Only Sense Online ―オンリーセンス・オンライン― 23

序章【期末テストと2度目の冬イベント】(2)

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 全ての期末テストが終わった本日──半日帰りの学校から帰ってきた俺は、美羽と共に昼食を済ませてから、OSOにログインしてレティーアたちと合流した。

「ユンくん、テストお疲れ様。テストの手応えはどうだった?」

「エミリさんに教えてもらった苦手科目は、手応えあったかな? エミリさんは?」

「私は、まぁまぁかしらね。あっ、レティーアとベルが来たわ」

 互いに期末テストを労う俺とエミリさんは、OSO内でレティーアとベルとも合流を果たす。

「皆さん無事にテストが終わったようですね」

「これで、冬イベに心置きなく挑めるよ」

 私とエミリさんに合流したレティーアとベルもそう言って、OSOの冬イベントに纏わるインフォメーションを確認する。

「冬イベ前半は、クエストチップイベントの復刻と五悪魔のダンジョンの恒常化だから、目立った変化はないみたいね」

「変更点としては、報酬のクエストチップ数の調整と恒常化された五悪魔のダンジョンの難易度調整とかですかね」

 エミリさんとレティーアがインフォメーションを見る限り、冬イベントの前半では新エリアや強敵の追加などの大きなアップデートはないようだ。

 だが、生産職としては、面白いアップデート内容を見つけた。

「ユニーク装備や装備関係でのアップデートが多いみたい!」

「あっ、ホントだ。内容は──」

 ベルが気付き、俺も装備関連のアップデート内容に目を通す。

 一つ目のアップデート内容は、各町に存在する生産系NPCノン・プレイヤー・キャラクターに特定の素材とお金を渡すことで対応するアイテムを作って貰える──アイテム作成システムの実装だ。

 これは、グランドロックの体内にいる名工NPCと同じようなことが各町でもできるようになるようだ。

 各町の武器屋NPCの場合は、作れる装備リストは異なるが、今までの店売り装備より一段階強い装備を手に入れることができる。

 初心者には、店売り以上プレイヤーメイド未満の位置付けの装備になる。

 だが、上級者になると、NPC限定のレアな追加効果を手に入れるために何度も装備作成を繰り返す──通称、装備ガチャなんて呼ばれる行為に手を出し始める。

 そうしてプレイヤーたちに素材とお金を消費させるのも、このコンテンツを追加した目的なのかもしれない。

 もう一つのアップデート内容は、固有のアクティブスキルを持つユニーク装備の実装や既存のユニーク装備にアクティブスキルを追加する調整だ。

 こちらは、既存センスのスキルやアーツの下位互換が使える装備のアクティブスキルを更に発展させたアップデートだ。

 新規で追加されるユニーク装備には、モチーフとなったボスMOBや装備デザインに合わせた固有のスキルを使えるようになるらしい。

 新たに実装される固有のアクティブスキルの効果によっては、プレイヤーの戦略の幅が広がるかもしれない。

 今回のアップデートは、全体的に控えめな内容ではあるが、生産職の俺としては、楽しみに思う。

「装備関連のアプデも面白そうだけど、【ギルドエリア】の交換には、どのくらいクエストチップが必要なんだっけ?」

 俺が目的である【ギルドエリア所有権】の交換に必要なクエストチップの数を聞くと、レティーアが答えてくれる。

「ギルドエリアは、大・中・小の三つのサイズがあって、一番小さいサイズで金チップ25枚、中サイズが50枚、大サイズだと100枚必要なようです」

「複数の小さなギルドエリアを繋げて少しずつ範囲を広げることもできるけど、大きい方を交換した方がお得らしいよ」

 ギルドエリアの小サイズを基準に、中サイズが3倍、大サイズが8倍の広さらしい。

 なので、ベルの言うとおり、大きなサイズの物を交換した方が、お得らしい。

「それで、他のプレイヤーたちが協力してくれるって言うけど、俺たちはどれくらい稼ぐ予定なんだ?」

 ギルドエリアの入手に大勢のプレイヤーたちが協力を申し出てくれているために、一人一人の負担は分散される。

 だが、それでも計画の主宰者である俺たちは、一番多くクエストチップを出すべきだと思う。

「そうね。そうなると、計画の主宰者としては、最低でも半分は稼いでおきたいわよね」

「そうなると、大サイズが金チップ100枚だから、その半分の50枚」

 エミリさんとレティーアの呟きで、俺たちの目標は、金チップ50枚になった。

 それなら、中サイズの【ギルドエリア所有権】とも交換できるので、いい目標かもしれない。

「なら早速、クエストチップを稼ぐためにもクエスト掲示板を見に行く?」

「掲示板もいいけど、どうせなら新規に実装された復刻ダンジョンでクエストチップを稼ぎに行きたいわね」

 目標が定まったところでベルが掲示板にクエストを探しに行くか聞いてくる中、エミリさんは可視化させたメニューを俺たちに見せてくる。

「今回のアップデートで恒常化された五悪魔のダンジョンがあるでしょ? 冬イベントの間に5箇所の内のどれか一つをクリアすると初回クリア報酬としてプレイヤー一人につき金チップ1枚くれるみたいなのよ」

「へぇ、プレイヤーを復刻ダンジョンに誘導するためなのかな?」

 エミリさんが表示したメニューの内容を俺も読み、感嘆の声を漏らす。

 こうした金チップを報酬として用意することで、復刻されたコンテンツに挑むモチベーションをプレイヤーたちに与えているのだろう。

「私も挑むのはいいと思いますけど、どのダンジョンに挑みます?」

 レティーアも復刻ダンジョンに挑むことに賛成している。

「そうね。私たちは雪原のダンジョンに挑んだことがあるし、確かユンくんもどこかのダンジョンを攻略したことがあるのよね」

「うん。俺は、ミュウたちと一緒に、道のダンジョンに挑んだよ」

 俺は、当時のことを思い出しながら、答える。

 爆速するソリに乗りながら、後方から崩壊する雪道に追われながら戦ったことを思い出し、少し遠い目をする。

 エミリさんたちも、シチフクたち【OSO漁業組合】のメンバーたちとパーティーを組み、雪原のダンジョンを攻略していたはずだ。

「そうなると残るダンジョンは──暖炉のダンジョン、巨大樹のダンジョン、墓場のダンジョンの三つが残るけど……『墓場以外で!』……だよね」

 墓場のダンジョン……つまりアンデッドが苦手なために俺は、食い気味に拒否する。

 そんな俺にエミリさんたちは苦笑しつつ、無理強いはしてこない。

「それじゃあ、暖炉と巨大樹の二択になるけど、どっちに挑む?」

 ベルが小首を傾げながら残ったダンジョンのどちらに挑むか聞いてくるので、俺たちは互いに目を合わせながら考え込む。

「うーん。どっちに挑むって聞かれても、どっちに挑めばいいのか判断が付かないかなぁ」

「私としては、巨大樹のダンジョンですね?」

「レティーア。その心は?」

 腕を組んで首を捻る俺に続き、レティーアが巨大樹のダンジョンを選び、エミリさんがその理由を聞く。

「暖炉のダンジョンって確か、炎熱環境によるスリップダメージがありましたよね。それが面倒そうだなぁと思っただけです」

「レティーの言うとおり、暖炉のダンジョンは、炎熱ダメージがあったね」

 火属性の暖炉のダンジョンは、オーソドックスな迷宮型のダンジョンである。

 ダンジョン内では、一定周期毎に熱波が吹き抜け、プレイヤーにスリップダメージを与えるギミックが用意されていた。

 余談であるが、去年の冬イベントの時はプレイヤーの攻略を妨害するために凶悪なトラップが大量配置されていたそうだが、復刻に際して大分マイルドに調整されたらしい。

 それに対してエミリさんも去年のことを思い出しながら、別の意見を口にする。

「でも、巨大樹のダンジョンも面倒な要素があったらしいわよ」

「巨大樹のダンジョンの面倒な要素、って何だっけ?」

 流石に、去年の期間限定ダンジョンのことを詳しく思い出せない俺がエミリさんに聞くと、巨大樹のダンジョンについて教えてくれる。

「巨大樹のダンジョンは、敵MOBのリスポーンの間隔が速いから、多数の敵MOBとの連戦や乱戦が強いられたはずよ」

 スリップダメージがあるダンジョンか、純粋な戦闘の難易度が高いダンジョンか。

 それぞれ復刻される際に、多少の調整はされているだろうが大きくコンセプトが変わることはないだろう。

「うーん。スリップダメージか連戦なら、俺は暖炉のダンジョンかなぁ」

「ユンさん。その心は?」

「スリップダメージはセンスやアイテムで対策できるけど、連戦は流石に対策が難しいからかな」

 どっちも面倒な要素ではあるが、【炎熱耐性】のセンスや装備、耐性付与のアイテムなどを使えば、ダンジョンを吹き抜ける熱波は対策できるだろう。

 一方、多数の敵MOBとの連戦は厳しく、多数の敵MOBを一掃できる純粋な魔法使いが俺たちの中には居ないために不安がある。

 それらを考えると、暖炉のダンジョンの方が攻略はしやすいのかなと思った。

「なるほどね。ユンくんの言いたいことは分かったわ。私も暖炉のダンジョンがいいと思うわ」

「なら、私も考え直して、暖炉のダンジョンの方が良いと思います」

 エミリさんが俺の意見に賛成し、レティーアも暖炉のダンジョンの方が良いと考え直してくれる。

 そして、最後に話を振ったベルに俺たちが視線を向ければ、ベルがはにかんだように笑う。

「私も暖炉のダンジョンでいいと思うな」

「それじゃあ、決まりね。ユンくん、対策アイテムは持ってる?」

「ああ、インベントリに入ってるから大丈夫。ただ、ダンジョンに行く前に、寄りたいところがあるんだけど良いかな?」

 暖炉のダンジョンに向かうことで話が纏まったところで俺が寄り道を希望するので、レティーアとベルが首を傾げている。

「ユンさん、どうしたんですか? 何かありましたか?」

「夏イベントの時に、雑貨屋NPCや薬屋のオババから受けられる納品クエストで地道にクエストチップを稼いだんだ。だから、今回も頼ろうかと思ってね」

 納品クエストの中には、1日に1回までの受注制限がある。

 その代わり、納品アイテムの種類が豊富なために複数の納品クエストを達成すれば、そこそこな数のクエストチップを稼げたのだ。

 なので、今回もそれを頼りにクエストチップを稼ごうと思い、納品クエストを受けに行ったのだが──

「──はいよ。銅チップ8枚な」

「……えっ?」

 渡されたクエストチップがたったの銅チップ8枚で思わず、目が点になる。

「あー、ユンくん? もしかして、冬イベのインフォメーションは確認してなかった?」

 固まっている俺に声を掛けたエミリさんが、尋ねてくる。

「イ、インフォメーション?」

 俺が震える声で聞き返すと、エミリさんが説明してくれる。

「クエストの報酬調整のアナウンスよ。事前告知もされていたはずよ」

「あれで納品クエストの報酬も絞られたのかよー!」

 確かにそんなことが書いてあったが、まさか納品クエストまで報酬が絞られるとは思わず愕然とする。

 前回の夏イベの頃は、一つの納品クエストで銅チップ2、3枚。

 複数受ければ、銅チップ20枚以上稼げたのに、現在では、報酬が3分の1程度に減らされていた。

「ユンさん、ドンマイです」

「まぁ、その代わりに納品クエストの1日の受注回数が緩和されたり、別のクエストの報酬は上がったりしているみたいだから、元気出して!」

 肩を落とす俺をレティーアとベルが慰めてくれる。

「ありがとう。効率悪いなら、その分、納品クエストの回数を増やした方が良いかなぁ」

 納品アイテムとクエストチップの交換レートが変わっただけだ。

 納品クエストを見越して集めておいた素材やポーション類は、【アトリエール】にまだたっぷりと保管されている。

 ならば、その分、多くのアイテムを納品してクエストチップを交換すればいいだけである。

 気を取り直した俺は、エミリさんたちと共に第一の町のポータルから【迷宮街】に転移するのだった。

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