第二章 もう一回罵ってください!2
「サヤカさま……?」
ジルが
どうして、レオも、キャンサーも、自分の信念を
「
サヤカの言葉は完全に
「許せない? どうして? 僕は
キャンサーが服を
サヤカは彼の傷から目を
「……そんなもの、見せないで」
「怖いの?」
「……ええ、怖いわよ。怖いに決まってるじゃない。血よ?」
その赤い傷が本当に怖くて、サヤカの手も声も
「ふふっ、ごめんね、お
「怖いけど、何の
手はまだ震えていたが、サヤカは視線をキャンサーに向けた。手の震えは怖さからではなく、怒りが原因になっていた。一呼吸してから口を開くと、自分でも驚くほど冷静な声が出た。
「そんな傷を
「っ……! バカにするな! 僕にはもう
「バカにするな? 無茶言わないで。今のあんた、『僕は強いんだぞ!』ってきゃんきゃん
サヤカは息を大きく吸って、バルコニーから身を乗り出し、キャンサーを指さして
「私は絶対、今のあんたを認めない! 認められない――あっ」
勢いよく身を乗り出したせいで、足の裏が、ずるっと
「サヤカさま!」
ジルが
「あ」
焦ったジルの、どこか気の抜けた声の後。
「わあああああ――ふぎゅっ!」
キャンサーの
「この、最弱
サヤカの
「ふ……っ」
静まり返った空間で、ジルが何か言った気がした。
「……ふふ、くっ……あははははははっ!」
ジルの笑い声に、サヤカはびくりとして彼を振り向く。怒っても
(何かこうやって笑うと、悪い人には見えない……っていうか……)
「ど、どうしたの、急に笑い出して……?」
「い、いえ。くっ……! あなたの言葉で
口元を押さえ、肩を
「……こっちはこっちで
「ありがとうございます」
「
「私はあなたを褒めていますよ。実に
「
怒りで
「ご、ごめんなさい……っ! 大丈夫!? キャンサー!? 生きてる!?」
キャンサーは上半身を起こしたが、
「何……だよ……っ!」
(ヤバイ、言い過ぎた!? そうよね悪いのはキャンサーじゃなくて、シナリオなのに!)
「あ、あの……ご、ごめんなさい。今のはその、別のことに腹が立ってて――」
「ひいっ!」
「放せ」
ジルがキャンサーの腕を
「やだ。もう一回……――って」
(まさか泣いちゃった!? 泣かせてしまったー!?)
小さな声は震え、
「ご、ごめんなさい、今、何て言ったの?」
ぷるぷると震えながら、ぎゅっと目を閉じ、キャンサーは意を決した顔で言った。
「もう一回……罵って! ください!」
キャンサーのその言葉を聞いた後、サヤカとジルは同時に口を開いていた。
「「……何て?」」
それはサヤカとジルの心が初めて一つになった
「何どうしたのバグったの!? 大丈夫!? しっかりしてー!?」
サヤカはキャンサーの肩を持ってがくがくと
「わ、わかんない! けど……何か、ドキドキして……っ! もう一回聞きたくて!」
「間違いなくバグってるー! キャンサーはこんなこと絶対言わないよねえ!?」
ジルに同意を求めると、彼は冷静な顔のまま
「キャンサーでなくとも言わない
「もっともらしいこと言ってるけど、あんた全力で面白がってるでしょ!?」
「はい」
「真顔で即答するなー! で、でも放っておけない、よね……」
サヤカが向き直ると、キャンサーは期待した
この可愛い顔を
「こ、この……最弱雑魚騎士ー……」
ペチン! と、わずかにじんとする痛みと
(ひえええ初めて人叩いちゃった! しかもこんな可愛い顔を……!)
可愛いか
(私何やってんだろ……? 泣きそう……っ)
キャンサーは閉じた
「本心から最弱クソ雑魚
「ねえジルー! すごい冷静な目と
「サヤカさまに罵ってほしいんだな?」
「! うん!」
「うんじゃない! ちょっと落ち着いてー!?」
ジルの言葉に、嬉しそうに強く頷くキャンサーを揺さぶるが、彼の意志はどうも固いらしい。ジルはキャンサーに笑いかけた。
「お前の言い分はわかった。では、サヤカさまの
パアッと花が咲くかのように、キャンサーが顔を赤くして満面に笑みを浮かべた。
「っいいの!? 喜んで!」
「喜ぶなー! ちょっとは悩んで! ためらって! 断ってー!」
「騎士なら
「ジルー!? 私抜きで話を進めるなー! 下僕って何なの!?」
正気を失っている――かもしれない――キャンサーを
「えっと……サヤカ、さま? で、いいですか?」
彼のほうが少しばかり目線は高いが、はにかんだ上目遣いで見つめられ、サヤカは何も言えなくなった。
「っ……!」
(これぞ私が知ってるキャンサーの笑顔! 可愛い~!)
サヤカが内心で興奮していると、その手をキャンサーが両手で
「サヤカさま。僕はあなたに忠誠を誓います!」
そう言うと、キャンサーはサヤカの手の甲にちゅっと音を立てて口付けた。
「……え? えっ!? ええええええ――」
「あれ? 僕……――」
「キャンサ――」
サヤカの目の前が黒く塗りつぶされていく。そのまま視界がぐらりと大きく揺れた。
「え……な、に……!?」
「サヤカさま!?」
司会が完全に黒く
※次回:2019年2月21日(木)・17時更新予定