破損ファイルⅠ

 わたしの名前はすめらぎほのかと言います。

 今日から日記を付けるように言われたけど、日記なんて書いたことない。なにを書いたらいいのかな。

 えっと、わたしたちは〝御使い疾患〟の治療で、今日から軍人になりました。

 まだ軍人さんにしか使っちゃいけない技術で治療してもらったから、わたしたちも軍人だってことにしなきゃいけないのだそうだ。

 明日から訓練が始まるらしいけど、わたし腕立て伏せ一回もできないから、ついていけるか不安だ。

 そんなわたしに軍人なんて務まるのかわからないけど、治療さえ受けられずに死んじゃった人はたくさんいる。だから、がんばらないとって思ってる。

 わたしの他にも、五、六人くらい同じような理由で軍人になった子たちがいた。

 怖そうな子もいるけど、みんなでチームを組むことになるらしいから、仲良くできるといいな。

 あ、そうだった。その日の体調とか変化とかを書けって言われてたんだ。

 手術の後遺症なのかな。ここに来てから〝痛み〟を感じなくなったみたい。

 軍人になったわたしたちは、これから戦わなければいけない。痛みなんてあったら戦えないから、消してくれたんじゃないかな。

 ものに触れたり触れられたりする感覚はちゃんとあるから、なんだか変な感じだ。でもわたしは嬉しい。

 痛みを感じなければ、お母さんにぶたれても痛くない。

 辛くないし、苦しくない。

 そしたら、お母さんも昔みたいに優しくなるのかな。

 でも、そのことをセンセイに話したら、なぜか謝られた。

 わたしは感謝してるって言ったんだけど、センセイはすごく悲しそうな顔をしていた。

 ごめんなさい。

 たぶん、わたしが悪いんだと思う。

 それからセンセイは〝楽しい〟ことを見つけるよう言ってくれた。

 きっとわたしのことを心配してくれたんだと思うんだけど、わたしはあまり楽しい思い出というものは持っていない。

 楽しいというなら、いまが一番辛くなくて楽しい気がする。センセイもいい人だし、友達も初めてできた。受験勉強しなくていいし。

 そうそう。センセイはなんだか可愛い人だ。男の人にこういう感想を抱くのは失礼なのかもしれないけど、背もわたしとあまり変わらないし、いつも慌ててる。

 カナタちゃんもそう思ってたみたいで、ふたりでおしゃべりできて楽しかった。

 ああでも、センセイの笑った顔だけは、可愛いはずなのに悲しそうというか、陰みたいなものがあって、なんだか大人の人なんだって感じがしてドキッとしてしまった。

 あと、自分たちのことをナンバーで呼び合うのも新鮮だ。わたしはゼロ番でカナタちゃんは三番。軍隊なんだなって感じがして、ちょっと楽しい。

 外は相変わらず大変なことになってるみたいだけど、早く戦争が終わるといいな。

 戦争が終わったら、きっとお母さんも迎えに来てくれるよね。

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