【大増量試し読み】お姉さん先生は男子高生に餌づけしたい。1巻

女騎士先生は僕に優しい 1

 昨日は岸川先生に急な用事ができたとのことで、弁当をお裾分けしてもらえるという約束は順延となった。


岸川先生:すまない、急に職員会議の資料作成を頼まれてしまった

岸川先生:昼休みは屋上に行けそうにない

自分:俺は大丈夫です、気にしないでください

岸川先生:本当にすまない、この埋め合わせは必ずする


 俺としてもショックは大きかった。パブロフの犬であるところの俺は、昼休みが近づくにつれて先生の弁当が待ち遠しくて仕方なくなっていたのだ。

 残念ではある。しかし決して立ち直れないほど消沈しているわけではない。

先生の料理がいかに楽しみであっても、それは善意によるものなので、約束がポシャってしまっても仕方がないことなのだ。

 仕方ないことなのだが――焼きそばパンと牛乳のみで昼食を済ませることになり、少なからず侘しさを感じた。

 先生と知り合うまでは、ずっと単調な食生活だった。

 俺も自分で料理を練習すべきだ。先生に甘えてはいけないと思っているのなら、そうするべきだと分かっている。

 しかし料理というものが練習して容易に上手くなるわけではないこと、自分で作った料理を自分で食べてもそれほど美味しくないということを、すっかり身体に教え込まれてしまっていた。


 今日は二限が体育で、A組とB組が合同で授業を行う。体育館でバレーボールをするのだが、最初に通らなければならない関門がある。

「では出席を確認する。誰か休んでいる者はいるか?」

 二年生から、体育の担任は岸川先生になった。美人はジャージを着てもさまになる――あまりにもプロポーションが良すぎて、みんなの目が泳いでいるが。

 ジャージの前が閉じられないなどというのは、漫画などで出てきても笑ってしまうような場面だと思うのだが、それを岸川先生は体現してしまっているのである。

「せ、先生。うちのクラスの上杉が、風邪を引いて休んでます」

 真面目で堅物なクラス委員長ですら、岸川先生を前にして声が上ずっている。そう、今日は純が休んでいる――俺にもメールしてきたが、純がいないと一つ厄介なことがあるので、朝から微妙に気分が重かった。

「そうか、分かった。昨日の夜は少し冷え込んだからな、皆も風邪には気をつけるように。では、二人組を作って準備運動を始めたまえ」

「「「はい!!!」」」

 どれだけ忠誠心が高いのかと思ってしまう。このクラスだけでなくて全校の男子から熱烈な支持を受けているそうなので、無理もない話なのだが。

「あ……海原君、いつも組んでる上杉がいないんだ。俺らと三人でやる?」

「準備運動くらいなら一人でも大丈夫だ。やむにやまれない事情だしな」

 こうやって気を使われるのも結構メンタルを削られるが、クラスの男子からは微妙に壁を作られているので仕方がない。俺の「怖そうな人」というイメージは、悲しいかな、男女共通の認識なのである。

純のありがたみをこういうところで感じる。さて、何もしないとさらに気を使われるし、適当に柔軟でもしておこうか。

「海原は先生と一緒に準備運動をするか。相手がいないのなら仕方がない」

「いつもは誰か休んでも、代わりはしてなかったと思うんですが……」

 先生と組むなんてとんでもない、それは俺たちの間でのルールにも触れることになる――と至極まっとうなことを考える俺だが、周囲の反応は違っていた。

「女騎士先生が、この機会に海原君をシメるつもりだ……!」

「海原君も辛うじて拒否してるぜ。もしかして今から乱闘になるんじゃ……」

 なぜ俺のイメージが喧嘩っ早い方向で固まっているのかと思うが、インテリヤクザという言葉がさらなる憶測を呼んでいる気がしてならない。

「さあ、時間もないからすぐに始めるぞ。私が海原のことをサポートしてやる」

「は、はい。それじゃ、お願いします」

 俺は普通に受け入れたのだが、周囲からはついに俺が折れて嫌々ながら受け入れたというような解釈をされてしまう。

あまり見ていると俺に怒られるとでも思っているのか、みんなから少し離れた場所で準備運動を始めても、こちらの様子をうかがってくる人はいない。

「まずは屈伸からだな。1、2、3、4……」

 先生と一緒に屈伸を始める――向き合ってやる必要はないと思うのだが、と何とはなしに先生の方を見て、俺は自分が油断しきっていたと痛感させられた。

「基礎の運動だからこそ……しっかりとやっておかなくてはな……」

「き、基礎というか……先生、激しい上下動が……」

「ゆっくりとやりすぎても効果が薄いのでな。勢いをつけすぎてもいけない、じっくり筋肉をほぐすことを意識しなくては……ふっ……んっ……」

 吐息の色気がとてつもないことになっている――だが、何よりも。

 ジャージの前を閉じることができないほどの、岸川先生の双子の山が屈伸という縦方向の運動によって大きく弾み、視線を強力に引き付けられてしまう。

「5、6、7、8……海原、しっかりしておかないと怪我をしてしまうぞ?」

「は、はい……すみません、先生」

 このやり取りが「俺が先生に注意されてキレかけている」というように見られているのだが、お前らの目は節穴かとそろそろ言いたい気持ちもある。

 だが先生の胸が揺れすぎて準備運動どころではないとか、とても説明できない。二つの山の残像が頭に焼き付けられて、幻覚が見えてきてしまっている。

「ちなみに屈伸とスクワットは似ているが、スクワットは上半身を意識しながらする運動でもある。このようにな」

 なぜかスクワットの仕方まで教えてくれる先生――両腕を顔の横に上げた姿勢はさらなる揺れの増大と、豊かな部分が屈伸よりも無防備に晒されている印象を受け、さらに俺を限界へと追い込んでいく。

屈伸とスクワットがこんなに魅力的な運動だとは思わなかった。いや、俺は先生のカリスマ性に圧倒されているだけだ。女騎士先生のスクワットはバレーコートという戦場に出るための神聖な準備運動であって、決して豊かな胸を上下に揺らすところを俺が観察するためのものではない。ないのだが、俺の黒目はおそらくスクワットのリズムに合わせて上下に動いていることだろう。

「海原、足を広げて座りなさい」

「っ……は、はい、先生」

 先生に言われるままに座り、身体を前に倒す。柔軟性にはあまり自信がないが、まあクラスの平均くらいだろうか――と思っていると。

「身体を少しずつ柔らかくしていったほうがいいからな。前にゆっくりと倒して……そうだ、先生が押してやろう」

 バレーボールの前にこれほど本格的な準備運動が必要だろうか、とぼんやり思った矢先――背中に、大きくて柔らかいものが二つ、ぷにゅんと押しつけられた。

「っ……せ、先生、準備運動でそこまでしなくても……」

「先生の方がストレッチには詳しいからな、任せてくれていい。痛くはないか?」

 痛くはないが、耐えがたい。先生が俺の背中に寄り添うようにして、ゆっくり体重をかけてくる――マシュマロの表面を覆ったブラの凹凸が、あまりにエッチすぎる。

「お、おい……ついに海原君が先生に捕まってるぞ……!」

「じわじわと体重をかけて海原君を……さすが女騎士先生、あれはサブミッションを得意とする武道家の動きだ……!」

 俺がある意味で苦しんでいるのは確かだが、苦痛というわけではもちろんない。

 俺が戦っているのは自分自身――背中に密着したマシュマロに思考力を奪われ、変な声が出そうになる。ストレッチで筋を伸ばされることなど全く気にならない。

「右足のほうに身体を倒して……そうだ。うぅむ、なかなか硬いな……これでは怪我をしやすいから、継続的にストレッチをした方がいい……聞いているか?」

「き、効いてます……かなり……」

「うん、ちゃんと聞いているな。では、左の方も伸ばしてくいくぞ。息をゆっくり吐いて、1、2、3、4……」

 右側を押す時は右の胸が、左側を押す時は左の胸が押し付けられる――体育とは、こんなに何かに耐えなくてはならない授業だっただろうか。

生徒は先生を異性として意識してはいけないのに、これはあまりに卑怯過ぎる。おっぱいは原始の本能、人間のカルマを呼び覚ます兵器とか、そういう類の何かなのではないだろうか。ぷにゅぷにゅと当たる生々しい感触は、生マシュマロという言葉を連想させる。ジャージの前が閉じられないゆえに下に着ているTシャツと、さらにその下に身に付けているブラは、先生の大きすぎる胸をしっかり包み込んでいた。スポーツ用だからなのかワイヤーが入っていないが、かなりしっかりと大きな胸をサポートするタイプのようだ。先生を支えてくれてありがとう、と心ばかりの感謝が生まれる。

「5、6、7、8……では、最後に前に身体を倒すぞ」

「っ……せ、先生、もうストレッチは十分です。十分すぎるほど柔らかかったですから……っ」

「なにを言う、君の身体はかなり硬いぞ。十分に柔らかくするまで、先生がストレッチを手伝ってもいいほどだからな」

 先生は頬を上気させながらも、まだまだやる気に満ちあふれていた。

女騎士先生がついにインテリヤクザを屈服させたと周囲に誤解されつつ、俺は再びマシュマロプレスを受けながらストレッチを継続する。

純、次からは絶対休むなよ、絶対だぞ。期待なんてしてないからな。

「急に大人しくなったな……海原、自分でも筋肉を意識して伸ばさなくては」

 優しく耳元で囁きかけられる。先生のためなら何でもできる――いや、おっぱいを押し付けられただけで洗脳されてはいけない。

ようやく解放された俺は身体を火照らせ、足元がおぼつかない状態になりながら、心配そうなチームメイトたちのもとに戻る。

「海原君、だ、大丈夫……?」

「だ、大丈夫だ……問題ない。試合に出るには支障はないから」

「すげえ……あれだけこってり絞られたら、普通だったら体育どころじゃないって」

 やはり岸川先生に厳しい指導を受けていたように見られているが、勘違いしておいてもらった方がいいような気はする。

岸川先生は普段の凛とした姿に戻って、試合を始めるための指示出しをしている。

試合をするメンバーを集める時にホイッスルを鳴らし、俺の方を見る先生――彼女がふっと微笑んだことさえも、周囲からは俺を凹ませたことに満足しているのだと思われていた。


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