異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する　～レベルアップは人生を変えた～

「誰もいない……よな……？」

　恐（おそ）る恐る扉から顔を覗（のぞ）かせ、周囲を確認するも、やはり人の気配はない。

　再び部屋の中に足を踏（ふ）み入れると、木の感（かん）触（しよく）が直（じか）に伝わって来た。

　部屋に入ると、机や椅子の他に木製のクローゼットもあり、中を見てみると、明らかに俺にはサイズの合わないであろう細身なシャツとズボン、そして下着が数着ずつ出てきた。

　非常に肌（はだ）触（ざわ）りがいいだけに、ちょっと残念だ。

「あ、さっきは気づかなかったけど、窓があるじゃん」

　俺は窓に近づき、外の様子を確認する。

　すると……。

「うわぁ……」

　窓の外は、木々に囲まれていたのだ。

　俺の住む家は、こんな山奥みたいな場所じゃない。住宅街で、家の裏や前は、普通に車が通っている。

　なのに、こうして周囲が森ということは……。

「やっぱり異世界……または地球の別の場所に繫がってるとしか考えられないんだよなぁ」

　もしかしたら窓に超（ちよう）リアルな絵が貼（は）ってあるのかとも思ったが、窓を開けてみてその考えは捨て去った。

　都会では考えられないような、澄（す）んだ空気が胸いっぱいに入って来たし、車の音も聞こえなければ、工事の音もない、静かな空間が広がっているだけだ。

　窓を閉めて、部屋の中を改めて見（み）渡（わた）すと、机の上に紙が置いてあることに気づいた。

「なんだ？」

　紙を手に取り、内容を読み取ろうとするが、そこには俺の知らない不思議な文字が書いてあった。

「……読めん。異世界の言葉か？」

　分かるはずもないのに、少しの間手紙と睨（にら）めっこをしていると、メッセージが出現した。

『スキル【言語理解】を習得しました』

　おい、何だその便利そうなスキルは。

　すぐさま鑑（かん）定（てい）すると……。

【言語理解】……あらゆる言語を理解することができ、読み書きができるようになるスキル。

　本当に便利なスキルだった。

　これ、地球でも効果があるんなら、英語とか楽勝じゃねぇか。

　それはともかく、せっかくスキルを手に入れたので、再び手紙に視線を戻（もど）すと、さっきまでは読めなかった不思議な文字が、読めるようになっていた。

　要約すると、この部屋の主は、もうすぐ寿（じゆ）命（みよう）が尽きるということで、この家を手放すことにしたらしい。

　そして家族もいないため、もしこの家を見つけた者がいれば、その人に所有権を渡（わた）すと。家の中の物も、すべてくれるそうだ。

　所有権の登録は、魔法の力で勝手に更（こう）新（しん）されるため、所有者以外が家に侵入することはできない……ということらしい。

　これは、【家の主】という称（しよう）号（ごう）を手に入れたことから、恐らく俺がこの家の所有者になったのだろう。

　それに、その称号の説明文から、賢者とやらが住んでいたことが分かるけど、どれだけすごい人だったんだろう？

　所有者以外が侵入できないようにするって結構すごいと思うけど、この世界では普通なのかな？

　てか今さらだけど、あの扉の先がこの場所に運よく繫（つな）がっていたとは……俺としては大変ありがたいが。

「他の衝（しよう）撃（げき）が強くてスルーしかけたけど、魔法もあるんだよなぁ……」

　いや、この状（じよう）況（きよう）自体が非現実的すぎて、魔法と言われてもファンタジー要素が薄（うす）く感じてしまう。驚（おどろ）きは小さいが、それでも未知の力というモノは何とも興味を惹（ひ）かれるのだった。

　俺も使えるようになったりするんだろうか？

「まあいいや……取りあえず、この家には誰もいないし、これからも俺以外が入ってくることはないって分かって、一安心だな」

　俺も現金なもので、この家が俺のモノだと分かった途（と）端（たん）、一気に警（けい）戒（かい）心（しん）がなくなった。

　となると、今度はこの家にある物を見てみることになるのだが……。

「これ、本物だよなぁ……」

　俺の視線の先には、何種類もの武器が。

　その中で、一つ目についた剣（けん）を持ってみる。

「うおっ!?　お、重たい……」

　当たり前だが、俺の筋力はたいしてあるわけでもないので、剣を持っただけでよろめいてしまう。……本格的に筋トレしようかな。まあ昔はやってたけど、一年続けて結局筋肉はまったくつかなかったからね。

「それにしても……立派な剣だなぁ」

　両（りよう）刃（ば）の剣（けん）で、磨（みが）きたてのように輝（かがや）いており、刃（は）には俺の顔が綺（き）麗（れい）に映る。

　柄（つか）には、まったくと言っていいほど装（そう）飾（しよく）は施（ほどこ）されていないのだが、素人（しろうと）である俺が見ても、手にある剣はすごい物だと感じさせる、風格のようなものがあった。

　ふと、俺は好（こう）奇（き）心（しん）から剣に【鑑定】を使用してみると……。

【全（ぜん）剣（けん）】……あらゆる剣の頂点。その刃は濁（にご）ることなく輝き続け、切れ味は常に最高の状態で維（い）持（じ）される。全てのモノを斬（き）ることができるとされるが、それは契（けい）約（やく）者（しや）次（し）第（だい）。非売品。契約者：天上優夜。

「マジかよ!?」

　予想以上にヤバいヤツだった！　しかもいつの間にか契約したことになってるし！　つか、非売品ってこんな物売れるわけないだろ!?　畏（おそ）れ多すぎるわっ！

　え、賢（けん）者（じや）さんって何者!?

　この剣、乱雑に武器入れみたいな場所に入れられてたんだけど!?

　こんなヤバイ物を、適当に扱（あつか）えるなんて……。

　今となっては会うこともできない賢者に驚きながら、俺はこの剣を振ってみたいと思ってしまった。

「いや、男なら一度くらいは……ね？」

　誰に言い訳をしているのか分からないが、自分の行（こう）為（い）を無理やり正当化させる。……正当化できてねぇな。

　まあ、外の確（かく）認（にん）もしたかったので、俺はこの家の玄（げん）関（かん）に近づき、恐る恐る扉を開けた。

「おぉ！」

　すると、どうやらこの家の敷（しき）地（ち）は広かったらしく、家の目の前は庭のようになっており、畑のようなモノまであった。

「これ全部が家として認識されてるのか？」

　もし違（ちが）うなら、うかつに外に出られないんだが……。

　そう思っていると、目の前にメッセージが表示される。

『この家を囲う柵（さく）の中までが、所有者の土地です』

　おお、つまり、この庭にも誰（だれ）も入ってこれないのか！　これで思いっきり外で剣を振り回せるぞ！　よく分からないけど、メッセージさんありがとう！

　俺の疑問に答えてくれたメッセージに感謝しつつ、俺は年（とし）甲（が）斐（い）もなくはしゃぎながら外に出た。

　そして、重たい剣を、自分なりに振ろうとする。

　だが……。

「うおおおおおおおおお!?」

　ダメダメでした。

　結果として、俺が剣を振るのではなく、剣に振り回されてました。

　適当に振ることすらできないとは……いや、分かってたけどね。

「はぁ……はぁ……いやぁ、楽しかった……」

　何もできてないくせに、俺は妙（みよう）な満足感に包まれながら、その場に寝（ね）転（ころ）がる。

　すると、目の前に再びメッセージが現れた。

『スキル【剣術：１】を習得しました』

「へっ!?」

【剣術】スキル!?　振り回されてただけで!?

　それに、この剣術の横の数字って……。

【剣術：１】に意識を向けると、詳（くわ）しい説明が表示される。【鑑定】スキル様様だな。

【剣術：１】……剣を扱うスキル。数字は熟練度を表しており、最高値は10。

　つまり、今の俺は剣を扱う超初心者ということか？

　いや、正直初心者と呼ぶのもおこがましいと思うんだけど……。

　それでも、こんなに簡単にスキルって習得できるモノなのか？

「…………あ、【異世界人】の効果か」

　恐らく、この称号が関係してるのだろう。

「そうだとしても、この速さで習得できるってのも変な話だけどなぁ……他の武器はどうだろう？」

　新しい好奇心を刺（し）激（げき）された俺は、剣を元の場所に戻すと、他の武器を持って、庭に出た。

　それぞれに、鑑定をかけた結果、どれもヤバい品物ばかりで、ピックアップするとこんな感じである。

【絶（ぜつ）槍（そう）】……神槍を超（こ）えた、唯（ゆい）一（いつ）無二の槍。契約者次第でどんなモノでも貫（つらぬ）くことができると言われている。折れることはない。投げれば相手に必ず当たり、手元に戻って来る。非売品。契約者：天上優夜。

【死（し）鎌（れん）】……死神すら殺す大（おお）鎌（がま）。契約者が望むもの全（すべ）てを切り裂（さ）くと言われている。この鎌に斬られた存在は、どんな小さな切り傷であっても致（ち）命（めい）傷（しよう）となる。非売品。契約者：天上優夜。

【無限の籠（こ）手（て）】……殴（おう）打（だ）の威（い）力（りよく）を上げるだけでなく、防具にもなる砕（くだ）けることのない籠手。一（いち）撃（げき）が無限の攻（こう）撃（げき）となる。非売品。契約者：天上優夜。

【無（む）弓（きゆう）】……姿形のない、究極の弓。契約者の意思に応じて、無限に矢を生成する。その矢は、世界を撃（う）ち抜（ぬ）くとされる。契約者が望む的に絶対当たる。非売品。契約者：天上優夜。

　などなど……。

　まあ、かなりの量があったけど、一応全部触（さわ）ってみることはできた。

　そこで感想を一つ。

　どれもヤベェ。

　何でこんなものがゴロゴロ転がってるのかも分からなければ、賢者が何者かも分からないが、それ以上に俺が契約者になってることがもっとヤバい。

　そして、今の俺のステータスは……。

【天上優夜】

職業：なし、レベル：１、魔（ま）力（りよく）：１、攻撃力：１、防（ぼう）御（ぎよ）力：１、俊（しゆん）敏（びん）力：１、知力：１、運：１、ＢＰ：０

スキル：《鑑（かん）定（てい）》《忍（にん）耐（たい）》《アイテムボックス》《言語理解》《剣術：１》《槍術：１》《鎌術：１》《格（かく）闘（とう）術：１》《弓術：１》《鞭術：１》《斧術：１》《鎚術：１》《杖術：１》《棒術：１》……ｅｔｃ。

称号：《扉（とびら）の主》《家の主（あるじ）》《異世界人》《初めて異世界を訪（おとず）れた者》

　もう意味が分からない。

　全部の武器で遊んでたら、こんな状況になったのだが、それにしたってこれはおかしいだろ。

　思わず顔を引きつらせていると、メッセージが出現した。

『条件を満たしました。全武術スキルを統合し、【真武術：１】を習得しました』

【真武術】ってなんぞ!?

　すぐに【鑑定】すると、こう表示された。

【真武術】……あらゆる武器や格闘術を修めた者のみ到（とう）達（たつ）できる境地。全（すべ）ての武器や格闘術を使いこなすことができる。

　使いこなせませんけど!?

　無理だろ、どう考えても！　ただ武器に振り回されてただけなのに！

　だが、俺の意思とは関係なく、ステータスの表記が変（へん）更（こう）されており、あの大量にあった武器などのスキルが消え、【真武術】とやらになっていた。

　……賢者さんもこのとんでもスキルを有していたのだろうか？　……してたんだろうなぁ。

　よく分からないまま、俺はぶっ飛んだスキルを手に入れたのだった。