異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する 6 ~レベルアップは人生を変えた~

第一章 『剣聖』(3)

『……さて、ユウヤが【邪】の力を使いこなすのにどれほど時間がかかるかな』

 優夜がウサギと修行を始めた頃、地球の家で昼寝をしていたオーマは、片目を開け、そう呟いた。

『まったく……【聖】だの【邪】だのくだらぬ。余計な力を手に入れたことで、それを扱うための修行とは……ユウヤも難儀だな』

「わふ?」

 すると、同じように地球の家で休んでいたナイトが、オーマの呟きに対して首を傾げた。

『この【チキュウ】という……【聖】も【邪】もいない世界にいながら、別の世界でそれらに巻き込まれるユウヤが不憫だという話だ』

「わふぅ……ワン」

 ナイトは少し考える仕草をしたのち、オーマの言葉に対して肯定するように頷いた。

『ナイトもそう思うか。【邪】も面倒な存在よな。世界の覇権を握るために攻撃を仕掛けるとは……いっそ、星ごと滅ぼそうか』

「ワン」

 ナイトがそれはダメだと言わんばかりに強く吠えると、オーマは面倒くさそうにため息を吐いた。

『そう怒るな。冗談だ。そんなことはユウヤも望まぬだろうし……何より、ヤツもそれは願っておらんだろうな』

 オーマはそう言いながら、もうこの世にはいない賢者を思い、遠くを見つめた。

 すると、そんな暗い話をしている横で、腹を見せて寝ていたアカツキが目を覚ました。

「ふご……ふご?」

『ん? アカツキも目覚めたか』

「ふご……ぶひ。ぶひ……」

 アカツキは目覚め、そのまま起き上がるかと思えば、家に優夜がいないことに気づき、そのまま二度寝を始めた。

『……コイツは本当にマイペースだな。ユウヤもアカツキを多少見習った方がいいのではないか?』

「わ、わふぅ……」

 オーマの言葉に、ナイトは何とも言えなかった。

『まあ良い。ユウヤも修行を始めたことだし、我ももうひと眠り――――』

 オーマがそこまで言いかけた瞬間だった。

『――――ん?』

「わふ?」

 突然、不可解な表情で体を起こし、地球の家の玄関の方を見つめるオーマ。

 その目は、玄関というより、地球という世界に向けられているようだった。

 そんなオーマの様子に、ナイトが不思議そうに首を傾げる。

『ナイトは気づかなかったのか?』

「わふ……」

『……ふむ。まあ、今のナイトでは厳しいか。成長すれば、分かるのだろうが……』

 オーマはそう言いながら、地球へと意識を向ける。

『(……微かにだが、この【チキュウ】とやらから【邪】の気配を感じた……まあ【邪】そのものの力ではなさそうだが……ともかく、そんな存在がこの星にいるのはおかしい。今までもこんな気配は感じたことがなかった訳だからな)』

 なんと、オーマは地球から微かに『邪』の気配を感じ取っていた。

 何故、地球から『邪』の気配がするのか。また、どこから『邪』の気配が発生したのか……それは、一瞬の出来事だったため、オーマにも分からなかった。

『(気のせい……ではないはずだ。微かとはいえ、確実に感じた。だが、今はその気配が綺麗に消えている……ふむ。分からん)』

 あれこれ考えるも、地球にはドラゴンがいないため、家の外に出てはいけないとユウヤから言われているオーマには確かめる術がなかった。

『まったく、こういう時に不便だ。いっそユウヤに黙って出かけるか?』

「わふ!? ウォン!」

 オーマの言葉に驚いたナイトが、慌てて止めにかかると、オーマはため息を吐いた。

『はあ……冗談だ、冗談。さすがにそのようなことはせんよ。とはいえ、我が外に出たいという気持ちも察してほしいところだがな』

「わ、わふぅ」

 ナイトとは違い、オーマが地球を自由に出歩けないことを知っているため、ナイトもそれ以上は何も言うことができなかった。

 別にナイトが悪いわけではないのだが、ついションボリとしているナイトに対して、オーマは苦笑いを浮かべた。

『(まったく……この我と並ぶ伝説の種族、ブラック・フェンリルだというのに、ずいぶんと素直で可愛いものだ。しかし……地球から【邪】の気配がしたことをユウヤに伝えるべきか?)』

 オーマがそう考えた瞬間だった。

 ボーン、ボーン。

『む! 飯の時間か!』

 ちょうどお昼を告げる時計が鳴り、オーマの意識は一気に昼食へと向かった。

 地球を見て回れないオーマにとって、食事は数少ない異世界を感じることのできるものの一つであり、だからこそ、オーマは食事の時間を何よりも楽しみにしていた。

 そのため、オーマの頭からは地球で感じた『邪』の気配についての記憶がすっかり抜けてしまった。

 優夜からすると大問題ではあるのだが、オーマの感覚で考えると、【邪】がどこに現れようとも問題なく、それ以上に食事への興味があっただ。

 これこそが、優夜と絶対強者であることの感覚のずれだった。

『ふむ。今日の飯は何であろうな? 久しぶりにカレーも食べたいな』

 オーマはそう言うと、ウキウキとした様子で優夜に食事の催促に向かった。

 ――――この結果が、優夜にとってどう影響するのか……それはまだ、誰にも分からなかった。


       ***


 ウサギ師匠とユティに手伝ってもらいながら、『邪』の修行を始めて数日が経った。

 確かにクロの言う通り、『邪』の力を解放することはできたが、思うように出力調整というか、力加減が難しかった。

 『邪』の力を解放すると、確かにステータスが上昇し、とんでもない威力の攻撃を繰り出すことができた。

 だが、あまりにも威力が強すぎて、俺自身その力に振り回されるし、ユティと初めて会った時のように街中で戦闘するようなことがあれば、周囲への被害がとんでもないことになる。

 それに、『邪』の力は長時間解放することもできず、組手の修行中に突然『邪』の力が切れて、いきなり普通の状態で組手をすることになったりもした。

 ……『邪』の力があるときは、ウサギ師匠とも戦えてたのに、力が切れたとたんにボコボコにされちゃったからね。

 ちなみに、ウサギ師匠は俺と組手をする際、俺の力が『邪』そのものということもあり、ステータスが二倍になるのか訊いたら、そこは調整できるとのことで、俺との組手の時は半減もしくは通常のステータスで戦ってもらった。

 それでもボコボコにされたのは、純粋にレベルの差が大きく、元々ステータスが大きく開いているからだ。

 そして今も、『邪』の力を駆使しながら、ウサギ師匠と組手をしていた。

「ハッ!」

《フン!》

 『邪』の力を纏った俺の蹴りは、まるで柳のようにウサギ師匠の蹴りで受け流され、そのまま反撃される。

 ちなみに、『邪』の力を使った俺の姿は、体から『邪』の黒いオーラが溢れ、瞳が赤く変化しているらしい。

『おいおい、受けられてんじゃねぇか』

「分かってるよ!」

 そして、『邪』の力を使う際、クロに協力してもらい、俺の中にある『邪』の力をクロが制御することで、何とかコントロールできるようになっていた。

 てか、やっぱりウサギ師匠はとんでもないな……こっちの攻撃が悉く受け流される!

 ただ、俺もそんなウサギ師匠の動きを見ていることで、その技術を少しずつ取り入れることができていた。

 よく分からないが、最近よくウサギ師匠やユティの動きが目でしっかりと捉えられるようになったのだ。なんでだろう?

 そんな組手を続けていると、俺はふと何か大切なことを忘れているような気がした。

 あれ? 何だろう?

 すると、そんな俺の様子を察したウサギ師匠が、さらに攻撃を激しくした。

《修行中に考え事とは言い度胸だな……!》

「へ? あ、その……うわっ!?」

 ウサギ師匠の攻撃を捌きながらも、俺の意識はやはりその忘れている何かを思い出そうと必死になっていた・

 何だ……何を忘れているんだ?

 こうして必死に頭を働かせていると、俺はついにその忘れていることを思い出した!

「あ……あああああ! もうすぐ定期テストがあるんだったああああ!」

 完全に頭から抜けてたよね! 予習復習は毎日してるけど……。

「や、ヤバい! テスト勉強しないと……!」

《修行に集中しろ》

「で、でも、テスト勉強しないと修行にも集中でき――――」

《うるさい》

「ぐへ!?」

 ついに俺はウサギ師匠の攻撃を受けてしまい、そのまま吹き飛ばされる。

「べ……勉強しなきゃ……」

 最後にそう言うと、俺は意識を失う。

 ――――こんな感じで順調……と言えるかは分からないが、『邪』の力を扱うための修行は続いていくのだった。


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試し読みは以上です。


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でお楽しみください!


※本ページ内の文章は制作中のものです。実際の商品と一部異なる場合があります。

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