第2章 ループ主人公

第7話 「迅剣ヴァルゴニス」


 ラカンジアをさらに南にゆくと、やがて風車が連立する丘陵地帯に出た。


 なだらかな小山が連なっていて、そんな丘を整備された道が緩く伸びている。


 空は青い。風は少し強いが、それも気持ちいい。いい景色だな。


「この辺りはイルバナ麦の産出地だからね。あちこちで粉を引いているのよ」

「ああ、それで風車なのか」


 俺たちは丘を歩きながら、リルネの解説に耳を傾ける。


「炎と水と風と土、それぞれの支配属性が非常に理想的な調和を創り出しているみたいよ。農作物を育てるためにも、支配属性は欠かせないものだからね。ほら、見えるでしょ? 風が他の三属性を包み込むようにしてそよいでいるわ」

「へー。いや見えんけどな」


 魔法使いは場の属性まで見えるのか。なんかすげえな。


「イルバナ領はもともと豊かな麦をあちこちへ出荷するために作られたのよ。だから領内はどこでもイルバナ麦を作っているわ。あたしたちが普段食べているイルバナパンは、よその国では高級品扱いされるそうよ」

「へー、そういえばたしかにサンドイッチとかおいしかったもんな」


 俺は感心した。


 生地はふっくらとして、中はモチモチしているあのパンは、世界的に有名なパンなのか。


「だったらもうちょっと味わっておけばよかったな」

「あんたはコンビニでいくらでも菓子パンとか買えるでしょうが」

「それはそれ、これはこれだろ……」


 情緒のないやつだな。


「確か今年は生産量が少し落ちているとかいう話だったけれど、ま、すぐに元通りになるでしょ」


 俺たちがそんな風に言い合っていると、少し後ろを歩くスターシアの微笑みが見えた。


「どうかしたか? スターシア」

「いえ、すみません。おふたりは仲がいいですね、って思ったらなんだか嬉しくなってしまいまして」

「違うわ、それは誤解よ。ただ歩くだけでやることがないから暇つぶしに会話してやっているだけよ」

「お前そんな態度だから友達できないんだぞ」

「うっさいわね!」


 べーと舌を出すリルネ。それが三十になってやることか。


 いや外見みてくれは育ちのいい十五歳の銀髪美少女なんだが。


 そんな俺たちを眺めながら、スターシアは幸せそうだ。かわいい。


 仕方ない。ここは大人の俺が気を利かせてやろうじゃないか。


「だからさ、スターシア。よかったらリルネの友達になってやってくれよ」

「え?」

「ちょっ」


 リルネの顔が赤くなった。


 スターシアは頬に手を当てて、ほんの少しだけ困ったような顔をする。


「わたしがリルネさまのお友達に、ですか?」

「ああ、十五歳と十九歳でちっとばかし年が離れているけど、それぐらい別にいいだろ?」


 本当は十九歳と三十歳で、めっちゃ離れているけどな。


 どうだ、リルネ。ジンお兄さんがきっかけを作ってやったぞ。感謝するがいい。


 そんな気分で得意げに見れば、リルネは俺を思いきり睨みつけていた。


 なぜ。


「シア、今こいつが言ったことはまるっきり意味がわからない妄言だから、気にしないで」

「は、はあ」

「いやお前、こないだ言っていたじゃねえか、スターシアと友達になれたらいいなって――」


 言葉の途中で思いきり足を踏まれた。


 痛い。


 リルネはわたわたと両手を動かしている。


「ね、シア。こいつちょっと空気読めてないわよね、っていうか、急にそんなことを言われても困るでしょ。あんたを引き取ったのだってつい最近で、それなのにすぐ仲良くしましょうだなんて言われても、ね?」


 スターシアは風に吹かれる髪を押さえながら、微笑んでいた。


「いえ、そう言っていただけるのは、とても嬉しいです。わたしもリルネさまと仲良くしたいです」

「シア」


 リルネは両手を胸の前で組み合わせながら、息を呑んだ。


 スターシアの笑顔に寂しげな色が混ざる。


「ですが、わたしは奴隷ですから。分をわきまえて、お付き合いさせていただきたいと思います」

「……そ、そうなんだ」


 きっぱりとしたスターシアの言葉に、リルネは身を引いた。


 なにか言いたそうに口を動かしていたが、やがて彼女は俯いてしまう。


 代わりに、俺がスターシアの肩に手を置いた。


「いや、もとが奴隷とかは関係ないよ、スターシア。今のお前は俺たちの大事な仲間だろ。街で生き残ったのは、この三人きりなんだ。肩ひじ張らずに仲良くやろうぜ」


 今度はスターシアが驚いたように俺を見る番だった。


 メイドの格好をした彼女は、頬から力を抜いて微笑んだ。


「……ありがとうございます、ジンさま。あなたは本当に、不思議な方ですね」

「え? いや、まあ。変わっているとはけっこう言われるよ」

「わたしにとっては、とても眩しい人です」

「そ、そうか? ほめてくれているんだったら、まあ、ありがとう」


 なんだろう、こう。


 俺の勘違いなのかもしれないが、スターシアが俺を見つめる視線はリルネへのモノと違って、少し熱っぽいというか。


 そんな情念のようなものを感じてしまう。


 嫌な気持ちはしないが、代わりになぜか足元がフワフワとして落ち着かない。


「いやあ、ははは、参ったな」


 後頭部に手を当てて照れ隠しに笑っていると、「うー! うー!」とうなるリルネからなぜかローキックを浴びせられた。


 痛いよきみ。




 その日の夜。


 晩御飯のサンドイッチに入っためんたいマヨソースですっかり機嫌を直してくれたチョロいリルネの前。


 俺は眉間にシワを寄せて座っていた。


「むむむ……」


 向かいに座るリルネは人差し指を一本立てながら、あくびを噛み殺す。


「ふぁ……、ジン、まだぁ?」

「待て、今なんだか流れが見えてきた。見えてきた気がする。あっ見えた! よし見えた! 青だな!」

「赤よ」


 俺はがっくりと肩を落とす。


 魔法使いになるためのファーストステップとして、支配属性が見えるようにとリルネが指導してくれているのだが。


「ジンはまったくだめね。素養がないわ」

「大丈夫だ、諦めなければ夢は叶う。何年か特訓すればきっと俺だって」

「これ、魔法学校の小学校みたいなところに入るための試験よ」

「……」


 小学校受験に合格するために、何年も特訓するのか、俺……。


 さすがに凹む。


「じゃあはい、次シアよ」

「えと……」


 スターシアはじっとリルネの人差し指を見つめている。


「青と……、あと少しだけ、黄色が混ざっている気がします」

「あら、正解だわ。しかも複合属性の些細な色まで当てるなんて。シアはしっかりと勉強すれば、魔法を使えるようになるかもしれないわね」

「わたしが、魔法……?」


 スターシアは意外そうな声をあげる。


「いいじゃないかスターシア。すごいじゃないか。ぜひ勉強してみたらどうだ? 手から火を出せるようになるんだぞ、火だぞ、火」

「あんたどんだけ手から火を出したいのよ。チャッカマンでも持ち歩きなさいよ」


 片目を眼帯で隠しているメイドは、愛想笑いのように眉を寄せて微笑む。


「ですが、わたしには過ぎた力です。わたしが魔法を使えるようになるだなんて、そんな……」

「え? なんでだよ、いいじゃないか。せっかくだしリルネに教えてもらえよ」


 えっ、と小さく声をあげたあとで、リルネは赤らんだ頬を隠すように咳ばらいをした。


「そ、そうね! 教えてあげるのもやぶかさじゃないわ! でもそのときはせっかくだからジンも横にいてね」

「小学校にも入れない俺がいて、なにすんだよ」

「手拍子とか」

「いらないだろ!?」


 リルネはちらちらとスターシアの様子を窺っている。


 スターシアはまたしても小さく首を振った。


「魔法のお勉強には、たくさんのお金が必要だと聞きます。それに、わたしがリルネさまのお手をわずらわせるわけにはいきません」

「あ、う……、で、でも……」


 リルネは視線で俺に助けを求めてきた。


 うん。しょうがないな。


 やっぱりここは大人の俺の出番だな!


「まあまあまあ、スターシア。考えて見ろよ。お前が魔法を使えるようになったら、俺たちが便利になるんだよ」

「……便利に、ですか?」

「ああ、なんだったらほら、毎回テントを張るときにリルネがいなくてもよくなるだろ? 獣を遠ざけたりさ。手から火も出せるし」

「ですが、そのためにリルネさまに教えていただくというのは」


 俺は両手を広げて笑った。


「なにを言っているんだ、スターシア。お前は最初からなにもかもひとりでできたのか? ベッドメイキングの方法だって、食事の用意だって、掃除の方法だって、誰かに教わったんだろ?」

「はい。村のおばあさまに教えていただきました」


 スターシアは姿勢を正してうなずいた。


 そうか、そういえば農村から売られてきたって言っていたな。なんで奴隷になっちまったんだろう。


 まあそれはさておき。


「なんだって最初は教えてもらって、それからようやくひとりでできるようになるだろ? だから、お前に魔法を教えるのは俺たちにとってもプラスなんだよ。これはお前のためだけじゃなくて、みんなのためなんだ。なあリルネ?」


 リルネは首をぶんぶんと上下に振っていた。


 スターシアはしばらく困ったように俺とリルネを見比べていたが。


 やがて、根負けしたかのように丁寧に頭を下げた。


「……もうしわけございません。お世話になります、リルネさま」


 リルネはパァと顔を明るくした。


「ま、まったくもう! 仕方ないわね! でも人に教えるのは自分のためにもなるっていうから、別にやぶかさじゃないけど!」


 これから寝る前に一時間ほど、魔法の勉強会が行なわれることになった。


 きっとリルネとスターシアの仲も、もう少し接近するだろう。


 まったく、手のかかるお嬢様だな。


 俺が満足げに笑みを浮かべていると、リルネが俺だけに聞こえる小声で小さくつぶやいてきた。


「…………ありがと、ジン」

「うむ」


 しかし俺、その間は本当にずっと手拍子するのだろうか……。





 一方、魔法の才能がないと断じられた俺は俺で、やることがあった。


 翌朝。寝袋からのそのそと起きた俺は、男性と女性の寝床を分けるためのついたて(リルネに土魔法で作ってもらった)を横切りつつ、テントを出た。


 早くも起きて朝食の準備をしていたスターシアに挨拶しつつ、剣を持った俺はテントを離れてゆく。


 近くの開けた空き地に出て、一通りストレッチを行なってから、剣を抜こうとする。だが鞘に引っかかってなかなか抜けない。むむむ。


 何度目かでようやく抜けた剣を掲げると、朝の光に反射して刃が銀色に輝いていた。


 リルネが屋敷の地下から取ってきたという真剣だ。


 ……かっこいい。


 魔法や広大な景色なんかも異世界っぽさを醸し出しているが、その中でも武器はやっぱりロマンだよな。


 しかしこの剣、どうも金属でできているにしては軽すぎる気がする。


 ろくに剣を扱ったこともない俺が片手でいつまでも支えていられるような重さだ。


 水平に薙いでみると、空を斬る音がした。


 正直、気持ちいい。


「いやーすごいなー、かっこいいなー、剣」


 今度は両手に持ち替えて、上段から振り下ろしてみる。


 剣道の授業で昔やったことがある面の動作を、淡々と繰り返す。


 こう見えても遊んでいるわけじゃないんだ。剣を手になじませるために修業をしているのだ。


 護身用といっても、いつまでもお飾りのままじゃいられないからな。


 こうして秘密特訓をして、いざってときにはスムーズに使えるようにしておかなければ。


「準備と練習、大事」


 子どもの頃から武術の道場に通わせられていた俺は、稽古した成果をいかんなく発揮するのがいかに難しいかを知っている。


 だからこそ、せめて体に叩き込んでおかなければならない。実際ピンチに動けなければなんともならないからな。


 しかし、あれだな。


 スターシアがリルネに魔法を習っているなら、俺も暇を見つけてどこかで剣の振るい方とか習った方がいいかもな。


 そんなことを考えながら、汗を流しているとだ。


 近くの茂みからガサガサという音がした。


「……む」


 剣を握ったまま振り返る。するとそこには、一匹の……、イノシシのような獣がいた。


「お、野生動物か、って……」


 待てよ、なんか様子が変だ。こいつただのイノシシじゃないぞ。


 具体的には目と目の間にもうひとつ目があるし、それがなんか赤く染まっている。


 大きさは俺の腰ほどぐらいだが、なんかすごい威圧感がある……。


「そうだ、こういうときは……ジャッジ!」


 俺が手のひらを突き出しながら叫ぶと、簡素なパラメータが表示された。



  個体名:ワイルドボア

  種 族:魔物

  レベル:28

  スキル:突進、突き上げ


  解 説:畑を荒らす害獣のため、よく討伐依頼が出る。

      初心者を卒業した冒険者の練習相手としてちょうどいい魔物。

      群れを作らず、単体で行動をする。



 解説?


 今までこんなのなかったのに、新しく増えている。人じゃない相手に使ったからかな。


 ていうか、魔物って書いてあるんだけど!


 魔物か! こいつが魔物なのか!


 初めての魔物との遭遇に、俺の鼓動は緊張と興奮で高鳴った。


 ワイルドボアは慌てる俺めがけて、おそらくスキルに書いてある『突進』を繰り出してきた。


 野生動物が突っ込んでくる絵面というのは、なかなかこわい。


 俺はとっさに右に跳んで避けた。


「あぶねっ!」


 ワイルドボアはある程度走ってきた辺りで折り返してきて、再び俺に向かってくる。


 げげ、走って逃げるのは難しそうだ。


 だったら――。


 俺は両手で剣を構えた。


「くっそ、やるしかねえのかよ!」


 ワイルドボアの突進に合わせて――。


「食らえ!」


 俺は斜め前に足を踏み込んだ。


 その一歩でワイルドボアの突進コースから外れると、すくい上げるようにして剣を振るう。


「でええええい!」


 両手にはまるで粘土を切るような手ぬるい感触が伝わってくる。


 外したか、あるいはかすったか。


 そう思ってとっさに振り返ると、だ。


 ワイルドボアは右半身の三分の一を切り裂かれて、地面に転がっていた。


 えっ。


 じたばたもがいていたワイルドボアは、すぐに四肢をピンと伸ばして力尽きた。


 俺は血の流れ落ちる剣と、息絶えた魔物を交互に眺め、息を呑む。


 いくらワイルドボアが駆け出し相手の魔物とはいえ、ろくに剣を振ったこともない俺が一撃で倒せるなんて。


「……もしかしてこの剣、めちゃめちゃいい剣なんじゃ」




 血のついた剣を持ったままテントに戻ると、リルネとスターシアにめちゃくちゃ驚かれてしまった。


「ワイルドボアに襲われた!? あんた大丈夫だったの!?」

「うん、まあ、問題ない」


 だいぶちっちゃかったしな、たぶん子どもなんだろう。


「それよりもさ、リルネ。この剣っていったいなんなんだ?」

「さあ。我が家に代々伝わる家宝らしいけど」

「……お前、そんなの俺にくれたのか」

「埃をかぶっているよりは使った方がいいじゃない」


 まあそうだけど。


 見れば、付着していた血はいつの間にかすべて地面に流れ落ちていた。


 不思議な剣だ。見た目はただの飾りがついた剣なのに。


「……使用者がダメージを受ける魔剣とかじゃないよな?」

「領主んちにそんな忌まわしいもの伝わってないわよ」


 そうか……。


 ……なんか、人に向けて使うのはこわいな、これ。


 ケンカはあくまでも素手でいいだろう。


 この剣は魔物用にしておこう。


「あ、ちょっと待って、ここに銘が彫ってあるわ。えーっと、これは……、迅剣、とでも訳すのかしら……」


 柄を指でなぞりながら、リルネはつぶやく。


「『迅剣ヴァルゴニス』。そういう名前らしいわ」

「お前たちの家名と一緒だな」

「そうね、なんかすごそうね」


 本当に俺がもらってもいいのだろうか。


 まあ持ち主がいいって言っているんだから、いいか……。


「あの、それでワイルドボアの死体はどこに?」

「ん、あっちだよ」


 指差すと、スターシアはぺこりと頭を下げてそちらにトタトタと走っていった。


「ん?」

「うん?」


 俺とリルネは顔を見合わせた。





 追いかけていった先の光景を見て、俺たちはうめく。


「うお……」

「ええええ……」


 俺とリルネの見ている前、スターシアはナイフ一本でワイルドボアを解体していた。


 ぐさぐさと躊躇なくその頭や胸にナイフを突き刺しては、さくさくさくと魔物をさばいてゆく。

 

 ごぼりとした赤黒い血で汚れないように、スターシアは体の前を布で覆っていた。


 彼女はいつものようににこやかに、鼻歌でも歌いそうな調子で魔物をめった刺しにする。


「今夜の食事は豪勢なものになりそうですね」


 腹を裂いて、さらにそこに手を突っ込んで、内臓をかきだしたり、引きはがしたり。


 うわあ。グロいよお。


「シア、すごいわね……」

「こういうの見ると、俺たちって結局現代っ子なんだって思うよな……」

「そうね……」


 普段が普段だから、とにかくすごいギャップだ。


 俺たちの視線に気づいたスターシアはぴたりととまって、それから小首を傾げる。


「えと、村で教えていただいたことなんですが……」


 手の中のナイフを見つめてから、スターシアは気恥ずかしそうに微笑む。


「魔法を教えていただいたお礼に、リルネさまも……、やってみますか?」

「いえ! 大丈夫! ありがと!」


 スターシアがさばいて焼いたワイルドボアの肉は、かなりおいしかった。






 この日、俺たちはついにイルバナ領を越えた。


 こうして、さらに南の自由都市群ラパムへと立ち入ったのだ。


 ラパムの都市を越えれば、いよいよヴァルハランドの塔が目前だ。


 順調な旅だと言えるだろう。


 が。


 歩いている最中、ふいにスターシアがうずくまった。


「ん、スターシア?」

「どうかした? って、ちょっと、すごい脂汗!」


 リルネが慌ててスターシアのもとにしゃがみ込む。


「おい、大丈夫か!?」


 ワイルドボアがまさか毒を持っていたとか、そんな感じなのか?


「す、すみません……、大丈夫、です……」


 眼帯の隙間から、たらりと血が垂れた。


 これって……。


 リルネはハッとしてスターシアの眼帯を外す。


 すると、彼女は左目から赤い血を流していた。


 まるで血の涙だ。


「おい、スターシア……!」

「……それって」


 未来眼のことだろう。


 彼女は片目で俺を見上げてくる。


「……そこがどこかはわかりませんが、高い塀で囲まれた街で……、小さな人影、ひどくあがいている姿、と……」


 ……と?


 俺は続くスターシアの言葉を待つ。


 彼女は意を決するようにして口を開いた。


「――その前に立つ、あの黒衣の化け物の姿が」



 俺とリルネは顔を見合わせた。


「高い塀に囲まれた街……」

「……知っているのか?」

「ええ」


 リルネは腕を組んでうめく。


「自由都市群ラパムの門と呼ばれる、要塞都市テスケーラ」


 要塞都市テスケーラ。


「あたしたちが、よ」



 そのとき俺の胸の中で、カチリとなにかが音を立てた気がした。


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