Memory 1 退院祝いとショッピングモールとあたし その2
こういうとき、そこそこ栄えたトコに住んでるとベンリ。
反対口の
「いらっしゃいませ。なにかお探──」
「あ、自分らで選ぶんでダイジョブで~す」
たまに接客に来るスタッフさんにやんわりお断りを入れ、
「先輩先輩、これとかどっすか? ちょっとそっち向いて……んー、こっちのほうがいーかな?」
「……薄い……」
「え? 生地のコト? ……そですか? わりとちゃんとしてると思いますけど」
「
「防御力!? 防御力で服見るて……てか数値とか見えるんだ……あ、じゃ、これはこれは? なんかチェーンついてるし強そう!」
「誤差とすら言えないレベルだ。それよりは向こうのマテリアルのついてるほうがまだ──」
「
「……ダメだな。これなら着ないほうがマシだ」
「ふ、服全否定~!? あはははははっ!」
ヤバみがすごい。
めっっちゃ楽しい!
先輩は、あたしが勝手に服を当ててもぜんぜん嫌がらないで、むしろわりと乗り気で着てくれて、それがもっともっと楽しいカンジにしてくれる。
「てか先輩、好きな色なんです?」
「特にないが……強いて言えば環境色だな。どうせサーチ系の魔法を使われるからと軽視しがちだが、物理的な迷彩効果は意外と馬鹿にできない」
「ふーむ……よくわかんないですけど、迷彩ってことはグリーン系とかかな……? あ、このシャツいっすねー! 先輩にあう気がする~」
「……わかった、買ってくる」
「判断はやっ!」
合わせてないし! あたしなら絶対そんなカンタンに決めれない。
てか値札見たら、フツーに高くない!?
メンズのってなんかやたら高いんだよなー……とか思ってるあいだに、先輩がレジに直行しだしたので、慌てて回り込む。
「ちょちょ、ちょっと待ってくださいって! もーちょっと考えてからでも……」
「大丈夫だ。桑折が選んでくれたものなら」
「めっちゃ自信もって言いますね……それはそれであたしにかかるプレッシャーが……」
「桑折は……嬉しくないのか?」
「え? あたし? ……あーまあ、自分の選んだものを着てくれたらアガりますけど……」
「なら問題ない。桑折が喜んでくれるのがなによりも嬉しい」
「────」
いや。
急にそんな笑顔で言うの──
「ズルいでしょ……」
「……? ああ、すまん。桑折にもなにか買おう」
「や、そうじゃなくて! てか待って、あたしに買わせてくださいよ、退院祝いなんですし」
「いや、それは大丈夫だ」
「いえいえダイジョブとかじゃなく」
「いや」
「──あーもう、じゃあ下! パンツはあたしが買いますからね!?」
「……ありがとう」
だからその突然の素直やめて……。
無愛想からちょっと照れた顔になるのめっちゃニヤけるし……しんどい。もっとお願いします。
「では……ひとまずこれだけ買ってくる」
「はーい」
と見送ったまではよかったものの。
「──!? お客様、これは……」
「……? なにか問題があったか?」
「いや問題っていうか……」
──はいはい、なんかレジで揉めてますねー!?
「すみませーん、どしましたー?」
慌てて駆けつけたあたしに会計をしていたショップスタッフさんが「お客様がこちらを出されて……」と言って見せてくれたのは明らかによその国の──いやナニコレ。お金?
「……ああそうか。こちらの世界の……、……円だったか、確か」
間違いに気づいたらしい先輩が当たり前のようになにもないところに手を突っ込んだので。
「マジック! ここでマジックっすねー!?」
と大きな声でごまかしにかかったものの、ショップスタッフさんは「は?」みたいな顔してたのであんま意味なかったかも。
とりあえず急いであたしがお金を払い、店員さんには「手品好きなんですよ~ごめんなさ~い」みたいなカンジでムリヤリ押しきって店の外にでて。
「先輩……お願いですから今日はあたしにぜんぶまかせてください……」
心からお願いしたら、先輩はわかってくれた。ホントによかった。マジで。
そのあと似たようなショップを何軒か回って、シャツにあうスラックスを買うとジャケットもほしくなっちゃったので付き合ってもらい、いーカンジのヤツをゲット。
とゆーわけで。
まとめて試着してもらった結果!
「おー!」
「……着てみた、が……」
「おおお~!」
ジャケット、シャツ、スラックス姿の先輩は垢抜け感パなかった。
やー、こーゆうのって素材の良さが大事になってくるけど、先輩は身長高めで細身だからスラっとしててフツーにめっちゃ似合うヤツ!
てかジャージのときは気づかなかったけど、シルバーの細めネックレスがイイカンジにアクセントになってる。
「ん、ちょっと袖まくってみてください。うんうん………………いっすね!」
ビッと親指を立てると、先輩は少し首をかしげてから顔をそらし、小声で。
「………………そう、か」
むふ……照れてる照れてる……。
と、先輩の照れ顔をタンノーしてたら、近くのショップに気になるものを見つけた。
「お……先輩ちょっとそこみてきてもいーです?」
こくりうなずく先輩を確認してから、あたしはお目当てのコを手に取る。
「あはっ、やっぱそーだ。……かわい~」
「それは……?」
「ん、シュシュですよシュシュ。ほらこうやって髪をまとめるのに使ったり、手につけてみたり」
「ああ、桑折の右手首のやつか……」
「ですです。……ほら、このシュシュのここについてる白黒のネコ……めっちゃかわいくないっすか? 地味に集めてんすよねー」
好きな動物は? と聞かれたら秒でネコ! と答えるくらいにはネコ派なので、ネコグッズはいろいろ持ってるんだけど、特にこの〝シロクロネココ〟は最近のお気に。
「うん、これは買い~! じゃ、ちょっと行ってきまーす」
会計してほくほく顔で戻ってくると、先輩が少し離れたところにいた。
あたしが声をかける前に気づいた先輩は、すたすたとこっちに近づいてきて、
「桑折、これ……」
差し出された手にのってたのは、白と黒のキラキラ輝くやたら高そうなブレス。
「わ、なんですかこれ。かがやきハンパな!」
白金とか黒金とかいうやつ? 黒金って聞いたことないけど。
はー……めっちゃきれーだし、なにより。
「めっちゃ高そ~……」
「もらってくれ」
「…………はっ!? いやいやいやなにいってんすか、絶対お高いやつでしょ!!」
「金額はついていない。《ステロウン》で勝ち抜いて手に入れたものだ」
「ステ……勝ち抜いて!? ──あ、異世界のヤツか!」
さらっと異世界からのアイテム出すな~。ドラ○もんみたい……ってゆーのはともかく。
「もらえませんよ! てか、急になに!?」
「桑折が、集めてると……言っていたから」
「んん……? あたし別に腕輪集めてなんて──」
ってそこまで言ってから、あたしは右手に持ったままのシュシュに気づいた。
「あ。ああ~シュシュのこと?」
シュシュ=腕輪になってるけど。
「違いますよー。まあシュシュもそこそこ数持ってますけど、集めてるのはほら、このネコのグッズです」
「……ネコ──ネコ科のような見た目の精霊なら喚べる」
って言いながら人差し指をうっすら光らせはじめたので、慌ててその指を両手で包む。
「いやいやいやいや喚ばないでください! ここで喚んだら絶対ダメですよ!?」
思わず二回言って念を押す。
それでもなんか言いたげにしている先輩の奇行に、あたしはようやくピンときた。
「もしかして……あれですか、あたしがなんか全部やっちゃってるから、悪いなーお返ししなきゃ……とか思ってます?」
「…………」
その沈黙はさすがにイエスだってわかった。
まーあたしも逆の立場だったらそう思うかもな~ってなったのもあるけど。
でも。
「先輩……いーですか? 今日は先輩の退院祝いで、先輩がゲスト、あたしがホストです。だから気にする必要なっしんですよ。オッケー?」
と言ったところで、先輩は黙ったまま。
うーん……しょーがない。
「てか、あたしのほうこそ先輩振り回してません? ほら、そのジャケットだってあたしが着てほしくて買ったし……なんかいろいろ申し訳ないなーってめっちゃ思ってるんですけど……」
これは半分本心。
ちょっとしゅんとしてみせたら、先輩はわかりやすく、といっても表情はほとんど変わってないカンジで慌てた。
「そんなことは……ない。俺は……桑折の、そういうのも楽しいと思って──」
「でしょ?」
「……?」
「先輩が楽しいように、あたしも今めっちゃ楽しいです。それなのにお礼とか、おかしいでしょ?」
「────」
目からウロコがおちた、みたいな顔をする先輩にちょっとクスリときて、あたしは先輩に笑いかける。
「まーそれでもなんか悪いなーって思うのなら……あたしの服買うのにもちょっと付き合ってください。あ、言っときますけど、先輩の服選んでたときの三倍は時間かかりますからね~?」
にひっ、と笑ってみせると、先輩も頬をゆるめてくれて、もうなんかそれだけでふわあってなる。
「お、とか言ってたらちょーどあたしの好きなショップがあるじゃないっすか。寄っちゃいますよ~!」
いつも行くショップにはちょうどあたし好みっぽいニットワンピが置いてあって、
「試着してきまーす!」
先輩の返事も待たずに試着室で着替える。
よしよし、我ながら自然な流れにできた……。
しかもこれ……ホントにいいカンジなんですけど~! キテるわ~!
一回鏡でキメてみてから試着室のカーテンを開ける。
「じゃーん! どーですか先輩? イェィ♪」
そのままなんちゃってのポーズを取ってみたり。
といっても相手は先輩なので、まー照れるか防御力とかの話をするかの二択だと思ったら。
「すごく──いいな」
「…………へ?」
「色合いや形もそうだが……ふわふわとして……その、俺は服の造形に詳しくないから、うまく言えないんだが……なんというか、桑折にとてもよく似合っていて……かわいいと思う」
「────」
いや、そんな、一生懸命言葉にできないことを言葉にするカンジとか──。
そんなの……ヤバいでしょ。
「……桑折?」
「で、でしょー!?」
うっ、今絶対声おっきかった。
思わずその場にしゃがみこみたくなったけど、ギリギリで耐えて、でも顔だけは絶対ムリだったので手で隠して……隠せてることにして!
「と、とりま買ってこよーかな!」
ごまかしつつ試着室のカーテンを閉めようとしたら、先輩に止められた。
「え」
え。
なになに。
って顔してたら、先輩はなんかちょっと迷うようにしてから言った。
「桑折は……服を、たくさん持ってるのか?」
……ん? 急になんの話?
って思ったけど、とりあえず素直に答えとく。
「そですね~……わりと持ってるほうかな~? 服はあればあるだけ嬉しー! ってカンジなんで。プチプラとか、メリカリとかもよく使って……ってゆーか女の子ってだいたいみんなそーだと思いますよ?」
トモダチどころかうちのママもそうだったので、たぶんみんなそう。
そーゆう意味では女の子はいつまでも女の子ってゆー。
「てか、それがどーかしたんです?」
首をかしげると、先輩は目をそらしてまた落ち着かないカンジになった。
「その……桑折が気に入れば、なんだが……」
そう言って先輩はまたなんでもないところに手を突っ込むと──なにやら透き通って見えるキラキラした布を取り出した。
「もらってくれないか」
「……いやもうどこからツッコんだらいーのやらってカンジなんですが……え、なにこれ!」
確実に異世界のアレだと思うけど、肌触りがめっちゃよくて、すっごい薄い生地なのに、信じられないくらいしっかりしてる。
なにより──。
「めっちゃ装飾キレイ!」
キラキラしてるのがなんなのかわからないけど、ワンポイントでついてるちっちゃい宝石みたいなのがキレイすぎてヤバい。
ケープみたいだからいろいろ応用きくし、これは買いなのでは……?
売ってるものなら、だけど。
「『神精霊の加護』と『竜神の霊跡』が二重にかかっていて、ステータス補正がかなり大きくなっている。ここまでのものは……あらゆる世界を探しても、あまりない」
ビミョーに得意そうな先輩にはすごく申し訳ないけど……そこはわりとどーでもいいかな。
んー……たぶんここのお店以外の服とか試着室で着たらダメなんだと思うけど……。
「えっと……じゃあちょっとだけ」
トップスに羽織ってみる。
……ウソ、軽っ。
あと気のせいかもだけど──
「……あったかい……」
体の中からあったまるってゆーか、ぽかぽかするってゆーか。フシギ。
てかなにより見た目的にフツーに使えそう。
「や、これめっちゃいーですね」
「そうか……あまりいい想い出のあるものじゃないんだが、ステータス補正が高いことは間違いないし、桑折に着てもらえるのならよかった」
いやだから先輩も、そうやってすぐ──。
ん?
「あまりいい想い出があるものじゃない?」
聞き返すと、先輩はうなずいて、アンニュイなカンジになる。
「《アトフィア》でつきまとってきたヤツが身につけていたものだからな……」
「え」
古着なのはぜんぜん気になんないけど。
「つきまとってきた人が身につけてたって……」
「ああ大丈夫だ。ちゃんと『
「呪い!?」
ソッコーで脱いだ。
先輩は少し残念そうにしてて、ちょっとかわいそうになったけど……さすがにな~。
こういうとこ、ホントに先輩異世界にいたんだなーってなる。
てか、つきまとってきた人ナニモノ……?
聞いてみたいような、ちょっと怖いような。