第一章 魔法学園入学②
よく
今日は運命の乙女ゲームスタート、入学式当日だ。
まだ見慣れない寮の自室を見回して、むしろ
「おはようございます、お
「おはよう、ミナ」
ミナがカーテンを開けたので、朝日が広々とした
『広々とした』『寝室』。
おわかりだろうか?
エカテリーナが
こういう特別室は、三十
「朝食ですが、ベッドで
「あら、食堂でいただくのではありませんの」
「特別室のお食事は、
なんか……身分制度ってすごいというか。同じ生徒にここまで差をつけるのってどうなんだ。前世の名門校っていうとイギリスのイートン校だけど、王族だろうが留学中の日本の皇太子だろうが
でも将来
ゲームで見た寮の部屋はこぢんまりしたワンルームだった。魔法学園の生徒はほとんどが貴族だから相部屋でなくワンルームなんだなー
まあでも、いざとなったら引きこもるのにはぴったりだな!
ベッドで朝食をとって、制服に
ゲームでは、『入学式』はナレーションでゲームの世界観やストーリーを
実際に入学する今回はもちろんそんなのではなく、日本の入学式テンプレそのものの行事らしい。新入生はいったん寮ごとに集められ、在校生と
オーケストラボックス(講堂にそんなのあるんかい!)の楽士たちが
「在校生代表、アレクセイ・ユールノヴァ公爵閣下」
なっにー!?
(こういうのって生徒会長とかがやるんじゃないの? なんでお兄様? 一番身分が高くて成績が首席だから? 生徒会長が
アレクセイが
(きゃーっ! お兄様かっこいい!)
兄の制服姿を見るのは初めてで、思わずテンション上がるエカテリーナであった。
ゲームの画面ではいつも制服だったけど、同じ世界に生まれ変わって見るのはわけが
あらためて、背が高い。足長い。先に話をした校長や来賓と比べると、スタイルの良さがはっきりわかる。
お兄様、実は細マッチョだしね!
この世界の貴族男子は乗馬や
背筋の
無表情な
演壇の前に立つと、アレクセイはゆっくりと講堂の
そこで、アレクセイはおもむろに口を開いた。
「新入生諸君──」
低い
内容はこういう場合のテンプレで、
有能。なんて有能なんですかお兄様。
長すぎず短すぎずでスピーチを終え、拍手の中アレクセイは演壇を
この時になって彼がちらりとこちらを見たので、エカテリーナはこっそり手を
すぐに消えたがその瞬間だけ、無表情が一変して
きゃーっ! ギャップ
「きゃーっ!」
どよっ。
はっ! 心の声がダダ
って違うぞ。なんか後ろのほうから聞こえたけど? どよっ、とかどよめいてたし。後ろで何か起きたのかな?
などと思っていたところへ、進行役の声が響き
「新入生代表、ミハイル・ユールグラン皇子
ひー!?
在校生代表が公爵で、新入生代表が皇子! なんというノーブルvs.ロイヤル。入学式がノーブルvs.ロイヤルて。
「きゃーっ!」
今度はあきらかな
夏空のように青い
全校生徒を前に演壇に立っても、
ふっ、とエカテリーナは微笑んだ。
(ないわー……あー、良かった)
確かにさすがの美形。
でもね! 前世でアラサーだった身からすると、十五歳はムリ!
好きなタイプはできる男だし!
今は自分も十五歳でも、あんな可愛いお子様相手に、
お兄様は外見も二十代に見えるし精神的にも落ち着いてるから、心置きなくきゃーきゃー言えるけど、年相応なお子様相手に恋愛フラグは立つどころか、
皇子に会ったら好きになっちゃって暴走しないか、少しだけ心配しなくもなかったけど、ないないないわー。良かったわー。
アレクセイの時には静まり返っていた講堂は、今はうるさくはないがどこかきゃわきゃわと
いやでも、一回目はタイミング的にやっぱりおかしいな。お兄様への反応だったりして? 実は
うん。超イケメン、成績は首席、国内トップクラスに身分高くてめっちゃお金持ち。
さらに……両親(つまり
身分は皇子には負けるけど、ゆくゆくは皇后というプレッシャー大きそうな立場より、公爵夫人のほうがいいって女子も多いんじゃ……?
こ、これは。
お兄様──なんという優良物件!(
いけない、お兄様を守らなくちゃ!
……って待て自分。
自分、妹だから。
お兄様いずれ結婚するんだから。
何か困っているならともかく、近寄る女子をやみくもに追い
はっ! 姑も大姑も舅もいないけど、そういえば自分が
うわーん、
……って再び待て自分。
お兄様ほどの立場なら、とっくに
わざわざ
だったらどうしよう。確かめなきゃ──。
周囲から
皇子の話が終わっていた。
あ……皇子の話、一言たりとも聞いちゃいなかったわ。
皇子、なんかすまん。
「エカテリーナ」
入学式を終えて学舎に移動しているところへ、アレクセイがやってきた。
「お兄様!」
「お兄様、
「ん? ああ。急な代役だったんだ、大したことは言っていない」
やっぱり代役でビンゴか。しっかしこともなげにおっしゃいますな。
「私より、皇子のことが気になったのではないか?」
「え?」
「私の後に、ミハイル殿下のお言葉があっただろう。どう思った」
え~ええええ?
なんで皇子? やべえ話の間ずーっと変なこと考えてたのがバレた?
「あ……殿下ですわね。そう、その、ご立派なお言葉で……」
いかん、我ながら明らかにキョドっとる。
ここは正直に言っておこう。お兄様なら
「その……あまり、印象に……残っておりません、の……」
「……」
あ、間が。
「あの、それよりお兄様! ひとつお
「あ、ああ、もちろん」
「お兄様は、どこかのご
「……は?」
いやお兄様キョトンとしないで。
「いえ、わたくしが口出しすることではないとわかっておりますわ。でもこれだけは申し上げます、わたくしお兄様の奥様になる方がどんな方でも、決して意地悪なんていたしません! たとえ女同士の
『嫁いびりダメ絶対!』
いつも心にこの標語!
思わず
「確執……」
……レアだわ、お兄様が声出して笑ってるの初めて見たわー。大人っぽさが
けど笑ってる場合じゃないです。嫁姑問題はたぶん女の根源的な問題ですよー。嫁にも姑にもなったことないけど。
ちょっと向こうで、学舎に向かっていた在校生たちが、
「わ、私はまだ婚約していない」
片眼鏡を外して
「卒業してから検討することになっている。
婚約してないのかー。とりあえずほっとしたわ。
そして片眼鏡を外したお兄様、さらにかわいいわ。
「わたくし、お嫁に行くのはお兄様のお幸せを見届けてからにしとうございますわ」
「それではお
「まあ素敵! わたくしそれが一番幸せですわ」
だってお兄様はイチ
「子供だな、お前は」
「もう少し大人になって、好きな相手ができたら言いなさい。お前を幸せにできる男であれば、望みの通りにしてあげよう」
ありがとう、お兄様。
実はあなたより十一歳も年上のアラサー成分入っててごめんなさい。
いつかあなたの過労死フラグを折るためにも、
アレクセイと別れ、エカテリーナは新入生の学舎へ急ぐ。
すっかり
それを追って小走りになったところで、一人の後ろ姿に目が吸い寄せられた。
ふんわりしたセミロングの
──
遠目の後ろ姿だけでは
それも当然。だって、あれは、自分。
制服が似合うのも当然。これは、あのキャラに合わせてデザインされたものだから。
コマンド入れてないのに、なんで歩いていくの?
(
自分って、誰だっけ。
カクン、と足の力が
(しまった、ロックかかった──)
「エカテリーナ!」
遠くでアレクセイの声が聞こえた気がしたが。
そのまま、ブラックアウトした。