異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する 11 ~レベルアップは人生を変えた~

第一章 学園祭準備(2)

   ***


 学園祭で執事&メイド喫茶をすることが決定した後は、通常の授業が行われ、昼休み。

 いつも通り亮たちと食堂で食事をしていると、亮がとある提案をしてきた。

「なあ、バンドやらねぇか?」

「バンド?」

「も、もしかして、学園祭で?」

 俺が首をかしげる中、慎吾君は亮の意図を察したようで、目を見開いている。

「ああ。優夜は知らないかもしれないけど、学園祭での出し物はクラスだけじゃなくて、生徒同士のグループでもできるんだ。中には部活単位で参加してるところもあるぞ」

「ぼ、僕のゲーム部は、毎年おすすめのゲームをまとめた本とか、オリジナルゲームを販売したりしてるよ」

「そんなマーケットみたいなこともしてるの!?」

 まさかそこまでできるとは思ってもいなかった。これ、高校生の学園祭というより、大学とかの学園祭が近いんじゃないか?

「っていうか、慎吾君、オリジナルゲームなんて作れるんだね!」

「ま、まあ本当に簡単なものだけどね」

「おいおい、そんな謙遜すんなよ! 去年も買わせてもらったけど、アレめちゃくちゃ面白かったぞ!」

「そ、そうかな? ありがとう」

 亮の言葉に照れ臭そうに笑う慎吾君。

 すごいな……俺も慎吾君が作ったゲームやってみたいけど、もし何か機械が必要なら買わないとなぁ。

「っと……話がれたが、とにかく有志でも何らかの形で出し物ができるんだよ。それで、せっかくだから俺たちでバンドでも組んで、体育館で演奏しようぜってな」

「なるほど……でも俺、楽器なんてできないよ?」

「ぼ、僕も……」

「そんなのいいんだよ! 俺もできねーし」

「あ、亮もできないのね!?」

 てっきりこんな提案をしてくるくらいだから、亮は何らかの楽器が演奏できるのかと思っていたが、違うらしい。

 すると、亮は楽しそうに笑う。

「下手くそかもしれないけど、こういう機会だからこそ、やってみるのもいいんじゃねぇか? 何事も経験だって!」

「経験か……」

 この学校に入る時、理事長のつかささんにも色々と挑戦するといいって言われたっけ……。

 ふとその時のことを思い返しつつ、不意に慎吾君と目が合うと、お互いに笑った。

「そう、だね……興味はあるかも」

「ぼ、僕も! 正直、ダメダメかもしれないけど……やってみたいかな」

「それじゃ決まりだな! 楽器は持ってるなら自前でもいいし、なくてもステージに出るなら学校が貸してくれるはずだからよ。もし大丈夫なら今日から練習しようぜ!」

 こうして俺は、学園祭で亮たちとバンドを組むことになるのだった。

 そこでふと、俺はあることを思いだす。

「そういえば、学園祭には毎年有名なアーティストが来るんだよね? 今年は誰が来るの?」

「そ、それは、当日になるまで分からないんだ」

「そうそう! そのアーティストが誰なのか、予想するのも楽しいよなー」

 なるほど……俺はアーティストに限らず、芸能系にはうといのだが、純粋に楽しみだ。

 ひとまず、学園祭の準備を頑張ろう!


   ***


「うーん……いざバンドを組むことになったけど……大丈夫かなぁ」

「わふ?」

 亮の誘いでバンドを組むことになった俺は、少しでも体がなまらないように大魔境だいまきょうを探索していた。

 ただ、そこまで本格的に探索するつもりはないので、一緒にいるのはナイトだけだ。

「まだどんな曲を演奏するかも決まってないからなぁ……」

 まあ俺はそれ以前に音楽の経験がないわけだが……。

 それこそ俺の音楽の経験なんて、学校の授業の程度だ。知ってる曲もほとんどない。

「やるからにはしっかり練習しないとな」

 俺が下手で笑われるのはいいが、それで亮たちに迷惑が掛かるのだけは嫌だからな。

「! わふ」

「そういえば、ボーカルは誰がやるんだろう? まあ俺ってことはないだろうけど……。よくよく考えれば授業で合唱の経験はあっても、一人で歌ったことってなかったな……実際、俺って歌えるのか?」

 合唱は皆で歌うので、正直俺の歌の上手さがどうとか、まったく分からない。

 それこそ飛びぬけて上手うまければ、合唱の中でも際立きわだって聞こえるだろうが、生憎あいにく俺はそんな歌声を持ち合わせていない。

 つまり、俺が音痴なのかどうかさえ不明なのだ。

「わふ!」

「特に授業で怒られたことはないから、極端に音痴ってことはないだろうけど……実際、どうなんだろう?」

 そんなことを考えながら、俺は知っている曲をふと口ずさむ。

 それは、森の中で熊に出会うという内容の歌だった。

「~♪」

「ウォン!」

「グルゥ?」

「へ?」

 歌についてあれこれ考えながら歩いていると、ナイトが強くえた。

 その声でようやく正気に返った俺だったが……目の前にはデビルベアーの姿が。

「「……」」

 見つめ合う俺たち。

 そして――――。

「グオオオオオオオオオ!」

「うわあああああ!?」

「わふぅ……」

 熊が出てくる歌を唄ってたら、本当に熊と遭遇したよ!

 完全に考えることに没頭して、デビルベアーに気づかなかった俺のことを、隣でナイトが何とも言えない表情で見上げていた。め、面目ない……。

 とにかくこの状況を脱しないといけないので、俺はすぐさま【全剣ぜんけん】を取り出すと、正眼せいがんに構える。

 そして――――。

「ガアアアアアア!」

 勢いよく突っ込んでくるデビルベアーを冷静に見つめ、俺は賢者さんの教えを思い出しながら剣を振り下ろした。

 俺が剣を振り下ろす直前、危険を察知したデビルベアーは避けようとしたものの、俺の攻撃の方が一段速く、そのまま一刀両断されると、デビルベアーはドロップアイテムを落として消えていった。

「ふぅ……あ、危なかった……」

「わふ。わん」

 ナイトは気を付けてと言わんばかりに俺の足をたたく。

「ご、ごめん。こんな考え事しながらは危ないよな」

「わん!」

 最近は賢者さんや虚竜きょりゅうのようなとんでもない存在と戦ってきたからか、大魔境の魔物ならまだ大丈夫だという油断が生まれていたのだろう。

 俺はそんな余裕を持てるほど強いわけでもないのに、強くなった気でいたのだ。

 これは気を付けないとな……。

 ドロップアイテムを回収していた俺は、そこでふとあることを思いだした。

「今回は手に入らなかったけど、前にデビルベアーと戦った時は【炎のギター】ってアイテムを手に入れたんだっけ。もしかしたら、あれ、使えるのかなぁ?」

 まだ何をするかも具体的なことは決まっていなかったが、楽器を使うとなれば【炎のギター】を使う可能性が出てくるかもしれない。ただ、異世界のアイテムなので、地球のアンプにつなげられるのかとか、そこら辺は確認しないといけないだろうけど……今までのドロップアイテムの傾向を見てると、そんなことくらいはできても驚かない。なんせ風呂ふろが携帯できるくらいだからね!

 デビルベアーのドロップアイテムを回収し終えた俺は、気合を入れ直す意味で頬を叩いた。

「さてと……ごめん、ナイト。もう油断しないよ」

「わふ」

 ナイトは満足げにうなずくと、再び警戒した様子で森の奥の方に視線を向けた。

 ……こうしてナイトを見ていると、ますます自分が不甲斐ふがいなく思えてくるな。

 ナイトは油断せず周りを見渡しているのに、俺ときたら……。

 反省は後にして、俺も警戒しながら探索を再開した。

 さっきまでは考え事に集中しすぎて気づかなかったが、デビルベアーとも遭遇したように、大魔境の生態系も徐々に戻り始めているようだ。

 アヴィスの攻撃で消し飛んだ大魔境だったが、やはりそこで暮らす魔物たちの生命力は桁違いだな。

「ん?」

 周囲を警戒しながら進んでいると、今まで大魔境で感じたことのない気配を察知した。

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