一章 工作員、派遣します その2

「――スノウ、お帰りなさい。任務ご苦労様でした。……それで、この方達は?」

 城へと案内された俺達は、最上階にある大きな部屋で、一人の少女に引き合わされていた。

 金髪碧眼のその少女は、大人しそうな印象を与えてくる。

「ハッ。この二人は任務遂行中に出会った者達です。本人いわく、魔の大森林を抜けてやって来た外国人だとか。真偽は分かりませんが、私が出会った場所には大量のデッドリーヘッグの死骸が転がっていましたので、少なくとも腕は確かかと思います」

 スノウの報告を聞いた少女がまあ……と小さく呟き驚きの表情を見せた。

「二人とも、頭を下げろ。こちらにおられる方がお前達の雇い主になる。この国の王女であらせられる、クリストセレス=ティリス=グレイス様だ」

「長え名前」

「ぶ、無礼者!」

 率直な俺の意見にスノウがツッコみ、目の前の少女がクスリと小さく笑う。

「随分と素直な方ですね。なるほど、確かにこの国の住人ではないようです。私の事を知っている人であれば、そのような反応はしませんからね」

 少女は楽し気に笑うと、何やら意味深な事を言ってくる。

「グレイス様って呼んだ方がいいのでございますか? それとも、クリストセレス様って呼べばいいのでございますか?」

「ティリスでお願いいたします。あと、慣れない敬語は結構ですよ、様も必要ありませんから、どうか自然体でお願いします」

「ティ、ティリス様、さすがにそれは……」

 スノウが何か言いたそうにしているが、ティリスはどこ吹く風だ。

 ウチの組織の最高幹部はちょこちょこ俺の口の利き方を注意してくるが、このお姫様は懐が深い人のようだ。

 と、スノウが何やら耳打ちし、ティリスがそれに頷いた。

「……戦闘員六号様、そして、アリス様ですね? 六号様は、なんでも国で部隊を率いていたとか?」

「率いていましたね。数多の戦闘員を引き連れて、世界中を相手取り激戦を繰り広げたもんですよ」

 その言葉にスノウが胡散臭い者を見る目を向ける中、ティリスはクスクスと笑っている。

 い、一応は本当の事なんだからな。

「この国では現在、魔族との戦いのおかげで指揮官が不足しています。六号様がそんなにお強いのでしたら、どうかこの国のために力を貸していただけませんか?」

 そう言って祈るように両手を組むと、上目遣いでこちらを見上げてきた。

「お姫様に頼まれちゃしょーがねーな! べ、別に、あんたが美少女だから力を貸すわけじゃないんだからねっ!?」

「おい六号、気持ち悪い小芝居すんな、話がややこしくなってくる」

 俺の返事を聞いたティリスは、ホッとした笑みを浮かべた――


「――まったく、いくら外国人だとはいえ口の利き方を知らないのか! ティリス様はお優しい方だから多少の無礼も許してくださるが、他の貴族達にあんな口の利き方をすれば、首を落とされても文句は言えんぞ! 私の評価まで下がったらどうしてくれる!」

 雇い主との面会を終えた俺達は、続く場所へと連れてかれていた。

 ティリスの許可を得たとはいえ、一応形式的な面接を受けて欲しいとの事。

 お役所仕事に融通が利かないのは星が変わっても同じらしい。

「あまり怒らないであげてください、スノウ様。六号は確かに礼儀も知らないアホですが、戦う事に関してはプロですので、これからバンバン活躍してくれます。そうすれば、わたし達をスカウトしてきたスノウ様の手柄にもなるのでしょう?」

「うっ……」

 俺達の前を行きながら文句を言っていたスノウが、アリスの指摘に言葉を詰まらせた。

「あっ、なんだよそういう事かよ! そりゃそうだよな、今は戦時中だもんな。強いヤツが少しでも欲しいし、あのなんちゃらいう獣を狩れる俺達は使えると思ったんだろ! 仕事を紹介してやるとか恩に着せるような事言っときながら、実は喉から手が出るほど俺の力とセクシーな体が欲しかったんだな!」

「そこまで切迫して欲してはいないぞ! あと体はいらんわ! もう率直に言うが、私は手柄と金と名剣が何よりも好きなんだ!」

 いさぎよくも最低な発言をするスノウ。

「なあ六号、お前からはなんだか私と同類の匂いがする。本来ならば外国人なんて雇ってもらえないんだぞ? 私はそれなりの地位にいる。お前達を新参者だと迫害する輩がいれば、近衛騎士団隊長の権限で捻り潰してやろう。ほら、私達は利害が一致するだろう? これからも多少の便宜は図ってやるから、頼むぞ!」

 同類呼ばわりされた俺が腹黒女に引いていると、アリスが突然声を上げた。

「……ん? スノウ様、アレはなんですか?」

 城の中を案内され、中庭を通り過ぎたのだが、先ほどの戦車と同じく、この場所に似つかわしくない物がある。

 城の中庭らしき場所に置かれていたのは三メートル四方の箱形の機械。

 それをしげしげと眺めていたアリスが、

「というか、先ほどの戦車と違ってこちらはなかなか状態が良いですね。動力源はソーラー式ですね。一体コレは何に使うのですか?」

 思わず足を止めた俺達に、スノウがふうとため息を吐き。

「コレも我が国のアーティファクトの一つだ。それは雨を降らせる事ができるという伝説級の遺物でな。毎年雨が必要な時季になると、この国の王族が祈りの言葉を捧げ、雨を乞う習わしなんだ。見ての通り今は動く事はなく、厳重な保管の魔法が掛けられてはいるものの、やがては朽ちていく事だろう……」

 そう言って、動かない機械にこの国の未来を重ねたのか、スノウがどことなく寂し気な表情を見せるが……。

「これぐらいならわたしが直せるかもしれません。中を開けてみてもいいですか?」

「ほ、本当か? もしダメだった場合でも全責任は私が取る! 直せると言うのならやってくれ!」

 顔を輝かせながら言うスノウに、アリスはどこからか工具を出すと、早速修理に取り掛かる。

「お前何でそんなもん持ってんの?」

「自分の体のメンテナンスぐらいは自分でやるからさ。お前だって健康管理ぐらいはやってるだろ」

 俺の耳打ちにアリスはあっさり返してくるが、自分で自分を修理できるとか、こいつなかなか便利なヤツだな。

 と、修理の様子を隣で見ていたスノウがソワソワしながら、

「どうだ、直りそうか?」

「ええ、なんとかなりそうです。配線が劣化してるだけですね。これを取り替えて再起動すれば大丈夫です」

 それを聞いたスノウはパアッと顔を輝かせ、

「でかした! よし、私は人を呼んでくる! へへ……。へへへへ……、なあアリス、六号、この手柄は山分けだよな? 頼むぞ!?」

 そう言って、変な笑いを上げながらどこへともなく駆け出して行った。

「……手柄を山分けって、アイツ何もしてねーじゃん」

「それを言うならお前もな。……よし、これでいけるはずだ」

 アリスが起動スイッチらしき物を押すと、機械的な音声が流れてくる。

《これより再起動を開始します。それに伴いパスワードを再設定してください》

 パスワード?

 スノウが言っていた王族が捧げる祈りの言葉とやらはこれの事なんだろう。

《再起動が完了しました。パスワードを設定してください》

 と、再びそんなアナウンスが流れてきた。

「おちんちん祭り」

《パスワードの設定が完了しました》

「お前なんて事してくれるんだ」

 工具を手にしていたアリスが思わずといった感じで動きを止める。

 アンドロイドのクセに唖然としているアリスに向けて、俺はチッチと指を振り。

「いいかアリス、よく聞けよ? スノウはなんて言っていた? そう、毎年雨が必要な時季になると、王族が祈りを捧げると言ったんだ。王族ってのはつまりティリスの事だ。あんな美少女が公衆の面前でこれを唱えるんだぞ? その度にティリスの恥ずかしがる顔が見れて、悪行ポイントもガッツリ稼げるわけよ」

「お前こそちゃんと聞いとけよ。王族ってからにはティリス以外でもいいんだぞ。ティリスはお姫様だ。つまりちゃんと王様ってもんがいる。これから毎年、いい歳したおっさんが、国民の前で小学生が考えたようなアホなパスワードを叫ぶんだぞ」

 ……。

「どうしよう、なんか大変な事をやらかした気がしてきた」

「やっちまったもんはしょうがねえ。おい六号、プラスチック爆弾を送ってもらえ。この機械は証拠隠滅にふっ飛ばしてしまおう。そしてスノウにはこう告げるんだ。修理しようとしたけどダメでした。直ったと思ったらなんか勝手に爆発したってな」

 コイツ、高性能を自称するだけはある。

「素晴らしい、それでいこう!」

 と、俺が叫ぶと同時、背後から声が掛けられた。


「一体何が素晴らしいのですか?」


 聞き覚えのあるその声に振り向くと。

 そこには、笑みを湛えながらも手にしたセンスを握り締めるティリスと、脂汗を垂らしながらブルブルと震えるスノウがおり。

 頭に埋め込まれたチップから、俺にだけ聞こえる聞き慣れたアナウンスが響き渡った。

《悪行ポイントが加算されます》


        6


「いい加減抵抗するな! 陛下の前だぞ、大人しくしろ!」

「なんだよー、ダメだった場合でも全責任は私が取るって言ったじゃんかよー! この扱いは酷いだろ、だったら最初から直させるなよー!」

 ここは謁見の間とでもいうのだろうか。

 スノウや他の兵士に捕縛された俺達は、この国の王様の前に引きずり出されていた。

「だ、黙れ! 私は、修理をしろと言ったんだ! 誰があんな事をやれと言った!」

 スノウは顔に焦りを滲ませながら、俺を黙らせようと小突いてくる。

 上半身を縛られたまま絨毯の上に跪かせられた俺達を、目の前の温厚そうな男は興味深そうに眺め、口を開いた。

「……この者達は?」

「ハッ。この者は、スノウ殿がその腕を見込んで指揮官として連れて来たらしいのですが、中庭にあるアーティファクトを直せると言い出し、実際にそれを修理してみせたそうです」

 隣にいた秘書官みたいな女の人の説明に、その男は驚きの声を上げた。

 多分この人がこの国の王様なのだろう。

 なぜなら……。

「おいアリス、俺こんなにも王様らしい王様初めて見た。見ろアレ、サンタも裸足で逃げ出す王様ヒゲだぞ。触らしてくれって言ったら怒られるかな」

「こら六号、相手はこの国の最高権力者だ。もっと小さい声で感想言え」

 そんな俺達をよそに、目の前の秘書官はなおも説明を続けている。

「ですが、修理の際に、その……。祈りの言葉を、卑猥な単語に変えてしまったそうでして……」

「卑猥な単語? なんだそれは?」

 秘書官の人はスタイルのいいクール系の美人だ。

 なんだろうこの星は、出会う女性みんなのレベルがえらく高いな。

 そういえば、スノウと一緒にいた近衛騎士団の子とかも……。

「そ、その……、……祭り……と……」

「そ、そうか。すまんな、そのような事を言わせてしまって」

 あっ、今さらながら大変な事に気が付いた!

 あの騎士団の娘さん達は、みんなユニコーンみたいなのに乗っていた。

「なぜそんなバカな事をしたのか理解に苦しむが、その方、この秘書官の申す事に相違ないか?」

 ユニコーンは、伝説では処女にしか懐かないとかなんかそんな話を聞いた気がする。

 という事はつまり……!

「おい貴様! 陛下の質問に答えろ!」

 突如目の前に、スノウの顔がズイと迫った。

「うおっ、近ぇ! な、なんだよ、人が大事な考え事してる隙に、何キスしようとしてるんだ!」

「お前は、お前は何を言っているこの神聖な謁見の間で!」

 王様が一つ咳払いをして、質問とやらを繰り返す。

「その方、アーティファクトを使う際の祈りの言葉を、卑猥な単語に変えたというのはまことか?」

 俺は今の状況を思い出し。

「まことだけど、この女が責任は私が取るからと言ってました」

「き、貴様! 違います陛下、私は修理を命じただけでして……!」

 俺が責任を擦り付けるも、王様は困ったような表情で、

「アーティファクトを修理してくれた事に関しては感謝する。それに免じてその方の罪は不問とし、褒美も出そう。それを持って、どこへなりとでも……」

「お父様、お待ちください」

 と、突然王様の言葉が遮られた。

 謁見の間に現れたのは、表面上は穏やかな笑みを湛えたティリスだった。

「その方は、私が個人的に雇い入れたいと思います。デッドリーヘッグの群れを全滅させる強さと、アーティファクトを修理できる知識を持つ方々です。この程度の事で放逐してしまうのは惜しいと思います」

「む、そ、そうか。ティリスがそういうのであれば、そうなのだろうな」

 それに鷹揚に頷く王様を見て、アリスがヒソヒソと日本語で囁いてくる。

『六号、この国の実質的な政治はあの姫さんがやってるみたいだ。王様のおっさんからはダメ親父臭がするぞ』

『なるほど、媚びる相手はティリスか。上司に媚びへつらうのは得意分野だ、任せとけ』

『お前……』

 と、ティリスの言葉を聞いたスノウが、俺を指さし。

「ティリス様、こんな男は放逐すべきです! 大切なアーティファクトにあのような事をするなど、こやつは我が国を陥れるのが目的の、他国のスパイかもしれません! どうかご再考を!」

「おっ? 自分が連れて来ておいてスパイ呼ばわりとは面白いな。ていう事は、お前はスパイを引き入れた売国奴ってわけだな!」

 スノウの眉がキリキリと吊り上がり……!

「貴様、言うに事かいてこの私が売国奴だと!? ティリス様への忠誠心において右に出る者はいないと評判の、この私が!?」

「ガチ切れじゃないっスか! 知ってるか? 人間、本当の事を言われるのが一番頭にくるんだぜ!」

 俺の挑発にスノウが目を血走らせて剣を抜く。

「貴様など……! 我が愛剣、灼熱剣フレイムザッパーの錆にしてやる!」

「言い負かされたからって縛られた状態の相手を斬るとか、お前それでもほんとに騎士かよ! 俺は雇われる事になったんですう! それを勝手に斬っちゃっていいのか? そんなもんよりお前には、まだやらなきゃならない事があるだろうがよ!」

 俺の言葉に、顔を赤くして今にも斬りかかろうとしていたスノウが動きを止めた。

「……やらなきゃならない事……?」

 不思議そうなスノウに向けて、隣のアリスが口を開いた。

「お前さん、六号や自分に確かこう言ったろ。全責任は私が取るって。自分達は不問にされたが、お前の責任問題に関しての話はまだ終わってないぞ」

 その、アリスの言葉を聞きながら。

 ガタガタと震え出したスノウが救いを求めるようにティリスを見ると。

 この国の影の支配者は、優し気な笑みを浮かべた――


 ――背伸びしながら面接室のドアから出てきた俺に、アリスが日本語で話しかけてきた。

『おい、面接はどうだった? まあ面接といっても、採用前提なんだから色々と身辺調査された程度なんだろうが』

『おう、キサラギの事とか、俺の必殺技の事とか、なんかヒーローの事まで聞かれたぜ』

 王様との謁見の後、履歴書を書かされ、一応形だけの面接を終えた俺は、待っていたアリスに事の次第を報告した。

『しかし、俺がこの国の騎士か……。まぁ悪くは無いな。勇者が無理ならここは騎士様で手を打っておいてやろう』

『おい、分かってるんだろうな。お前はあくまでキサラギの戦闘員なんだからな? 任務を忘れるんじゃないぞ?』

 と、その時。


「たまに使うその言語は、お前達の国の言葉なのか?」


 日本語で話していた俺とアリスの後ろから、突然声がかけられた。

「なんだ、またお前か」

 道中でやたらと突っかかってきていた女騎士スノウが、今は鎧を脱いで立っていた。

 それが騎士本来の制服なのか、やたら青い配色が目立つ服装だ。

 鎧のせいで分からなかったが着痩せするタイプらしい。

 スカートから覗く白い足がスラリと長く、見た目だけならトップモデルのようだ。

「なんだとはなんだ、私としても貴様なんかに会いたくはない!」

 なんでこの女は敵対的なんだろうか。

 いやまあ俺にもほんのちょっぴりは原因があるのだが。

「で、何か用か? 俺達はこれから、宿舎とやらに行くんだけど」

 嫌そうな感情を隠しもしない俺の塩対応に、スノウがこめかみをピクピクさせ。

「その宿舎への案内を任されたのだ。それと、お前達の今後の世話もな」

「……はぁ?」

 思わず聞き返す俺に、スノウが背筋を伸ばし敬礼する。

「今日付けで貴様の隊への配属となった。私は今後、貴様の率いる部隊の副隊長となる」

 ……スノウが俺の隊所属になったらしい。

 というか、なぜこんな展開になってしまったのか。

「なに? 俺、来ていきなり隊長なの?」

 俺の質問に、スノウが敬礼したまま呆れたような視線を送ってきた。

「……お、お前はちゃんとティリス様の話を聞いていたのか? この国は、魔族との戦いで多くのベテラン指揮官や騎士を失った。女の兵士や、若い指揮官や騎士が多いのはそのためだ。現状として、部隊を率いる者が圧倒的に足りていない。お前は元いた国で部隊を率いた経験があるのだろう?なので、今日から貴様には、小隊ではあるものの遊撃部隊を率いてもらう事になったのだ」

 なかなか分かってるじゃないかこの国の連中は。

 まさか、赴任して早々俺を隊長待遇にしてくれるとは。

「だが私は、お前の事を上司だと思ってはいない。戦闘において、実質的には私が指揮を執る。貴様は邪魔にならないよう引っ込んでいればいい」

 この女いきなり何言ってんだ。

「お前、元騎士団隊長だったからって調子に乗んなよ? 俺だってなあ、昔は指揮官としてそれなりの活躍をしてきたんだ。魔族とやらに負け続きのお前らより上手くやってやんよ!」

「……アーティファクトを修復してくれた事だけは礼を言う。だが私は今回の件で、貴様をまったく信用してはいない。もしこの国で何かを企んでいるのなら、早々に諦めるのだな!」

 スノウはそう言い放つと、身を翻して勝手にどんどん歩いていった。

 馴れ合うつもりは無いから勝手について来いということか。

 俺とアリスは、そんなスノウの背中に向けて。

「責任を取らされて降格されたからって、八つ当たりとか恥ずかしくないんですか、やだー!」

「やだー!」

「わ、私は降格などされてはいない! そう、怪しげな貴様らの監視役なのだ。そして素人同然のお前では心許ないと、この私が配属されたのだ! そこら辺を勘違いするなよ!」

 バッと振り返り、どこか焦ったようなスノウの言葉に、俺とアリスは顔を見合わせると。

「……きっと監視役だとか思っているのは、自分だけだよなあ……?」

「当たり前だろ? 国宝であるアーティファクトとやらがあんな事になったんだぞ。普通なら切腹ものの失態だ。きっとああやって自分に言い聞かせてるんだよ」

「き、貴様らああああああ!」


        7


「ここがお前の部屋になる。生活に必要な物は中に一通りは揃っている。そして、アリスはどうするかな……」

 あれからひと悶着あった後、俺達は城の宿舎に案内され部屋をあてがわれたのだが、スノウが言葉を濁していた。

「アリスはどうするかって、どういう事だ? コイツになんかあんの?」

「……一応この宿舎は、部外者は立ち入り禁止なのだが……」

 困ったように言ってくるスノウに、アリスが突然いきり立つ。

「はあ? 何言ってんだお前、この優秀な自分だけ除け者か? 六号の率いる部隊に所属するに決まってんだろ! そんなんだから降格されるんだよマヌケ!」

 いや、表情は普段と変わらないが、多分コイツなりに怒っているんだろうと思う、口の悪さ的に。

「な、ア、アリス、お前、子供のくせになんて口の利き方を……?」

 見てくれは子供みたいなアリスの突然の罵声に、スノウが目を白黒させて後ずさる。

「口の利き方なんぞさっきから上司の六号に舐めた口利いてるお前に言われたくねーぞ、分かったらとっとと自分の部屋も用意しろ、この守銭奴のでき損ないが!」

「な……、なんて口の悪い子供だ! し、しかし、小隊というのは五人一組で構成されている。そして、それぞれには役目があるのだ。基本的に、前衛には騎士が三名、後衛には魔法使いと治療術士が基本だ。六号と私がこの場合前衛扱いになるから、残るは前衛一人と魔法使い、治療術士が必要なのだ。……アリスは何かできるのか?」

 疑わしい目を向けるスノウに、アリスがズイと顔を近づけながら食って掛かる。

「なにかできる? 高性能な自分は何でもできるっつーの。自分の得意分野は頭脳作業全般だが、未開人のお前らには理解できない超テクノロジー、ナノマシンを活かして衛生兵やってやるよ! だから、そのメンバー構成でいくと治療術師とやらがいらない子だな!」

 勝手に治療術師とやらをいらない子認定し、アンドロイドのくせに怒りながら部屋を出て行くアリスを見送り、

「い、いいのかな勝手に……」

 スノウが本来の年相応な困り顔で、蚊の鳴くような声で呟いた。

 

 ――スノウがアリスの部屋の手配を行った後、続いて宿舎の庭へと案内される。

 そこでは、どの部隊にも所属していない連中が戦闘訓練をしているらしい。

「訓練止め! これより一個小隊の編制を行うため、それに伴い隊員を二名募集する! 我こそはと思う者は集まるがいい!」

 スノウの言葉に、思い思いに剣を振っていた者が動きを止めて集まってきた。

「来たばかりのお前達はここにいる兵士のクセを知らんだろう。小隊の隊員は私が決める。これは履歴書だ。一応目を通しておけ」

 すでに誰を入れるかは決めているのか、スノウは俺達に紙束を押し付けると全員が集まるのを待っていた。

「おい六号、ちょっとこれ見てみろ」

 パラララと紙をめくっていたアリスがふと手を止めて、履歴書を見せてくる。

「『武神、アレキサンドライト・グレイブニール』。いいじゃないか、名前的にも強そうだ」

「違う、そっちじゃない。ソイツの年齢を見ろ、80過ぎの爺さんじゃないか。そうじゃなくこの二人だよ」

 この名前で爺さんって時点で強キャラ臭しかしないのだが、アリスが見せてきたのは次のページに載っている二人。

「『戦闘用人造キメラ、ロゼ』、『ゼナリスの大司教、グリム』……? このキワモノ臭しかしない二人がどうした? ……あっ! 『味方殺しのドジっ子魔法使い、ミレイ』! 俺、この子がいい!ドジッ子ちゃんがいい!」

「ドジッ子魔法使いってどう考えても地雷じゃねえか。それより見ろ、その二人の討伐数ってところを。他の連中に比べてぶっちぎりだ」

 アリスに言われて見てみれば、確かにこの二人だけ数字が飛び抜けていた。

 しかし……。

「それ言ったら、アレキサンドライトさんは二人の何十倍もの討伐数だし、やっぱこっちの方が……」

「爺さんは忘れろ、作戦行動中に激しい運動させてポックリ逝かれたらどうすんだ。それに、この二人の肩書きの方が面白そうだぞ。ゼナリスの大司教とやらはよく分からんが、戦闘用人造キメラだなんてウチにピッタリの人材じゃないか?」

 ……言われてみれば、確かに怪人っぽい肩書きだ。

「よし、皆集まったな。では、小隊に編入する者を発表する! まず一人目は……」

 と、言い掛けたスノウをアリスが遮り。

「待てスノウ、編入するのはこの二人だ」

 そう言って二枚の履歴書を手渡した。

「うっ……。いや、この二人は……! せめてどちらかを、アレキサンドライト様に……」

「お前らは揃いも揃ってなんでジジイが好きなんだ、いいからこいつらを紹介しろ」

 アリスに叱られたスノウは子供相手に強く出れないのか、ブチブチ言いながらも二人の隊員を呼び寄せた。

 俺達の前にやってきたのは一人の少女。

「……まあ、どういう隊員なのかは書類に書いてあるからそれを読め。ほらロゼ、自己紹介しろ」

 スノウに促されたその少女は。

「私はロゼ。そう、戦闘用人造キメラのロゼ……。あなた達に、この私を使いこなせる……?」

 アリス以上の無表情を湛えたまま、片方の眼を手で隠し、物憂げにこちらを見つめてきた。

 年の頃はアリスよりもちょっと上の、十四、五歳ぐらいかと思われる。

 と、そんなロゼの穿いているスカートの裾から、トカゲのような尻尾が覗く。

 よく見れば短めの銀髪からは、鬼のような小さな角が一本だけ生えており、左右で目の色が違っていた。

 なるほど、人造キメラか……。

 俺はロゼのポーズをそっくりそのまま真似しながら、

「俺の名は戦闘員六号。そう、改造手術を施され、本来の名と共に過去を捨てた戦闘機械。よろしく頼むぞ、戦闘用人造キメラ……!」

「自分はキサラギ=アリスさんだ。お前らみたいな恥ずかしい発言をする痛い子ちゃんは、ウチの結社にたくさんいたから安心しろ。ちゃんと使いこなしてやるよ」

 俺達の自己紹介に、ロゼはピタリと動きを止め、両手で顔を覆い震え出した。

「おいアリス、せっかく俺がカッコつけたのにお前もちゃんと合わせてやれよ。……ほら見ろ、痛い子ちゃんなんて言うから顔真っ赤にして震えてるだろ」

「お前らのバカな遊びに付き合ってられるか。……おい、恥ずかしいならそんな事してないでこっち来い」

「は、はい……。あたしは人造キメラのロゼです。どうかよろしくお願いします……」

 耳まで顔を赤くしながら、ロゼがトボトボとやってくる。

「とまあ、こういった変わったところがあるが、開発者の教育方針によるものらしいからそっとしておいてやってくれ」

「あたしを作ってくれたお爺ちゃんが、こういう時はこうしろって……! うっ、うっ……。本当は、こんなバカな事したくないのに、お爺ちゃんの遺言だから……!」

 スノウのフォローに泣き出したロゼを横目に、俺は渡された履歴書に目を通す。

 そこには、ロゼのこれまでの戦果、及び特殊能力の数々が……。

「……えっ、なにこれ。お前、食ったもんの能力を取り込めるの?」

「えっ? は、はい、あたしはキメラだからか、食べ物の影響を受けやすくて……。一口二口じゃダメですけど、同じ魔獣のお肉を食べ続けると特性を取り込めるんです。最近はもっぱら、力の強い一角獣鬼や、炎を吐き出す爆炎トカゲのお肉ばかり食べてました。おかげで、ちっこい角や尻尾が生えちゃって……」

 その言葉に俺とアリスは、顔を見合わせ。

『……おいアリス、怪人見習いだ』

『ああ、コイツは逃がすわけにはいかないな』

「な、なんですか? 二人とも何言ってるのか分かんないんですけど嫌な予感が! ……って、あれ? 何か変わった食べ物持ってませんか? その、凄く良い匂いが……」

 突然の日本語に怯えを見せていたロゼが、鼻をスンスンさせながら尋ねてくる。

 この星にやってきてから何も食べていなかった俺は、ここに来る最中に、携帯食をかじっていたのだが……。

 俺はスティック状の携帯食を見せびらかし、

「ひょっとしてコレか? みんな大好きバランス栄養携帯食、カロリーゼットだ。欲しいのなら分けてやるけど、その代わり俺の言う事はなんでも聞くんだぞ」

「な、何でもですか!? ああ……、でも抗いがたい良い匂いが……!」

「おい六号、食い物で腹ペコ少女を釣る今の絵面は通報ものだぞ。でも、コイツの扱い方は理解した」

 俺が携帯食を左右に振ると、それに釣られて物欲しそうなロゼの視線が動かされる。

 と、俺達が携帯食でロゼを餌付けしていると、周囲をキョロキョロと見回していたスノウが誰かを見付け呼び掛けた。

「おいグリム、寝ていないでこっちへ来い!」

 スノウに呼ばれて俺達の前にやってきたのは、車いすに座った女だった。

 グリムと呼ばれたその女性は、年の頃は十八、九ぐらいだろうか?

 そんな車いす女のパッと見た印象は重病人だ。

 眠たげな茶色の瞳に青ざめた土気色の顔色、そして綺麗な茶髪のストレート。

 車いすに裸足のまま腰掛けた体の弱そうな姿を見て、本当に大丈夫なのかと心配になる。

「俺が今日から隊長になる、戦闘員六号だ」

「参謀と衛生兵を務めるアリスさんだ」

 自己紹介する俺達に、グリムは目を輝かせ。

「初めまして、私はグリムよ。隊長には色々質問があるけれど、まずは一番大事なところを聞こうかしら。隊長は妻帯者? 彼女なんかはいるのかしら? ちなみに私は独身よ。こんなにいい女なのに、なぜか不思議と彼氏もいないわ」

「独身ですよ。そしてこんなにも好青年な俺なのに、なぜか不思議と彼女はいない」

「二人ともいきなり何の話をしている、部隊での色恋沙汰は御法度だ! 戦闘に関する事を聞け!」

 スノウが激昂し叱りつけるが、俺の答えを聞いたグリムはなんだかひどくソワソワしている。

 ……さて、戦闘に関する事を聞けと言われたが、まずは何から尋ねるべきか。

 ゼナリスってなんなんだとか、車いす生活なんだから無理して戦場に行かなくていいんじゃないかとか、考えたらキリがないのだが、一番気になるのは……。

「グリムは魔法使いなのか? 俺、魔法ってのに詳しくなくてな。一体どんな事ができるんだ?」

 そう、魔法である。

 グリムの履歴書には特技の欄に呪詛なんて物騒な項目があったのだ。

「私は正確には魔法使いじゃないんだけどね……。偉大なるゼナリス様のお力を借り受けて、奇跡の代行を行っているわ」

 奇跡の代行者ってなんなんだろう。

「なんだ、そのゼナリス様ってのは」

「不死と災いを司る、偉大なる御方よ。私はゼナリス様に仕える信徒なの」

 不死と災いを司る……。

「……じ、邪神?」

「し、失礼な! ゼナリス様を邪神呼ばわりだなんて罰が当たるぞ!」

 本来なら力を見せて欲しいとこだが、呪詛ってのが気にかかる。

 まあ、どうせ近いうちに戦場で見れるだろう。

 ……と、グリムは何を思ったのか、車いすの上で体育座りの体勢を取った。

 そして挑発的な笑みを浮かべると、長めのスカートが引っ張られ、裾が少しずつ持ち上げられ……。

「ふふふ……、ねえ坊や、お姉さんのスカートの中が気になるでしょう? ゼナリス様を邪神呼ばわりした事を悔い改めなさい。そうすればあなたに洗礼を授けてあげるわ。そしてきゃあああああああああ!」

《悪行ポイントが加算されます》


 勿体ぶるグリムのスカートを、俺はスパーンとめくりあげた。


 病弱で清楚なイメージだったのに、晒された黒の紐パンで抱いていた印象が一変する。

 とんでもねえ、こいつはとんだドスケベ女だ。

「本当に見せるつもりまではなかったのに! ねえ、ちゃんと責任取ってよね! 専業主婦として養ってもらうわよ! 逃がさないわ! ええ、絶対に逃がさない!」

 ドスケベどころじゃねえ、こいつはとんでもねえ地雷女だ。

「まあ落ち着け怪人紐パンパン。六号を前に挑発なんてするお前も悪い」

「紐パンパンって何!? その呼び名は止めて! この下着を着けてると彼氏ができやすいってピヨコ倶楽部に載ってたのよ!」

 ピヨコ倶楽部ってなんだよ、婚活雑誌か何かだろうか。

「パンツ見たぐらいでいちいち嫁に貰ってたら、俺は今頃石油王並みのハーレム築いてるとこだ。後で俺のパンツも見せてやるから、それでおあいこな黒パンパン」

「野郎の小汚い下着と乙女のパンツを一緒にするな! あとその呼び名も止めて!」

 と、そんな俺達のやり取りに、スノウが深くため息を吐いた。

「はあ……。よりにもよって、とびきり厄介なこの二人を選ぶとは……。まあいい、戦闘に関してだけなら、こいつらは秀でているしな」

 その言葉にふと気づく。

 履歴書に書かれていたのは、老人やドジっ子魔法使い、そして今一緒にいる色物二人だけではない。

 その他にも、なんらかの問題がありそうな面子ばかりだった。

 つまり、この集団は……。

「厄介者ばかりの中から、更に問題児を集めたこの小隊だが、まあよろしく頼む。とはいえ、お前達落ちこぼれと馴れ合うつもりはないからな」

 仏頂面のスノウはそう言って、俺達に背を向けるとひらひらと手を振り――

 ……おい、厄介者ってふざけんなよ。

 そりゃあ俺達は、車いすに乗った体の弱そうな紐パンに、魔物っぽい腹ペコ少女。

 そして、身元不明の悪の組織の戦闘員とアンドロイドだが……!


 ――どう考えても厄介者です、本当にありがとうございました。


 ……あれ、ちょっと待て。

「つまり、お前も厄介者扱いされてここに飛ばされたって事か? だって性格に難ありだもんな」

 その言葉にスノウがビクリと身を震わせて、

「なな、何を言って……! い、いや違う! 違うぞ、私はお前達の監視のために!」

「おい六号、こいつ降格させられただけじゃ飽き足らず、ティリスに体よく厄介払いされたんだぜきっと。やーい、落ちこぼれ、落ちこぼれー!」

「や、やーい! やーい!!」

「ひゅーひゅー!」

 アリスに煽られ、ロゼやグリムまでもがそれに続いてはやし立てる。

 悔しげに唇を噛みながらも、スノウは強気に拳を握り。

「くっ、な、何とでも言っていろ! とにかく貴様らはこの私の指示に従っていればいい! 私の指揮ですぐに目に見える戦果を挙げて、とっととこんな隊から抜け出してやる!」

 元エリートのプライドなのか、意志の強そうな目で肩越しにこちらを睨むが。

「あっ、聞いたか六号。とうとうこんな隊から抜け出してやるとか言ったぞ。さっきまでは、自分達の監視としてこの隊に配属されたとか言い張ってたくせに」

「ほんとだ、とうとうこいつ左遷されたの認めやがった。というか、左遷隊長の指示なんか聞けるかよ。俺だって昔は部隊を率いてたんだ、好きにやらせてもらうからな」

 アリスと俺が煽ってやると、堪え性が無いのか左遷隊長の眉が吊り上がる。

「左遷隊長と呼ぶな! 貴様はこの国の戦争に関しては素人だろうが、黙って私の言う事を聞いておけばいいんだ! 大体、貴様の着ている変な鎧が問題だ。なんというか、こう……。黒くて邪悪そうというか、騎士というより魔族の下っ端兵士が着ていそうで隊長っぽくないというか……」

「お、お前ふざけんな、俺の鎧は関係ないだろ! 戦闘服がトゲトゲしいのは認めるが、そこまで言われる筋合いねーぞ!」

 旧式のクソ重い戦闘服だが、長年愛用してきた相棒みたいなもんなのに!

「ええい、うるさい! 貴様の様な奇天烈な行動に走る、顔に傷を持つ腐った目をした男が隊長だなどと、それだけで我々の名誉に関わるのだ!」

「なっ! てめ、こっ、このっ……!」

 この女、ちょっとばかし甘い顔してればつけあがりやがって!

「見た感じ、学もなさそうだがどうなんだ!? 貴様は優秀な学院でも出ているのか? 私はこの国で最高ランクの大学を卒業しているが?」

「うぐっ……」

 大学なんて行ってねえよ!

 戦闘員が忙しくて、こちとら高校中退だ!

「分かったら私の指示に従うと誓え! そうすれば戦場で恥をかく事もないだろう!」

 こ、こいつ、調子に乗りやがって……ッ!

「なんだその目は? 握った拳は? ほう、手を出すのか? いいぞ、私が女である事など気にするな、遠慮なく殴りかかってくるがいい! できるのか貴様に? さぁ、私を殴る度胸があるのならやってみろ!」

 こっ……!


「こいつめ―――――――――――ッッ!!」


 俺の発した大声に、スノウがビクッと身構える。

 俺は、真剣な顔で身構えたままの、スノウの両胸をわしづかんだ。

 服の胸元を盛り上げてくっきりと自己主張する、スノウの巨乳を。

 呆然としている周りのやつらと身構えたままぽかんと口を開けたスノウの顔を、俺は忘れる事はないだろう。

《悪行ポイントが加算されます》


        8


「誰か、誰か助けてくれ! この女は頭がおかしい!!」

「一体誰がおかしい女だ! おかしいのは貴様の頭だっ!!」

 ロクに女性に縁のない俺だったが、今、生まれて初めて女に追いかけ回されていた。

「おい落ち着け、謝るから! 謝るから、まずはゆっくり話をしよう!」

「今更何を話す事がある! 今思えば、貴様は最初会った時に斬り捨てておくべきだった!」

 刃物を持った、髪を振り乱して血走った目をした女にだが。

「ちょろっと乳揉んだだけで刃物抜くとかお前絶対頭がおかしい!」

「だからおかしいのは貴様の方だッ! 頭がおかしくない人間は、そもそも人様の胸をなんの脈絡もなく揉んだりしない!」

 うっかり転んだ拍子に胸揉んだりとか、漫画とかではよくある事だ。

 それで女に追い掛け回されてしばかれるって展開も、お約束だって事は認める。

 でも……、

「お前、もうちょっと頬を染めながら追いかけてくるとか、せめて叩かれたら痛いぐらいの道具にしろよ! 追いかけられてもちっとも嬉しくない ガチ切れで目が血走っててこえーんだよ!」

「当たり前だ、貴様を殺すつもりで追いかけているからな!」

「誰か来てぇぇ!」

 何だコレ、ラブコメみたいなニヤニヤできる展開とまるで違う!

 俺が本気で助けを求めながら城の中を走り回っていると、そこに……。

「ティリス! ティリスじゃないか!!」

 目の前にはこちらに向かって歩いているティリスの姿。

「六号様、これはちょうど良いところに。実は……。ど、どうしたのですか二人とも、一体何が!?」

「今はそんな事はいいから、助けて助けて!」

「ティリス様、お見苦しいものをお見せしますが、すみません! その男を叩き斬りますので!」

 ティリスの背後に震えながら隠れる俺に、スノウが血走った目をぎらつかせてくる。

 叩き斬るとか、絶対年頃の女の使う言葉じゃないだろ。

「な、何があったのかは知りませんが、城の中での刃傷沙汰は地下牢行きですよ! スノウ、どうか落ち着いて!」

 その言葉に、スノウは悔しそうな顔でしぶしぶ剣を納めるが……。

「……明日の任務では背中に気をつけるんだな」

 スノウは、立ち去る前にそんな物騒な言葉を残していった。

 ……あいつ絶対騎士とかじゃなく、俺達悪の組織寄りの人間だろ。

「ふう、たかが乳揉んだくらいであそこまでガチ切れするとは思わなかった。助かったよティリス」

「ろ、六号様、なぜそんなバカな事を? スノウは冗談が通じない子です。家柄で騎士になった者とは違い、スラムのみなしごの身から近衛騎士団の隊長にまでたゆまぬ努力の末で登り詰めた、真面目な努力家ですから……」

 なんだよアイツ、プライド高そうだから、てっきりいいとこのお嬢かと思ってた。

「そういえば、俺に会った時ちょうどいいとか言ってなかったか? 何か用事でもあったん?」

「ええ。実は、アリスさんの部屋の事なのですが――」


「――まあ、しょうがないか。任務のためにも同じ部屋の方が何かと都合もいいだろうしな。おい、自分が美少女だからって変な事するなよ。生殖機能は付いてないからどうしてやる事もできんぞ」

「アホか! ロボット相手にそんな気起きるか! くそう、どうしてこうなった!」

 俺とアリスの急な雇用のため、部屋が一つしか用意できなかったらしい。

 お連れさん同士だし、しばらく相部屋でお願いしますとの事。

 俺とアリスがずっと旅をしていたという設定が、こんな時に裏目に出た。

「ムラムラきたら、しばらく部屋から出てやるくらいには理解があるから安心しろ。後、部屋に入る前にはちゃんとノックしてしばらく経ってからドア開けるから」

「そんな気遣いはいらねーよ! 俺を猿かなんかだと思ってんのか!」

 改めて、あてがわれた部屋を眺めてみる。

 ベッドはちゃんと二つ用意してくれたのはありがたい。

 他に備え付けられているのは質素なイスとテーブルに、タンスが一つ。

 そして……。

「……見ろよアリス、水道が付いてるぞ。あと、これってランプじゃないよな? 油入れるところがないもん。壁にもコンセントがないテレビみたいなのがくっついてるし。未開な土地に俺達の星の道具を持ち込んで神のごとく崇められようと思ってたのに、これじゃダメじゃん」

「ここの文明レベルも侮れないな。そのランプやテレビもどきは魔法的な物で動くんじゃないのか?人造キメラなんて生み出す技術もあるみたいだし、城に残されていたアーティファクトといい、調べなきゃいかん事は山ほどあるな」


 日本から持ってきた荷物を広げ、これでこの地での生活はなんとかなりそうだと一息つく。

 重い戦闘服を脱いでベッドに寝転ぶ俺に向け、

「おい六号。ところで明日は、スノウの口ぶりだといきなり戦闘任務がありそうだ。本来の我々の任務を忘れるなよ? 基本的にこの国のサポートはするが、旗色が悪くなったら無理せず退却だ。騎士に取り立てておいての厄介者扱いは誰が仕組んだのか知らないが、なかなかいい性格をしているヤツがいるみたいだしな。あまり舐めていると痛い目を見るぞ」

 何がそんなに気に入ったのか、乾いた布でショットガンをきゅっきゅと磨いて手入れをしながらアリスが言った。

「そんな事ぐらい分かってるさ。でも王様との面会の時に、ナイフは没収されたのに拳銃は取り上げられなかった。つまり、ここの連中は銃が何だか分かってないって事だ。戦車の残骸もアーティファクトだとか言ってたし、まだ剣や弓で戦っている戦争レベルならいくらでも手はあるさ。職と住む所は手に入れたし、ここは大きい手柄の一つでも挙げて、褒美にアジトを貰っちまおうぜ……!」


……次回は10月17日(火)更新予定です。乞うご期待ください!

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