ力が求められる。

 中には、敵MOB同士の相性が上手く噛み合って、思わぬ苦戦を強いられることもある。

『ギャギャッ!』

『フゴフゴッ!』

『──ワォォォォォン!』

 耳障りな声を響かせるゴブリンとオーク、狼のような遠吠えをする人狼・ワーウルフが現れた。

「ゴブリンは杖持ち! オークは剣と盾持ち! ワーウルフが突っ込んでくるぞ!」

【空の目】で視認した赤いサンタ帽を被った敵MOBたちに気が抜けそうになるが、通常の敵MOBよりも強化されている亜種には違いない。

『──ギャギャッ!』

『──ブヒィィィィィィッ!』

 ゴブリンがワーウルフに杖を掲げ、オークが咆哮を上げると、ワーウルフの足下から見覚えのある赤と黄色の光が立ち上がる。

「あれは──エンチャント!?」

「それに、オーク・チーフの鼓舞ね!」

 杖持ちゴブリンのエンチャントとオーク・チーフの亜種の鼓舞を受けたワーウルフは、鋭い鉤爪を伸ばして、こちらに駆けてくる。

「《空間付加ゾーン・エンチャント》──アタック、ディフェンス、スピード! ──《ストーン・ウォール》!」

 俺は、エミリさんたちに三重エンチャントを掛けると共に、ワーウルフの足止めをしようと石壁を生み出す。

 だが、ワーウルフは、自身の爪を引っかけるようにして石壁を跳び越えて、こちらに飛び込んで来る。

「させないわよ。──《クラッキング》!」

「空中に飛び上がったら回避はできないよね! ──《閃刃撃》!」

 エミリさんが飛び込んで来たワーウルフの体に鞭のようにしなる連接剣を叩き込み、空中でバランスを崩したところでベルも飛び上がってバールで殴り付けていく。

 その打撃の衝撃で吹き飛ばされたワーウルフは、妨害のために作った石壁を突き破って通路の奥に転がっていくが、すぐに受け身を取って起き上がってくる。

「……硬いわね」

「倒すつもりだったけど、HPの半分しか削れなかった!」

 強化されたワーウルフのHPは5割を切っていたが、ゴブリンが杖を振るうと、ワーウルフのHPが8割まで回復していく。

「ゴブリンは、回復持ちか! なら、そっちを先に倒す! ──《弓技・一矢縫い》!」

 俺は、杖持ちゴブリンを狙って矢を放つが、ゴブリンを庇うようにオーク・チーフの亜種が盾で受け止める。

 アーツの矢とオークの盾が一瞬拮抗した後にオークの盾を貫くが、オークの分厚い脂肪に阻まれて倒すには至らなかった。

「チッ、オークを倒し切れなかったか。なら、数で押す! ──《魔弓技・幻影の──なっ!?」

 俺が次のアーツを放とうとした瞬間、エミリさんとベルと対峙していたワーウルフが壁を蹴って三角跳びの要領で後衛の俺に迫ってきた。

 ダメージを与えてワーウルフからヘイトを稼いだエミリさんとベルではなく、俺を優先したことに驚き、アーツの発動を中断して回避しようとする。

 だが、バフを受けた強化ワーウルフは俺の予想より早くに迫り、大口を開けた牙が迫ってくる。

「させませんよ。アキ──《簡易召喚》! ──《ファイアー・ボール》!」

 迫るワーウルフとの間に現れたアキの幻影が無数の火球を放ち、それを避けるように大きく飛び退く。

 そうして稼いだ時間でレティーアは、コールド・ダックのサツキに大技を命じる。

「サッちゃん──《ブリザード・ストーム》!」

『グワグワグワッ──!』

 コールド・ダックのサツキが大きく羽ばたき、騒がしい鳴き声と共に冷気がダンジョンの通路を駆け抜ける。

 狭い通路に満ちる熱気を冷気で塗りつぶし、空中に生み出した無数の氷の礫を散弾のように放ち、強化ワーウルフや杖持ちゴブリン、オークチーフの亜種に浴びせていく。

 強化ワーウルフは、氷の散弾と冷たい突風のノックバックを交差させた両腕で受けて耐えるが、杖持ちゴブリンとダメージを受けていたオーク・チーフは耐えきれずに倒れて光の粒子となって消える。

 オークチーフが倒れたことで鼓舞のバフは消えたが、ワーウルフに掛かったエンチャントのバフ効果は継続している。

「これ以上は暴れさせない! 《呪加カースド》──アタック、スピード!」

 サツキの突風で動きが止まったワーウルフにカースドを掛けることで、エンチャントのバフを相殺する。

 全てのバフを失って一瞬情けない表情を見せたワーウルフは、エミリさんとベルによって呆気なく倒されることとなる。

「ふぅ、ダメージは受けなかったけど厄介だったわね」

 戦闘が終わり、長い息を吐き出すエミリさんに俺とベルも先程のワーウルフたちについて話し合う。

「まさか、俺の使うエンチャントや回復魔法を使う敵が現れるなんて……」

「それに、敵MOBのAIも強化されていたね。バッファーの杖持ちゴブリンを守ったり、ヘイトを与えた私たちよりも杖持ちゴブリンを狙ったユンさんを優先してたし」

「後衛に敵MOBが流れないように私やベルに挑発系スキルがあった方が良いかしら?」

 そうして先程の戦闘を基に、次に似たような敵が現れた場合の対策などを俺たちは話しながら進む。

 そんな中、俺たちの話に加わろうとしない、静かなレティーアに気付いて振り返る。

「レティーア。どうしたんだ?」

「いえ、そろそろ、お腹空いてきたなぁ、と思いまして……」

 そう言って、早速食べ物を要求してくるレティーアに俺たちは、自然と笑みが零れる。

 こんな暑苦しいダンジョンではいつも通りの集中力を維持して攻略を続けるのは難しい。

 そうした意味では、レティーアの一言は、小まめな休憩を取るには良い目安になる。

「それなら、どこかの小部屋に入って一休みしましょう」

「……はい!」

 エミリさんの言葉にレティーアが元気に頷き、俺たちは、近くの小部屋で休憩する。

 そうして俺たちは、休憩を終えた後にダンジョン攻略を再開する。

 他のプレイヤーたちから見れば遅い攻略ではあるが、それでも小さなミスをする前に集中力を維持しつつダンジョンを進んで行くのだった。

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