第三章 『反天会』4-2

「……こんな、明らかに人里離れた場所に教会があるなんて思わなかったな」

 さすがに驚いた様子のエイネに、答えるようワーツが頷く。

「ですが、これは……全天教の教会とは、どうやら違うようですね」

「場所だけ見てもそうだし、入口の紋章で決定的だね。ぼうせい。星の紋章……」

「──反天会ラマルヴォル……! こんなところに、信仰のための教会を建てているとは思いませんでした」

 白い建物。森の木々に囲まれていることを抜きにしても、どこかせいひつで、神聖さを纏うたたずまいだ。一見して教会とわかる造りそのものは、全天教のそれと変わりがない。

 ただ、明らかにところどころ朽ちていることが見て取れた。

 使われなくなって久しい、はいきよとしての存在感。歩けば床が抜けるかもわからない。

「誰か、隠れているでしょうか?」

 訊ねたワーツに、少しの間があってからエイネが答える。

「……ごめん、ワーツさん。わからない」

「わからない……ですか?」

「ワーツさんも《灯視トーチ》を使ってみればわかる。下のほう──たぶん地下室。結構な数の命火が見える。だけど……なんだろう? 違和感がある」

「これ、は……!?」

 告げられたワーツが、おのが命火をひとみに灯す。《灯視》──命火をその目に捉える術。

 それが壁や地面を貫通して、教会の下部に揺らめく無色の命火を映し出した。

「……なん、だ、いったい……人、間……? ですが、これは……」

 気配としては人間のもの。

 だが命火に色がない。人間ならば、それはあり得ないはずだった。

「わからない。だけど嫌な予感がする。やっぱり、早く来て正解だったみたい」

「……入られますか、エイネ様?」

 ここに及んで、ワーツも神子に従う者としての態度を選んだ。

 エイネも何も言わない。しばらく考え込んだエイネに、そこでワーツが言う。

「おそらく、ではありますが。下にいるのは、人間だと思います」

「……ワーツさん?」

「正確には人間であったモノと表現するべきかもしれません。聖下、御身の安全を第一に考えるのであれば、ここは引くべきかと存じます」

「──まさか」

 エイネより早く事態の真相を察したワーツ。そして、その言葉でエイネも理解する。

 この場所の地下で行われていた、あまりにも非道な実験について。

 だからこそ、説得のつもりでワーツは言った。

 いや、そのためにあえて下の身分として礼を執ったと言ってもいいだろう。

「……無論、我々が引き返すとなれば、再び戻ってくるまでの間に証拠が全て隠滅されてしまう可能性はいなめません。いえ、おそらくそうなるでしょう」

「……ワーツさん」

「ですが、御身の安全とはかりにかけられることではありません。カタイスト聖下、非才の身ながら、あえての具申をお許しください」

「…………」

「ここは、──もう終わっています」

 その発言こそが、ワーツなりの誠意だったと言っていい。

 ふたりが遭遇した事態については、ここに訪れるまでに彼も聞いてあった。だからこそ案内することを選んだのだが、結果を言えば遅すぎた。

 この場所はもうとっくに終わり尽くしている。あるのは死だけでそれ以外はない。

 ただワーツは別段、エイネの身を案じて言っているわけではない。

 というより、そんなことは考慮に入れていなかった。自分ならばともかく、神子であるエイネは、強力な命数術師が束になる程度ではまるで及ばない。

 ゆえに彼がこのときおもんばかったのは、エイネの心のほうなのだ。

 ──結果としては、それが正反対の結果しか生み出さない配慮だったとしても。優しい研究者の配慮に、このときエイネは確かな感謝を覚えていた。

「ありがとう、ワーツさん。──心が決まった、私はこの先に行くよ」

「……聖下、ですが!」

「ごめん、だけどダメだよ。これは見過ごしていいことじゃない」

 あえて真相を告げたワーツ。

 だが、エイネを相手にそれは下策だ。だからこそ行く、と彼女は言う。この場にラミがいなかったことが、その運命を選ばせた要因だったかもしれない。

 そして、こうなってはもう、ワーツに言えることはない。

「……お供致します」

「ごめんね、ワーツさん。貴方にも、見たくないものを見せることになる」

「いえ」

「じゃ、代わりに言わせて。──ありがとう、って。行こう」

 頷いて、ふたりは扉を押し開いた。

 両開きのそれが、重厚な音とほこりを立てながら開いていく。それなりに重たかった。

 内部は薄暗い。割れているものも含めて窓は多いが、周囲の木々が陰を作っているせいだろう、扉から入る光に少しずつ照らされていく様子が見て取れた。

 礼拝堂だ。飾り気はなく、移動できる内装はすでに取り払われたあとか、あるいは初めから持ち込まれていなかったと思われた。椅子も、しよくだいも、祈りをささぐべき対象もない。

 深緋色に輝くエイネの片目が、ほんの一瞬で地下への入口を発見した。

「いちばん奥、だね。隠されてるけど階段があった」

「……ボクが先に──」

「大丈夫。私が先に歩くよ。ワーツさんは、念のため後ろだけ警戒していて」

 ふたりは連れ立って、そのまま地下へと歩いていく。

 ──教会の地下は研究施設だった。

 あるいは研究施設の地上を教会としたと見るべきかもしれないが、重要なのはこの地が反天会の勢力下にあること、そして行われていた研究の内容そのものだろう。

 地下にあったものは片獣だ。

 いた、と表現することがはばかられるのは、それらが全て瓶詰めにされているから。大型のガラスケースらしきものが、壁際に整然と並べられている。どれも大人ひとりがちょうど収まるようなサイズで、また全てが透明の液体に満たされている。

 片獣もその中に、丁寧に仕舞い込まれていた。

 生きている。

 液体の中で命が燃えている。今にも消えてしまいそうなほど、か細い命火として。

「──うっ、あ──、っ」

 エイネの背後で、ワーツがくちもとを押さえてうずくまった。

 彼は片獣研究の専門家だ。ゆえにその光景の意味を一瞬で悟ったのだろう。

 否。この光景の意味はエイネでもわかる。

 少しでも命数術をかじった者ならば、誰だってひと目で理解できる。してしまう。

 ──その全てが、かつて人間だったものだということくらい。

 二足の片獣。種類は少ないが、それ自体は珍しいというほどではない。だがこれらは、そういった自然発生の片獣とは明らかに一線を画している。──生身を持っている。

 命火の塊ではない。

 生命が──元は人間だったモノが、カタチを歪められて片獣になっていた。

「……っ」

 エイネの口の端から、わずかに赤の色が流れ出す。

 鮮やかなそれは、けれど命火の色ではない。無意識のうちに、唇の端をみ切っていたせいだ。想像することさえおぞましい、非人道的実験の成果であることは明白だった。

 命をそのまま別のカタチへ、醜悪なバケモノへと組み替える、およそヒトというものの尊厳を無視した人体実験場。そのなれの果て。

 神子たる少女には、到底受け入れられる光景ではない。

「人間を……片獣へと造り替えているんだね」

「…………っ」

 エイネの問いに、ワーツは答えられなかった。

 地上にいる段階から想像できていた。それでも現実に受け止めると心が揺らぐ。

 ──爆音が、した。

 それにワーツが顔を上げれば、部屋の端、壁の一部が黒く焦げている。揺らぐ煙は埃が舞っているだけではない。エイネが、その手から命火を飛ばしたのだ。

 彼女にはひどく珍しい、怒りに任せた八つ当たり。

 それでも、もろい壁さえ壊さないほどの威力に抑えられているだけ理性的か。

「……、……どう、しますか」

 それだけを、なんとかワーツは言い切る。ほとんど気力だ。

 ──やはり神子に見せる光景ではなかったのだ。

 世界を救う者。惑星ひとつを担う者。

 聖人たる神の子の存在意義を、これは真っ向から否定する光景である。神子にどれほど影響を与えるかなど、ワーツには想像さえ及ばない。

 己が天命の全否定を前に、それでもエイネは静かに呟く。

「ごめん。でもこれで冷静になった」

「……いえ」

「だから教えてほしい、ワーツさん。どうすれば……どうすれば、いい?」

 彼女の問いの意味するところは、ワーツも想像がつく。だが応えることはできない。

「さきほども申し上げた通りです」

「…………」

「こうなってはもう、ヒトに戻すのは不可能です。いえ、もうヒトではない」

「……そっか。ワーツさんでも……無理か」

 片獣とは自然発生する災害かいぶつだ。

 間違っても人間を素材に創られるモノではない。

 だが目の前のそれは、異形に成り果てながらヒトの要素を残している。人間と呼ぶべき命数そんざいであった頃の名残が散見された。肉体を持ちながら、けれど片獣の要素を持つ。

 明らかに、人間そのものを直接に改造することで成立していた。

 発想も異常なら手法も不明。よって正確に言うなら、元に戻せないのではなく、ワーツには元に戻す方法がわからない、というほうが確かではあろう。

 だが。およそワーツより片獣に詳しい人間がいない以上、彼にわからなければ、ほかの誰にもわからないと断言してしまっていいことだ。それこそ事態の下手人を除いては。

 そもそも目の前の存在に、まだヒトとしての意識が残っているのだろうか。

 残っていなければ絶対に戻せない。

 けれど残っているのなら──そのほうがむしろ救いがない。

「……彼らを星にかえして差し上げるのが、せめてもの情けかと……思います」

 だからワーツは言った。

 星に還る、とは神子が亡くなったことを示す表現。だがこの場合、使用しても問題ないだろう。意味合い的には同じなのだ。

「ボクも……命数術師です。だから──」

「ううん」その言葉を途中で遮って、エイネは小さく言った。「私にやらせて。せめて、このくらいは……やらないとどうしても気が済まない」

「……わかりました」

 神子様に送られるほうが彼らも救われましょう、と言おうとして、ワーツはやめた。

 なんの慰めにもならない、ただ上滑りするだけの言葉だと思ったからだ。

 エイネは、静かに両手を重ね、正面へと伸ばした。

 せめて安らかに。

 そんな祈りを捧げるよう、ひと息にその深緋の命火で施設を燃やし尽くそうとして。


「──壊してしまわれるのですか? それは、もったいないというものです」


 気配などなかった。

 命数術師が、命火いのちの気配に気づかないはずがない。

 にもかかわらず、彼女はこうして当たり前のように立っている。

 部屋の隅。エイネもワーツも視線さえ向けていなかった意識の間隙に、まるで初めからいたと言わんばかりに当然の様子で、ひとりの女性がたおやかに微笑んでいる。

「あな、たは──」

 自然と、気づけばワーツはそう問いかけていた。

 この状況で現れた者に対する当然の警戒を、どこかへ落としてしまったかのように。

 そして──それが致命的だった。

「ワーツさん、下がって! そいつ……おかしい!」

 エイネは咄嗟に叫んだ。

 叫ぶことができた。

 それは不自然すぎるほどの自然体で微笑む女性が、あり得ざる異常であるという理性の認識が間に合ったからだ。

 このふたりの命運が決定的に分かれたのは、おそらくその刹那。

 感覚ではなく思考によって、目の前のそれが脅威であることをエイネは悟る。

 神子らしからざる追い詰められた瞳を、この場においてその女性だけが嫋やかな微笑で見つめていた。

 余裕の立ち姿。神子であるエイネを前にしての、その態度が何より不吉のあかしだ。

「────」

 ワーツもまた同様に口を閉ざし、じろぎしなくなった。わずかにうつむいたような状態で、その場にほとんど棒立ちだ。

「……ワーツさん?」

 違和感を悟り、訊ねたエイネ。

 それが最期だった。

 ワーツが、その場にぱったりと倒れ込んだのだ。

 見た瞬間に──エイネは事態を理解する。その命火がもはや燃えていないことを知る。

 ──ワーツ=フゥシィは死んでいた。

 あつなく。なんの物語もなく、地をう虫や小動物のように──当たり前に。

 人間は死ぬ。

 そして謎の女性は、まるでその事実を教授しにきたとでもばかりに微笑んでいた。

「さすが、神子と言うべきでしょうか。私が言うのもおかしな話ですけれど」

 なぜワーツが死んだのか──否、誰が殺したのかなど言うまでもない。

「……何を、した。誰だ」

 エイネは心底からの後悔を抱えながら問う。

 守れなかった。どうして殺されてしまったのかさえ、あらゆる意味でわからない。

「いえ、別に名乗るほどの者では。単なる通りすがりですとも」

 エイネ的には充分に挑発と判断していい名乗り。攻撃に移ってもいいほどの。

 かといって安易には動けない。

 目の前の女性は、その長い金髪を軽くかき上げて再び微笑んだ。本来なら美貌を誇っていたはずのかんばせも、まるで熱を感じない瞳も、全てがありふれたものに映る。

 長い旅に疲れ切った女性。外見の印象としてはそんなところだろうか。明らかに常識と隔絶した印象を与える者でありながら、彼女の容貌は本当にどこにでもいそうなもの。

貴女あなたは……?」

 再び言葉を発しようと、エイネは口を開く。

 だがそれは、最後までは続かなかった。


 ──倒れ伏すワーツの死体が、突如として爆発したからだ。


 死者の尊厳を踏みにじる行為。

 だがエイネには、少なくとも今ここで、その女性が何かをしたようには見えなかった。いくらなんでもそれに気づけないとは思えない。

 本当に、ワーツの遺体がひとりでにぜたように見えたのだ。

「……ああ、ダメですか。ではやはり彼ではなく、外にいたほうが貴女の騎士ですよね」

「ラミにまで、──何かをしたのかな?」

 危ういところでなんとか均衡を保っていたエイネの精神が、このとき決壊した。

 いや違う。正確には、返答次第でその均衡を自ら壊すとエイネが決めた。

 さすがに本気になったエイネを相手取るのは、その女性も避けたいと思ったのだろう。あるいはそれとも、ただ事実を口にしているだけだったのか。

「別に何も。むしろ私の部下をとらわれましたよ。仕方なく、口封じに殺しておきましたが、それは私の部下のほう。騎士様のほうには見つからないよう、逃げてきましたとも」

「……いずれにせよ。誰だか知らないけど、貴女は私の敵なんだよね?」

「誰だか知らない、とは失礼な話ですね。一応これでも──」

 嫌な予感なら感じ取っていた。

 それは別段、神子としての直感の類いではない。誰でも察する類いのもの。

 エイネがその攻撃を回避できたのは、そんな、偶然ですらない要因によるものだった。

 突然、足元から火柱が立ち昇ってきた。

 うすだいだいに近いそれ。攻撃としては単純な術で、また安易な方法だ。エイネなら、おそらくそれが完全なる不意打ちだったとしても対処できただろう。

 自身の命火で、その攻撃を相殺する。それと同時、背後へと跳躍して距離を取った。

「──私は貴女の先輩ですよ? 口の利き方がなっていないのでは」

「先輩……ね」小さくエイネは頷き、納得して。「なるほど。それが本当ならおかしな話だけど、なんにせよ貴女の行動は神子として見過ごせない。目的を吐いてもらうよ」

 エイネにとって予想外だったのは、女性が本当に自供を始めたことか。

「本来は後始末ですね。廃棄した場所ですが、まだ使える素材は残っていますので。その再利用、とでも言えばいいでしょうか。初めは、だからそれだけのつもりだったんです」

「……あ、そう。今は違うと?」

「ええ。持ち帰るのはやめにして、今ここで全てを使ってしまうことにします」

 ほんの一瞬。

 間があってから、エイネは重ねて訊ねた。

「答えてくれるなら訊こうかな」

「察しているから答えるのです」

「ここにいる片獣──そのもどきは、もともとは人間だったんだよね?」

「いいえ。彼らはなり損ない。つまり、今も間違いなく人間です。差別はいけませんよ」

「だからここを廃棄したと?」

「いいえ。そんなもったいないこと、私にはとてもとても」

「だから貴女は戻ってきた?」

「いいえ。戻ってきたのではありません。ここへ来るのは初めてです。私の管轄ではありませんから。いらないのなら、勝手に使ってしまおうと思っているだけ。秘密ですよ?」

「再利用するって言ったね。この施設を、ということかな?」

「いいえ。まさか。再利用するのは彼らです。命数いのちは、とても大事なものですから。資源として活用しない手はありません」

「そうなんだ。それで? 私を殺そうってことかな?」

「いいえ。確かにそれも目的のひとつですが、今回はもっと大物を狙おうかと。柔軟に」

「逃げるのかな? 私を見て気が変わっちゃった? 今、結構、相手してもいいかなって気分なんだけど、構ってはもらえないのかな」

「いいえ。貴女ごときもはやどうでもいいということですよ。ただ、今、きっと、この事態には意味がある。ええ、ええ。こんな機会、滅多にないんですからね──」

 女性は言う。

 静かに、語り聞かせるように。

「──せっかくです。貴女とは少し、話をしておくのもいいかと思いまして」

 まずいな、とエイネは脳裏で考えていた。

 たまたま訪れただけのこちらと、明らかに目的があって現れた相手とでは、持っている情報量が違いすぎる。こちらが安易な行動を選ぶことが、相手にとって利になる可能性も考えられるということだ。

 下手に動けない。ならば実際、言葉を交わしておくことには意味があるはずだ。

「話、ね……その割には、いきなり私を攻撃してきたけど」

「いいえ。一撃目は、邪魔をされないようにしましたが、そちらの男性だけにしか当たりませんでしたから、もう知りません。二度目の火柱は……あれは呼び火というものです」

「誰かをここに、呼んだと?」

「いいえ。お答えせずとも、どうせもうすぐ知ることになりましょう。できれば、貴女もまた使徒との敵対を選んでほしい。それなら──殺さなくても済むようになる」

「……使徒だって?」

「ええ」と、女性は美しい笑みで頷いた。「そう、使徒です。神子が、天命を果たすことで至る可能性。人間性を失い、ただあるがままの機構として神の使者と成り果てたモノ」

 金髪の女性は、こうこつと陶酔を表情に浮かべる。

 決定的に変質した笑みの色は、もはや見るエイネにおじさえ感じさせるほどだった。

「貴女ももうすぐ知るコトになるでしょう」

「何を」

「この惑星せかい真実システムを。神子に果たすべき天命などなく、教会の教えは全てがまんであり、貴女の夢はかなうことがないと。──我々は、ただいけにえに選ばれた羊に過ぎないのだと」

「……それは、神子のことを言っているのかな?」

「最初からそう言っているでしょう。貴女はもしかして頭が悪いのですか?」

「あ、そう……」

 それがもし事実だとするなら、確かにエイネの旅は茶番だろう。

 それでもエイネは、問いをやめることはしなかった。

「最後に、もうひとつだけ訊いていいかな?」

「どうぞご自由に。先達として、後輩の疑問にはお答えしましょう」

 相手がここで笑うなら。

 自分も、そこに笑みを返してやろうと。


「──さっきから、私にケンカ売ってやがるよね?」


 女性が答えるよりも早く。

 次の瞬間、──全てが炎に包まれた。

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