第8話 三角瑛一とインフレバトル

【三角瑛一とインフレバトル】


 平凡な日常を愛する平凡な主人公とやらには、イマイチ共感できたためしがない。

 なぜなら、ボクは「平凡な日常」というものの中に身を置いた経験がないからだ。

 三年前、ボクは気がついたらゲームセンターでパズルゲームをやっていた。

 ……それ以前の、自らにまつわる記憶が一切ない状態で、だ。

 財布やケータイ、身分証は持っておらず、代わりに内側の胸ポケットにはき身の小型拳銃が雑に突っ込まれている有様。

 ……人生初っぱなから「平凡」とはまるで対極の状況だった。

 トイレの鏡で確認したところ、自分の顔立ちや体格は中学生ぐらいに見えたものの、実際のところ正確な年齢さえ分からなかった。着用していた制服は学生服というよりは軍服を思わせるそれで、グリフォンのシルエットが描かれた腕章には『E.G.G』と組織名らしきものが記されている始末。

 途方に暮れてアテもなく街を彷徨さまよえば、路地裏で黒服の男達に襲われている少女に出逢い、流れでそれを助けることに。そうして、わけも分からぬまま一悶着ひともんちやくあった末にようやく辿り着いたのが彼女――理姫りきの実家であるところの豪邸、三角家だった。

 そこで事情を打ち明けた結果、義理堅い当主の計らいもあり幸運にもボクはそのまま三角家に養子として迎え入れて貰え、こうして今のボク――「三角瑛一」となるわけだが。

 こうして手に入れた衣食住の満たされた生活も、しかし決して穏やかとは言い難く。

 義妹の理姫を狙う謎の組織が度々接触してくるわ、その組織にボクの過去との関連が見え隠れするわ、三角家の経営する製薬会社には表沙汰にできない秘密がありそうだわ、学校で女の子と喋ると義妹が妙に怒るわ、ボクが元々着ていた制服と全く同じ制服を着た刺客達の襲撃には遭うわ……。

 最近だと、音吹高校随一の美少女、天道花憐さんに声をかけられ、なんだかんだでゲーム部に入ってしまったりもした(義妹にはふくれっ面をされた)。

 まあとにかくボク、三角瑛一の人生に「平凡で退屈な日常」とやらは皆無だった。

 結果、そもそも「平凡」というものの価値が分からないから、漫画や小説の作中で主人公がそれらを大事に思うだなんて描写がなされても、今一つピンと来ない。ボクにとってはこの「常に状況が動き続ける環境」こそが「日常」であり、だからこそ創作物の中で描かれる「平凡な日常」とやらは、ただただ嘘臭く平坦でつまらない蛇足描写にしか思えない。実際、物語の面白い箇所って、話が激しく動いている部分でしょう?

 だから、そんなボクが、これから語る物語は。

 ちまたに溢れる典型的なライトノベル設定で、大変恐縮なことだけど。

 なんだかんだで、結局のところ。

 非日常を欲する特別な主人公が、美少女に声をかけられるところから始まった、実に例外的で、驚く程に共感のしようもない――

 ――ゲームの、物語なのである。



「TVGT地方予選……ですか?」

「そう!」

 ゲーム部の部室に顔を出すなり、部長の天道花憐さんが相変わらず綺麗きれいな顔に自信を漲みなぎらせながら提案してきた。

 加瀬先輩がFPS、大磯先輩が格ゲーに各々おのおの黙々といそしみ、一年生の二名は今日もサボリという相変わらずバラついたゲーム部風景の中で、天道さんがボクに向けてなにやらプリントを差し出してくる。ボクがそれの概要に目を通し始めると、天道さんが前のめりでまくしたててきた。

「トータルビデオゲームトーナメント、略してTVGT。急だけど次の土曜日、それの地方予選に、三角君も出ませんかっていうお誘いです。勿論もちろん、私と一緒に」

「はい、それは構いませんが……」

 言いながらちらりと先輩方を見る。ボクらがゲーム大会の話をしているというのに、妙に反応が薄い。天道さんが苦笑いを浮かべた。

「その二人は……というか、私達以外のゲーム部員は出ないわよ」

「え、そうなんですか? またどうして」

「プリント見て貰えれば分かると思うけど、この大会の最大の特徴は《総合テレビゲーム大会》であること……つまり、オールジャンルの腕を競い合う大会なのよ。具体的に言えば、対戦のお題ソフトが試合の直前にランダムで決まる形式が採用された大会なの」

「へぇー。なんだかお祭り感覚で楽しそうですね」

「でしょ? 私もそう思って毎年出ているんだけど、うちの他の部員達はほら……」

「ああ……なるほど」

 ボクは天道さんの言わんとしていることを察してうなずく。ゲーム部の部員達は、ボクと天道さん以外基本「特化型」の人々だ。FPSだけ、格ゲーだけみたいな特定ジャンルにひどく偏った興味・才能を持つ人間ばかり。

 当然、《総合テレビゲーム大会》に出場する理由はない。……今思えば、だからこそ天道さんは以前、ボクや雨野君のような「ゲーマーとして成熟しきっていない」人材に目をつけたのかもしれない。

 ボクはプリントをザッと眺めて詳しい要項を確認した後、天道さんに笑顔を向けた。

「分かりました。じゃあ、お言葉に甘えて一緒に出場させて頂きますね。まあボクはゲーム初心者なので、すぐ敗退してしまうと思いますが……」

 その返事に、天道さんは黄金色の髪をなびかせて微笑む。

「そう、良かった! じゃあこちらで申し込みしておくわね。お互い頑張りましょう」

「はい。よろしくお願いします」

 説明を終えた天道さんが自分の席に着く中、ボクは再びプリントに目を落とした。

「(大会か。いつもの部活動より断然テンション上がるよなぁ、こういうイベント事は。……やっぱりボクには、『平凡な日常』の価値なんて、今一つ分からないや)」

 新たな出逢いや激戦の予感に、思わず胸躍らせて微笑むボク。

 ――しかしそんなボクの期待をもあっさりと上回る程の波乱が、このゲーム大会には待ち受けていたのであった。



 ゲームの何が楽しいって、現実と違ってちゃんと「応えて」くれることだとボクは思う。

 一部の理不尽なクソゲーや運ゲーは違うのかもしれないけれど、ゲームは基本、全てがちゃんとルールにのつとって進む。プレイヤーがボタンを押せばキャラが応じ、HPがゼロになればゲームオーバーになり、ラスボスを倒せばエンディングが流れる。

 この、「ルールに縛られた世界」こそが、今のボクには非常に居心地が良かった。

 少なくとも、

〈義妹を誘拐しようとした犯人を知略で追い詰めていたら、突如なんの脈絡もなく登場してきた銀髪巫女霊能者の介入を受けて、まんまと敵に逃げられる〉

 みたいなトンデモ理不尽イベントがまかり通る現実世界より、良質なゲームの世界の方がよっぽど信用できる。

 そんな世界で、ただただ純粋に、人死にや怪我人を出さずに他人と「勝負」ができるというのは……本当に素晴らしいことだ。

「……今日はいよいよ大会かぁ」

 土曜日の朝。いつものように家族での朝食を取り終えた後、ボクは食堂でコーヒーをすすりながらゲームに思いを馳せていた。――と、気付けばいつもは早々に食事を済ませて出ていくはずの義妹の理姫が未だに残っている。

 ボクの対面席でムスッと頬杖をつく、人形細工のように華奢きやしやで繊細な少女。

 とりあえず、ボクは当たり障りのない笑みで話しかけた。

「どうかしたのかい? なんだかとても不機嫌そうだど」

「……べぇっつにぃ。エーイチが休日に、あの、うちの女子校にまで噂が届くぐらい有名な美人さんの天道花憐と一緒に出かける予定があったとしても、リキには全然カンケーないですしぃ」

 ぷっくーっとふくれっ面をしながらそんなことをのたまう理姫。……この子は普段良家のお嬢様として気品ある振る舞いをする割には、どうも時折ボク相手に物凄く子供っぽい態度をとることがある。正直困りものだけれど、これは、いよいよ兄として心を開いて貰っている証かもしれないなと考えると……まあ、少し嬉しくもあるかな。

 思わずくすくすと笑っていると、理姫が更に不機嫌そうに口をとがらせた。

「そ、そんなに天道さんとお出かけするのが、楽しみなのかしら?」

「え? ああ、うん、まあね。実際今日のことは凄く楽しみにしていたよ、ボク」

 なにせ、体験入部のあの時以来、初心者のボクは各種ゲームの操作を学ぶことに手一杯で、ガッツリ他人と「対戦」させて貰える機会がほとんどなかったものだから。そりゃワクワク感もひとしおだ。

「(実際、ホントに楽しかったからなぁ、あの時の対戦。天道さんや加瀬先輩、大磯先輩、それに雨野君とで……)」

 楽しい回想に、思わず表情がほころぶ。そんなボクを見て何を思ったのか、理姫はえらく不快そうにテーブルへと手をついて立ち上がった。

「ごちそうさまっ!」

「あ、理姫、キミもお出かけするのなら、例の組織には充分気をつけ――」

「っ、え、エーイチには関係ないことです! どうぞ、いってらっしゃいませ!」

「あ、う、うん。理姫も、いってらっし――」

 ボクが声をかけ終わる前に、理姫はずんずんと足音をたてて歩き、食堂を出て行ってしまった。……うーん、なんだろう。もしかしたら、今日はボクに荷物持ちでもさせたかったのかな? 生粋のお嬢様気質だからな、理姫は。まあ、どうせすぐに機嫌直すだろう。

「……よしっ」

 ボクはカップに残ったコーヒーを飲み干すと、気合いを入れて出陣することにした。

 TVGT地方予選は、地元で一番大きなゲームセンターを貸し切って行われていた。

 天道さんと直接現地で待ち合わせてエントリーを済ませ、登録名と番号が記されたネームプレートを渡された後は、試合開始までの時間を二人でボンヤリと壁に背を預けて過ごす。……が。

「……今更ですけど、天道さんって、校外に出ても……というか校外の方がむしろ、注目凄いですね」

 合流してからこの方ずっと自分達へと向けて注がれる視線に、ボクは思わずたじろぐ。

 しかし天道さんはと言えば慣れた様子で、実に堂々としたものだった。

「そう? 三角君、あんまり気になるようだったら離れていてくれて構わないけれど」

「あ、いえ、ボクは割と視線慣れしている方なんですけど……」

 この三年、街中でトラブルに巻き込まれることも少なくなかったから、注目への耐性はあるつもりだ。……しかしそれにしたって、天道さんへのそれは規格外すぎる。

 ボクが妙に感心して群衆を眺めていると、突然、天道さんがなにやら酷く楽しそうにクスクスと笑い出した。

「? どうかしましたか?」

「え? ああ、いえ、なんでもないのよ。ただ、視線に慣れてるだの慣れてないだのの話で、雨野君のこと思い出しちゃって」

「ああ、確かに彼はこういうの苦手なタイプっぽいですね」

 共通の知人に関する軽い世間話のノリで相槌を打ったボクに対し、なぜか天道さんは唐突に前のめりになって喋り出した。

「そうっ、そうなの! 私が近付くと彼、すぐ顔真っ赤になっちゃって。なんだかこっちが照れちゃうっていうか。……ふふっ」

「?」

 隣で本当に楽しそうに笑う天道さんを見て、ボクはキョトンと目をしばたたかせる。

「(め、珍しいな、この人がこんな風に笑うの。……物腰こそ柔らかいけど、基本、あんまり隙のない人だと思っていたのだけれど……)」

 こんな天道さんは、ゲーム部でも見たことがなかった。……ボク的には、今の雨野君の話、正直そんなに笑い所があったようには思えないというか……むしろ、なんか雨野君可哀想だなぁとしか思わなかったけど……。

 イマイチ天道さんと一緒に雨野君のことを笑う気にもなれず、ボクは話題を変えた。

「それにしても、意外と参加者多いんですね、予選。この辺、都会でもないのに」

「そうね。まあ予選段階だと特にお祭り的側面の強い大会だから、敷居が低いんでしょうね。三角君だって、これが……たとえば本格的な格闘ゲームの大会とかだったら、ちょっと出場躊躇ためらったでしょう?」

「確かに」

「TVGTはね、実際ゲームのそれとしては異例なぐらい門戸の大きく開かれた、一般参加者の多い大会なのよ。……でもだからこそ、私はそこに《真の猛者》が紛れているんじゃないかって思っているんだけれどね」

「真の猛者ですか……」

 ゲームにおける猛者というのがイマイチイメージできず首を傾げていると、天道さんが「たとえば……ほら、白い帽子被った彼」と、店内の片隅を見やった。

「彼なんかも、その筋じゃ有名なプレイヤーの一人よ。見て、あの眼光」

「な……」

 ボクは思わず絶句した。というのも、白い帽子を被った大学生ぐらいとおぼしき、ソバカスが特徴的な彼ときたら……。

「今時珍しい脱衣麻雀の椅子に、堂々と足組んで座っているだってえッッッ!?」

 驚愕するボクに、天道さんが神妙な顔つきで語る。

「……恐ろしいでしょう。見てあの自信に満ちたドヤ顔。親子連れ参加者達の軽蔑けいべつ視線もお構いなし。この混雑した店内で、なぜあの辺りにだけ人が寄りついていなかったのかなんか、全く考えもしてない顔よ、アレは」

「ごくり……。た、確かに猛者です……完全にゲームだけを見据えた猛者です……」

 ゲーマーとは、かくも恐ろしき修羅の道に足を踏み入れた者達のことを言うらしい。

 ボクが色々な意味で震え上がっていると、キィンという軽いハウリング音の後、大会のアナウンスがセンター内に流れ始めた。

 お決まりの挨拶や注意事項などが一通り語られた後、いよいよ、トーナメントの組み合わせが発表される。店内数カ所に設置されたモニタに、3ブロック程に分かれたトーナメント表が順次公開されていった。

 自分の番号と登録名を見逃さないよう各々確認していると、Aブロックのトーナメント表示中に天道さんが声をあげる。

「あったわ。私の対戦お題は……パズルゲームね。で、肝心の相手は……うん、特に有名プレイヤーとかではないみたい。残念」

「とりあえず、ボクは予選じゃ天道さんと当たらずに済みそうで安心しました」

 この予選は、ABCそれぞれのブロックで勝ち残った一名……計三名が、上位大会への出場権を得られる仕組みだから、ブロックが別れた相手とは、今回戦うことはない。

 天道さんが「あら残念」と悪戯いたずらっぽく告げる中、Bブロックの発表が始まる。

 ドキドキしながら見守っていると……その中に、遂に、自分の番号を見つけた。

「お題は……て、テニスゲーム? うわぁ、まだボクが触れてないジャンルですよ」

 漂う初戦敗退濃厚ムードに、軽く落ち込むボク。天道さんが、慌てた様子でフォローを始める。

「で、でもほら、対戦相手だってテニスゲームが不得意な人かも――。…………」

「? 天道さん? どうかされました?」

 彼女の言葉が突然止まったのを見て、ボクは自分の対戦相手を確認する。

「四十三番の……えっと、エチゼンさん? えと、知っている人かなんかですか?」

 ボクの質問に、天道さんは、黙ったままでくいっと視線を店内片隅にやる。と、そこにいたのは……。

「……えと……さっきの脱衣麻雀さんがどうかして――って、あ、もしかして……」

 ボクが軽く察する中、天道さんは珍しく額に冷や汗をにじませつつこくりと頷き……。

 そうして、しばしの沈黙の後、これ以上ないほど深刻な表情で、その一言を告げてきた。

「彼が、貴方あなたの対戦相手、エチゼンよ。やたら上から目線で相手をあおるプレイスタイルについた二つ名は《テニスのコーチ様》。つまり……一流のテニスゲームプレイヤーよ」

「…………」

 ボクが絶句する中、ボクのネームプレートを見たエチゼンが、ニヤリと微笑む。

 そうして彼は脱衣麻雀の椅子に座りながらも――動揺しきったボクの方を見つめて、ソバカス混じりの顔に渾身こんしんのドヤ感を滲ませつつつぶやいてきたのだった。

「まだまだだね」



 四ゲーム先取の一セットマッチで行われたテニスゲームによる試合は、当初は大方の予想通りエチゼンの圧倒的優位で始まった。

 第一ゲーム。全くすべなくストレートで負けたボクに、エチゼンが微笑む。

「You still have lots more to work on……(まだまだだね)」

「は、はあ、そうですか……(なんだって?)」

 恐らく本人は爽やかでクールだと思っているんだろうなぁという笑顔とともに何か言われたものの、よく聞き取れなかったので曖昧に応じておいた。

 第二ゲーム。ようやくテニスゲームの操作こそ覚えたものの、結局はまたもストレートで負けたボクに対し、エチゼンがまた一言。

「オレは上に行くよ」

「は、はあ、そうですか……(大会だから、そりゃ勝ったら上に行くんじゃ……)」

 どうもこの人は驚く程マイペースな人らしい。まるで定型文しか喋らないゲームキャラそのものだ。

「(まさかゲーマーって、極め過ぎると皆こういう末路を辿るとかいうんじゃ――)」

 などと考えていると、脇で天道さんがぶるんぶるん首を横に振って全力否定していた。……こんなに必死な天道さんの顔をボクは初めて見た。

 第三ゲーム。ボクの技術向上とエチゼンの慢心から来るミスがいいタイミングで重なった結果、ボクはどうにかこうにか一ポイント奪取に成功するも、結局は敗北。が……。

「俺にもテニス、教えてくんない?」

「…………えーと(こんな嫌味言われる筋合いないはずだけど。それに……)」

 定型文っぽい言い回しは相変わらずだけど、彼からドヤ顔が消えていた。

 そうして迎えた、第四ゲーム。

「……ふ、ふ~ん、やや、やるじゃない……」

「…………」

 声が震えていつもの定型文もままならない彼を、ちらっと一瞥いちべつしたのみでボクはゲーム画面に視線を落とす。……というのも、ただただ、忘れたくなかったからだ。

 ――遂に彼から一ゲームを奪った、この、感覚を。

 流れの変化を受け、周囲がにわかにざわつき始める中行われた、第五ゲーム。

 その試合結果は……。

「…………」

「…………」

 エチゼンがゲーム後の台詞せりふを忘れ、ボクもまた冷徹な視線でただただ次のゲームを待ちわびるように画面を見つめる中……対称的に観戦者達のボルテージは高まっていく。

「お、おい、あいつエチゼンから二ゲーム取ったぞ!」

「偶然じゃ……ないってのか? 嘘だろ? 第一ゲームじゃ完全に素人だったのに……」

 今や有名プレイヤーのエチゼンよりも、そのエチゼンから二ゲーム取った無名のプレイヤー、ミスミへと注目は傾き始めていた。

 そうしてエチゼンが歯噛はがみし、必死の形相で挑んだ第六ゲーム。

「俺は……アンタを倒して全国へ行く!」

 そんな試合中の彼の叫びも虚しく、ボクはまたもエチゼンに勝利した。……今度は、彼にたった一ポイントしか取らせないという、完全にプレイスキルで上回ったカタチで、だ。

『…………』

 最早もはやその場の誰もが、息を呑むことしかできていなかった。熱狂の時間はとうに過ぎ去り、今や、重苦しい、期待と畏怖がないまぜになった異様な空気だけが立ちこめる。

 そしていよいよ勝負の決まる……第七ゲーム。

「……強くなりたい。もっと……もっとぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!」

「…………」

 エチゼンが最早殆ど崩れがちな定型文を、キャラ作りも忘れて繰り出すも、しかし――

「…………」

 ボクは、ただただ淡々と……消化試合をこなすかのように精緻なコント―ラーさばきを見せ、遂には無失点で勝利した。

 しばしの間、店内にゲームの電子音だけが響き渡り。

 しかしその直後、思い出したように、割れんばかりの大歓声に包まれる。

「す、すげぇ! なんだこれ! ド素人がエチゼンにテニスゲームで勝ちやがった!」

「嘘でしょ!? 実は有名なプレイヤーで、序盤は手抜いてただけじゃないの!?」

「いやお前も見ただろう、あの試合! あれはわざと手を抜いたそれじゃなくて、ガチの初心者の動きだったぞ!」

「でも最後の試合なんて、最早一流プレイヤーの域だったじゃない!」

「せ、成長したっていうのか……? この……わずか七ゲームの中で……?」

 周囲が喧噪けんそうに包まれる中、ボクはゆっくりと集中を解いて、ふぅと息を吐く。

 隣を見ると、エチゼンが憔悴しようすいしきった様子でぶつぶつと、セーガクの柱がどうこう言っていた。……最後まで何言ってんのか分からない人だったなぁ。まあ途中からこっちが全然聞いてなかったのもあるけど。

「お疲れ様、三角君。……凄かったわね」

 熱狂するお客さん達の間を縫うようにして元居た方へと戻ると、天道さんが笑顔ながらどこか強張った表情で迎えてくれた。ボクは不思議に思いつつも、「天道さんこそ」と笑顔で返す。

「一回戦、ボクと違って完全に圧勝してたじゃないですか」

「それはそうだけど……でも貴方のそれって……」

 奥歯に物が挟まったような物言いをする天道さん。彼女はなにやら考え込むようにうつむくと、少ししてから、顔を上げた。

「三角君、貴方……あのテニスゲーム、本当に、今日初めてだったのよね?」

「? はい、そうですよ? というか、テニスゲームというジャンル自体初めてでした」

「……そう、よね……」

 なにやら額に汗を滲ませる天道さんの様子に、ボクはなんとなく悪いことをした気になり、慌てて少しフォローを入れた。

「あ、で、でも、流石さすがは実戦ですよね! 一人でプレイする時とは違って、ぐいぐい沢山のことが学べました。そこは《テニスのコーチ様》に感謝ですね」

「……そう……実戦だから……ね。……そういえば、ゲーム部見学の時も……」

「ほ、ほら、天道さん! そんなことより、そろそろ天道さん、第二回戦あるんじゃないですか!」

「え、あ、そ、そうね。行ってくるわ」

「はい、いってらっしゃい」

 ボクは彼女を笑顔で見送り、次の対戦会場に辿り着いたのを確認してから、思わず深く息を吐いて、自分の手を見つめる。

「(そうだ、この充足感だ。高い障害に全力で挑み、それを乗り越える……。この瞬間があるからこそボクは、ゲームが……いや、アクシデントだらけの日常が、好きなんだ)」

 ボクは高揚に震える手をぐっと握り込むと、早速次の対戦を確認すべく、足早にトーナメント情報の表示されたモニタへと向かったのであった。



 結局、ボクはエチゼンさんをくだした勢いそのままに、するすると予選大会Bブロックを勝ち上がり、遂には優勝。地方大会への切符を手にしてしまった。

 簡単な授賞式を終え、天道さんと二人帰路に就く。熱気にまみれたゲームセンターを出て吸う空気は実に爽やかで……決してゲーセンの居心地が悪かったわけでもないのだけれど、ボクはようやく自分が本来いるべき世界に戻って来たかのような安堵を覚えた。

「それにしても凄いわ、三角君。つい最近ゲームを始めた人間とは思えない進歩よ」

 隣を歩く天道さんが、しきりにボクを称賛してくれる。自分がAブロックを断トツの実力で優勝したことは、あくまで当然の結果だと捉えているらしい。相変わらずの天道さんらしさに苦笑しつつ、ボクは返す。

「いやおおですって、天道さん。ボクは……見様見真似でただただ必死に食らいついていただけで」

「その集中力が尋常じゃないのよ、三角君は。あの加瀬先輩が一目置くわけだわ」

「いや、ですから……。……それに、実際今日の大会は初心者のボクに非常に優しい大会でしたからね」

「あー……まあ、それは確かにあるかもしれないけど」

 天道さんが頷く。こういう風に他人を過大評価や過小評価しすぎないところが、彼女の一番の美徳だろう。

 天道さんは顎に白魚のような指先を当て、少し考え込むようにして続けた。

「今日の予選大会は、狭い地域での《お祭り》感覚が強いものだから、例のテニスゲームに代表されるように、初心者にも数プレイ重ねさせてくれる形式が多かったのよね。その形式は、実戦成長率の高い貴方のプレイスタイルに非常にマッチしていた。けれど……」

「ええ、自分でもそこは分かってます。完全なる一回こっきりの勝負なんかになると、途端にボクは手も足も出ないでしょうね。テニスの第一ゲームでエチゼンさんにボロ負けしたのがいい例です。アレで勝負が終わりなら、成長力も何もなかった」

「そうね。それでも充分に評価に値する能力だとは思うけど、残念ながら、次の地方大会からは少し、一戦一戦の真剣味が強まるのよ。つまり……」

「今回みたいに、ボクが一からゲームに慣れる程の余裕は与えて貰えないと」

 ボクの言葉に、天道さんが残念そうに頷く。

「また悪いことに、TVGTは規模の割に、かなりの過密スケジュールで行われる大会なの。つまり……」

「ボクが事前に経験を積める時間も限られている、と。……ちなみに、次の地方大会とやらは……」

「一週間後の土曜よ」

「一週間……」

 精神と時の部屋でもない限り、劇的なパワーアップは難しい状況である。

 流石にこれ以上の勝ち上がりは無理かなとボクが諦めかける中、天道さんは何か考え込み、そしてボクを鋭い目付きで見つめてきた。

「……キミの成長力なら、あるいは……」

「?」

 意味が分からず首を傾げるボクに、天道さんはしばらく黙ってなにやら考えをまとめた後、改めてボクに提案してきた。

「急だけど、明日、日曜日に部活を催そうと思うわ。皆には今からアポとるから確約はできないけれど、無理にでも皆に参加して貰おうと思う」

「? えっと? あの、ボクはいいですけど、でも、ちょっと部活頑張る程度でそこまで劇的に腕は変わらないと思いますよ? 実際これまでの部活動でもボク、まんべんなく操作方法を覚えたぐらいで終わってますから」

 謙遜ではなく事実を言ったつもりなのだけど、天道さんはそれを「いえ」と否定してきた。

「それは、私達のゲーム部の方針が間違っていたのよ。貴方の場合は、基礎的なことから順にやらせるよりも、とにかく実戦を積ませるべきだった。エチゼン戦を見ても、それは明らか」

「はぁ……確かに、ボク、実戦は好きですけど」

 今でもあの時の高揚を思い出すと、体が震える。立ちはだかる強者の技術に圧倒され、素直に称賛の念を抱く一方でそれに迫るにはどうしたらいいかと必死に考え、戦いの中で濃密なトライ&エラーによる経験値を得て、敵のスキルを自らのスキルへと落とし込み……遂には当初憧れた「それ」をも上回った時の、えもいわれぬ恍惚こうこつ

 確かに、あの時間が圧縮されたような感覚は、漫然とゲームをする状況では得られないものだ。以前天道さんから伝え聞いた、雨野君の掲げる「ぬるくて楽しいゲーム理論」なんかの中には微塵みじんも無い。強者と真剣に対峙して初めて得られるものだ。

 ……ん? 強者と対峙して初めて?……あ、つまり、ボクが成長するには……。

 ボクがこれから為すべきことに思い当たったところで、天道さんが答え合わせをするかのようにニヤリと微笑んで告げる。

「ゲーム部のメンバーは、私を除いて、皆が特定ゲームジャンルの求道者達。つまり、残りたった一週間とはいえ、その間できるだけ凄腕の彼らと対戦を繰り返せば貴方は――」

「短期間での劇的な成長が……見込める?」

 初夏の風に街路樹の枝葉達がざわめく。

 天道さんは夕陽を背負いながら、あのエチゼンをも彷彿ほうふつとさせるドヤ顔で、その作戦名を告げた。

「題して『史上最強の弟子・エーイチ』作戦、開始よ!」



 かくしてボクは、最強の万能ゲーマーとしての階段を一足飛びで駆け上り始めた。

 しかしここから先のTVGT経過は短い期間の出来事ながら物語が濃密すぎて、コミック換算なら二十巻分程費やしてしまいかねない物量だった。

 そのため、今回は以下、主要な流れのみを記させて貰うことにする。


【史上最強の弟子・エーイチ~ダイジェスト版~】


 まず先輩方との実戦訓練では、FPSや格闘ゲームのトッププレイヤーに迫る実力を身につけた。勿論、流石に一朝一夕で加瀬先輩や大磯先輩を圧倒できるような腕にまでは至らなかったものの、十戦やれば二~三戦は辛くも勝てる程度の実力は獲得しており。

 更に後輩二名や天道さんとの実戦の中では、ボクの集中力と学習能力を活かした新たな特殊能力《付け焼き刃の拮抗インスタント・ドロー》を開眼するに至った。これは極限まで集中力を高めることで、たった三分ではあるが、相手の動きを完全に模倣することを可能にする能力である。あくまで模倣であるため、それ単体では良くて引き分け程度の戦果しか見込めない能力ではあるが、しかし《成長力》こそが売りのボクにとって、「時間を稼げる」という能力は何ものにも代え難い。

 こうして殆ど万全といっていい状況で臨んだトーナメント形式の地方大会は、全く危なげなく順調に勝ち進んだものの、大会が準決勝に至ったところで、ボクは期せずして苦戦を強いられることとなった。

 そもそも対戦お題が「音ゲー」という、この一週間で流石に腕を磨ききれなかったジャンルの一つであったことに加え。更にその対戦相手というのが――

「観念なさいっ、エーイチ! 貴方の快進撃も、ここで終わりですっ!」

「り、理姫!? どうしてキミがここに!?」

 ――ボクの義妹である、三角理姫だったのだ。

 実は音ゲーが超得意だという理姫に追い詰められるボク。しかもなにやら彼女……。

「このまま天道さんと一緒に全国大会とか、行かせないんだからぁああ!」

 ……等と、妙な気合いの入り具合。動揺もあって本気を出し切れず、どんどん追い詰められていくボク。

 あわや敗退かと思われたその時……しかし、諦めかけたボクに、こそこそと観戦に来ていたらしい、実は後輩想いのツンデレメガネ先輩、加瀬岳人先輩の叱咤しつたが飛んだ。

「お前はこんな所で負ける男じゃないだろう! 三角瑛一!」

 その言葉に自分を取り戻したボクは、そこから猛追を開始。《付け焼き刃の拮抗インスタント・ドロー》で理姫の得点に食らいつき、その上で、試合の中で更なる発展能力……《後発の真打ちストロンゲスト・フオロワー》を発動。模倣した相手の技術にボク自身の能力を上乗せするこの能力により、ボクは辛くも理姫に勝利。決勝にコマを進めることと相成った(ちなみに泣きべそをかいた理姫は、ボクが少し抱きしめて頭を撫でたら途端に機嫌を良くして帰宅していった)。

 しかし、そうして辿り着いた地方予選決勝戦の相手は……。

「遂にここまで来ましたね、三角君……」

「天道さん……」

 ゲームにおいてはボクの師匠とも呼べる存在、天道花憐その人だった。

 対戦お題は、レースゲーム。……ボクが極めきっておらず、また、天道さんが得意とするジャンルだった。

 高まる緊張感の中、遂に始まるボクらの対戦。……本音を言えば、ボクはこの時点で、対理姫戦で覚醒した能力のこともあり、彼女にも勝てるだろうと慢心を抱いていた。

 しかし、そんな余裕は一瞬で打ち砕かれることになる。

 全七レース行われる勝負のうち、三レースを、彼女に全く追いつける気配もなく取られてしまったのだ。……あと一レース取られれば、成長しきる間もなく敗北。

 唖然あぜんとするボクに、天道さんが種明かしをするように微笑む。

「貴方の《強い敵からこそ学ぶ》成長力への対策、この私がしていないとでも?」

「まさか……これまでの三戦全て、『適度に手を抜いて』操作していたんですか!?」

「ふふっ、今頃気付いてももう遅いわ、三角君。実際私はまだ余力を残している。この四戦目、貴方がいかな能力を駆使しようとも……私を上回る程の成長は、できない!」

「く……!?」

「汚いと思われるかもしれないけれど、新入部員の鼻っ柱を折るのも部長の務めよ!」

 そんな宣言とともに始まった四レース目は、序盤から天道さんに大きく引き離されて始まった。《付け焼き刃の拮抗インスタント・ドロー》や《後発の真打ちストロンゲスト・フオロワー》を限界以上に使い続けようとも、彼女は更にギアを引き上げることで、ボクの成長を上回ってしまう。

 勝負が完全に決まりかけたその時……ボクの心の奥底で、何かが目を覚ました。

〈チカラ、ガ……ホシイ、カ……〉

「(……! …………欲しいよ……。負けたくないんだ! ボクは……勝ちたい!)」

〈イイダ、ロウ……ソノネガイ……シカト、ウケトッタ……〉

 次の瞬間、コース上に光のラインが見えたかと思うと、ボクの手はまるでその道筋を辿るかのように、自動的に車体を操作し始めた。

「な――」

 天道さんや観衆の声が遠く聞こえる中、ボクはぐいぐいと猛追を開始。そうしてラスト一周、遂には……。

「う、嘘でしょ!?」

 僅差で天道さんを追い越し、ゴールを切った。

 天道さんが信じられない様子でボクを見つめ、そして歯を食いしばると

「次は最初から本気で行きます!」と宣言。そうして、五レース目、六レース目、七レース目に全力で臨んでくるも、最早それさえもボクは……。

「……そんな……」

「…………」

 淡々と、天道さんに圧倒的差をつけて勝利を収め、ニヤリと微笑む。

 ――こうして、波乱の地方大会編は、ボクの優勝でその幕を閉じたのだった。

 地方大会決勝戦でボクに目覚めた新たな能力は、その更に一週間後に始まった全国大会でも猛威を振るった。

確約されし栄光グロリアス・ロード

 ゲームと対戦相手への理解が一定以上深まると同時に発動したが最後、その瞬間に「勝利への道筋」を悟る能力。目が、頭が、体が、ただただ確約された勝利への道筋を辿るべく動く。

 この能力の前では、いかな強者揃いの全国大会と言えども、全く相手にならなかった。

 ゲーム内のサッカーボールをも友達のように扱う能力者「ウィング」も、フラッシュ暗算能力をゲームに応用する「データゲーム」の使い手も、釣りコンでダンスゲームをこなす謎のゲーマーも、運に恵まれたパチプロも、巽とかいうチートお姉さんさえも……とにかくその全てに、ボクは淡々と勝利を重ねた。今やゲームに関しては「未来を読める」と言っても過言ではないボクにとって、それはただただ、当然の結果でしかなかった。

 しかし、全国大会優勝の更にその先に待ち受けていた「全世界大会」まで来ると、流石に多様な能力持ちのボクと言えど苦戦を強いられる場面は出てきた。

 以前も絡んできた美人銀髪霊能力者「シンラ」の起こす、ゲームの領域を超えたあまりに不可解すぎる現象のオンパレードには大変苦しめられたし。

 口癖が「たぶん、うまくいく」のインド代表は、終始謎のポジティブシンキングでえらくボクを動揺させてきた。

 フランス代表の特殊能力《不可能消去ボナパルト》の驚くべき性能に至っては、このボクでも最後までコピーしきれず、今大会屈指の激戦を繰り広げる結果となった。

 そうして数々の濃密な戦闘の果てに、いよいよ迎えた世界大会決勝戦。

「……エクス……会いたかった……ずっと……」

 ボクを不思議な名前で呼びながら現われた対戦相手は、記憶を失った際にボクが着ていたのと全く同じ制服を着た謎の少女、マキナだった。

 青い髪が印象的な彼女は、とにかく無感情かつ無口であり、ボクが何を訊ねても「勝てば教える」の一点張り。そうしてボクの中に不安と動揺が滲んだまま臨んだ、パズルゲームによる決勝戦は……マキナによる一方的な蹂躙じゆうりん展開で始まった。

 成長力こそを売りにするボクが対戦序盤に苦戦を強いられるのはそう珍しいことじゃなかったが、彼女のゲームテクニックはあまりに常軌を逸していた。

 世の中にはツールアシスト機能を使って、ゲームの「理論上最高値」を突き詰めるという遊び方がある。彼女のプレイスタイルは、まさしくそれの再現だった。

 システムの限界値を、寸分のミスもなく淡々と叩き出す能力。

終焉マキシマム

 そう名付けられたその能力は、まさに最強の能力だった。

 四ゲーム先取というルールで始まった決勝戦はボクが為す術もないまま一瞬でマキナに三勝を許し、観客達もあまりのワンサイドゲームに沈黙する始末。

 ボクもまた絶望にとらわれたその時……しかし、観客席から静寂を打ち破る、複数の声援が飛んできた。

 ハッとして見れば、それは、ボクにゲームを教えてくれたゲーム部の面々であり、大事な義妹の理姫であり、そして……これまで対戦してきたライバルプレイヤー達だった。

 その光景に「諦めない」気力を貰ったボクは、全能力を駆使した、後先を考えないプレイを開始。

 必死でマキナのプレイスキルを盗み取り、理論上最高値による引き分けを量産していく。

「無駄に疲弊するだけよ、エクス……」

 そう憐れむようにボクを見るマキナにも構わず、ボクは必死で食らいつき続けた。

 そのまま二十戦ほど引き分けが続いた時。

「あ……」

 遂にマキナが些細ささいな……本当に些細なミスをおかし、ボクはその隙をついて、遂に一勝をもぎ取った。

 歓声に沸くギャラリー。そのまま、動揺したマキナから二勝目、三勝目をもぎ取るも、しかしそこでマキナもようやく平静を取り戻し、再び引き分けの量産体制が始まる。

 あまりのオーバーワークにボクが額に脂汗をき始めたところで、マキナが降伏を促してくる。

「そのままじゃ、エクスはマキナに勝てない。命を削るだけ。やめた方がいい」

「そう……かな?」

「?」

 ボクはニヤリと微笑む。……次の瞬間、ボクの目には世界が光輝いたように見えた。

確約されし栄光グロリアス・ロード》の発動。

 その刹那、森羅万象、何もかもが理解できた気がした。

「な……これは……」

 マキナと観客達が息を呑む中、ボクは黙々と、まるで神に導かれるようにコントローラーを操る。

 その動きは、「理論上最高値」のそれではなく。

 成長する人の身だからこそ到達できる、更にその先の深奥……天文学的な確率で起こる再現性の極めて低い異常動作さえも操る領域。

 奇跡と呼ばれる地平を切り開いて進む能力――《開闢エクスパンシヨン》の発現であった。

「嘘……そんな……」

「これで……終わりだ!」

 理論上最高値をも超え、遂に、マキナを撃破するボク。

 一瞬だけ静まり返るも、すぐに大歓声をあげる観客達に、ボクへ向かって駆け寄ってくる仲間達。

 会場どころか、世界が熱狂に沸く中、マキナがボクの方へと歩いてきた。

「エクス……。……マキナ、完全に、負けた」

「マキナ……。……教えてくれるかい? ボクとキミが、一体、何者なのか」

「勿論。……でもその前に」

 そこまで言ってマキナは、初めて無表情を崩し、笑顔で告げる。

「おめでとう、エクス。貴方こそ、ゲーム界の真の頂点よ」

 ――こうして、ボクのゲーム大会に纏わる物語は、怒濤どとうの勢いで幕を閉じたのであった。


【史上最強の弟子・エーイチ~ダイジェスト版~】 完



「……ふぅ」

 TVGT……トータルビデオゲームトーナメント世界大会優勝から、一週間。

 全てのゴタゴタを終えて再び学校生活に戻ったボクは現在……ゲーム部部室の前で、溜息をついていた。

 というのも……。

「(今更ゲーム部に出る意味なんて……あるのか?)」

 放課後、いつもの習慣でこうしてゲーム部まで足を運んでしまいはしたものの……ドアの前まで来たところでふと、そんな疑問に囚われてしまったのだ。

 肩に鞄をかけ直しつつ、部室の扉を見つめる。

「(正直、ボクはもう……この世界の誰よりも、ゲームが上手いんだ。あれからちゃんとやったわけじゃないけど、恐らくは、今や加瀬先輩や大磯先輩も話にならないレベルのハズ。そんな状況で……ゲーム部に出て、これ以上何をするんだ?)」

 最早、全国の高校大会出場を目指すと言われても、全くピンと来なかった。……今更そんな低い目標に、どう熱くなれというのだ。悟空が、フリーザを倒した後にヤムチャと戦えと言われるようなものだ。ただのイジメにしか思えないじゃないか。

 なんとなく自分の両手を見下ろし、ぐーぱーと何度か握り直してみる。

「(もう、ゲームは……いいかな? マキナの話だと、ボクの居た組織とやらはまだまだ闇が深くて、ゲーム大会へのマキナ出場はお遊びみたいなものだったって言うし。……これ以上、ゲームする意味なんて……)」

 なんにせよとりあえず部活動はもういいかと結論し、誰かに見つかる前にボクはその場を去ることにした。……退部届けは、また後々出せばいいだろう。

 旧校舎を使った部室棟を出て、帰途に就く。そうして、先週からうちに居候を始めたマキナと理姫はまた喧嘩けんかでもしているのかな、なんて考えながら歩いていると、ふと前方に、今となっては妙に懐かしい背中を見つけた。

 思わず駆け寄り、基本人見知りなボクにしては珍しく積極的に声をかけてみる。

「雨野君! 久しぶり!」

「? あ、み、三角君。おお、お、お久しぶりです!」

 ボクに気付いた瞬間に顔を紅潮させ、わたわたと慌てたと思ったら、同学年に対するそれとは思えない程に腰を折曲げてぺこりと頭を下げる、小動物系男子高校生。

 ボクはその相変わらずな「雨野君っぽさ」に思わず苦笑すると、彼の隣に並んで歩き始めた。

「雨野君も今帰りかい?」

「あ、う、うん!……? あれ、三角君は、ゲーム部出ないの?」

「ああ、うん、まあね……」

 曖昧に微笑んで返す。雨野君は特に疑問を抱いた様子もなく「そっか」とだけ言って歩き出した。

 しばらくの間、互いの近況話をする。ボクがゲーム大会に出場している間に、なにやら雨野君は「ゲーム同好会」とやらに入ったらしい。上原君だの、ワカメだの、よく分からない人物名が出てきたのでイマイチ話の核心は伝わらなかったけど、なんにせよ、雨野君が楽しそうなことだけは伝わってきた。

「あ、ごめん、僕ばっかり話して。三角君はゲーム大会、どうだったの?」

「え? あー、そうだね……」

 そこで、なぜかボクは返答に詰った。この一ヵ月、自分の経験した数々の出来事は、雨野君の「平凡な日常」を遥かに超える「面白い話」のはずだ。非日常や謎や物語だらけ。だというのに、不思議とボクは雨野君程、楽しげにそれを語れる気がしなかった。

「一応、その、結構勝たせて貰ったよ……えと、ゲーム部のおかげで」

 ボクがそう答えると、普段から一人でゲームを楽しむタイプの雨野君は大会を良く知らなかったらしく「へー、凄いね、三角君!」なんて極めて日常のテンションで応じてきた。どうやら、地域規模のちょっとした大会か何かの優勝だと思っているらしい。

 なんとなく自分から「世界の頂点に立ちました」と報告するのもどうかと思い、テキトーに相槌を打って話を流す。

 しばらくそうしていると、雨野君が突然、パァッと表情を明るくして提案してきた。

「そうだっ、三角君! 今日部活なくて暇なら、僕とゲームしない?」

「? 雨野君と?」

「そう! 実は僕の大好きなフリーゲーム作者さんが最近新作出したんだけど、それが珍しく対戦機能付きでさ。でも、僕、弟以外に一緒にゲームしてくれる人いないし……なのに弟が全然フリーゲームに興味なくて、持て余してたんだよね」

「あー……つまり……」

「うん! 三角君、もし良ければ僕と対戦してくれたら嬉しいなって!」

「…………」

 雨野君の無邪気な提案に、ボクは少したじろぐ。……知らないとはいえ、今や世界の頂点たるこのボクに、そんな気軽に対戦を挑むだなんて。……ここは、うまいことやんわりと断わってあげるのが、彼のためかも――

「三角君、ゲーム部で少しはゲーム覚えたんだよね? だったら、大丈夫だよ! そのゲーム、初心者でも簡単にできる格闘ゲームだからさ! ね!」

「…………」

 あ、やばい。なんか今ボク、ちょっとカチンと来てしまった。おごりだと言われればその通りなのだけれど……先日世界一のゲーマーになったボクに対して、お世辞にもゲームが上手いとは言えない雨野君から、そんなことを言われると……。

 気がつけばボクは、彼に、笑顔で返してしまっていた。

「いいよ。やろうか、雨野君。ボクも、少しはゲームを覚えたんだ」

 すぐに自分で「(なんて性格の悪い!)」と後悔したものの、時既に遅し。

 笑顔で喜ぶ雨野君相手には、今更やめるだなんて、とてもじゃないけど言えなかった。



 雨野君の家は三角家と違って至って普通の二階建てで、古くもなければ新しくもない、まあ、本当に「一般的な中流家庭」といった装いの一軒家だった。

 今の時間帯家族は誰も居ないとの説明を受けながらも、一応「お邪魔します」と挨拶しつつ屋内に足を踏み入れ、二階にあるという雨野君の部屋へと向かう。

 時折ミシッと鳴る階段を上っていると、ふと……ボクには中流家庭で育った記憶も、きっと経験もないであろうはずなのに、なんだか酷く懐かしい気持ちを抱いた。

「あ、あんまり見ないでくれると嬉しいかな」

 まるで女子ばりに頬を赤らめながら通された雨野君の部屋もまた、「THE 大人しい子の部屋」といった装いで、ゲームや漫画が多くて多少配線等はごちゃついてしまっているものの、基本的には割合片付いている、いっそ感動を覚える程に平凡な部屋だった。

「(やっぱり、雨野君といると《平凡な主人公》とやらの気持ちが分かるかもなぁ)」

 そんなことを思いつつ、彼に促されるままに鞄を置き、テレビモニタ前の座布団に座る。

 彼はパソコンとテレビをなにやら配線で繋ぎ終えると、無線のゲームパッドをボクに渡してきた。PCゲームをテレビモニタでやるらしい。

「(……無線コントローラーかつ、外部出力か……遅延が気になるけど……)」

 すっかりコンマ数秒や1フレーム単位の世界に生きる人間になっているボクとしては、ちょっと雑なゲーム環境が気になる。一瞬イライラとしてしまうも、しかしすぐにこれは大会じゃないんだと自分に言い聞かせる。そうこうしていると、セッティングを終えた雨野君がゲームを起動させてボクの横に座ってパッドを握り、わくわくとした様子で話しかけてきた。

「あ、最初はちゃんと手加減するから、大丈夫だよ! 楽しく遊ぼうね、三角君!」

 ――流石にカッチーンと来た。大人げないとは分かっているけれども……それでも、世界の頂点を取った人間がこんなに舐められるいわれはない。

 ボクはゲームパッドを強く握り……そして、画面を大会決勝と同じ集中力で睨みつける。

「(雨野君が悪いんだからね……)」

 雨野君が1P、ボクが2Pで対戦が開始すると同時に、視界に光が広がり始める。

 完全に初見のゲームのため、《付け焼き刃の拮抗インスタント・ドロー》及び《後発の真打ちストロンゲスト・フオロワー》を用い、まずはゲームと雨野君を見切ることにした。

「(今のボクなら、成長しきるのに一戦落とすようなことさえない……!)」

 それどころか、十秒もあれば《確約されし栄光グロリアス・ロード》の発現、及び《開闢エクスパンシヨン》にまで至れるだろう。

 実際〈のべ〉とかいう作者が作ったというこの対戦型フリーゲームは、個人制作らしく非常に作り込みが甘かった。フリー素材のグラフィック、キーレスポンスの雑さ、キャラの強弱バランスの崩壊、モーションの少なさ。どこをとっても三流。正直、見切るのに五秒かからなかった。

 また、雨野君の腕も酷いものだった。

「わっ、三角君、初めてなのに上手いね!」

「(比べるのは酷だけど……大会出場者の誰よりも下手だなぁ、雨野君)」

 流石に操作方法は熟知しているみたいだけど……それだけだった。雨野君は以前もそうだった。彼は「成長」に全く重きを置いていない。ずっとそこで留まるだけの……停滞しただけの、人間。……くだらない、平凡な主人公、まさにそのもの。

「(それこそが『平凡』なのだと言うのなら……ボクはそんなもの、要らない!)」

 なんとなくムキになり、その必要は全くないはずなのに、これまで会得した能力――。

付け焼き刃の拮抗インスタント・ドロー》《後発の真打ちストロンゲスト・フオロワー》《確約されし栄光グロリアス・ロード》《開闢エクスパンシヨン

 ――その全てを用いて、雨野君を叩き伏せにかかる。

 しかして、その結果は――


〈1P WIN!〉


「――――――――え?」

 雨野君の、勝利だった。

 ワケも分からずほうけたように画面を見つめるボクに、雨野君が苦笑いを向ける。

「えっへへ、僕の逆転勝利だね!」

「――――は?」

 意味が分からず、ボクは目を見開いて彼の顔を見つめる。……確かに、ボクが勝ったはずだった。無傷の完全勝利というカタチで、雨野君のキャラのHPを削りきったはずだった。

 なのに、次の瞬間には……ボクのキャラが、その場に倒れていた。

 ……一体どんな能力を用いたのだと慄然りつぜんとするボクに、雨野君は苦笑混じりで答える。

「ご、ごめんね。その、種明かしすると、このゲーム、理不尽なコマンドとか技が滅茶苦茶あるんだ。今のは、『勝敗を入れ替える』っていう技……っていうか、キャラ特性?」

「――――はぁ!?」

 なんだそのゲームデザインは! 無茶苦茶にも程がある! あまりにゲームとして成り立ってなさすぎて、成長しきったボクの眼力でもとても読み切れなかった。

 愕然とするボクに、雨野君は申し訳なさそうに説明を続ける。

「これに限らず、のべさんのゲームって毎回こんななんだけど……やっぱり、驚くよね?」

 お伺いを立てるように上目遣いの雨野君に、ボクは、ぽつりと返す。

「驚くも何も、こ、こんなの……」

 ゲームとして成り立っていない。ボクのやってきたゲームじゃない。そう、怒ってやろうと思った次の瞬間。

 雨野君は、申し訳なさそうにしながらも、にへらっと笑って、僕を見つめてきた。

「でも良かった。三角君、楽しんでくれたみたいで」

「――――え?」

 言われると同時に、ゲーム画面が雑な切り替え動作で暗転する。と、そこに映り込んでいたボクの顔は……。

 笑顔だった。当然、苦笑いではあるのだけれど……それでも、ここ久しくしていなかった、不思議に緩んだ表情であり。

 言葉を失うボクに、雨野君が続ける。

「よく分かんないけど、なんか今日の三角君、凄く強張こわばった顔してたからさ。あ、ぼ、僕、体験入部の時の三角君……未体験のゲームへのワクワク感があって、凄くいいなぁって思ってたから……あ、で、でもあの、いいなって言っても、変な意味じゃないよ!?」

 別に誰も勘違いなどしていないのに、顔を真っ赤にして否定してくる雨野君。……相変わらず、余裕のない人だ。だけど……。

 ボクはもう一度、テレビ画面を見やる。そこには、相変わらずの粗いキャラ選択画面が映っていた。

「……もう一回、やろっか」

「え? あ、うん、そうだね!」

 ボクらは操作キャラを変えると、再び対戦を開始する。

 ……今度は、なんの能力も使わず。勝利へ執着することもなく、ただただ、馬鹿みたいなゲーム展開に身を任せるようにして。

 ……それはきっと、加瀬先輩や、大会で競い合ったライバル達には見下されてしまうような、なんの真剣味もないプレイスタイルだ。だけど……。

「……わっ、なにこれ! なんでボクのキャラ急に鮫に食べられたの!? 雨野君!?」

「あ、ごめん、それ僕のキャラの必殺技『エターナルシャークブリザード』。使ったら、相手は死ぬ」

「理不尽にも程があるよ!」

「大丈夫! ほら、直後に僕も食べられちゃうから! しかも判定はそっちの勝利!」

「不毛な技にも程がある!」

「あはは、だよね! でも、見せたかったんだ、これ」

「使ったら負けるのに?」

「うん。でも面白いでしょ?」

「……ああ。そうだね。最高に面白いよ、雨野君!」

 ボクは気がついたら、何も考えず、笑顔で彼とゲームをプレイしていた。体験入部で初めてまともにゲームに触れた、あの時のように。

 ……確かに、この部屋には「充実感」や「達成感」なんて微塵もない。強豪プレイヤー達と競った時の熱さや、息を呑むような物語も、因縁も、成長も……何もない。このゲームを極めたところで、きっと、ボクにとってはなんの糧にもならないだろう。

 完全なる停滞。モラトリアム。ボクの物語にはなくてもいい時間、要素。だけど……。

 ボクは雨野君と馬鹿みたいなゲームの対戦を続けながら、口を開く。

「雨野君」

「ん?」

 あくまで、視線は画面を見つめ、手はゲームパッドを操作したままで。

 でもだからこそ言えるクサい本音を、告げてみる。

「ボク、キミと友達になれて、本当に良かったよ」

「うぇ!?」

 瞬間、なぜだか必要以上に動揺した雨野君がゲームパッドを手から滑らせ、その勢いで近くのコミックの山が盛大に崩れかかったのを、わたわたと慌てて支えに走る。

「うわ、わわ、わぁ! やばい! やばい!」

「おー! いやはやこれは流石にボクの《確約されし栄光グロリアス・ロード》や《開闢エクスパンシヨン》でも読み切れなかったなぁ」

「はいぃ!? な、なに言ってるのさ三角君! そんな恥ずかしい中二病のボケ考えてないで、ちょっと手ぇ貸してよ!」

「よし、今の隙に雨野君のキャラを攻撃しておこう。えいえい」

「ちょ、鬼ぃ!……あ、でも僕のキャラ、無抵抗時に攻撃喰らうと皮膚から毒出して敵を即死させる特性があるけどね」

「わあああ!? なにこれ酷い! くそっ、もう一戦やろう雨野君!」

「いやそれ以前に助けてよぉ! 友達なんでしょ!?」

「あははっ、雨野君は面白いなぁ。ボク、キミと友達になれて本当に良かったよ!」

「なんでだろう! 今のそれは、全然いい台詞に聞こえないんだけど!?」

「あはは!……あ、そうだ、ボク、やっぱり今後もゲーム部に出ようかな、うん」

「なに急に!? っていうか、今はとにかく助けてよぉ!」

 ボクは必死で叫ぶ雨野君や理不尽なゲーム画面を見ながらゲラゲラと笑い……そっと、目の端に浮かんだ涙を拭う。

 きっと、ボク、三角瑛一の記憶や正体に纏わる物語に、彼は一切関係がない。

 敵として立ちはだかることもなければ、ボクの力強い味方になってくれることも、記憶の回復に一役買ってくれることもないだろう。それどころか、これからボクに纏わる物語は、ゲームというジャンルとさえ無関係になっていくんだと思う。

 だけど、それでもボクが、今一番語りたいと思う物語は。

 ライトノベルとしては非常に魅力に欠ける、本編を完全におろそかにした要素でありながら。

 なんだかんだで、結局のところ。

 非日常に身を置く特別な主人公が、美少女に声をかけられるところから始まりながらも、実に淡々としていて、驚く程に波乱のないであろう、ただただ友人と遊ぶだけの――

 ――ゲームの、物語なのである。

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