Memory 1 退院祝いとショッピングモールとあたし その3
ビミョーにもやりながら店を出たところで──ピンときた。
「もしかして先輩の首のアクセも、異世界アイテムだったりします?」
なにげ気になってた。
昏睡する前の先輩はアクセとかぜんぜん興味なかったから。
それなのに当たり前につけてるって……フツーになんかあったと思う。
「…………気づいていたのか」
めっちゃ重い感じの反応に一瞬地雷かと思ったけど、先輩はあっさりそれをハズした。
見た目シンプルな細めシルバーネックレス。
「近くで見るとキレーっすね……あ、なんか彫られて──」
「触るな!!」
わりと強めに手を払われた。
びっくりしたけど、それ以上に先輩が傷ついたような顔をしたことのほうに驚く。
「…………先、輩?」
「……す、すまん……大丈夫か……?」
「あ……い、いえ、こっちこそ勝手に触ろうとしちゃって……えっと、それもステータスとかがあがったりするアイテムとか?」
「いやこれは関係ない。完全にただのアクセサリーだ」
「え。あ……そ……なんですね」
「ああ……」
「……そですか」
あー……ヤバいヤバい。すっごいギクシャク。
やっぱ地雷だったじゃーん、あたしのバカーぴえん……って後悔しかけたところで、先輩が言う。
「……この『束縛の首輪』は、シャルティニア……とある異世界人から贈られたアイテムだ」
え。
プレゼント?
それって──って思ったら、もう言ってた。
「そのシャルティニアってゆー人……女の人です?」
「……よくわかったな。さっき言った《アトフィア》でずっとつきまとってきたヤツだ」
重苦しく言う先輩に、あたしは「おおう……」ってなる。
なんとゆーか……これはアレだ。
男女のアレがあったカンジがヤバい。
「えっと……長い異世界生活ですし……まあ、仲間とかいたら……そーゆうことも起きますよね……」
「……仲間? そんなものがいたことはないが……桑折?」
「うん……そもそもなにかあったとしてもあたしになにか言う権利とかないし……」
まだカレカノとかの関係ですらなかったし。
だからまあ。
しょーがない。
……ヘコまないっていったらウソになるけど──。
「待て、勘違いしてる!!」
「うわ、びっくりした!」
急に今日一の声とか……。
びっくりしてるあたし以上に、先輩がびっくりするくらい焦ってるのがわかって、あたしは言う。
「や、ダイジョブですよ先輩。あたしそーゆうのわりと平気なほうだと思うんで……」
「俺がよくない!」
お、おお~……先輩アツい……とか、ちょっと感動したりしてるあいだに、先輩はなんか覚悟を決めたっぽい顔になった。
「……わかった。証明する」
「へ? 証明……って先輩、なんかめっちゃ距離近いような──」
先輩はものすごく近いとこからあたしに手を伸ばして──突然景色が消えた。
「え……は!? え!?」
なんか浮遊感? みたいなのと一緒に、ぱっと切り替わった景色は見覚えがない……とゆーか、あきらか日本じゃなかった。
夕方? っぽいし。
「《アトフィア》最大の国ラストリス……ソメイル平原だ」
「すっご……!!」
映画館の画面が三六〇度全面に広がってるみたいな……映画の画面の中にあたし自身が入ってるカンジ……? とにかくめっちゃヤバい!
「『
「先輩の過去……?」
異世界の?
「これがおそらく、一番早い」
「はあ……早いって──あれ? 先輩?」
平原にぽつんと立つ一本の木に、鎧を着た先輩がよりかかっている。
今より……なんか、だいぶ冷たいカンジ。
『──お呼びだてして申し訳ありません』
映像の中の先輩が冷たい視線を向けると、その先に黒い布をかぶった女の人がいた。
黙ったまま見つめ合う二人。
やがて女の人のほうがパサっと布を取る。
おお~金髪きれー……てかスタイルいいなー………………って待って待って。
「マジでめちゃくちゃ綺麗なんですけど!! え、待ってこの人がシャルティニアさん!?」
どちゃくそ美人……てゆーか、あたしが今まで見た人類の中でダントツなんですけど!!
見た目人だけど人じゃないとか、もはやそういうレベル。あきらか違う存在。
宝石みたいなおっきな目に、お人形みたいな顔。ちょっと耳が長いけど、それもなんか超キュートだし、スラリとした手足とかスタイルカンペキとか、マジでヤバすぎる。
編み込んだ金髪は陽にあたってキラキラしてるし……てかなにこのイタみとムエンっぽい無敵ヘアー。肌とか毛穴ゼロだし……。
「桑折……?」
「あ……ゴメンナサイ」
めっちゃ近くでガン見してた。
現実なら通報されてたかも。
この映像便利~……。
『なんの用だ』
「や、どんなシャンプー使ってるのかなって思って……」
って、声出したの映像の中の先輩~!
……恥ずかし。
あたしが赤くなってるあいだにも、過去の先輩と超美人──シャルティニアさんの会話は続く。
『あの件について……考え直していただけましたか』
うつむきがちに話すシャルティニアさん。
仕草もなんかキレイだし、声もいいじゃん……完璧かこの人。
ってストップ。
「あの件ってなんです?」
「……平たく言えばシャルティニアとの子供──つまり子作りをしろと迫られた」
「子作りっ!?」
「この世界に俺をとどめるための体のいい枷だ。この世界で俺はこの上なく都合のいい存在だったからな」
ど、どゆこと……!? ってなったけど過去の先輩がしゃべっていたので黙る。
『興味がない、と言ったはずだ』
『ど……どこがダメなのでしょうか? 変えられることであれば変えます……。ですから──せめて理由をお聞かせください』
『お前に言ったところで意味がない』
『そんな……』
『そもそも俺はこの世界に興味がない』
『ですが……ですがあなたは救ってくれました。ずっと閉塞していたこの世界を……この世界に囚われていたわたしを……!』
『…………』
『ま、待ってくだ──あっ』
シャルティニアさんが転ぶ。
こんな綺麗な人が汚れるなんてとんでもない!! ってゆーナゾ理論で思わずかけよったけど、あたしの手はシャルティニアさんをすり抜けてしまう。
そうしてるあいだにも先輩はどんどん歩いていってて……スルー力マジハンパない。
『待って……待──』
「ここだ」
現実の先輩の声のあと。
『わ──わたしは!! あなたに呪いをかけました!!』
ピタリと過去の先輩の足が止まる。
『あ、あなたが……わたしから受け取った『自由の首輪』の本当の銘は……『束縛の首輪』……! えっと……対象は……その首輪を外そうとした者……あ、あと、その首輪に触れた異性は、みな呪われます! 呪いの内容は……ええと……すごく……すごい、おぞましい……口にもできないものです!!』
…………うっわ……。
めっちゃ必死……。
めっちゃ必死にウソついてる……。
涙目で、すっごい一生懸命に。
しかもこれあきらかこの場で考えたやつ……。
って誰でもわかると思うんだけど──
『…………なぜ、そんな呪いをかけた……?』
信じてるー! 先輩普通に信じてるー! 逆にスゴい!!
『お、教えてほしい、ですか……?』
先輩に振り向いてもらえてシャルティニアさんうれしそう~!
なにそれ~フツーにカワイイんですけど。
『…………』
過去の先輩は黙ってシャルティニアさんをじっと見つめてから──そのまま空飛んでっちゃった。
「えええええええええー!? なんでっ!?」
「信じられないだろう……。異世界で大抵のことは受け流せたが、こればかりは俺も愕然とした……」
「いやいやいや愕然としてるのは先輩に対してですけど!」
「……俺?」
「いやだって──この人絶対先輩のこと好きでしょ!? 呪いもフツーにウソじゃん!!」
って全力で叫びそうになったのを、ギリギリで耐える。
そんなことしたらいろいろまずい。気がする。
かわりに深呼吸して、泣いちゃってるシャルティニアさんに「先輩がごめんね……」と心の中だけで謝ると、突然景色がまた変わった。
まぶしさに目をとじて、もう一回ひらくと、もとのショッピングモールに戻ってた。
「というわけで、シャルティニアには《アトフィア》にいたあいだずっとつきまとわれていたが、桑折の懸念するようなことは一切ない。むしろ恐ろしい呪いをかけられた忌まわしき相手だ」
「………………うん……はい……」
確かに先輩が、女の子でもうっかりすると惚れてしまいそうなシャルティニアさんにスルー力ハンパなかったのは伝わった。
伝わった、けど。
「……一個聞いてもいいですか」
「ああ」
「なんでシャルティニアさんじゃダメだったんです?」
あんなに綺麗で美人でカワイイのに。
見た目もそーだけど、ウソの下手さとか、先輩が信じちゃったのとか……今まであーゆうことしてなかったからってことだよね。
とゆーことは中身だってピュアですっごくイイヒトなんだと思う。
超絶カワイくて性格もいい。
そんな子が好きピだって言ってたのに──先輩は受け入れなかった。
なんで?
「…………」
「……先輩?」
急に先輩が黙った。
とゆーかこっち見ない。
目を合わせようと回り込んでも、のぞき込んでもさけられる。
「……おーい……?」
「…………」
「せんぱーい?」
「…………こ……桑折しか……」
「あたし?」
「……桑折しか……そういう相手は……考えられなかった、から」
…………。
………………。
……………………いやいやいや。
いやいやいやいやいやいやいや。
そんなん。
そんなん……なんかもう。
なんかもう、なので。
あたしは熱すぎる顔を手であおぎ、さりげなく離れようとして……やっぱりやめて。
イキオイで──先輩の首のアクセに触った。
「な……っ、なにして──」
「別に、不幸になってもいーですよ?」
だって。
「だって今めちゃくちゃ幸せですもん」
それはもう。
少し目減りしてもぜんぜんヘーキなくらい──。
とか。
やっちゃってから、めっちゃ恥ずかしくなってきて、あたしは早口で続ける。
「そ、そーゆうことで! とりあえずアクセ買いにいきませんか?」
「…………アクセ?」
うん、ハテナってなるのは当たり前だと思う。
「えっとですね、ほら、カノジョとしては、カレシが他の女の子からもらったものをずーっと身につけてるってゆーのは……まあ、なんとゆーか……ビミョくて」
「………………そう、だな…………すまない」
「あ、いやいや謝らないでください! 先輩のそれはほら、しょーがないってゆーか、フツーじゃないのですし」
とゆーか、むしろあれはシャルティニアさんがカワイソーすぎた……。
「ただ、ですね……それでもまあ……ちょこっとフクザツはフクザツなので……そこらへんまるっと解決できちゃう名案をあたしは思いつきました」
「名案?」
「もう一個つけちゃえばいーんですよ」
外せないなら重ねちゃえばいいじゃんとか、めっちゃ単純だけど。
嫌なら忘れちゃえとかそーゆうのもチガう気がするし。
なにより、あたしはまだ先輩と付き合ったばっかで、これから二人でいっぱいいろんなことする予定だから。
その最初の一歩として。
「あたしと先輩で……おそろのペアアクセつけませんか?」
それならシャルティニアさんのつけててもセーフにできるし、もしかしたら先輩の中のアクセへの記憶もよくできるかも──ってゆーのはさすがにツゴウよすぎ?
「あ、もちろん先輩がよければですけど……」
「いい」
喰いぎみで。
「──つけたい。桑折とのペアアクセ」
そう言ってくれた先輩が本当に、めちゃくちゃうれしそうだったから。
あ、これサイコーのプレゼントになったのかも──ってなったので、先輩の退院祝いもできてオールオッケーかなって思いました。まる。