異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する 6 ~レベルアップは人生を変えた~

プロローグ(3)

 再びところ変わり、地球の【王星学園】にて。

「ふぅ……今日も勉強、頑張った! 私!」

「ま、勉強するのが学生の本分だからねぇ」

 一日の授業が終わり、楓は大きく伸びをした。

 その様子を見ながら、凛は呆れた様子で笑う。

「うぅ……そ、それは分かってるけど、私としては体を動かしているほうがいいんだもん……」

「でも、もうすぐテストじゃないか。赤点とったら、部活もできないだろう?」

「いやー! テストの話なんて聞きたくないぃ!」

 耳を抑え、首を振る楓に、凛はますます苦笑いを深めた。

「まったく……こりゃあ、またアタシが面倒みることになりそうだねぇ」

「お、お世話になります……」

 いつもテストが近づくと、凛に勉強を見てもらっている楓は、素直に頭を下げた。

「はいはい……ところで、その部活には行かなくてもいいのかい?」

「あ、うん! 今日は休みなんだー。だから、思いっきり遊べるよ!」

「そこは帰って勉強とかじゃないのかい?」

「り、凛ちゃんの意地悪っ!」

 からかうような凛の言葉に、楓は震えた。

 すると、ふと凛はちょうど教室を出ていこうとする雪音を見つけた。

「おや、雪音も帰宅かい?」

「お、雪音ちゃんも帰るなら一緒に帰ろうよー」

 声をかけられた雪音は、一瞬驚くも、首を横に振る。

「……今日は部活」

「へ?」

「おや、雪音って部活に入ってたのかい?」

 雪音が部活をしていたことを初めて知った二人は、目を見開いた。

「雪音ちゃんって、前までは帰宅部じゃなかったっけ?」

「……うん。でも、最近面白そうな部活を見つけたから、そこに入部した」

「へえ? 何部だい?」

「オカルト研究部」

「「オカルト研究部!?」」

 予想外の部活に、楓も凛も驚いた。

「て、てっきり軽音部とかだと勝手に思ってたよ……」

「いや、楓。そりゃあ雪音はバンドマンっぽいけど、それはさすがに偏見が過ぎないかい?」

「そ、そうかな?」

「……まあ、私もオカルト研究部なんて部活があるとは知らなかったけどね」

 そんな二人の反応に、雪音は不思議そうに首を傾げる。

「? ……そんなにおかしい? オカルト、面白いよ?」

「そ、そうなの?」

「ちなみに、どんなところが?」

「……現実じゃあり得ない現象を調べるところ?」

「な、なるほど?」

 すると、雪音はふと何かを思いついた様子で、二人に近づいた。

「……せっかくだから、見学に来る?」

「え?」

「……実は、部員が少なくて、せっかく入部したのに廃部になりそうで。だから、新入部員が欲しい」

「い、いやぁ……私は陸上部に入ってるし……」

「んー……アタシは興味深いけどねぇ」

「え、凛ちゃん!?」

 凛の反応に思わず楓が目を丸くする。

「ま、物は試しってね!」

「……そんな理由でも大丈夫。ひとまず、一度でいいから見学してみない? ちょうど今日、面白い文献が手に入った」

「へえ? そりゃ気になるねえ」

「うぅ……」

「おや? 楓……もしかして怖いのかい?」

「そ、そりゃあそうだよ! オカルトって、お化けとか、悪魔とかでしょ?」

「……うん」

「ほらあ! 怖くないわけないじゃん!」

 怖がる楓の様子に、ちょっとした悪戯心が湧いた凛は、笑顔で告げた。

「まあいいから! 今日はアタシの言うことをききな!」

「え、凛ちゃん!?」

「……ん。じゃあ、案内する」

「ちょ、ちょっとぉ!? 私、行くって言ってない――――」

「おや? テスト前はアタシは楓の勉強に付き合うんだし、ここは私に付き合ってくれてもいいんじゃない? ほら、もうすぐ定期テストだろう?」

「うぐっ!」

 そこ突かれると痛い楓は、思わずうめいた。

「さ、行こう行こう!」

「……うん。こっち」

「~~! 凛ちゃんの鬼ぃぃいい!」

 楓は半泣きになりながらも、凛と雪音の後をついていくのだった。


       ***


 そして、楓たちは普段立ち寄らない位置にある空き教室の一つにたどり着く。

「……ここが、オカルト研究部の部室」

「うぅ……心なしか、空気がどんよりしてる気がする……」

「アンタねぇ……さすがにそれは気にしすぎじゃないかい?」

「そうかなぁ……」

 そんな二人のやり取りをよそに、雪音は教室のカギを開けた。

「……どうぞ」

 中に入ると、そこには藁人形や、虫の標本、禍々しい色の液体が入った大きな鍋など、どこか普通とは雰囲気が違う空間が広がっていた。

 他にも、机の上には乱雑に本が置かれており、その本は日本語だけでなく、様々な言語で書かれてていた。

 予想以上にしっかりとした雰囲気の部室に、凛は感心した様子で見渡す。

「へぇ……思ったよりちゃんとしてるじゃないか」

「りりりりり凛ちゃん!?」

「アンタはアラームかい……」

 恐怖からか、震えながら凛の服の裾を掴む楓に、凛は思わずそうツッコむ。

「ところで、今日は何をするんだい?」

「……これ」

 凛の質問に、雪音はカバンの中から一冊の本を取り出し、それを見せた。

「それは?」

「……行きつけの古本屋さんで見つけた。悪魔召喚に関する本」

「ああああ悪魔召喚!?」

「へぇ、そりゃあオカルトっぽいねぇ」

 もはや失神しそうな楓に対し、凛は明るく笑った。

 そして、雪音は本を開き、目を通しながら説明する。

「……これを買って、家で調べて、今日は材料とか買ってきたから、実際に魔方陣を書いてみる」

「か、書いちゃうの!?」

「ん? そういや、先輩とか、他の部員がいないようだけど、勝手にそんなことしていいのかい?」

「……大丈夫。元々人数が少ないってのもあるけど、それぞれが興味のある分野を研究していい。私は、悪魔とか、そういうのに興味がある」

「なるほどね」

 雪音は、机などを教室の端に寄せ、空いた床に大きな紙を敷いた。

 そして、その紙に、古本屋で手に入れたという悪魔召喚に関する本を参考にしながら、赤いマジックで魔方陣を描いていく。

「てっきりその魔法陣を書くのに何かの血液でも使うのかと思ったけど、マジックでいいのかい?」

「けけけけ血液!?」

「……問題ない……と思う」

「適当だねぇ……」

「……コンプライアンス的によろしくないからね」

「世知辛いね」

 雪音の言葉に、凛は肩を竦めた。

 そんな凛に対し、よほど血液で魔方陣を書くという言葉が衝撃だったらしく、楓は放心していた。

 そんな中、ついに雪音は魔方陣を書き終えた。

「……できた」

「どれどれ……って言っても、何が書いてあるかはサッパリだけどねぇ」

「ほほほ本当に大丈夫なんだよねぇ!?」

「いい加減、アンタは落ち着きなよ……」

「……とにかく、この魔法陣を用意したら、ここに書いてある呪文を読めばいいだけ」

「ずいぶんと簡単なんだね?」

「……悪魔は、人間に召喚してもらわないと、この世界にやって来れない。だから、簡単な手順にすることで、より人間に召喚されやすくなる」

「へえ? そうなのかい?」

「……と、私は勝手に思ってる」

「アンタの思い込みかい……」

 自信満々に言い切った雪音に、凛は思わず呆れてしまった。

 しかし、雪音は特に気にした様子もなく、魔法陣の前に立つと、本に書いてある呪文を読み始めた。

「――――」

 真剣な様子で呪文を読み上げる雪音に、今まで怖がっていた楓まで見入ってしまう。

 そして――――。

「――――!」

 カッ! と、目を見開き、呪文を読み切った。

「……」

「「……」」

 魔法陣には、何の変化も起きなかった。

 雪音は静かに本を閉じると、一つ頷いた。

「……ま、召喚できるわけないよね」

「えええええええ!?」

「……身も蓋もないねぇ」

 あまりにもアッサリとした雪音の様子に、楓たちは驚き、呆れた。

「……こういうのは、未知だからいい。解明できちゃったら、ロマンがない」

「そ、それ、研究する意味あるのかなぁ……?」

「……とにかく、今回は失敗した。でも、雰囲気を味わえたし、楽しかったからオーケー。他に試したい本とか持ってきてないし、今日の実験はこれで終わり」

「はあ。呆気なく終わったねぇ。じゃあ今日の部活も終わりかい?」

「……うん」

「なら、せっかくだし、三人で遊んで帰ろうか?」

「……オーケー」

 凛がこの後の予定を決め、三人で遊びに行くことが決まり、楓はようやく安心することができた。

 だが――――。

「ゆ、雪音ちゃん、凛ちゃん……」

「ん?」

「どうしたんだい?」

「あ、あれ……!」

 何かに気づいた様子の楓が、その方向を震えながら指さす。

 その指が示した先に、凛と雪音も視線を向けた。

「「え?」」

 なんと、赤いマジックで描かれた魔法陣が、妖しい光を放ち始めていたのだ。

「な、何が起きてるんだい!?」

「……びっくり。この本、本物だった……」

「それどころじゃないだろう!?」

「や、ヤバいよ、凛ちゃん、雪音ちゃん! 光がどんどん強くなってるよ!」

 最初以上に慌て始める楓だったが、さすがの凛もこの状況は予想外だったため、焦り始める。

「ゆ、雪音! 悪魔召喚って言ってたけど、どんな悪魔が召喚されるんだい!?」

「……分からない。でも、本の中でも一番強力な悪魔が召喚できる魔法陣を書いた」

「よりにもよって……」

 凛は雪音の言葉に頬を引き攣らせる。

 もし、雪音の言葉が本当なら、今から召喚される悪魔は強力な存在だからだ。悪魔が召喚されるというだけでも一大事なのに、その上強力な悪魔となると悪夢でしかない。

 だが、そんな三人をよそに、魔法陣の光は増していき、ついに教室全体を光が埋め尽くした。

「うっ!」

「ま、眩しい……!」

「……何が出るかな、何が出るかな」

「アンタはもっと緊張感を持ちなッ!」

 そして、ついに光が収まると、楓たちは恐る恐る目を開いた。

「……あ、あれ……?」

「これは……」

「……おかしい。何もいない」

 なんと、光が収まった魔法陣には、悪魔らしき姿どころか、何もいなかった。

「雪音。悪魔ってのは、ちゃんと見えるのかい?」

「……そのはず」

「あ、雪音ちゃん!?」

 雪音は凛の言葉に頷きながらも、臆することなく問題の魔法陣に近づいた。

 そして、直接魔方陣に触れたり、魔法陣を描いた紙を持ち上げたりしてみるが、特に変化は起きない。

「……うん。あそこまで光ったけど、やっぱり失敗したみたい。残念」

「ざ、残念って……」

「まあ、いきなりで驚いたけど、残念って気持ちも分からなくはないかなぁ」

 悪魔というと恐怖心が芽生えるが、未知なる存在に出会えるかもしれないと考えると、今回の雪音の実験の失敗は残念と言えた。

 もうしばらくの間、雪音は本を読み返したり、描いた魔法陣を確認したりしたが、悪魔の存在は確認できず、片づけを済ませ、今度こそ部室から退室した。

「いやあ、一時はどうなるかと思ったけど、あの体験は普通じゃできないし、貴重だったねぇ」

「私は本当に怖かったんだけどね……」

「だから、ごめんって! 今からアイスでもなんでも奢るから許してよ」

「うぅ……それなら、許してあげる」

「……ごめん、お待たせ」

「いや、待ってないよ。じゃ、行こうか」

 三人はもう先ほどの出来事を忘れ、今からどう遊ぶかを話し合っていた。

 その瞬間、雪音は言葉にできない微かな違和感を覚え、周囲を見渡す。

「……?」

「どうしたの?」

「……いや、何でもない」

 誰も異変が起きていたことに気づけなかった――――雪音の影に、赤い瞳が浮かび上がっていたことに。

 こうして、三つの場所で同時に様々な事件が起こりつつあるのだった。 

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