異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する 6 ~レベルアップは人生を変えた~

第一章 『剣聖』(2)

 『拳聖』の襲撃の後、ウサギ師匠はアカツキの【聖域】スキルのおかげもあり、無事傷を癒すことができた。

 だが、失った体力は簡単には戻らないため、俺との修行はお休みで、ウサギ師匠はどこかで休養していた。

 とはいえ、普段からしている修行をサボるわけにもいかないので、ユティやナイトに手伝ってもらったりして、自分なりの修行を続けていた。

 本当なら、オーマさんにも手伝ってもらいたいんだが、そもそもオーマさんと俺とでは実力差がありすぎるため、俺の修行にならないし、何よりオーマさんは面倒くさがって手伝ってくれない。

 修行の相手とまではいわないから、せめてどこが悪いとかのアドバイスをもらえればよかったんだけど……強要するのもよくないしな。

 そんな感じで『拳聖』の襲撃から落ち着きつつ、学校と両立した日々を送っていると、久しぶりにウサギ師匠が俺のもとを訪れた。

《久しぶりだな》

「あ、ウサギ師匠! お久しぶりです。大丈夫ですか?」

《問題ない。元々傷は癒えていたからな。あとはゆっくり休み、体力を戻すだけで済んだ》

「それならいいんですけど……」

 そうあっさりと体力が戻るものなのかと心配していると、ユティも異世界の庭に出てきた。

「心配無用。『聖』は、そこまで弱くない。何より、星からの供給がある」

「ほ、星からの供給?」

 何だかんだ『聖』や『邪』に関わってきた俺だが、ここに来て、また知らない能力らしきものがあることをユティの言葉から察した。いや、俺としては関わることなく平穏に過ごしたいんだけどさ。

 もちろん、ウサギ師匠と出会った当初、『聖』という称号が星から与えられるものだって説明を受けたのは覚えている。

 すると、ユティの言葉にウサギ師匠は頷く。

《ああ。お前と出会った時にも軽く話したが、俺たち『聖』は、星から選ばれ、称号を与えられる。そして、選ばれた『聖』は、後継者を育てる義務があり、その後継者に称号を受け継がせることで、『聖』は続いていく……まあ、中には後継者を見つけず、そのまま消えていったヤツもいる。それこそ、この間お前が相手にしたギルバート……『拳聖』には、弟子がいないからな》

「そ、それじゃあ次の『拳聖』は出てこないんですか?」

《いや。空白となった『拳聖』は、改めて星が選出し、その者に称号が与えられるはずだ。今すぐに選出されるかは分からんがな》

「な、なるほど……」

 ウサギ師匠の言葉に俺が頷くと、ウサギ師匠は続けた。

《ここまで話して分かる通り、俺たち『聖』と星は、密接な関係にある。例えば、俺たちは星からの支援というか……特別な恩恵を受けている。それこそ、他の生物より、体力などが回復するのが早いのも一つの恩恵だ。星としては、『邪』を俺たち『聖』に倒してもらわなければならないからな。だから、俺の体力は心配せずとも元に戻っている》

「そうですか……」

 ひとまずウサギ師匠の言葉に一安心した俺だったが、俺はふとあることに気づいた。

「……あれ? そうなると、あの襲ってきた『拳聖』や、ユティってどういう存在になるんですか? ユティはまだ『弓聖』になってはいないとはいえ、『邪』の力を持ってましたし、『拳聖』に至っては、『聖』の力と『邪』の力の両方を持ってましたよね? 星としては、この状況って不味くないですか?」

 俺の純粋な疑問に、ウサギ師匠は苦々しい表情を浮かべた。

《……お前の指摘は正しい。この状況は、星にとって危険だ。『邪』に対抗するために生み出された『聖』が、星や人類に牙をむくわけだからな》

「なら、『聖』の称号って星からはく奪されちゃったりしないんですか?」

《それは無理だ。星は与えることこそできるが、奪うことはできない。前に行っただろう? 俺たち『聖』は自浄作用みたいなものだ。そして、『拳聖』のような例は、いわゆるその作用の暴走だ。制御できん》

「ええ……?」

 なんて不便な存在なんだ。

 『聖』っていう、味方なら強力な力だが、敵に回ると厄介極まりない称号を星すらもはく奪できないなんて……。

「……あと、もう一つ気になったんですけど、『邪』と戦うときって『聖』の人はステータスが倍になるんですよね? 『拳聖』とウサギ師匠が戦った時も、ウサギ師匠はステータスが倍になっていたんですか?」

 俺の質問に、ウサギ師匠は疲れた様子でため息を吐いた。

《そうだったのならよかったがな……》

「え?」

《……つまり、俺のステータスは半減されたままだった》

「えええええ!?」

 ウサギ師匠のまさかの発言に、俺は驚きの声を上げた。

 すると、ユティが不思議そうに首を捻る。

「疑問。私と戦った時も?」

《そうだ。俺たち『聖』は、『邪』と戦うときのみ、ステータスが解放される。つまり、戦う対象が同じ『聖』であったり、『邪』の力の一部を手に入れただけの存在では、ステータスは解放されない。俺のステータスが解放できるのは、本物の『邪』と戦うときだけだ》

「……」

 もう、俺は何も言えなかった。

 星から力を供給してもらったりできるとはいえ、中々大変じゃないか……?

 いや、ここまでの制限がないと、それこそ『拳聖』みたいな人間が出てきたとき、ステータスが解放された状態になったりすると手も足も出ないわけだ。

 そして、ウサギ師匠が『拳聖』にやられたのも、ウサギ師匠はステータスが半減しているのに対し、『拳聖』は『邪』の力を扱うことができたってことが大きいんだろう。

 ますます『拳聖』のような、『聖』を冠する存在が『邪』の力を得た状況が多発するとヤバいなと思っていると、ウサギ師匠は俺を真剣な目で見てきた。

《そして、ユウヤ》

「は、はい」

《――――お前は、本物の『邪』の力を手に入れたわけだ》

「へ?」

 まさかの発言に俺が驚いていると、ユティもウサギ師匠の言葉に驚いていた。

「否定。それはおかしい。ユウヤの中にある『邪』の力は、元は私のモノ。つまり、『邪』の力の一部でしかない」

《……俺もそう思っていた。だが、あの時のユウヤから漂う力は、『邪』の一部だけでは説明がつかぬほど、濃密かつ強力だった。完全に『邪』の力が馴染んでいたと言っていい》

「えっと……」

《つまり、俺がかつて対峙した『邪』と同じ質の力だということだ。ユティの時は、『邪』の力が混じっているという感じだったが、お前の場合は全身が『邪』の力で満ちていた》

 一応、『拳聖』が襲撃してきたときのことは、ユティやウサギ師匠から話を聞いていた。

 信じられないが、どうやら『邪』の力を暴走させた俺が、『拳聖』を倒してしまったらしい。そんなことを言われても、その時のことは全く覚えてないし……。

 そして、その暴走した力こそが、『邪』の力そのものらしく、どうやらユティから引き受けた『邪』の力の一部が強大化したらしい。説明されても俺自身はピンときてないんだけどな。

 すると、『拳聖』の襲撃から何の音沙汰もなかった俺の中にいる『邪』の声が、急に聞こえてきた。

『ふわぁ……よく寝たぜぇ……』

「あ!」

「?」

《どうした?》

 俺が声を上げたことで、ユティとウサギ師匠は不思議そうな顔を向ける。

 そこで俺は、たった今、俺の中にいる『邪』が目を覚ましたことを告げると、ウサギ師匠から『拳聖』との戦いのことを訊いてみるように勧められた。

「えっと、おはよう」

『あ? って、おお。くたばってなかったか! ハハハ。って……どうした? よく見りゃ、【蹴聖】の野郎や前の宿主までいるじゃねぇか』

「いや、この間『拳聖』が襲ってきただろ? その時の俺の力が、ユティの時と違って、どうやらお前の力っていうより、『邪』そのものの力だったみたいなんだ。なんか知らないか?」

『ああ、そういうことか……簡単な話だ。テメェの心が白すぎたのが原因だ』

「は?」

 予想外の言葉に、俺は思わずそんな反応をしてしまう。

「し、白すぎたからって……どういうことだ?」

『言っただろ? オレはお前を乗っ取ろうとしたが、お前の心が白すぎて乗っ取る隙が無かった。だが、あの時お前はそこにいる【蹴聖】の野郎が【拳聖】にやられてる姿を見て、怒ったのさ』

「怒った? そりゃああの時は許せなかったけど……」

『その時の怒りは、どす黒く、ユティの復讐心をも遥かに超えるものだったんだよ。その黒い心が、オレすら飲み込んで、お前の中に確かに【邪】の力を生み出しちまったんだ。つまり、お前自身が原因ともいえるな。とはいえ、普通の人間が怒りだけで【邪】を生み出すことはねぇ。そこは、オレの存在が切っ掛けだったってことだな』

「ええ?」

『それに、お前が【邪】に適性がある存在だったってのも大きいだろう。あんな感情を生み出せて、さらに【邪】と適合できるヤツなんてまずいないんだぜ? 大概は、そのまま【邪】に心を飲み込まれて終わりだよ』

「ま、マジかよ……」

 どうやら、俺の中にいる『邪』の力と、俺の怒りが化学反応的なものを引き起こした結果が、完全な『邪』の力の発現だったらしい。それに、俺が『邪』に適合できる存在だったってのも大きいみたいだ。

 ただ、なんで『邪』と適合できたんだろうか?

 そこまで考えて、俺はふと俺が元々持っていた【忍耐】を思い出した。

 まさか、これのスキルの効果なんだろうか?

 そんな俺の説明を聞いたウサギ師匠は、顔をしかめた。

《……厄介なことになったな》

「その……どうすればいいんですかね?」

《どうするも何も、お前はその力を使いこなす以外の選択肢はない。でなければ、俺たち『聖』の討伐対象になるぞ?》

「ええ!? そ、それは困ります!」

 巻き込まれた挙句、討伐されるとか冗談じゃない。

 焦る俺に対し、ウサギ師匠は大きなため息を吐いた。

《はぁ……これからの修行は、お前にその力を使いこなしてもらうためのものになる。その一つとして、お前の内側になる『邪』と対話をしていくのが重要となるが……どうやらそこは大丈夫そうだな》

「まあ、そうですね。なあ?」

『ケッ……お前が勝手にオレに話しかけまくるんだろうが』

 俺に声をかけられた『邪』の力は、そっけない態度でそう言ってきた。

 そんな俺と『邪』の会話をウサギ師匠たちは見ている。まあ、『邪』の力の声は俺にしか聞こえないんだけどね。

「うーん……でも、ウサギ師匠の言う通り、お前と対話をするのなら、お前にも呼び名がいるよな?」

『ああ? 呼び名だあ?』

「うん。だって、毎回『邪』の力って呼ぶのもおかしいだろ?」

 存在としては、俺の内側にある『邪』の力の欠片ではあるんだけど、こうして意思疎通ができる以上、名前がある方がいいと思うんだよな。

 その方が、対話もしやすくなるだろうし……。

「だからさ、俺が名前つけてもいいかな?」

『……ケッ。勝手にしろよ』

 そっけない態度が続くが、拒絶しないのでそこまで嫌がっていないのかもしれないな。

 さて、いざ名前を付けるとなると……あれだな。

 最初に見た時のイメージが強いんだよなぁ。

 あれこれ悩んだ俺だったが、やはり最初のイメージが中々頭から離れず……。

「うーん……『クロ』とかじゃダメかな?」

『はあ? クロぉ?』

「うん。だって、初めて会った時、黒色バージョンのユティだったし」

 俺がそう言うと、なんとユティとウサギ師匠が俺を驚きの目で見てきた。あ、あれ?

「驚愕。安直すぎる」

《……さすがにそれはないだろう》

「そ、そこまで!?」

 ……いや、二人の反応が普通か。安直すぎるし、ただの色じゃん。

「ごめん、やっぱり――――」

『いいぜ、クロで。分かりやすくていいじゃねぇか』

「ええ!? 本当にいいの!?」

『……お前が決めたんだろうが』

 まさか、『邪』の力――――改め、クロが素直に受け入れてくれるとは思わなかった。

 すると、クロは呆れた様子で言う。

『変に仰々しい名前を付けられるよりマシだ。むず痒くなる』

「そ、そういうもんなのか?」

 よく分からずに首を傾げていると、ユティとウサギ師匠が口を開いた。

「提案。名前、『トート・シュヴァルツァ』。これで決まり」

《フッ。小娘は何も分かっていないな。『邪郎丸』がいいに決まっている》

『……クロで大正解だわ』

「そ、そうか」

 ユティとウサギ師匠が提案した名前は、クロはお気に召さなかったらしい。どちらも俺よりは凝ってていいと思うけどな。ユティの名前はどういう意味なのかサッパリ分からないけど。

《フン。いささか不満ではあるが、呼び名が決まったようだな》

「あ、はい」

《では、さっそく修行だ。『邪』の力を解放しろ》

「へ?」

 ウサギ師匠からのまさかの発言に、俺は間抜けな声を出した。

 よく見ると、ユティも驚いている。

「警告。ユウヤの力、危険。迂闊に開放すると……」

《だから、普段から慣らしておくんだ。今は俺だけでなくお前もいる。『拳聖』の襲撃とは状況も違うから、あの時のような完全な解放までは行かないだろう》

「そ、そうなんですかね?」

 俺が首を捻っていると、気怠そうにクロが補足してくれた。

『安心しろよ。オレを受け入れた直後と違って、【邪】の力は多少使えるはずだ。あの時は、オレが切っ掛けとはいえ、お前自身で【邪】を生み出したようなもんだからな。自分で生み出した力なら、自然と体が解放する方法を分かってるはずだ』

「そ、そうなのか……」

『それに、解放って言っても、【邪】のエネルギーになるような負の感情が今お前の中にはねぇからな。暴走もしねぇよ』

 一応、俺の意思で『邪』の力を解放できる上に、暴走する心配もないようだ。

「それなら、修行のお手伝い、よろしくお願いします」

《フン。任せておけ。以前より、厳しく行くぞ》

「お、お手柔らかに……」

 やる気満々のウサギ師匠とユティの手を借りて、俺は本格的に『邪』の力を使いこなすための訓練を始めるのだった。

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