◯第四話 一回死んだら終わりのゲームはクソ
キツネ耳美少女のホムラちゃんと一緒に街の外へ。
街を一歩出ると、そこは魔物がはびこる危険な世界。
ああ、でも街の中も危険でいっぱいか。歩いていて首に縄かけられるとか、渋谷とかカブールぐらい危ない。
「ホムラちゃん、パーティを組もうか」
パーティを組みたいと願うと、頭の中にお馴染みのパーティ申請ボタンが浮かんだ。
ホムラちゃんを選ぶ。
「パーティ? なんか、頭に響いた。この声に頷けばいいの?」
「うん、そうそう」
パーティシステムはゲームと同じように使えるようだ。
いろいろと便利な機能で、マップでメンバーの位置がわかるしチャットが使える。
それに、倒した魔物の経験値がパーティで分配される上にパーティボーナスが加算。
いくつかのスキルはパーティ全体に効果がある。
その他、お得要素がいっぱい。基本的にソロお断り仕様だ。キ◯トくんですら無理ゲーって言ってパーティメンバーを探すレベルでソロはきつい。
頭の中にホムラちゃんが了承した、とメッセージが響いた。
「これで一緒に戦う仲間になったね」
「まだ、ホムラはアヤノのお手伝いするか決めてない」
「でも、今日食べるごはんの材料集めだよ。狩人だよね? 家長が家族にごはんを食べさせるのはわかるけど。ホムラちゃんの家だと、家長以外は働かないのかな?」
「……お手伝いする。家長のお手伝い、大事」
そこも記憶があるんだ。
朝もいろいろと聞いてみて、本当に何も覚えてないようだけど、常識とか、しきたりとかは知ってる感じだった。
「じゃあ、今日は手伝ってもらっていい?」
「わかった。お手伝いする」
「はい、これ」
「弓はけっこう得意」
それは良かった。
この弓は今朝買ったばっかりのやつ。モヒカンの財布がめといて良かったよ。
だって、ゴブリン数匹倒しただけのお金じゃ買えないし。
「私の指示通りに動いてね。言うこと聞かないと死ぬから」
「……けっこう過激」
ちょっとおどおどしてる。
やっぱり可愛い。
◇
アルシエの周りにいる魔物は低レベル。ゴブリンと虫と植物系しかいない。
なのでちょっと遠いけど、近隣エリアの森へと足を運ぶ。
「約束ごと。指示した魔物以外には絶対に攻撃しない。私の二歩後ろに絶対いること」
「わかった」
パーティメリットの一つ。
仲間のステータスが見れらる。
ホムラちゃんのステータスにはすごく興味があった。
「けっこう、ホムラちゃんって力持ちだよね」
「ホムラたちの一族、みんな力持ちで足が速い」
ステータスというのは、種族と職業とレベルで決まる。
ホムラちゃんのステータス総合値は、ゲームで本来選択可能な四種族よりも高い。プレイヤーからしたら、チートだチートって騒ぎたくなるレベル。
とくに素早さと力が抜きん出ている。獣人の完全上位互換。
そもそもイベントキャラにしかない固有スキルが三つあって、二つはぶっ壊れだし。
最後の一つなんて「????」なんて怪しさしかない。
私のハイエルフみたいに特別な種族なのは間違いない。
『でも、ゲームのときにキツネ耳の獣人なんていなかったよね。プレイヤーキャラとしてエディットできないし、イベントキャラでも見たことがない』
超やり込み勢の私が知らないなんて異常だ。ゲームには存在していなかった? あるいは今後実装予定だった?
「ホムラの顔になにかついてる?」
「ううん、大丈夫だよ。ちょっとぼうっとしちゃってただけ」
「アヤノ、装備終わったよ」
ホムラちゃんのステータスを確認。ちゃんと弓が装備されている。
『……ああ、やっぱりやってるなぁ』
装備画面を見て驚いた。
ホムラちゃんの装備、防具上と防具下の一体型で「????の巫女服」とある。
可愛らしい服だけど、巫女服ってことは何かの巫女。そして、その何かが伏せ字って怪しさしかない。本当にこの子はセカイ系。つまり重要イベントキャラなのはほぼ確定だ。
「アヤノ、またぼうっとしてる」
「ごめんね、ごほんっ。じゃあ、ここからは本当に気をつけてね」
こくりと頷いて、それから私の裾を握るホムラちゃん。
守りたい、この笑顔。
「あれが、ターゲットだよ」
「大きなイノシシ、美味しそう」
脳裏に真っ赤なモンスター名が浮かんだ。
真っ赤ということはレベル差が五つ以上ってこと。ちなみに五から先は全部真っ赤で、どれだけ差があるかはわからない。
このゲーム、レベルが五つ上だとまず勝てないんだよね。
名前が赤かったら、死ぬから逃げろっていうのが鉄則。
でも、例外はある。圧倒的に相性が良く、極めて性能のいい装備がある場合。
「あの魔物はね、ウリウリっていって、見た目の通りイノシシ系。攻撃力と防御力は高いけど、それ以外は低いし遅いの。魔法防御なんて紙」
「いざというときは逃げられる?」
「うーん、ホムラちゃんはいけるけど私は無理かな」
ハイエルフも素早さは高い。とはいえ、ホムラちゃんはさらに上を行く。
私はウリウリより遅くて逃げられないが、ホムラちゃんは逃げられる。
「追いつかれたら?」
「一発は耐えられるけど二発目で死ぬかな。それと突進スキルには注意して。射程は二メートルで、あいつは必ず射程に入りしだい使う。速くて威力が高い。喰らうと即死だよ」
「……今すぐ逃げよ。死にたくない」
「大丈夫だよ、私が前に出るから追いつかれても死ぬのは私だけ。そのときは一人で逃げてね。ホムラちゃんの速さなら逃げられるよ」
「本当にそのときは逃げる。いい?」
「うん、いいよ。どっちみち、突進打たれた時点で私は助からないしね」
私は杖を構える。
私を浮遊島から投げ捨てた母がよこしてくれた杖。
道具として使うと魔力を使わずに魔法が発動するタイプの貴重なアイテム。
NPCエルフの基本装備、エルフの杖。
ム◯ー戦における炎の爪ぐらい、序盤は強い。
「私が最初に魔法で攻撃して、当たってから弓をお願い。絶対だよ」
「そうしないとどうなるの?」
「私が死ぬ。それと弓が当たったら、全力で距離を取りつつ打ち続けて」
「エルフってアヤノみたいな命知らずばっかりなの?」
「うーん、そうかもね。生まれたばかりの子供を浮遊島から投げ落とす種族だから。それで生きていた強いエルフだけが大人になるの」
「頭がものすごくおかしい、エルフ怖い」
私もそこは同意かな。
「じゃあ、行くよ。【フレイムランス】」
というわけで、数歩下がり、射程ギリギリから道具効果の【フレイムランス】を放った。
ウリウリに炎の槍が着弾、ウリウリはアクティブモンスター。まだやつの知覚の外だけど、ダメージを受けてこっちに気づいて走ってくる。
でも、遅い。
リアルイノシシよりだいぶ遅いんじゃないかな? それでも私より速いけど。
「射るっ」
「うん、うまいうまい」
というか、美少女キツネ耳少女って矢を射る姿も可愛いな。
イノシシが迫ってくる。
矢が当たると、アタックエフェクトと共にノックバックが起こり、動きが止まった。
ウリウリは怒り、再び走ってくる。私たちは全力で逃げるが距離が詰まっていく。
残り距離は二メートルと半分。そこで二発目の矢が当たり、再度ノックバック。
あと五十センチで突進スキルの射程。
「計算通りだね」
炎の爪ぐらい便利なエルフの杖。
でもリキャストが発生し、二発目が打てるまで時間がかかる。
『ホムラちゃんに弓を打ってもらっているのはダメージのためじゃない』
ウリウリの適正レベルは二十。レベル差とステータス差でダメージはほぼゼロ。
でも、逃げながら弓でノックバックさせることで時間が稼げる。ぎりぎりで【フレイムランス】の二発目が間に合う。
一人では勝てないが、ホムラちゃんがいれば勝てる。
さらに距離が縮まり、突進スキルの予備モーションに入った。
発動までコンマ三秒かかる。
でも……。
「コンマ二秒も余ったね。【フレイムランス】」
炎の槍がウリウリに直撃。
悲鳴をあげたあと青い粒子になって消えていった。
レベル差ボーナス込みで莫大な経験値が体に流れ込んだ。
一発でレベルアップ。
魔物を倒したことでお金も手に入り、さらにはアイテムもドロップした。
「あっ、【豚肉(下)】だ。幸先いいね」
ウリウリはイノシシだけど、そのあたりは適当で豚っぽいやつはだいたい豚肉をドロップするし、鳥系の魔物はだいたいとり肉をドロップする。
「すごい! 大物仕留めた! それにレベル上がってホムラ強くなった!」
「ウリウリ、炎が弱点で魔法防御が絶望的に低いの。この杖の魔法なら二発で沈むんだ」
それでもぎりぎりだけど。
炎ダメージが二倍になる弱耐性で、魔法防御がほぼゼロという条件でぎりぎり確定二発。
「アヤノ強い。魔法使いだったの? かっこいい」
「まだ無職だよ。これは道具の力」
尊敬の目が眩しい。
緊張でしぼんでたキツネ尻尾が再びもふもふになった。
全部投げ出してもふりたい気持ちを抑える。
「この調子でがんばろうか。お肉も手に入ったし、じゃんじゃん稼ごう。レベルも十五ぐらいまではさくさく上がるはず」
「すごい、十から先は一つ上げるのに一年かかる。十五から先はぜんぜん上がらない。二十は超すごいってお父さん言ってた」
ホムラちゃんの記憶喪失の基準がよくわからない。
「お父さんのこと思い出した?」
「ううん、でもそんな気がした」
「残念。でも、この世界だと二十レベルになったらすごいってのはいい情報かも。言われてみれば、街中で俺はすごい強いって顔している人も、二十レベルいってない感じがするし。ここで狩りすれば、すぐにそういう人たちに追いつけるよ」
レベルが五以上高い人は全員名前が赤いので正確なレベルはわからない。
でも、装備と動きの速さでだいたい読める。
腕自慢で、十五レベル二十レベルってのは間違ってないと思う。
「レベル上がったら、ホムラたち、怖い人たちが怖くなくなる?」
「とりあえず互角の強さだね。それに私たちって速く動けるよね? レベル十五になったら怖い人に襲われても確実に逃げられるようになると思う」
もともとエルフも獣人も素早さ補正がかかる種族。
そして私たちはその上位種でさらに速い。人間に追いつかれる理由がない。
「安心安全! 狩り、がんばる」
この世界の人たちは、身近にいる一番弱い魔物をひたすら狩って強い魔物には挑まないのだろう。それだと逆補正がかかってぜんぜんレベルが上がらない。二十レベルが限界。
まあ、そうだよね。ゲームならやり直しが利く。でも、一回死ねば終わりな世界で、経験値ボーナスが美味しいから格上と戦うなんて人がいたら、そいつの人生はきっと短い。
なかには一回死んだら終わりの世界でも命をかけるバカがいるかもだけど。
「じゃあ、次のウリウリを倒そう。耳をすませて。ホムラちゃんの耳が頼りだよ」
「だいじょうぶ、ホムラの耳は三百メートル先に落ちたコインの音もわかる」
「すごいっ。けど、そんなのやったことあるの⁉」
オタクの文言みたいなやつじゃんっ。
「わかんない。なんかできる気がした」
「あとしつこいけど、ウリウリ以外は絶対に攻撃しちゃだめだし、近づいちゃだめだからね? ウリウリ以外はこっちから殴らない限り襲ってこないけど、殴れば襲ってくるから」
このあたり、ウリウリ以外の魔物も適正レベル二十ぐらい。
まともにやりあえば死ぬ。でもウリウリ以外はアクティブじゃなくてパッシブ。
だからこそ、ここはウリウリさえ気をつけてカモにしたら理想の狩り場。
ゲームのときからゴチになってますっ!
「もし、攻撃しちゃって襲われたら?」
「死ぬ。ウリウリは魔法防御があほみたいに弱いし炎が弱点だから強くても倒せるけどね、他のはそうじゃないから。絶対に勝てないよ」
「……やっぱり、アヤノは頭おかしい。でも、たぶん、正しい」
「へえ、どうして?」
一回死ねば終わりで、ミス=死なんて、頭おかしいことやってる自覚はある。
「だって、ホムラたちは狙われてる。悪い人に見つかったら終わり。どうせ、命がけなら、強くなるのに命かけたほうがいい」
「うん、その通りだね。弱いまま生きるのも命がけだし、それに……」
「それに?」
「リスクを負ってでも強くならないと、そのうち、このあたり一帯、街ごと滅びるから」
「っ⁉ それ、ほんとう⁉」
「残念だけど本当だよ。それまでに強くならないとね」
ゲーム通りなら、世界の滅びを巡るグランドキャンペーンが始まる。
最初に狙われるのは、このあたりの地域だ。
八つの災厄がこの世界を襲う。失敗すれば街一つが侵略者に取り込まれて消滅し、やつらの拠点となる。
これをクリアするのが女神の言う世界を救えってことだと現時点では推測している。
超難易度の八つの災厄とはいえ、最初だけはチュートリアルで難易度がマシな調整されている。
それでも……。
『最低でもレベル三十五、できればレベルキャップの四十まで上げたい。それにたくさんのプレイヤーが必要。私一人じゃどんなにがんばっても無理』
私一人じゃどうにもならない。
オンラインゲームの強さとは数だ。
最適ビルドを突き詰め、レベルをカンストさせ装備を整えても一騎当千にはなりえない。
公平なバランス調整がされている。中級者と比べたら一・五人分の働きってところ。
一人の廃人より二人の中級者を並べたほうが強い。
街を見た感じ、現地人は戦力として数えられない。転生したプレイヤーだけが頼りだ。
だけど……それだけでは足りない。
「どうしたアヤノ? 変な顔をしてる」
「晩ごはんのメニューどうしようかなって」
「楽しみっ!」
転生したとき、女神がトッププレイヤー三百人に声をかけたと言っていた。
でも、そもそもグランドキャンペーンは参加者千人を前提として調整されたイベント。
三百人全員がこちらに来ていてもクリア不可。人手が足りなすぎる。
「ホムラちゃん、たくさん食べて大きくなってね」
「んっ、任せて。ホムラ強くなる」
プレイヤーの数が足りない、現地人は弱くて戦力にならない。
ならば、現地人をプレイヤーが鍛えて強くするしかない。
まずはホムラちゃんで試してみる。
もし、彼女が強くなれれば他の子たちも強くなれるはずだ。
現時点では、それ以外に世界を救う方法はない。
グランドキャンペーン攻略=世界を救えとは決まっていないけど、強くなること、戦力を増やすことは絶対に必要だ。
だから、私はホムラちゃんといちゃいちゃ楽しく冒険しながら世界を救う可能性を探っていくと決めたのだ!