第二章 魔法少女の誕生と、その活動内容 その2


 ……。


 こいつは一体なにを言っているのだろう?

 言ってることが一ミリも理解できない。

 話に全く理解を示さないあたしを見て、ネルは深い溜息を吐いた。

「やれやれ、やはりそう言う反応か。色々と情報収集をしてみたが、この星の生命体が他の星の生命体を認識していないというのは本当だったか……まあ、これだけ辺境にあるのだ、無理もないか……」

「ちょっと、何言ってるのかさっぱり分かんないけど、悪口言ったのは分かったわよ?」

「おっと、これは済まない。どこの星に行っても、私が名乗れば大抵は敬意を表してくれるものでね。まさか存在すら知られていないとは思わなかった」

 なんだコイツ。

 いちいち話し方がイラっとするな。

「情報収集したんでしょ? それくらい分からなかったの?」

「分かっていたけど、信じられなかった」

 くあぁ!

 なんかムカつく!

「しょうがない、この星……地球だったかな? 地球流に話してあげよう」

「別に、無理して話してもらわなくても結構ですけど?」

 コイツの言動にムカついていたあたしは思わずそう言ったのだけど、次のネルの台詞で、話を聞かざるを得なくなった。

「ほう、いいのかい? 話を聞いてくれたら君を助けてあげようと思っていたのに」

「……」

「見たところ、君はアイツに手も足も出なかったんだろう? だから必死に逃げてきた。それを助けてあげようじゃないか」

「……本当に助けてくれるの?」

 あたしがそういうと、ネルはニッコリと笑って言った。

「ああ、もちろんだとも」

 こうしてあたしは、ネルの話を聞かされることになった。

「私は君たちの言う所の宇宙人だ」

 ……いきなり凄いのぶっ込んできたわね……。

「私たちの任務は、宇宙に漂う諸悪の根源、暗黒生命体を殲滅することだ」

 SF? っていうか、暗黒生命体って……なにその厨二ワード。

「暗黒生命体は、肉体を持たない。それ故に肉体を持っている知的生命体に憑りつきその個体を支配して暴れまわり、その星を滅ぼす」

 悪魔かなんかな?

「なんの目的で?」

「目的なんかないさ。ただそういう存在として存在しているだけ。まあ、病原菌みたいなものだな」

 なにそれ、なんて傍迷惑な。

「私たちは、数多くの暗黒生命体を殲滅してきたのだが……個体名『ギデオン』だけは私たちの追求を逃れた」

「それって、取り逃がしたってこと?」

「む……と、とにかく。私たちは、その逃げた『ギデオン』を追っていた。そしてこの辺境の地まで追い詰めたのだが……まさか、こんな宇宙の果てに知的生命体がいる星があるとは思わなくてな……」

 さっきからコイツ、地球のこと田舎だって馬鹿にしてない?

「暗黒生命体は、知的生命体に取り憑くと一部の感情を増幅させ暴れまわる」

「一部の感情?」

「負の感情だよ」

 そう言われたとき、あたしの中でなにかがストンと腑に落ちた。

「知的生命体は、大なり小なり負の感情を持っている。暗黒生命体はそいつを餌に増幅するのだ」

 さっきの大学生も、暗い欲望を全開にしてた。

 そうか、アイツはそういう負の感情を持ってたから憑りつかれちゃったのか。

 そんで、その感情を暴走させたからあんなんになったと。

「でも、おかしくない? 負の感情を暴走させたって言っても、あの様子は普通じゃなかったわよ?」

「暗黒生命体に憑りつかれた知的生命体は、いわば操り人形だ。無理矢理身体を動かされているから尋常ではない力を発揮する。だからいくら肉体を攻撃しても、それは有効手段にはならない」

 だからアイツは、投げても殴ってもなんにも効かなかったのか。

 けど……。

「だったら、どうすればいいのよ!?」

 攻撃が効かないなら、倒す手段なんてないじゃない!

「だから、私が君にアイツを倒す手段を与えようと言っているんだよ」

「倒す……手段? そんなの持ってるなら、さっさとアイツを倒しちゃってよ!」

「それが出来れば苦労しないさ」

「なんで!? なんで出来ないの!?」

「体のサイズが違い過ぎる」

「……」

 確かに、目の前で偉そうに喋っているネルは、あたしの足首よりちょっと上くらいまでの身長しかない。

「まさか、こんな辺境の地に巨人の住む星があったなんて……正直、私では力が足りないのだ」

「巨人って言うな!」

「そこで隊員たちと協議した結果、現地の知的生命体、すなわち地球人に協力をしてもらおうという結論になってな」

「……つまり助ける代わりに、あたしにその……ギデオン? とやらを殲滅する手伝いをしろと?」

「そういうことだ」

 そう言われて、あたしは考え込んだ。

 確かに、今のあたしは大ピンチだ。

 でも、この提案を受け入れると、あたしはコイツの言う通りギデオンとやらを殲滅する手伝いをさせられることになる。

「……ちなみに、ギデオンってどれくらいいるの?」

「世界中に散らばったからな。何千か何万か……」

「マジか!?」

 ちょ、それだけの数を殲滅するのを手伝えってか!?

 交換条件として最悪でしょ!

 そんなあたしの心情を察してか、ネルがフォローしてきた。

「ああ、心配しなくていい。流石にその数を一人で殲滅するなんて無理だ。なので私の部下たちが世界中で君と同じような適合者を探しているよ」

「適合者?」

 なにそれ?

 その武器? とやらを使えば誰でもギデオンを倒せるんじゃないの?

「これはね、ある資質を持った者でないと装備できないんだよ。それだけにとても強い力を持っているんだがね」

 ということは……。

「あたしにその資質があるってこと? っていうか初対面だよね?」

「いや、実は数日前から君に目を付けていてね。君がギデオンに襲われるのを待っていたんだよ」

「見てたんなら助けてよ!」

 コイツ! あたしが襲われているのをずっと見てたのか!? なんて性悪なんだ!?

 可愛いぬいぐるみみたいな見た目してるくせに!

「言っただろう? 私では力が足りないのだ」

「ぬぐぐぐ……」

 そういえばそうだった!

「君の資質は、私が調べたところでは群を抜いている。極上と言ってもいい」

「極上の資質って……」

 そう言われると悪い気はしない。

 けど、そうなるとどうしても分からないことがある。

「で? その資質ってなんなのよ?」

 あたしは、自分で言うのもなんだけど、なんの変哲もない女子高生だ。

 特別頭がいいわけでもないし、運動神経だって普通だ。

 そんなあたしが極上の資質持ち?

 一体なんのことかさっぱり見当がつかない。

「これを使うのに必要な資質、それは……」

 ネルは、少し溜めたあとこう言った。

「ピュアな心だ」

 ……。

 一気に胡散臭くなった。

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