第三章

【委員長の災難】

「さて……わざわざ、図書室に移動させてごめんなさいね?」

「え、ええ……わたしは大丈夫よ」

「そう、なら良かったわ。だって……これで落ち着いて話し合えるものね♪」


(廊下ではあまり落ち着いて話せなかったけど、まさか委員長が図書室を選ぶとは……なるほど……ウフフ、自分のホームで戦うつもりね?)

(な、何で地味な委員長キャラのわたしが女子カーストトップの朝倉さんに目を付けられてるのよぉ! 流石さすがに他の女子にそんな現場を見られたくなかったから、図書室に案内したけど……何か変な誤解をされてないかしら?)


「あ、朝倉さん! 待って、誤解してるわ! あれはただ……安藤くんがお昼休みになると図書室に来るだけで……わたしは図書委員として話してただけなの!」


(冗談じゃないわよ! 安藤くんなんてわたしのタイプじゃないし、そんなくだらない理由で朝倉さんに嫌われでもしたら……

『委員長ってあさくらさんと仲悪いらしいよ……』『えー、マジで?』『私たちも委員長とあまり関わらない方が良くない?』『あの朝倉さんを敵にするって、委員長は何をしたの?』

 ──って、学校中の女子から敬遠されるじゃない!

 朝倉さんにわたしをおとしいれる気がなくても、女子の世界ってのはカーストのトップが特定の誰かを敵だと思えば、それが他の女子の総意になるのよ!)


「わたしとあんどうくんは朝倉さんが思っているような仲じゃないわ!」

「つまり、お昼休みの度にあいびきをしているという訳ね……」


(いい宣戦布告ね……いいわ、受けて立つわよ? ガルゥウウ!)

(日本語が通じてなぁ────ああああああああいっ!)


「朝倉さん、落ち着いて! そもそも、クラスの子とお話しするくらい『普通』よね?」

「ふ、普通……? ぐふぅああッ!」


(……たかがクラスの男の子と軽く話すくらい『普通』ですって……!? じゃあ、これまで私が安藤くんに話しかけようとしてきた努力の全ては……委員長にとって『普通』と言われることだったの……?)


「それにね、わたしが安藤くんとする会話なんて……『本の話』くらいよ?」

「ほ、本の話……がはぁ!」

「……むしろ、安藤くんと図書室で会っても、話す内容なんて『本』というか……『ライトノベル』の話題ばっかりなのよ?」

「ら、ライトノベルの……話題ぃい!? ぎゃふん……」


(なんてこと!? この小娘は……安藤くんと楽しく会話するどころか……私が彼としたかった『本の話』を! あろうことか『ライトノベル』の話題ばっかり……していたなんてぇ……)


「委員長、分かったわ……。今から、貴方あなたは……私の敵よ!」

「何でぇええええええええええええ!」


(ヒィイイイイイイイイ! お、恐れていたことが現実にぃい!?)


あさくらさん! ままま、待って! お、お願い……わたしの話を聞いて!?」

「ガルゥウウ……今更、何を言われても私の気持ちは──」

「朝倉さんはあんどうくんが……『好き』なんでしょう?」

「にゃ、にゃぅっ!? な、ななな、何のことかしらぁ~?」


(はぅううう! ななな、何で委員長に私の気持ちがバレてるのよ!? 私の気持ちは誰にも言ってないし……ハッ! もしかして、委員長はエスパーなのかしら……?)

(うわぁ……朝倉さんてば、分かりやすいくらい動揺しているわね。もしかして……彼女って、うそをつくのがな人なのかしら?)


「か、勘違いしないでよね!? 別に、私は安藤くんが好きとかじゃなくて……ただ、彼と休み時間とかに仲良くおしやべりできるようになりたいだけなんだからね!?」

「へ、へぇ……」


(しかも、なんてわかりやすいツンデレなの!? ……でも、この反応ならく誘導すれば、朝倉さんを敵に回すどころか味方にして……わたしの学園カーストの位置を上げることも出来るんじゃない? クフフ……)


「朝倉さん、大丈夫よ。わたしは彼のことなんてミジンコほどにも興味がないわ。むしろクラス委員長として、二人の仲を応援したいと思っているの!」

「ふぇ……委員長、それ本当?」

「もちろんよ! 前から朝倉さんみたいに明るい人が安藤くんのともだちになってくれればって思っていたのよ……。だから、わたしに二人が仲良くなれる様に協力させてくれない?」

「協力……?」

「えぇ!」

「委員長が……私と安藤くんの仲を?」

「そうよ! そもそも、安藤くんはわたしのタイプじゃないからね? わたしは『レット・バトラー』みたいな男性がタイプよ」

「え……れっとばとらぁー?」

「朝倉さんは知らないのね……。えっと、わたしの好きな小説に出てくる登場人物よ」

「そうなのね。私ったらハリウッド俳優かと思ってたわ!」


(つまり、委員長は本当に安藤くんのことは狙っていないと……むしろ、それどころか私に協力してくれようとしている。だとしたら、委員長は──)


「委員長! 貴方あなた、本当は良い人だったのね! 疑ってごめんなさい!」

「えぇ……変わり身、早くないかしら? まぁ、別にいいわ。

 だって、わたしたちクラスメイトでしょう?」


(助かったぁ~……。よし! これであさくらさんに取り入ることができれば……わたしも朝倉さんと親しくなって、女子のカーストトップの仲間入り……クフフ♪)


「それで、委員長! ど、どうやったら……あんどうくんと緊張しないで話せるかしら?」

「……ん?」

「そ、そのね……? 私が安藤くんを『好き』って自覚したのがつい最近なんだけど……いざ『好き』って自覚したら、上手く安藤くんの顔を見て話せなくなっちゃって……」

「…………は?」


(ま、まさか……そこからなの? えぇぇええ!? あの朝倉さんが……そのレベル?)


「えーと、じゃあ、安藤くんの顔をジャガイモだと思えばいいんじゃないかしら?」

「安藤くんの超プリティーフェイスが、ジャガイモなんかに見えるわけないでしょ!」


(何これ……とても、面倒くさい……。もしかして……予想以上にやつかいな相談を受けちゃったんじゃないの?)


「えっと……朝倉さん? そろそろ授業も始まるし、続きは今度にしないかしら?」

「あ、そうよね! 時間をとってゴメンなさい。また、今度よ! お願いだからね!」

「あ、うん。ハイ……」


(ふぅ……。なんとか、朝倉さんに敵認定されるのは避けられたわ……)


「お、委員長じゃん」

「あ、安藤くん」


うわさをすればなんとやら……でも、今更来ても遅いわよ)


「なんか、朝倉さんと楽しげに話してたけど、委員長って朝倉さんと仲良かったっけ?」

「アハハハ……。ま、まぁねぇ……」


(この男……誰のせいだと思ってるのよ!)

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