◯第三話 大勝利。エルフちゃん! 希望の未来へっ

 檻の中にはキツネ耳美少女!

 十三、四歳ぐらいかな? 一番可愛い年頃だね。

「この子の見た目って、転生するときに聞かれた……ううん、今はとにかく助けないと」

 檻は閂がかかっているだけで外からなら簡単に開けられる。

 キツネちゃんは私をにらみながら、ふごふごと言って、エビみたいに跳ねて暴れていた。

 檻に張り紙がしてある。

『遺跡からの盗掘品。ボスから預かり品。手出し厳禁。手を出せば殺される』

 うわぁっとドン引きしちゃう。

 もちろん、注意書きには日本語じゃなくて、こっちの世界の言語が使われている。別に覚えてなくても困らないけど読めたほうが楽しいから覚えた。

 にしても、どう見ても女の子なのに、盗掘品? もしかして手出し厳禁の張り紙の使いまわしをしているのかな?

「人権ないのってエルフだけじゃなくて、人間以外全部かなぁ。人間怖い、人間醜い」

 人間が他の種族を食い物にした場合って、たいていブチギレた種族が連合組んで人間を滅ぼしに襲ってくるんだよね。フィクションでは。

 ……このゲームでもそんなイベントあったような、なかったような。

 とりあえず、今はこの子を助けることを考えよう。

 優しそうな笑顔と声を作って、キツネちゃんに話しかける。

「えっとね、私も君みたいに拉致られて逃げてきたの。君を助けたいって思ってる。でも、今騒がれると二人とも見つかっちゃうかもしれないんだ」

 こくこくっとキツネ耳美少女は頷いて、騒ぐのをやめた。

 良かった、ちゃんと言葉が通じるよ。

 獣人の中には見た目は人間と一緒だけど知能が獣寄りだったり、独自のマイナー言語使ったりってのもいるから不安だった。

「檻から出す条件は、逃げ終わるまで大声をあげない、暴れない、私の言うことに従うこと。ちゃんと二人で逃げられたら、お姉ちゃんが美味しいごはんを食べさせてあげる」

 お腹の音で返事されちゃった。恥じらいで赤くなっているのが可愛い。

 えへへ、可愛い子ギツネちゃんめ、食べられるのは君のほうだよっ! と百合営業していたときの私が目を覚ましてしまいそう。

 鍵を開けて、彼女の手足を縛る布を取っていく。

 途中、もふもふ尻尾に触っちゃったけど不可抗力ですっ!

「この手触り、やばすぎるよぅ」

 にしても、縛り慣れてるなぁ。下手な人が縛ると、擦れて傷がついたり、あざになったり、血流が止まったりで商品に傷をつける。

 相当手慣れている人の縛り方だ。私のことも流れるように拉致ってきたし、逃げるときにやりすぎたかなぁって思ったけど、罪悪感が消えてくね。

 最後に猿ぐつわを外す。

「ありがと、エルフ。いつか、恩、返す」

 もしかして無口系⁉ はわわ、大好物な口調ですわ。見た目もどストライク。

 キツネちゃんが立ち上がり逃げようとするが、ふらふらして倒れそうになり支える。

「うーん、走るのはしばらく無理だと思うよ。けっこう長い間縛られてたし、無理な体勢だったでしょ。背負ってあげる」

「ううん、いい。足手まといはやだ」

 そう言ってまたよろけた。強引に背負ってしまう。

「動けないのにうじうじ言われるのが一番足手まといなの、わかるよね?」

「……ごめんっ」

 落ち込んでキツネ耳がぺたってするの可愛い。

 けっこう小柄なのにお胸はかなりある。

 私、この子を一生かけて守りますっ!

 倉庫を出て、裏口に手をかけた瞬間。キツネっ子が耳元でささやいた。

「上から足音」

 へっ、あの顔面炎上事件男が復活した? うーん、普通に回復薬常備してそうだしなぁ。全治半年コースだったけど、こっちの世界ならすぐに動けるようになるのかな?

 私は急遽、音を立てないようにしながら近くの部屋に逃げ込んだ。

「許さねええええええええ、許さねえええええええぞ、ロリエルフうううううううううううううううう、ごろじでやるうううううううう!」

 そして、怒鳴りながら一階玄関から外へ。やっぱり、単細胞だね。

 それとロリエルフ言うな。

「いい耳してるね」

「キツネだから。キツネの耳はすごい」

 このキツネ耳使えるな。【隠密】と双璧を成す【索敵サーチ】スキルより優秀かも。

「じゃあ、逃げちゃうよ。はい、フード。なんか、この街の人は人間以外には何してもいいと思ってみるみたい。耳は隠しとこう」

「耳、聞こえにくくなる。敵、みつけにくい。でも仕方ない」

 私たちはフードをかぶる。

「それと尻尾隠せる?」

「よゆー」

 キツネ尻尾がスカートの中に入ってお股に挟まる。

 そして私は彼女を背負っているので、私の背中にもふもふ尻尾が押し付けられている感じに。

 これはっ。

「たまらんですわ」

「どうした? 重い?」

「うーん、大丈夫だよー。えへへっ、じゃあ、愛の逃避行に行こうね」

「大丈夫? 頭殴られたの?」

 がんぎまってるよ!

 私はキツネちゃんを背負って夜の街を駆けた!

 それからは宿に逃げ込んだ。

 ゲームのときと同じ宿だ。許可した人以外は入れなくて安全。システムに守られている。

 ゲームのときと違うかもしれないから、私の名前で部屋をとってから、無理やり入れないかキツネちゃんに試してもらったけど入れなかった。

 宿を出るまでは安心って思っていい。

「この部屋にいる限り安全だね。あの人たち、私たちを探し回ってそうだし。今日は外出禁止。じゃあ、ごはんを食べようか」

「美味しそう、じゅるり」

 ごはんは宿に入る前に買ってある。

 裏路地にも屋台がいろいろとあって、お肉系をメインに。

 転生前は太っちゃだめなお仕事だったから、お肉とか控えめだったけど今の私はエルフ。きっと太らないっ!

 露出度が高い衣装を着るイベントの前とか、離乳食しか食べないでダイエットしてたな。離乳食って栄養取れてカロリー低いから痩せられるんだよね。ただ不味くて、それが一週間ぐらい続くと精神がアレになって食事のたびに涙がこぼれるようになる。

「好きなだけ食べて」

「森の精霊に感謝を」

 キツネっ子、お祈りするんだっ。

 そして、がっつき始める。

 屋台で怪しい肉で作ったハンバーグっぽいのをナンみたいなパンで巻いたのを買ったけど……不味い。

 不味いけど、花の蜜生活だったせいかぎりぎり許せちゃう。

 使っている肉がまずやばい。かなり臭い。なのに下処理が適当かつ臭い消しのスパイスをケチってる。味付けは塩オンリー。

 日本でこれ出されたらブチギレて、即ダストシュートしているかも。

「エルフ、ありがとっ。これ、美味しいっ」

 そんなのをキツネちゃんは本当に美味しそうに食べてる。

 ちょっと信じられない。

 でも、可愛いキツネ耳美少女をおかずに食べると、謎肉パンも美味しく感じちゃう。

 なんなら、白米にキツネ耳美少女でも行ける気がする。

「ねえ、キツネちゃん。ほんとに美味しい?」

「美味しいっ。エルフ、もっと食べて。私ばっか食べてる」

「もっと食べていいよ。私はこのお肉パンは一つでいいかな。サラダあるし」

 サラダはまともだ。野菜に塩と酢をかけただけでも、鮮度が良いから美味しい。

「エルフは変。美味しいのに」

「えっと、私は不味いなーって思ってる。私に気を使ってくれてる?」

「違う、美味しい」

 キツネ尻尾がブンブン揺れてる。

「可哀想に、こんな肉料理が美味しいだなんて。この私が本当のお肉料理というのを教えてあげるよ。明日のこの時間、同じ場所に来てね」

「うん? どういうこと」

 あっ、そりゃ異世界人に美味しんぼパロディしてもわからないよね。

「明日はもっと美味しいお肉を食べさせてあげるってことだよ」

「本当っ⁉ 楽しみ」

 きらきらした目が眩しい。

 お姉ちゃん、本気出しちゃう。

 ふふふっ、料理対決番組に出演したときに、ガチすぎてなんの面白みもないとダメ出しされた私の力を見せてあげるよ!

 生放送終了後にさ、この番組の面白さは可愛い女の子が料理自慢の芸能人にフルボッコされ、追い打ちで本職料理人にめちゃくちゃダメ出しされて泣くところって怒られた。

 なら最初に言えよ。面白い失敗とか、あるあるな失敗とかネタ仕込んで実行したのに!

 ネットでは、褒められていて、ものすごく盛り上がっていたのが救い。……私に負けた大御所料理好き芸能人にめっちゃキレられてテレビ番組しばらく干されたけど。

「それでね、これからどうする? キツネちゃんはどうしたい?」

「わからない……気づいたら、この街にいた。村に帰れない。帰り方、わからない。森がないと狩りできない。ごはん、食べられない」

「故郷はどこ?」

「わからない、思い出せない」

「じゃあ、どんな村かな? 私ならわかるかも」

「それも、わからない。覚えてるの、狩りしてた、お父さん優しい。それだけ」

 キツネちゃんがしょげてる。

 キツネ耳がぺたんとして、尻尾の毛までしぼんでる。

「えっと、もしかして記憶喪失?」

「それって何?」

「自分のことが思い出せないって意味かな」

「そうかも」

「それは困ったね……じゃあさ、手伝ってくれない? 私、世界中を旅してるの。お宝探しをしたり、魔物を倒したりしながらね。ごはん三食出すし、稼いだお金の三割をあげる」

 逆に言えば七割は私のもの。

 けっこうあくどいけど、私と事務所の契約よりはだいぶマシ。

 それに私が悪徳ってわけじゃなくて、リーダーの責任代とパーティの運営費だからね。装備とか消耗品も支給するし。

「このままじゃ、帰れないし、ごはん食べれなくて死ぬ。でも、なんで助けてくれる? エルフはいい人?」

「うーんどうかな? いい人、悪い人って主観入るし。私は恥の多い人生をおくってきたしね。でも、キツネちゃんに優しくすることは約束するよ」

「どうして? 会ったばっかり」

「キツネちゃんが可愛いからだよっ。見た目も性格もね。キツネちゃんと一緒だと楽しそうだなって思ったんだ」

 口には出さないけど、もう一つ理由がある。

 彼女の存在に心当たりがあった。

「可愛い?」

 そう言ってきょとんとして自分を指さした。

 可愛すぎて鼻血が出そう。

「うん、とっても可愛いっ!」

「ありがと……決めた。明日のごはんが美味しかったら手伝う。美味しいごはんを家族に食べさせるのが家長の務め。エルフが家長にふさわしいか見る」

 記憶喪失でも常識とかそういうのは覚えているタイプかな?

 もうちょっといろいろと話を聞いて、何か他に覚えていることがないか確認しよう。

「ふふふっ、宣戦布告だね。今日の三・八倍美味しいごはんを約束するよ。キツネちゃん」

「細かい」

「ゲーマーはね、小数点以下の倍率とコンマ数秒での時間で戦うものなの」

「ゲーマー? わからない。あと、キツネちゃんじゃない。ホムラ。ホムラはホムラ」

「そう、ホムラちゃんね。じゃあ、私もエルフじゃなくてアヤノって呼んでね」

「わかった、アヤノ」

 明日の料理は本気を出すよ。

 キツネちゃん……もとい、ホムラちゃんを迎え入れるためにがんばらないと。

 ふふふ、宣材プロフィールの特技に書いてたのに、面白くないからと事務所に消された、私の料理スキルが火を吹くよ。

 そのためには食材調達からしないとね。

 ホムラちゃんがお腹いっぱいになって眠ってしまってから、いろいろと考える。

「これ、絶対偶然じゃないよね」

 私はこっちに転生する前に、システムメッセージでいろいろと聞かれて返事をした。その中に、こういうのがあった。


【システムメッセージ:縁を刻みます。理想のヒロイン・ヒーロー像は?】

「無口系だけど甘えん坊な女の子。あっ、お荷物系は嫌い。すごく有能。あと、セカイ系とかケモ耳とか巫女とかめっちゃ好き。ケモ耳はとくにキツネがいいね」


 この子、めちゃくちゃ該当するんだけど。

 無口系で、甘えん坊な感じがするし、見事なキツネ耳。

 ……だとすれば、有能でセカイ系で巫女なのだろうか。

 だいたい、こんな無理がある出会い方、誰かの意図がないほうがよほどおかしい。

 まあ、ホムラちゃんがすごく可愛いから、細かいことはいいけどね! 仕組まれてても仕組まれてなくても、ホムラちゃんと楽しく冒険したい。

 私は私の願いを叶えるために世界を救うと決めた。

 でも、どうせなら楽しみながら世界を救いたいよ!

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