第一章 異世界へ(3)
あれから、外に散らかした武器を片付けようとして、【アイテムボックス】というスキルを手に入れていたことを思い出し、それを使ってみることに。
だが、いざ使ってみようとしたところで、どうすればスキルを発動できるのか分からず、取りあえず心の中で【アイテムボックス】と唱えると、俺の目の前に真っ黒い空間が出現した。
そして、一度空間を消滅させ、再び出現させた後、その空間に
それからの行動は早く、
もちろん、出し入れが自由であることは確認済みだ。地球でも出せたのは驚いたけどな。
そんな確認を一通り終えたあと、精神的に
夢じゃ……ないんだなぁ……。
思わず遠い目をしていると、不意にお
時計を確認すると、ちょうどお昼時だった。
そう言えば……あの扉の向こうも、こっちと同じ時間の流れっぽい。俺としてはありがたいけど。
空腹を満たすために家の冷蔵庫を開けるも、中は空っぽだった。
「うわ……買い出しに行こうと思いながらも行ってなかったからなぁ……」
非常に
外に出ると、まだ春先だというのに強い日差しに
うん……デブの
もうすでにバテながらも、何とか近くのコンビニまで
「なぁなぁ、いいじゃんよ。俺たちとお茶しようぜ?」
「ですから、何度もお断りしているじゃないですか! 帰らせてください!」
「そう言わずにさぁ~」
派手な格好をした男たちが、俺と同い年くらいの少女に
俺の来たコンビニは、人通りの多い場所とはいえ、
少女は嫌がっており、何とか男たちから
周囲を見てみると、人はいるものの、誰もが見て見ぬふりをしていた。
すると、男の一人がついに少女の
「ほらほら、行こうぜ」
「
「イヤッ! 放してください!」
「あ、あの!」
「……あ?」
その視線は、非常に
…………正直な話、すごく
でも、おじいちゃんがいたら、迷わず助けに行ってただろう。
おじいちゃんは、人が困ってたら迷わず助けるような人だったからな。
たとえ周りから
そう思ったら、俺の口は自然と動いていた。
「んだよ、デブ。俺らに用でもあんのか? あぁ!?」
「ひっ! い、いえ……あの……その……い、嫌がってると思うんですけど……」
「はぁ?」
俺の言葉が気に
「なめてんのか? テメェ」
「いや、そういうわけじゃ……」
「ごちゃごちゃうるせぇんだよっ!」
「ぎゃっ!?」
男の一人が、
あまりの痛さに転がると、男たちはそれだけで終わらず、俺の体中を
「俺らのやることに口出しすんじゃねぇよ……このクソがっ!」
「きめぇんだよっ!」
「死ねやオラァ!」
顔、胸、腹。
男たちの鋭い蹴りが突き
すると、散々俺をボコボコにしてきた男たちは、突然暴行をやめ、
「おい、サツが来たぞ!」
「はぁ!? ふざけんじゃねぇ!」
「
どうやら、誰かが警察に通報してくれたらしく、男たちはその場から走り去っていった。
体中が激しく痛むが、
……ああ、こんなところで日ごろの
とも思ったが、ちょっとおかしい。
今までの俺なら、こういうときすぐに意識を持っていかれてたはずなのに、今はギリギリとはいえ、意識をつなぎ留められている。
……もしかしなくても、スキルの【忍耐】が発動しているんだろうか?
【鑑定】が家で使えた時点で分かってたことだけど、地球でもスキルって働くんだなぁなんて思っていると、さっきまでナンパされていた少女が
「大丈夫ですか!? すぐに救急車を……!」
「だ、大丈夫です……大丈夫ですから……き、救急車はいいです……」
「で、ですが……」
「いえ、本当に……大丈夫なんで……」
こんな
「いっ……」
「どうぞ、私の
「い、いえ、大丈夫です……大丈夫ですから……」
「で、ですが……」
「本当に大丈夫ですから……それよりも災難でしたね。これからは気を付けてください」
本心は分からないが、俺のことを心配してくれている少女から俺は
先ほど男に
まあ、男としてどころか、人間としてさえ認めてもらっていないなら、関係ないかもしれないけど。
そう
警察官は、女性二人と男性一人で、これなら少女も安心だろう。
「さっき、通報があって来たのですが……」
「あ、私が男の人たちに絡まれていて、困っていたところをこの人に助けてもらったんです! それで……」
少女が
ちょっとした事情聴取を受けた後、警察官は少女を家まで送っていくことになったようだ。
そして、俺の方に向き直る。
「君も送ろう。家はどっちだい?」
「い、いえ、大丈夫です……自分は、ここで買い物するために来たので……」
「そうか……では、気を付けてね」
警察官たちが、少女を連れて行こうとすると、不意に少女は俺の方を向いて、頭を下げた。
「この
「え? あ、いや、気にしないでください……結局、俺は何もできませんでしたし」
「そんなことありません! 事実、私はとても
「き、気にしないでください。……じゃ、じゃあ、これで……」
……少女の顔を、俺はまったく見られなかった。
そもそも、俺は女性と話すことなんてまずないし、話したとしても、それは一方的に浴びせられる
そんな経験をずっと続けたせいで、俺の女性に対する
だが、少女は形だけかもしれないが、俺のことを心配してくれたのだ。
いい子そうだったが……ああいう子には、幸せになってもらいたいものだ。
そう思いながら、俺はコンビニで目的の物を買う前に、もう少し足をのばしてスーパーで食材などを買って、その帰りに再びコンビニに寄り、俺はやっと家に帰るのだった。
***
昼食を終え、家の中の
そして、そのまま部屋の外に出ると、改めて庭を
「やっぱり広いなぁ……これ全部が俺のモノになったとか、
いや、この庭や家だけでなく、そもそもここが異世界であること自体が不思議で仕方がないのだ。
だが、【
そんな風に思いながら、辺りを見渡していると、不意に
体が
体中から汗が
すると、柵の外と庭の境目である入り口に、俺を襲った悪寒の正体が存在していた。
「ハァ……ハァ……!」
「…………」
まるで
デブである俺の
顔は
鋭い視線で
【ブラッディ・オーガ】
レベル:300、
わけが分からねぇ。
何だよ、このふざけたステータス。こっちはオール1だぞ。
そもそも、レベル1相手にレベル300ってオカシイだろ!?
それにブラッディ・オーガって……俺を
相手の
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
「ひっ!?」
とんでもない声量に俺は
その際、ちびりそうになったのだが、俺の極小のプライドがそれを防いだ。
だが、腰が抜けて動けないのには変わりなく、ブラッディ・オーガは、俺めがけて
それを見た瞬間、俺はもうダメだと思った。
だが────。
「ガアッ!?」
ブラッディ・オーガは、まるで見えない
「あ……」
そうだ……この家には、俺以外の存在は入れないんだった!
今さらそのことを思い出した俺だが、それで俺が何かできるかと言われれば、そういうわけでもない。
現に、ブラッディ・オーガは、敷地に入ろうと、
「ガアアアアアアアアアアアッ!」
しかし、俺が何もできないように、ブラッディ・オーガもこの家には何もできず、無意味な攻撃を続けていた。何というか、このまま放置してもまったく問題なさそうだな。
そんな風に、少し気を
そして、軽々とその木を引っこ抜くと、家めがけて投げつけてきたのだ。
「え? え!? う、うわああああああああああああっ!」
生物はダメでも、それ以外のモノなら
……これ、本当にこの家には何もすることができないんだな。
なんせ、直接間接両方の攻撃を無効化されるわけなのだ。
ともかく、ブラッディ・オーガの
たとえ襲われないとわかっていても、精神衛生上非常によろしくない。
どうにかできないか……。
そう思ったとき、俺はある疑問を
「……こっちからの攻撃は通るのか?」
そう、外からの攻撃は
その疑問を解消すべく、俺は【アイテムボックス】から【
なぜ【無弓】ではなく、【絶槍】を取り出したかというと、
それに比べ、【絶槍】も重たくて、とてもじゃないがブラッディ・オーガまで投げ飛ばせないが、この
その
というわけで……。
「……投げてみるか?」
俺は、一種の実験として、目の前で攻撃を続けるブラッディ・オーガに【絶槍】を投げることにした。
生物に殺傷能力のある武器を投げつけるという、普段の俺なら絶対にしない
「…………よし」
俺は
【絶槍】は、
だが、その分とても使いやすく、
それでも重たいことに変わりはなく、俺は体をよろめかせながら、何とか投げることに成功した。
「お……りゃぁっ!」
「ガアッ!?」
すると、ブラッディ・オーガは、【絶槍】から放たれる
俺も全力で投げたとはいえ、あまりの重さに数センチも飛ばないようなショボい
ブラッディ・オーガも、そのことを瞬時に理解し、すぐに警戒を解いたが……。
「ガ、ガァ!?」
【絶槍】は、俺の力なんて関係ねぇと言わんばかりに、一瞬にしてブラッディ・オーガにまで
「ガ……ガ……」
ブラッディ・オーガは、まるで理解できていない様子で、目を見開いた状態で胸に大きな穴をあけてその場に
「や、やった……」
本当なら、今の言葉はフラグになりかねないんだろうが、その心配はなく、ブラッディ・オーガは光の
俺は思わずその場にへたり込む。
「は、ははは……」
生きているという実感と、生物を殺したという実感。
その二つが混ざり合い、俺は
だが、生物を殺したにもかかわらず、思ったほどのショックは受けなかった。手に伝わる
しばらくの間、その場で
……動きたいが、足に力が入らねぇ。
情けないことに、腰が抜けた上に
そんな状態でいると、不意に目の前にメッセージが出現した。
『レベルが上がりました』
「へ?」
俺は、再び呆然とするのだった。