異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する 6 ~レベルアップは人生を変えた~

第一章 『剣聖』(1)

 ――――レガル国の近くに存在する【オールズの森】。

 豊かな自然にあふれ、レガル国に多くの資源と恩恵をもたらしている。

 それと同時にこの森は危険地帯の一つとして、世界中に知られていた。

 ただし、優夜の住む【大魔境】は、この森以上に危険な超危険地帯に指定されているため、【大魔境】よりも危険度は低い。

 だが、この【オールズの森】は、【大魔境】に比べて貴重な資源が多く手に入るため、冒険者などが多く出入りしており、魔物も自然と間引かれているからこそ、近くに人々が住む街があっても安心だった。

 さらに、今のレガル国には今まで以上に安全である理由が一つある。

 それは――――。

「グルルルル……」

「グルアアアア!」

「ガルアアアア!」

「……」

 一人の女性が、数体の魔物に囲まれたまま、佇んでいた。

 桃色の髪のウルフカットに、切れ長のピンク色の瞳。

 強力な魔物の多く生息する【オールズの森】にいながら、その格好はとても軽装であり、白銀の胸当てと漆黒のマント、そして一本の剣だけを差していた。

 女性一人で訪れるにはあまりにも危険な場所であり、現在もこの女性を取り囲んでいるのは、黒色の体毛に、白い縞模様の虎――――B級に指定されている【ブラック・タイガー】の群れだった。

 単体相手なら、B級以上の冒険者であれば、討伐可能ではあるが、今女性を取り囲んでいるブラック・タイガーの数は、十数頭にも及んだ。

 これを討伐するには、普通であればA級冒険者のパーティーか、S級冒険者が必要だった。

 しかし、そんな危険な存在であるブラック・タイガーだったが、目の前にいる一人の女性に対し、異様なまでの警戒心を見せ、攻めあぐねていた。

「グルル……ガアアアアアッ!」

 すると、一頭のブラック・タイガーが痺れを切らし、ついに女性に襲い掛かる。

 キィィン――――。

「ガッ――――」

 だが、次の瞬間……澄んだ金属音が響いた後に、そのブラック・タイガーの首が、胴体からズレ落ち、訳も分からぬまま倒れた。

 仲間がやられたことで、より一層警戒心を高まらせるブラック・タイガーたちだったが、仲間がやられたことへの怒りは収まらず、ついに一斉に女性に襲い掛かった。

「グルアアアアアアアッ!」

「ガアアアアアアアアッ!」

 一般人が耳にすれば、それだけで失神してしまいそうな咆哮に晒され、さらに襲い掛かられているというのに、当の本人である女性は何も変わらない様子で、ただ、そこに佇み続けた。

 そして――――。

 キィィン――――。

「グガ――――」

「ガア――――」

 またも、透き通るような金属音が周囲に響き渡ると、一斉に襲い掛かったブラック・タイガーたちは、空中で首と胴体を引き裂かれ、そのまま倒れ伏した。

「……」

 ブラック・タイガーの群れはそのまま光の粒子となり、その場にドロップアイテムを残す。

 それを襲われていた女性は静かに見つめると、いつの間にか手にしていた剣を鞘に納めた。

「ふぅ……これじゃあ大した修行にはならないわね」

 信じられないようなことを口にする女性こそ、現在レガル国に身を置いている『剣聖』――――イリス・ノウブレードだった。

「……って、こんなこと言ってるからダメなのよねぇ……」

 イリスは、自分の言動と思考に嫌気が差しながら、大きなため息を吐いた。

 それは――――。

「はあ……もう同級生の中で結婚してないのなんて私だけだし……かといって、剣の修行もやめるわけにはいかないし……私、どうすればいいのかしら……」

 なんと、最強と名高い『剣聖』は、自身の婚期に悩んでいた。

 イリスは、物心ついたころから剣に魅入られ、いずれ騎士となるべくその力を磨いていた。

 だが、イリスの生まれたノウブレード家は、公爵の爵位を持つ大貴族であり、イリスの父はイリスが騎士となることを許さなかった。

 そのため、イリスは元々騎士学校を志望していたものの、父の意向により、貴族の息女が通う女学校へと強制的に入学させられた。

 当然、イリスは父に反発したものの、ノウブレード家の権力は大きく、周囲の説得もあり、渋々女子校へと入学する。

「女学院に入学させられたけど、あまり意味なかったのよねぇ」

「ガアアアアッ!?」

 ふと、昔の自分を思い出しながら、イリスは新たに襲い掛かってくる魔物を切り裂いた。

 ただし、やはりイリスは剣を抜いた様子もなく、澄んだ金属音が響くだけである。

 ――――両親としては、女学校に入学することで、淑女としての振る舞いを覚え、いずれ貴族や王族へと嫁ぐための準備をさせるつもりだった。

 非常に整った容姿であるイリスは、入学前から多くの貴族たちから婚約を申し込まれていたが、本人が恋より剣に興味があったこと、そしてイリスが貴族の淑女として求められる振る舞いを一つも身に着けていなかったこともあり、イリスの父はどこの家とも、自分の娘の婚約成立はおろか、お見合いすらもさせることが結局できなかった。

 中にはノウブレード家にとって、大きな繋がりともなる貴族からの申し入れもあったが、未熟なイリスを嫁がせてはかえってノウブレード家の品位や信頼を失うということで、泣く泣く婚約を断ったこともあるほどだった。

「――――グルアッ!?」

「ガ、ガアアア!」

 魔物に襲われているとは思えないほど余裕を見せつけながら、イリスは次々と魔物を切り伏せていく。

 あまりにも異様な光景に、さすがの魔物も逃げようとするが、イリスの刃から逃げることはできなかった。

「私に剣の道を諦めさせたかった割には、特にお見合いの話もなかったのよね。よくよく考えれば不思議だけど……何か理由があったのかしら?」

 そんな両親の思惑など知らないイリスは、そのまま無事育っていき、さすがに今まで好き勝手が許されたこともあって、女学校入学を途中でやめたりすることができなかった。

 だが、イリスは女学校であろうと、剣を捨てることはなかった。

 さらに、イリスの入学した女学校は普通の学園とは異なる、超名門の【アルテミア女学院】であり、学園長は貴族でありながらかつてS級冒険者として活躍した伝説の魔女だった。

 だからこそ、女学院であろうと多少の自衛手段を学ぶ授業は存在し、イリスは自主的な修業も怠らなかった。

 その結果、イリスは授業以上の実力を発揮し、ついには教師すら圧倒する力を見せつけるに至った。

 すると、そんなイリスの実力に興味を抱いた学園長が、とある人物をイリスへと紹介する。

 それこそが、前『剣聖』であり、イリスの師匠となる人物だった。

「グ、グアアアアア!」

「グオオオオオ!」

「今思えば、あの出会いがあったからこそ、今の私がいるのよね」

 イリスは先代『剣聖』を思い出しながら、逃げ惑う魔物を切り伏せていった。

 ――――先代『剣聖』もまた、女性だったこともあり、同じく剣の道を志すイリスに興味を抱いたことと、イリスに剣の才能があったこともあり、正式に弟子となると、そこからさらに剣にのめり込んでいった。

 とはいえ、学業を疎かにするわけにもいかなかったため、イリスは渋々女学校に通い続けた。

 剣にすべてを捧げるイリスだったが、そんな彼女はたくさんの友人に恵まれた。

 他の生徒は、根っからのお嬢様気質であり、護身の授業ですら、苦手そうな女子ばかりだったが、意外にもイリスとの相性がよかった。

 気付けば、女生徒たちはイリスから護身を学び、そしてイリスはその女生徒たちから淑女としての振る舞いを学ぶことができたのだ。

 すると、イリスの心にも変化が訪れ、最初こそ剣以外には全くの興味も示さなかったイリスだが、卒業が近づいたころには人並みに女性が興味を示すものには関心を抱くようになっていた。

 だからこそ、『聖』というおとぎ話のような存在は周囲から必要以上に畏れられるのが一般的だが、イリスは、『聖』にしては珍しく、多くの友人に囲まれたまま、ここまでやってくることができた。

 そして、ついに女学校を卒業することとなったイリスだが、その時にはすでに先代を超え、『剣聖』の称号を引き継いでいたこともあり、イリスの父親はどうすることもできなくなっていた。

 ノウブレード家がいくら公爵であるとはいえ、世界の敵である『邪』を相手にする『聖』は国によってはそれ以上の待遇を与えられるため、もはやイリスを引き留めるだけの権力も戦力も持ち合わせていなかった。

 だからこそ、イリスの父親はそこで諦めてしまったのだ。

 イリスを他家へ嫁がせるということを諦め、イリスに干渉しないようにしたのだ。

 この状況こそ、元々イリスが求めていたものだった。

 だが卒業後、友人たちが次々と結婚していき、ついに一人だけ独身となったイリスは、ここで初めて結婚というものを意識し始める。

 ただ、結婚以前に恋愛をしたことがないため、まずは恋愛とは何なのかというところから学ぶ必要があった。

「おかしい……こんなはずじゃなかったのに……!」

 二十代も折り返しに来たイリス。

 この世界では、遅くとも二十代前半までに結婚しているのが普通だったが、イリスは結婚どころか、男性と付き合ったことすらなかった。

「あんなに声をかけられたのに、今となっては誰も声をかけてくれない……なんで……どうしてなのよ……」

 暗い雰囲気のまま、地面を見つめるイリス。

 イリスの言う通り、女学校に在学していたころはよく街中で声を掛けられていた。

 二十代後半に差し掛かったとはいえ、圧倒的な美貌を持つイリスに声がかからないはずがなかった。

 だが、イリスは自分と付き合うための男に、自分より強いこと、経済的余裕があること、そして容姿端麗であること、という条件を設定していた。……してしまっていた。

 だからこそ、それらすべてを満たしていない、ナンパや婚約の話を直接持ち掛けてきた男すべてを返り討ちにしていった結果――――誰も付き合うことのできない存在として、声をかけられることが無くなってしまったのだ。

「わ、私だって、自分の求める条件が厳しかったのは分かってるわよ? だから、今は考えを改めたのよ……!」

 誰に言い訳をしているのか、焦った口調でそう口にするイリス。

 すると、そんな無防備なイリスの背後に、静かに一体の魔物が忍び寄っていた。

 その魔物は、A級の【アサシン・スネーク】と呼ばれる黒色の蛇であり、全長5メートルにも及ぶ巨体でありながら、スキルによって忍び寄る際の音や、気配を完全にシャットアウトしていた。

 さらには、その巨体すら隠すスキルを使用しているため、発見することは難しく、奇襲によって、多くの冒険者たちが犠牲となっていた。

 アサシン・スネークは、静かに、そして冷静にイリスに狙いを定め――――。

「シャッ!」

「――――お金持ちとかカッコいいとか贅沢言わないで、ただ私より強い人を求めてるだけなのよぉ!」

 キィィン――――。

 再び澄んだ金属音が聞こえると、アサシン・スネークは首と胴体を分断され、そのまま息絶えた。

 襲い掛かられたイリスの手には、またもいつの間にか剣が握られている。

「私より強い人、いないかなぁ……」

 完全に緩めるべき条件を間違えているイリスだが、イリスにとって、自分より強い人間というのは外せなかった。

 恋愛を知らないまま育ち、恋に恋するイリスの妄想は膨らんだことで、自分を庇い、助けてくれるような王子様に憧れていたからだ。

 一度憧れた妄想を、イリスには捨てることができなかった。

 どこか残念な『剣聖』イリスは、その強さこそ圧倒的だったが、婚期という強敵を前に、悪戦苦闘しているのだった。

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