第一章 魔王の娘(3)
拍手の中、ホッとして席に戻るとヴィアちゃんが手を叩きながら微笑んで迎えてくれた。
「ちゃんと練習通りにできてましたよ。お疲れ様」
そう、入試首席が判明し、新入生代表挨拶をしなければいけないとなったあと、ヴィアちゃんと一緒に沢山練習したのだ。
なんせ、今までの初等・中等学院では、こういった挨拶は全部ヴィアちゃんがやっていた。
なんせ王族なもんで。
初等・中等学院は、身分を振りかざしてはいけないと言われていたが、身分による上下はあったので、王族が挨拶しないとかありえなかったのだ。
なので、ヴィアちゃんにとってはこの手の挨拶はお手の物。
ということで原稿の推敲や実践練習も見てもらっていたのだけど……。
「はぁ……緊張した……でもさあ、なんか途中微妙な空気になんなかった?」
私がそう言うと、ヴィアちゃんはちょっと困惑した顔になった。
「そうですわねえ……なぜかしら?」
二人してなんでだろう? と首を傾げていると、ヴィアちゃんの隣に座っているマックスが溜め息を吐いた。
「なに? なんか言いたいことあんの?」
「んー、まあ、なんで分かんないのかな? とは思うけど」
「なにが?」
「それより、今からオーグおじさんの挨拶だよ。静かにしな」
「……あとで教えてよ」
「おう」
学院長、生徒会長、新入生の挨拶が終わったあとは来賓の挨拶だ。
来賓の最高位は国王陛下。
つまり、ヴィアちゃんのお父さんだ。
ヴィアちゃんのお父さんであるオーグおじさんは、数年前に国王に即位し、すでにアールスハイド歴代最高の名君と呼ばれている。
元々英雄として有名だからなあ。
権力的にも、物理的にも逆らうことは不可能なので、アールスハイドの歴史の中でも今が一番落ち着いた治世になっているそうだ。
おじさん、怒ったら超怖いもんな……。
怒られないように、大人しくしとこ。
『新入生諸君、入学おめでとう。今年も、アールスハイドの次代を担う若者たちが難関を突破し、この場に集ってくれたことを心から喜ばしく思う』
そう言って僅かに微笑んだオーグおじさんに、講堂中から黄色い歓声が上がった。
……特に保護者席が大きかったように思う。
オーグおじさんは、ヴィアちゃんのお父さんだけあって超美形。
そして、ヴィアちゃんのお父さんということは、生徒の親たちとも歳が近い。
多分、学生のころとかオーグおじさんに憧れてたりした人たちなんだろう。
『こうして毎年この学院に来ると、ここに通っていたときのことを昨日の事のように思い出す。非常識な友人に毎日振り回された日々がな』
オーグおじさんがそう言うとあちこちから笑いが起こった。
『その友人に振り回された結果、私たちの世代はこの学院の黄金世代と呼ばれるようになった』
オーグおじさんはそう言うと、私を見てニヤッと笑った。
え? なに?
『先ほど、新入生代表が、私たちの世代を超えると宣言したな。素晴らしい宣言ではないか。しかも、奇しくも私が振り回された友人の娘だ。もしかしたら、黄金世代という評価は覆ってしまうかもしれんな』
そう言うオーグおじさんの顔はニヤニヤしている。
くそう、アレ、絶対無理だって思ってる顔だ。
チラッと隣を見ると、ヴィアちゃんがプクッと頬を膨らませていた。
そんな顔も可愛いなおい。
『私は、いつでも優秀な魔法使いの出現を期待している。それは新入生はもちろん、在校生たちも同じだ。これからも、たゆまぬ努力を続けることを切に願う』
オーグおじさんはそう言うと、颯爽と壇上から降りてしまった。
降り際、もう一度私たちの方を見てニヤッと笑った。
「ヴィアちゃん……」
「ええ……」
私とヴィアちゃんは、お互いに顔を見合わせた。
「「絶対、私たちが黄金世代だって言わせてやろう」」
異口同音にそう言った私たちは頷き合った。
「……どうだろうな」
「「ん?」」
「いや、なんでもない」
私とヴィアちゃんが決意し合っている中で、マックスの声が聞こえてきた。
そういえば、さっきの言葉の意味も聞いてなかった。
なによ、もう! あとで絶対聞き出すからね!
入学式は恙なく終わり、クラスごとに教室に移動する。
そこで最初のオリエンテーションが行われ、解散となる。
私たちが向かっているのは一年Sクラス。
かつてパパとママ、お兄ちゃんが通っていた教室。
昔から教室の位置は変わっていないそうなので、その教室でパパもママもお兄ちゃんも授業を受けていた。
その教室に、私たちも足を踏み入れた。
「よし、じゃあ黒板に書いてある席に座れ」
先生の言葉で黒板を見ると、そこには席順が書かれていた。
なるほど、入試順位で決めてるのね。
各々が自分の席を確認し着席すると先生が教壇に立った。
「さて、それでは改めて入学おめでとう。俺がこのクラスの担任になるアルベルト=ミーニョだ。元魔法師団所属で、この学年の主任も務めることになっている。よろしくな」
「元魔法師団ってことはマーカス学院長と一緒だ!」
「そうだな。俺は魔法師団では新人教育なんかにも携わっていたから、それでスカウトされたわけだ」
「へえー」
「魔法実技も俺が受け持つことになっている。その他の座学は別の先生になる」
「はい! 先生!」
「なんだ? ウォルフォード」
「魔法実技って、魔道具作りや治癒魔法の授業なんかもあったりするんですか?」
私がそう訊ねると、先生は首を横に振った。
「授業ではやらないな。付与魔法を授業で教えるのは高等工学院だ。治癒魔法は神学校だな。ただ、研究会には魔道具制作や治癒魔法の実践をしている研究会もあるので、興味があるならそちらに参加してみるといい」
「そうなんだ。分かりました」
「他に質問はあるか? 無ければ順番に自己紹介してもらおう。まずは、ウォルフォードから」
「はーい」
先生に指名されたので席を立つ。
「えーっと、シャルロット=ウォルフォードです。シャルって呼んでください! この学院に入るのはずっと夢だったので今凄くワクワクしています! みんな、これからよろしくね!」
私はそう言って席に着いた。
私が一番だったので、次は次席だ。
「皆さま、ごきげんよう。オクタヴィア=フォン=アールスハイドで御座います。知っての通り、私の父はこの国の王であるアウグストですが、この学院は完全実力主義の忖度無しと伺っております。皆さまが魔法で対等に語り合って頂けることを願っておりますわ」
ヴィアちゃんはそう言って微笑むと、席に着いた。
クラスメイトの半分は初対面だが、今の微笑みで男女問わずハートを撃ち抜かれたな。
男子は真っ赤で、女子もほんのり赤くなってる。
「えー、僕はマックス=ビーンです。うちはビーン工房って工房をしてます。将来は工房を継ぐ予定なので、その名に恥じないように頑張りたいと思っています。よろしくお願いします」
マックスは、さりげなく自分ちの工房の宣伝したな。
アールスハイド一大きい工房なんだから、そんな営業活動なんかしなくてもいいんじゃないの?
マックスは入試三位という成績で入学したけど、魔法を習っているのは全て工房を継ぐため。
三位になるほど魔法を頑張ったのは、工房では付与魔法も行っていて使える魔法は多ければ多いほどいいから。
ただ、それだけの理由。
最強の魔法使いになりたいとか、そういう意欲はマックスにはない。
そういえば、入学式のときの意味深な台詞の答えを聞いてないぞ。
オリエンテーションが終わったら詰問しよう。
「レイン=マルケス。よろしく」
……。
え? 終わった?
嘘でしょ!?
名前言って終わりなんて、そんな自己紹介ある!?
……コイツならありえるか。
入学式前の発言といい、本当にレインがなにを考えてるのかサッパリ分からない。
レインのお母さんも把握してないんじゃないかな?
レインのお母さんは私の剣術の師匠なんだけど、時々レインを見てため息吐いてるし。
あの超強いおばさんを困惑させるとか、ある意味凄い。
「私はアリーシャ=フォン=ワイマールですわ。他の皆さんはともかく、シャルロットさんにだけは負けたくありませんので、宜しくお願い致しますわ」
わあ、入学早々宣戦布告されちゃったよ。
アリーシャちゃんからは、初等学院の頃から常にライバル視されている。
最初に会ったときは魔法とかあんまり興味なさそうだったのに、いつの間にか高等魔法学院に入学するほど実力を身に付けてた。
それにしても、アリーシャちゃんって伯爵令嬢なんだけど、将来はどうするんだろう?
昔は貴族令嬢として、どこかの貴族子息と交際し嫁ぐつもりだったんだろうけど、今は大分その道からズレている。
……なんか、私への対抗心だけで行動しているみたいで不安になる。
将来のこととか考えてるんだろうか?
「私はセルジュ=フォン=ミゲーレ。私は偶々魔法の素質があって、特に興味もなかったのだけど周りの推薦もあってこの学院を受けてみたら合格してしまってね。だから、あまり目標というものはないかな。まあ、それでもSクラスから落ちるようなことはないだろうけどね」
初めて会ったクラスメイトの一人目であるセルジュ君は、そう言ったあとなぜかこちらに……というかヴィアちゃんに向けてウインクしてから着席した。
……うわ、キモ。
なに? 今のウザアピール。
必死に勉強したり訓練したりした私たちに対する嫌味?
っていうか、なんか自分は魔法の才能があるから大して努力せずに合格したって自分のことアピールしようとしてるみたいだけど、その言葉、ヴィアちゃんも貶めてるのに気付いてないのかな?
チラッとヴィアちゃんを見ると、メッチャ不機嫌そうな顔してる。
ヴィアちゃん、王女様で色々忙しいのに、Sクラスで合格したいからって凄く努力してたのに。
セルジュ君は、ちょっと癖のある金髪と青い目の、いかにもお貴族様って感じの男の子だ。
多分、このクラスでヴィアちゃんと釣り合いが取れるのは自分だけだとか思って、チャンスだとか思ってるんだろうなあ。
無駄なのに。
「私はデボラ=ウィルキンス。そこのお貴族様と違って必死に机に噛り付いて勉強して、血反吐を吐く思いで訓練してようやくこの学院に入学できた凡才です。家に英雄もいませんし大きな商売もしていない、本当にごく普通の庶民です。よろしくお願いします」
……なんか、セルジュ君とは別の意味で凄い子だな。
デボラさんは、肩くらいまでの黒い髪のボブカットの女の子で、カチューシャをしている。
ちょっと気の強そうな顔の美人さんなんだけど、さっきの発言から内面も相当気が強そうだ。
当てつけのように言われたセルジュ君やマックスは顔がひくついている。
ちなみに、私もその対象だったんだけど、今みたいなことはずっと言われ続けているので慣れている。
まあ、慣れてるとはいえあんまり気持ちのいいものではないけどね。
「俺はハリー=フォン=ロイター。一応貴族の人間だが、将来は魔法師団に入りたいと思っている。このクラスには魔法師団長の息子もいるようだし、一緒に切磋琢磨していければと思っている。よろしく頼む」
おお、二人続けてどうなの? っていう自己紹介が続いたからハリー君が凄くまともに見える。
実際、ハリー君は背が高くガッシリしていて、顔付きも真面目そう。
自己紹介の内容から内面も真面目なんだろう。
これは、良いライバルが現れたかもしれない。
けど、どうもハリー君はレインのことを意識している様子。
……大丈夫かな?
レインって、かなりの変人だよ?
ハリー君、幻滅しないだろうか?
「あ、えっと、僕はデビット=コルテスです。僕は、地域の中等学院じゃあ誰にも負けたことなかったんだけど、さすが高等魔法学院ですね。僕より上位が八人もいる。鼻っ柱をへし折られました。これから慢心しないように頑張りますのでよろしくお願いします」
ああ、ここってそういう場所だってよく聞くよね。
各中等学院で魔法実技トップの人間が合格できる学院だって。
それを考えると、アールスハイド王立学院は私たちと、セルジュ君とハリー君を含めた七人をSクラスに送り込んでいるんだから、相当優秀な学院だよね。
そう、セルジュ君もハリー君も、中等学院までに学院で見たことはあったんだ。
話したこともないし、名前も知らなかったけどね。
デビット君もデボラさんと同じ平民だね。
彼はデボラさんほどトゲトゲしてなくて、自分で鼻っ柱を折られたって言うくらいだから多分いい人。
髪は柔らかい茶色で優しそうな顔してるし、魔法実技トップだったなら中等学院で相当モテたんだろうなって想像できる人だ。
「あ、えっと、私はマーガレット=フラウです。私の家も、特に特徴のない庶民です。なので、皆さんの邪魔にならないようにしますのでよろしくお願いします」
最後に自己紹介したマーガレットさんの挨拶にちょっと「ん?」ってなった。
家が庶民だからってどういうこと?
この学院は実力主義で、王族だとか貴族だとか庶民だとかあんまり関係ない。
あくまで学院内の成績とかの話だから、あんまり無礼な態度は窘められることはあるけど、そんなの普通の学院生活を送っていれば気になるようなことじゃない。
どういう意図での発言なんだろう?
全員の自己紹介が終わった時点で、ちょっとモヤモヤしてしまった。
「よし、これで全員終わったな。じゃあ、今日はこれで終了だ。明日から通常の時間に登校するように」
先生はそう言うとさっさと教室を出て行ってしまった。
「行きましょうか、シャル」
先生が出て行ったあと、ヴィアちゃんが話しかけてきてくれたけど、その前に私は気になることがあった。
「あ、うん。ちょっと待ってもらっていい?」
「ええ、いいですわよ」
ヴィアちゃんの了承を貰い、私は席を立ってマーガレットさんの席に向かった。
「や。初めまして」
私が声をかけると、マーガレットさんはビクッとして顔をあげた。
その目には、なんだか怯えが入っているように見えた。
「えっと……なんでしょうか?」
マーガレットさんは、本当に怯えているようで、恐る恐るといった感じの上目遣いで訊ねてきた。
え、なんで?
私、マーガレットさんに怯えられるようなこと、なにかしたかな?
「あ、えっと、せっかくクラスメイトになったんだからさ、友達になりたいと思って……ほら、私も同じ平民だから……」
私がそう言ったとき、後ろから「ハッ」っという鼻で笑う声が聞こえてきた。
その声がした方を見ると、デボラさんが私を睨むように見てた。
「同じ平民? アンタ、なに言ってんの?」
「え?」
なにって……私の家は爵位を持っていない。だから平民で間違いない。
なのに、デボラさんは私のことを睨んだまま近付いてきてマーガレットさんの隣に立った。
「アンタの家は、確かに爵位は持ってないかもしれない。けどね、ひいお爺さんが賢者で? ひいお婆さんが導師で? お父さんが魔王様で? お母さんが聖女様? それに加えて王女様の幼馴染? それなのに同じ平民だから仲良くしよう? ハッ! アタシらを馬鹿にするのも大概にしなさいよ!」
「え!? そ、そんな、馬鹿にしてなんか……」
あまりにも強く言われたので、頭が混乱してそんなことしか言えなかった。
「してるわよ! アンタ、自分の家がどんな家か理解してないの!? 爵位は持ってなくても大きな商会持ってて資産も莫大で! そこらの貴族なんかよりよっぽど力持ってんじゃないのよ! それなのにアタシらと同じ平民だから仲よくしよう? アンタが言うと、施しを受けてる気分になんのよ! それくらい分かりなさいよ!」
「……」
私はショックを受けた。
自分が恵まれているのは知ってた。理解してた。
でも、初等・中等学院時代にも普通に話してくれる平民の子はいたから、ここでも同じようにしてくれると思っていた。
デボラさんの言葉になにも言い返せなくて黙っていると、マーガレットさんが口を開いた。
「あ、あの……お誘いは嬉しいんですけど……シャルロットさんはウォルフォード家の人ですし、シャルロットさんとお友達になるということは王女殿下とも接しないといけないんですよね?」
マーガレットさんは恐る恐るヴィアちゃんを見ながらそう訊ねた。
「そうですわね。シャルは姉妹同然に育った私の親友。シャルと友人になるということは、必然的に私とも交流を持つことになりますわね」
ヴィアちゃんがそう言うと、マーガレットさんは青くなって俯いた。
「む、無理です! 私みたいな庶民が王族の方とこうしてお話することすら考えたこともないのに……」
青くなってカタカタ震えるマーガレットさんの肩をデボラさんが抱いた。
「そういうわけですので、殿下も、私たちとは関わらないで頂きたいと思っています。不敬なのは重々承知なのですが……」
さすがにヴィアちゃんには敬語で話すデボラさんだけど、自分たちに関わるなという気配は凄く感じる。
ヴィアちゃんは、小さく息を吐いたあと気にした様子もなく話し始めた。
「こういうことは無理強いするものではありませんし、承りましたわ。ただ、クラスメイトですので多少の交流があることはご承知くださいませ」
「はい。それは分かってます。それで十分です、ありがとうございます」
デボラさんはそう言うと、マーガレットさんと二人揃ってこちらに頭を下げ、教室を出て行ってしまった。
その後ろ姿を私は呆然と見送ることしかできなかった。
ヴィアちゃんは、小さく溜息を吐いたあと私を促して特別室に連れて行ってくれた。
その間、なにもしていないのに交流を拒否された二人のことが頭から離れなかった。
放置された男子たちのことは、全く頭になかった。
入学式が終わったあと、私はパパたちと合流し家に帰ってきた。
さっきデボラさんとマーガレットさんに言われたことがショック過ぎて落ち込んでいたらパパとママに心配されてしまったけど、本当のことなんて二人には言えない。
結局、なんでもないって誤魔化して、理由を言うことができなかった。
「はぁ……」
一緒に家まで帰ってきたヴィアちゃんと自分の部屋に入った私は、すぐに大きな溜め息を吐いてしまった。
「随分落ち込んでいますわね」
その様子を見たヴィアちゃんがそう言うけど、あれは落ち込むでしょ。
っていうか、見てたんだから分かってるだろうに。
「ヴィアちゃんは平気そうだね」
私と違ってなんだか平気そうなヴィアちゃんにそう言うと、ヴィアちゃんはちょっと寂しそうな顔になった。
「私は王女ですもの。ああいう反応が普通なのですわ。昔は、皆にシャルと同じような感じで接してもらえないかと思っていたのですけど、今はもう諦めましたわ」
あー、そっか。
幼いころ……それこそ産まれたての赤ちゃんのときからヴィアちゃんとはずっと一緒に過ごしてきた。
だから、私に……といか、私たちにヴィアちゃんに対する遠慮とかない。
これが貴族の家の子なら途中で矯正とかされるだろうし、そもそもこんな風に接したりはしない。
現に、トールおじさんのとこの子やユリウスおじさんのとこの子はヴィアちゃんの弟である王子様と同い年だけど、私たちみたいな関係じゃない。
主と臣下っていう関係がピッタリくる。
けど、私たちは平民だからか、そういう矯正はされなかった。
オーグおじさんが平民であるパパと仲が良くて、子供にも立場の関係ない友人を作ってやりたかったとかで、最初はヴィアちゃんが王女様ってことも知らなかった。
それもこれも、私が平民だから。
だから、私は貴族じゃなくて平民なんだって、ずっとそういう意識でいた。
それを、デボラさんとマーガレットさんに全面否定された。
「家族のこと引き合いに出されても、それは私のせいじゃないじゃん。なんでそんなことで拒絶されなきゃなんないの?」
「それだけ『ウォルフォード』の名は大きいということですわ」
デボラさんが私に向かって言った言葉を思い返しているとムカムカしてきたので思わず愚痴ると、ヴィアちゃんがすぐに反応した。
「英雄一家ウォルフォード。ここアールスハイドにおいてこれほど重い名前はありませんのよ?」
「それは知ってるよ」
ウチの家族が周りからどういう風に見られているかなんて今更だ。なんでそんなこと言うんだろう?
そう思っていると、ヴィアちゃんは私を真っ直ぐ見た。
「じゃあ、シャルのことは?」
「私?」
「ええ。賢者様と導師様のひ孫で、魔王様と聖女様の娘。家に帰ればそんな英雄たちに出迎えられ、最高の環境で魔法を習うことができる貴女が周りからどう見られているか知っていますか?」
「……」
なんか、ヴィアちゃんの言葉に棘がある気がするけど……今の言葉の流れからすると、私のことは……。
「贅沢者」
そう思われている気がする。
「その通りですわ。むしろ、私ですらこんな恵まれた環境にいるシャルのことが羨ましいと思うことがありますのに、ましてやデボラさんやマーガレットさんたちからすれば、どう思うでしょうね?」
そういえば、デボラさんは自己紹介のときに必死に勉強して練習して、ようやく合格したって言ってた。
その勉強や練習は誰に見てもらったのか。
多分、中等学院の先生だ。
私は……。
「でも、そんなの、私がたまたまそういう環境にいただけで、別に自慢するつもりは……」
「シャルにそんなつもりがなくても、デボラさんからしてみれば面白くないでしょうね。自分はこんなに苦労したのに、シャルは最高の環境にいた。それなのに、同じ平民だから仲良くしようなんて言われてどう思ったでしょう?」
「……だから馬鹿にしてるのかって言ったんだ」