間章 尋問

 シオンが生まれ育ったターコイズ王国のどこかで。

「ん……」

 シオンが意識を取り戻す。

 喉はカラカラだった。

 胃は空腹だった。

 頭の中がひどくぼんやりしている。

 それでも、薄らと目を開ける。

「んあ……」

 眩しい。

 景色がぐにゃりと歪んでいた。真っ白だ。

 ――ここはどこだ?

 意識を失う前の記憶が曖昧だが、城の演習場でエステルと手合わせをしようとしていた気がする。そうしたら何か声が聞こえてきて、頭の中が真っ白になって……。

 そこから、そこから先は……。

 わからない。何が起きてどうしてここにいるのか、わからない。

 現状を確認しなくては。

「あう……」

 シオンは身体を動かそうとしたが、身動きが取れなかった。手足が重い。ジャリッと金属質な音がする。すると――、

「おい。聞こえているか?」

 誰か、成人しているであろう男性が、シオンに語りかけてきた。

「あう? あい」

 シオンは視点の定まらない目をして、ろれつの回らない声で返事をする。

「ちっ、自白剤を嗅がせすぎたか。聞き取りにくい。おい」

 誰かが舌打ちした。

 意識を確かめるためなのか、ぱちんと、シオンの頬をぶった。

「いいよ。そのままで。質問の内容は理解できているみたいだ。尋問を開始しよう」

「わかった」

 大人の女性の声が聞こえた。いったい誰の声だろう? 聞いたことがあるような、ないような……。そう思っていると――、

「シオン坊や。なあ、シオン坊や。私から質問だ。熾天使と呼ばれる天使達に心当たりはあるかい?」

 女性がシオンに尋ねてきた。

「えらふ?」

「そうだ。熾天使という言葉に聞き覚えがないか、よく思い出すんだ」

「………………そういえば、さっき、れんけい? で、きいたきがする?」

 シオンはしばし黙考すると、少しだけ首を傾げて答えた。

「れんけい……? ああ、なるほど、さっき天啓で聞いた、か」

 女性はふむと唸って何か思案し始める。

「では、俺からも質問だ。お前には前世の記憶があるのか?」

 今度は男性が、わずかに興奮を帯びた声でシオンに尋ねてきた。

「えんせ? ない、それ?」

「……前世とは生まれ変わる前の自分のことだ。お前には別人の記憶があるのか、と訊いている」

「わからない」

 シオンはふるふると首を横に振る。

「なら、お前はシオン・ターコイズなのか?」

「あい」

「………………」

 シオンはこくりと首を縦に振った。

 男性はそれで質問を止めていったん沈黙する。

「なるほど、ね。やはり前世の記憶が覚醒しているわけじゃあないみたいだ。これだとこの坊やが熾天使の因子を持つ者なのかはわからない」

 女性が溜息交じりに言った。

「……しかし、一つの肉体に二つの魂を宿していることは確かだ。つまり、こいつは世界の理を無視した存在だということ。熾天使の因子があろうがなかろうが、『転生法』の貴重なサンプルにはなる」

 男性が感情を押し込めたような声で、淡々と告げる。

「それにしたって我々が追い求める転生とは異なる形での転生なんだけどねえ。シオン・ターコイズの魂はいらない。とはいえ、坊やの転生を引き起こしたのが誰かの意図によるものなのか、天然物なのかは知る必要があるね。熾天使の因子のことも……」

 女性はシオンを観察し、値踏みするように語った。そして――、

「ま、獲得した魔眼も少し面白そうだ。ついでに調べるとしようか。この坊やの身柄はこのままダアトの研究所に預けるとしよう」

 と、すぐ傍に立つ男性に言う。

「……わかった」

 男性が返事をする。

 そこで、シオンの意識は再び途切れた。

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