第一章 異世界へ(1)
辛い日々を乗り
中学の卒業式が終わり、高校に入学するまでの短い休みに
本当ならこの短い休みの間にもバイトがあるはずだったが、それもなくなってしまった。
理由は、この間の集団リンチのせいだ。
あの日にあったバイトは、結局行けなかったから無断欠勤となってクビにされ、他のバイト先では、体中の傷が原因でクビにされた。
この休み、筋トレでもしてみようかな? それで何か変わるとは思えないけど。
いろいろ思うことはあるが、新しいバイトを見つけたりしなきゃいけない。
でも、今は時間が少し空いているから、久しぶりにこの家を
そう考えた俺は、すぐに
それに、おじいちゃんの家は結構広いので、こういう機会がないと全部の部屋を掃除するのは難しいのだ。
……いや、分かってる。これが、現実から
暗い気持ちのまま、バケツの水を
細く小さい目。小さく鼻の穴が大きい
分厚い唇に歯並びの悪い口。
髪が
これが、俺の顔。
両親にも、あの
それを見て、俺の中に
「あ……あああ……あああああああああああああああああっ!」
何度も何度も鏡を殴りつける。
必死に目の前の存在を消そうと、俺は手から血が出ようが構わず殴り続けた。
そして、バケツを大きく
「はぁ……はぁ……」
鏡が割れたことで、少し落ち着くことができたが、俺の中のモヤモヤは晴れなかった。
床には、鏡の
……どんなに
できることなら整形したかった。
でも、お金がない俺には、どうすることもできない。
生活費を
暗い現実を見て、俺の心は
────俺はいったい、何になりたいんだろう。
今の俺に、未来は見えない。就職もまともにできないだろう。
だからこそ、今を生きるので必死で将来何になりたいかとか、そんな夢を考えたことがなかった。
夢……夢か……どうせ夢を
今の俺に、夢を
「クソッ!」
自分の無力さに
「え……!?」
「な……なんだ、これ……」
今までおじいちゃんの家で生活してきて、こんな部屋は見たことがない。
「どうしてこんな部屋が……」
「ここは……」
するとそこは、おじいちゃんが世界中を飛び回って収集したであろう品々が置かれている部屋だった。
おじいちゃんは世界中を飛び回ってはお
だからこんな隠し部屋のような場所にその品々が置かれていることに本当に
「な、なんなんだ? いったい……」
今まで感じたことのない感覚に
すると、昔おじいちゃんに見せてもらった物や、完全に初見の物など、様々な品が目に入った。
「……何だ? あのお面。鬼神みたいで
鬼神のような面や、俺より大きいマネキンみたいな物。
他にも、バスケットボールサイズの赤色の立方体や、どういう原理なのかは分からないが、台座の上でくるくると回りながら
中には、エジプトのファラオが入っているような
周囲の品々を
その感覚に導かれるように、さらに中を進んでいく。
……これ全部おじいちゃんが集めたんだよな……。
昔はよくおじいちゃんが
おじいちゃんが集めた物だが、
「これ、どうしよう……ん?」
この品々に
それは、まるで壁から
木製の扉で、大きなフクロウが
「これも持って帰って来たのかな……?」
この扉を?
もし持って帰って来たのだとすると、どこの扉よ。
まあ、扉だけなので、開いたところで後ろの壁が見えるだけだろう。
だが、俺はその扉を見た瞬間、今まで感じていた奇妙な感覚が強くなった。
「まさか……あの扉か?」
目の前の扉に俺は見覚えはない。
だが、俺の目と意識はその扉に
この扉こそが、俺を呼んでいるモノの正体なのだろうか……。
「あの扉に何かあるのか?」
そう思いながら、扉のノブに手を伸ばし、開いてみると────。
「…………え?」
そこは、見慣れない部屋だった。
ログハウスのような内装で、木製の大きなテーブルと
「え? は?」
意味の分からない状況に、俺の頭はパンク寸前だった。
すると、不意に目の前に
「うわあっ!?」
あまりにも
だが、半透明の板も、その状態の俺の目線の高さまで移動している。
「な、なんだよ、これ……」
『スキル【
「え?」
そこには、まるでゲームのメッセージのような物が表示されていた。
か、鑑定? 忍耐? それに、異世界って……。
取りあえず、起き上がった俺は、一度自分の家に
「や、やっぱりどこにも
扉の裏側を確認したりするが、俺の家の壁があるだけ。
なのに、扉の先には見慣れないログハウス風な部屋が広がっているのだ。
「マジで何なんだよ……」
この扉って一体……。
そう思った瞬間、いつの間にか消えていた半透明な板が、再び出現した。
【異世界への扉】……
何と、扉の正体がいきなり分かったのだ。
いや、分かったのはいいけどメチャクチャな内容だな!?
ここまで来て、俺はようやく冷静になり、一つの答えに
「もしかして……スキルの【鑑定】ってやつか?」
いや、でも……ここはログハウス風の部屋のなかじゃなく、俺の部屋なのだ。
……待てよ? なのに、なんで目の前にこのよく分からない板が出現するんだ?
「……考えてもよく分からないけど……これ、スキルとか確認できないのかな?」
思わずそう
【鑑定】……様々なモノを鑑定するスキル。
【忍耐】……状態異常や精神
「……本当に出てきたよ」
これで分かったが、さっきの扉を調べられたのは、この【鑑定】というスキルのおかげだろう。
それにしても……ますます現実
「これなら、称号とかも調べられるか?」
ほぼ確信を抱きながらそう呟くと、案の定メッセージが出現した。
【扉の主】……異世界への扉の主。メニュー機能を使用することができる。
【家の主】……かつて、
【異世界人】……異世界の人。
【初めて異世界を訪れた者】……初めて異世界を訪れた者。別の称号である【
「おぉ」
よく分からないが、何となくすごそうだった。
【初めて異世界を訪れた者】に至っては、別の称号である【開拓者】とやらより
それに、【家の主】という称号の部分もよく分からない。どの家のことだ?
そんな感想を抱いていると、【扉の主】の説明に書かれた、メニュー機能という部分に気づいた。
「メニュー機能? これは一体……ってうわっ!?」
また、別のメッセージが目の前に表示される。
そこには……。
【異世界への扉】
所有者:
機能:《
と書かれていた。
「換金? 何かをお金に
【換金】……あらゆる物をお金に変換できる。
【転送】……所有者の現在置に、扉を出現させることができる。
【入場制限】……所有者の指定した人物のみ、扉を通ることができる。
「予想以上に高性能だな!?」
つまり、仮に
さらに言えば、この扉を
「換金は正直何に使うのか分からないけど、まああっても損はないし、今はいいか」
そんなことより、ここまでゲームみたいな展開なら、ステータスとかあるんじゃないか?
ワクワクしながらそう思うと、目の前に新たなメッセージが表示された。
【天上優夜】
職業:なし、レベル:1、魔力:1、
スキル:《鑑定》《忍耐》《アイテムボックス》
称号:《扉の主》《家の主》《異世界人》《初めて異世界を訪れた者》
絶望した。
まさか、ステータスがオール1だなんて……学校の成績でさえ、ここまで
まあ、何となく分かってたことだけどね。
それより、このBPってなんだ?
【アイテムボックス】もなぜかスキルの
【BP】……ボーナスポイントの略。レベルアップ時に、10ポイントもらうことができ、好きなステータスに割り
【アイテムボックス】……特殊な空間を出現させ、好きなだけ物を出し入れすることができる。ただし、生物を収納することはできない。容量の限界はなく、大きさも問わない。
「……おぉ」
取りあえず、ステータスにポイントを割り振ることができて、なおかつ俺の場合はお得だということが分かった。
【アイテムボックス】も、ゲームみたいな機能だと思えば、理解はできる。
さて、ここまで確認できたわけだが、あと確認しなきゃいけないことと言えば……。
「あの部屋……だよなぁ……」
さっきは誰もいなかったが、よく考えれば不法
それで相手が
【家の主】という、よく分からない称号も手に入ったが、確認してみないことにはなんとも……。
幸い、俺以外は
「……もう一度、見てみるか」
そう決めて、俺は再びあの部屋に行くのだった。