一章 『人選を間違った異世界の女神』

 果てなく広がるせいはくな空間。

 むらあさは気が付くとそこにいた。

「……ん、あれ? ここ、どこ?」

 辺りを見渡すその目は、赤みがかった髪で片方だけ秘されている。

 あまりにも白く、壁や天井があるのかすら分からない。床があることだけは、足から伝わる硬い感触が教えてくれる。遠近感と平衡感覚が狂ってしまうような場所だが、しっかりと足で立っているのが不思議だった。

 もしかすると、ここが天国というところなのだろうか。

 少女は自分の頭をでた。血は出ていないし、頭も割れていない。かといって、あの浮遊感と逆さまに映る校舎はしっかりと脳裏に焼き付いている。

 異世界でなければ、ここが死後の世界ということは確かだ。

 見上げてみると、神様が見下ろしているのかもしれない。ぼんやりとそんなことを考え、何とはなしに視線を上げてみると──。



「………………え?」

 今の今までそこにはなかった巨大な一つ目と、それはもうばっちりと目が合った。

 向こうも驚いているのか、見開いた目をぱちくりとまばたかせている。

 淡い金色の瞳はまるで月のようで、不気味ではあるが神々しさも感じられた。不思議と恐怖心は湧いてこない。

 だが緊張にも似た視線の交わりは、唐突に断ち切られることになる。

「ああ? 地獄のエントランスにしてはれいだな。清掃中か?」

 粗野な声に気を取られた一瞬のうちに、空に浮いた目は消えていた。

 自分のほかに、少女が四人。

 それぞれが着ているのはおそらく制服で、体格からすると全員中学生か高校生のように見える。

 ただ、容姿が少々普通ではない。

 先ほどの声の主はこの場で一番派手な少女で、どうやら地獄に落ちる自覚があるらしい。ということは、ここは天国ではないのかもしれない。

 雑にまとめられた短めのボサボサ髪は金色だったが、日本人離れした顔立ちからすると地毛だろう。だが、金髪であることなどどうでもよくなるくらい、目を引くかつこうをしていた。

 まず、地味な黒縁眼鏡が掛けられた耳はピアスだらけだった。攻撃力の高そうなとげ状のピアス。そして、制服の首元からは黒一色の刺青いれずみを覗かせている。そして、か着ている白衣のポケットに手を突っ込んでいた。

 見た目で人を判断するなと学校で教わったが、これは見た目で判断してもいいような気がする。危ない人だ。絶対危ない人だ。

 推定危険人物に戦々恐々としていると、澄んだ声が耳に届いた。

「ここは地獄でも天国でもありません。ですが、現世と隔絶された場所ということには変わりはありません。あなた方は既に死んでしまっているのですから」

 少女たちの疑問に答えたのは、いつの間にかそこにいた六人目の少女だった。編み込みのあるブロンドの髪と月のような目が美しく、ゆったりとした白いローブを着ている。見た目に反して、大人びた口調と雰囲気。可愛かわいい。

「じゃあなんだ、お前は死後の世界の案内人か?」

 ピアス少女が食いついた。ものじしないタイプなのか、唐突に現れた少女に対しても、自分たちが既に死んでいるということに対しても動じていなかった。

 立て続けの急展開に困惑しているのが自分ともう一人、この場で一番小柄で病的な肌色の少女。残りはどっしりと構えている。どうしてこの状況で落ち着いていられるのか。

「いいえ、私はこの世界を創った──あなたたちの言葉で言えば『神』と呼ばれる存在です。といっても、あなたたちがいた世界とは異なる世界の、ですが」

 何を言っているんだろう。そう思ったが、今しがた空に浮かんでいた目を思い出す。

 超常的な存在がいることは確かで、目の前の少女も月のような瞳をしている。もしかすると、この少女の本当の姿が「空に浮かぶ目」なのかもしれない。

 一方でいよいよアホらしくなったのか、ピアス少女は嘆息しながら、足を投げ出して地べたに座った。

「んで、その異世界の神様とやらがアタシに──アタシらに何の用だ?」

 理解は追いつかないが、とりあえず話を進めようということなのか、ピアス少女は投げやり気味に疑問をぶつける。

 女神は一度息を整え、全員をしかと見つめて言った。

「私の世界を、魔王の手から救っていただけませんか?」

 おそらく、全員の思考が一時停止した。それでも女神は話を続ける。

「私の世界には今、強大な悪──魔王再来の兆しが見られるのです。あなた方のような普通の女の子たちにこのようなことを頼むのは心苦しいのですが、どうか魔王を倒し、世界を救ってはいただけませんか?」

 女神の声には、懇願の色がにじんでいた。どういう状況なのかいまだに理解出来ていないが、その思いが本物だということは理解出来た。だが、それでも真に受けないものもいた。

「なんだこのチープな展開……B級映画かよ」

「異世界転生ですから、どちらかというとライトノベルじゃないですかね……?」

 今流行はやりの異世界転生もののような展開だったので、思わず口を挟んでしまった。

「まあどっちでもいいが、『普通の女の子』のアタシには荷が重いな。ほか当たってくれ。異世界の住人がどうなろうとどうでもいいしな」

「そう……ですよね……」

 女神は目を伏せた。どうにかしてあげたい気持ちはあるが、荷が重いのも確かだった。ただの女子高生に救世を願われても、どうしていいのか分からない。

 それでも、ピアス少女のあまりの言い草に何か言ってやりたい気持ちはあった。だが、口を挟んだのは別の少女だった。

「ほう、自分が『普通の女の子』とな? 目を見れば分かる。見慣れた目だ。おぬし、人を人と思わぬ外道であろう。見たところ科学者のようだが、これまでに何人使い潰してきた?」

 今まで腕を組んで黙っていた少女だった。

 切れ長の目と後頭部でまとめた艶やかな長髪が特徴的な、少し長身の少女。時代劇のような口調で、腰には何やら刀のようなものが下げられていた。今はその鋭い目で、ピアス少女を射殺さんばかりににらんでいる。

 殺気というものを初めて感じた。

 空気が痛いほどに張り詰める。

「なんだ、サムライガール。使い潰して何が悪い。そっちこそクズと断じた人間を人間として見てないだろ。……お前、今までに何人斬った?」

 ゆらりと立ちあがり、睨み返す。

 使い潰したとか、何人斬ったとか、一体何の話をしているのだろうか。ただ分かるのは、それが日本の暗闇の部分だということだけ。

「いちいち数えてはおらんが……今、一人増える」

 そう言うと、腰に下げていたそれを抜いた。照り返しの鈍い、黒塗りの刀身。珍しい意匠だが、紛れもなく日本刀だった。

 殺気と嫌悪がぶつかる。この場にいるだけで張り詰めた空気に押しつぶされそうになる。

 二人が怖いからか、小柄な少女が後ろに隠れてきた。

 一方もう一人、奇妙なヘッドホンのようなものを着けた少女は、微動だにしていない。落ち着いているにもほどがある。

 今にも死人が出そうな事態になってようやく、女神は自分の過ちに気づいた。

「あの……もしかして私、やっちゃいました?」

「そりゃあもう、盛大に……」

 集められた五人。少なくとも二人は『普通の女の子』などという、はつらつれんな存在とは程遠かった。それはまさに少女の皮を被った『危険』そのもの。一寸たりとも疑う余地のない人選ミスだった。

 一歩、また一歩。抜き身の殺意が近づいていく。白い床が血で赤く染まる前に止めなければ。

「ととと、とりあえず! とりあえず自己紹介とかどうですかね! ほら、色々と誤解かもしれないですし、ね?」

 二人は動きを止めたが、代わりに鋭利な視線を刺してきた。生きた心地がしない。

 さようなら、生の実感。こんにちは、死の予感。

 無言の圧力は胃液を逆流させようと、容赦なく胃をキリキリと刺激してくる。このままでは白い床をゲロで黄色く染めてしまう。

 苦し紛れに提案した、にんじよう沙汰回避のための自己紹介。だが、それに乗ったのは意外にもピアス少女の方だった。

「はあ……、しょうがねえな。……サイコ」

 ピアス少女は、面倒くさそうに頭をきながら言った。

「へ?」

「名前だよ、名前」

「サイコ……。あー、なるほど……」

 サイコ。名は体を表す、とはこういうことか。

「なに納得してんだ! 才能の『才』に子供の『子』で『才子』だからな! 半分日本人なんだよ!」

「うぇえっ! ごめんなさい!」

 相当失礼なことを言ってしまった気がする。

「まあ、確かに研究のために人間扱いしてはいなかったが……そこはほれ、被験体は死刑囚だし、良くね?」

「ふむ、そういうことか……。いやしかし……」

 悪に対する悪行はグレーゾーンらしく、断罪するかどうか悩んでいる。個人的には黒だと思う。

「研究ついでに罰を与えてるってだけさ。殺す前に世間様の役に立てようってんだ。むしろ善行と言ってほしいね」

 悪行だという評価は心外だと言わんばかりに肩をすくめた。だが本気で言っている訳でもなく、にたにたと口元をゆがませている。

「善行とは思えぬが、おぬしの言い分に一理もない訳ではないな。ひとまずこの件はさやに収めるとしよう。それと、先ほど失礼なことを言ったことをびねばならんな。すまない」

「いいっていいって。こっちこそ挑発してすまんな」

 サムライガールは刀を鞘に収め、サイコはへらへらとした笑顔になった。

「え、いいの? あと、これ日本の話ですよね?」

 はたから聞いている分には困惑しかない会話だった。『誤解』はほとんど事実なうえに、日本の闇をかいたような気がした。死刑囚を使って何の研究をしているんだ。あと、サムライガールが言いくるめられたようにしか見えなかった。

それがしの名はジン。『やいば』と書いて『ジン』だ」

「物騒な名前だな、おい」

「暗殺者としての通り名だ。こちらの方が呼ばれ慣れておる」

「ねえ、これ日本の話ですよね?」

 死刑囚を使った実験に暗殺者。正直話についていけてなかった。ただでさえ異世界だとか魔王だとかいうファンタジーを浴びせかけられているのに、追加でリアルな闇を浴びせかけられている。

「どこからどう聞いても日本にありふれたガールズトークだろ」

「ガールズがトークしてたら『ガールズトーク』っていう訳じゃないですからね?」

「ははっ、冗談冗談。んで、片目おっぱい、お前の名前は?」

「おっぱ──!」

 思わず胸を腕で隠してしまう。

 確かに片目を隠していること以外は胸が大きいことくらいしか特徴がない。大きいと言っても、この場では一番大きい、という意味でだ。それほど大きいわけではない。

「私は穂村……。穂村あさ──」

「『ホムラ』か。意外とかついい名前してんな。後ろのちっこいの。お前は?」

「いや、それはみようで……あっ、もう聞いてない……」

 訂正しようとしたが、サイコの興味はもう移り変わっていたので、その訂正も消え入った。苗字を名前と思われるのは妙な感覚だったが、確かに格好いい名前のようにも聞こえる。

 まあ、どうでもいいか。ホムラでいいや。

「名前は、つーかその肌色、人間か?」

 げんな顔でサイコはのぞき込み、言われた少女はホムラの後ろに完全に隠れてしまった。

「なんてこと言うんですか! 肌がちょっと灰色に見えるくらい色白なだけですよ! きっと悪魔っかなにかなんです! ダークエルフでも可!」

「それ人間じゃねえじゃねえか!」

 小柄少女はさらに縮こまると、ぽつりとつぶやいた。

「にひゃく……」

「二百? 二百がどうしたの?」

「名前……。にひゃく、にじゅうさん……」

 名前が『にひゃくにじゅうさん』……?

「個体番号か?」

 サイコが何かを察したようにいた。少女は額をホムラの背中に押し付けたまま、こくりとうなずいた。

「個体番号って、何のですか?」

「人型生体兵器開発実験の産物の、だ。その姿なりを見るに、遺伝子操作による生体兵器だろ。いやあ、懐かしいもん見れたわ。死んでみるもんだな」

 サイコは感慨深そうに頷く。

「失敗作だから、廃棄、されたの……」

「まーた日本の闇を浴びせてくるー」

 そういう事実を死んだ後に知らされるというのは、逆に幸運だったかもしれない。生前に知ってしまっていたら、世界におびえながら暮らしていたに違いない。

 だがそんな生体兵器でも、いつまでも番号で呼ばれるのは可哀かわいそうだ。

「そうだ、番号で呼ぶのもなんだし、お姉ちゃんが名前つけてあげる」

 ホムラは振り返り、少女の手を握った。

「本当?」

「本当本当」

 個体番号以外の名前をもらえると聞いて、少し顔が明るくなった。あどけない顔。バサバサと乱れた髪の間から覗く不思議な色の瞳は、ホムラをじっと見つめている。

「んーとね、『223』だから……。そうだ、『ツツミ』でどう? 可愛かわいいでしょ」

223ツーツーみってか? 適当すぎんかー?」

 金髪がうるさい。

「ツツミ……ツツミ……。うん、ツツミ」

 兵器少女はめるように何度も呟くと、えへへと笑った。

「よろしくね、ツツミちゃん!」

 ホムラはツツミに抱きつくと、ツツミも手を回してきた。ツツミの薄い体はひんやりとしていたが、温かみを感じた。

「はいはい、お涙頂戴は後回しにしてくれ。まだ一人残って……ん? おい、こいつも人間か?」

「またそういうこと言って。そんなに失礼なこと言ってると嫌われますよ」

「いやいや、そういう問題じゃねえから。見てみ?」

 ホムラは抱擁を解くと、最後の一人に目を向けた。

 ツツミほどでは無いが小柄。水色がかった銀色の髪は短めで、ボーイッシュな印象を受ける。この状況でもいやに落ち着き払った冷静な女の子。ただ、違和感しかなかった。

「どこからどう見ても可愛い女の子……じゃ、ない……? 人形?」

「ほらな?」

 あらためて見てみても微動だにしていない。呼吸をしている様子もなく、本当に微動だにしていなかった。

 ホムラは顔を覗き込んだ。顔の造形は素晴らしく精緻で、一見すると本物の人間のように見える。だがそれでもやはり、生身を再現出来ていない部分もある。柔らかそうに見えた肌は、近くで見ると硬そうにも見えた。長いまつ毛に縁取られたぱっちりとした目も、作り物のような光沢があり、瞳には脈動するように光が明滅している。

「何なんでしょうかね、これ」

 ホムラは人形の顔をつついた。表面はぷにぷにと柔らかいが、やはりすぐ下には硬い感触がある。

「アップデート中に顔をつつくなんてしつけだね。まったく、これだから下等生物は……」

「ほぁっ!」

 突然不機嫌そうな顔をしてしやべり出した人形にホムラは驚き、跳び退いた。

 その少女(?)は先ほどとは打って変わって滑らかに動いている。が、それでも呼吸をしている様子はない。

「一応話は聞いていたよ。自己紹介だったね。僕はメイド型機械人形の試作機。名前はまだない」

「マジで日本は何してるんですかね?」

「まさかここでアンドロイドが出てくるとはな。なんだこのイロモノパーティー」

 僕っ娘メイドロボとは、属性盛り盛りである。ということは、側頭部の装置はヘッドホンではなさそうだ。そして、そこはかとなく生意気そうなのが得点高い。

「アンドロイドとは違うんだけど、まあいいや。名前は呼びやすければ何でもいいよ」

「じゃあ、試作機だから『プロト』な」

「適当すぎませんかねー」

「呼びやすかろ」

「君たちがいいなら、それでいいよ」

 一瞬で名付けたサイコに対し、ホムラは物申した。もう少し可愛い名前を付けたかった。

「んで、この面白メンバーの五人で魔王とやらを倒せってか?」

「……え、ええ! 協力してくれるとうれしいのですが……」

 完全に置いてきぼりを食らっていた女神が、ようやく言葉を発した。しかし尻すぼみしていく言葉からは、困惑と不安がありありと読み取れた。

「戦えそうなのはジンくらいだが、大丈夫かあ?」

「僕だって人間くらいなら余裕で潰せるよ」

 物騒なメイドロボだ。

「おっと、さつりくマシンも追加か。いいね」

 こんなメンバーで本当に魔王とやらを倒せるのだろうか。

 自分も普通ではないとはいえ、役に立てる自信はない。

「魔王を打倒し得る素質のある者を選んだつもりです。自分勝手なお願いとは分かっています。それでも私は、私の世界を救いたいのです」

「うーん……まあ、どうせ死んだんだし、魔王退治やってみるのもいいか。楽しそうだしな」

 楽しくはないと思う。いや、どうだろうか。

「そう気楽に引き受けてもらうのはちょっと違う気もしますが……信じていいんですね?」

「大丈夫大丈夫、信じろ」

 サイコは最高にさんくさい笑顔で答え、女神は何かを諦めたような顔になった。心を強く持ってほしい。

「だが言葉だけで済む頼み事じゃねえから、とりあえずひざまずいてもらわねえとな」

 最低なことに、最高に胡散臭い笑顔を一転させ、今度は邪悪な笑顔を女神に向けた。

「た、確かに、言葉だけでは公平とは言えませんね……」

 あろうことかアホの言うことを真に受け、女神は膝を屈し始める。

「ちょちょちょ、ちょっと待ってください! そこまでしなくてもいいですよ!」

 ホムラは女神の膝が曲がり切る前に駆け寄り、立ち上がらせた。

「言っていい冗談と悪い冗談がありますよ!」

「言っちゃ悪いって分かってるから言ってんだろうが!」

「この人どうかしてるんですけど!」

 前途多難な予感を察知し、ホムラは声を荒らげるほかなかった。

「ものすごく久しぶりに『嫌い』って人に言いそうですよ、私」

「好かれるだけが人生じゃねえからな。それ以上に大事なもんを守るためなら、嫌われたって構わねえ!」

 芝居がかった身振りで熱弁するが、それがうそであることはホムラには丸分かりだった。

「そんなこと言ってそうとしてますね! からかいたいだけでしょ!」

「えへっ!」

 サイコはふざけた顔で舌をぺろっと出した。

「こいつぅ……!」

 思わず口が悪くなりかける。なんだこいつは。

「いいのですよ、このくらい。それくらいのことを頼んでいるのですから」

「それは……そうですけど……」

 身に余る重い選択肢。従っても自分に利益のない選択肢。

 ホムラは女神の言葉に何も返すことができなかった。

 正直、跪かれた程度では割に合わないということは確かだ。

 それでも──。

「……それでも、私は引き受けます。ちょうど人助けがしたかったところですしね」

 女神の表情が、にわかに明るくなる。

「まあ、前世に未練とかないですし、『魔王を倒して世界を救う』っていうのも、ゲームみたいで楽しそう……っていうのもあるんですけどね?」

「…………」

 女神の表情が、にわかに暗くなる。

「……ほかの方はどうでしょうか?」

「構わん。悔いの残るような生き方はしておらんからな」

 ツツミとプロトも無言の頷きで続く。

「そ、そうですか……」

 人選に対する女神の不安は加速度的に膨れ上がっていた。どこか異常で、なにか欠落している少女たち。

「皆さんの意志、確かに受け取りました。それでは、こちらの扉を開けてください」

 女神のかたわらに、柔らかな光が広がっていく。その光の中から、純白の扉が現れた。

「ったく、雑な導入だな。まさかサメとゾンビだらけのB級世界じゃねえだろうな」

「いることにはいますけど……」

「いるのかよ」

 サイコが先頭に立ち扉を開くと、光があふれ出した。輝きを増していく光は、ついには五人を包み込んだ。温かく、引き込まれるような光。

 ろくでもない面々とともに、ろくでもない世界を旅する。ろくでもない出来事しか起きない予感はあったが、ホムラは心を躍らせていた。


 きっと、この旅は楽しい。

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