妹が女騎士学園に入学したらなぜか救国の英雄になりました。ぼくが。3

1章 メイドの谷(2)


 トーコさんが王都へと戻り、スズハたちがようやく復活して日常へと戻った頃。

 ぼくはトーコさんに頼まれた内容について、アヤノさんに相談していた。

「閣下自ら調査に、ですか。なるほど……」

 考え込むアヤノさんは、現在のぼくの領地における事務総長的な役割の人で。

 外見はよく見れば整っているけど華がない、ぼくと同じでいわゆるモブ顔男子だけれど。中身はローエングリン辺境伯領の事務を一手に引き受ける超有能官僚なのだ。

 まだ誰にも言っていないけれど、ぼくとしてはこの恩を返すため、いつかアヤノさんの結婚相手を探してあげたいと思っていたりもする。

 それでアヤノさんが、ずっとこの領地に暮らしてくれるといいなあ。なんて。

 それはともかく、今はぼくが長期間城を離れることをどう判断するか。

「アヤノさんはこの話、どう思うかな?」

「よろしいのではないでしょうか」

「そう思う?」

「トーコ女王の提案は理解できますし、早急に対処すべき事項でもありますから。それに閣下の能力を最大限に活用するためにはこの城内で事務仕事などさせておくべきではない、という点でも同意です」

「たしかにぼくも、外で山賊退治とかしてた方が気が楽かなあ」

「閣下に山賊退治などさせたなら、国際問題になるものまで狩ってきそうですね……まあそれはともかく、辺境伯領のほうは何とかなるでしょう」

「そりゃよかった」

 事の発端は一月前、王都での戦勝パレードがあった時に遡る。

 その戦勝パレード後の祝勝会で、敗北した敵の領地をぼくが丸々押しつけられた結果。

 ローエングリン辺境伯領はなぜか、以前の倍以上に膨らんでしまったのだった。

 そりゃぼくだって、愚痴の一つも漏らしたくなる。

「ただでさえ元の領地で大変だったのに、なんで領土が倍に膨らんだのか本当に謎だよ」

 ぼくがそう言うと、アヤノさんがなぜかアホの子を見るような目を向けて。

「……それは閣下が、たった一人で百万の兵士を殲滅したからでは……?」

「そうは言うけど、ユズリハさん並に滅茶苦茶強い人なんて一人もいなかったからね? それどころか、スズハくらい強い女騎士すらいなかったかも?」

「そんなものいるわけがないでしょう。それにもし仮に、スズハさんが百万人──いえ、たった百人でもいたら、この大陸はとっくに制圧されて兄妹が婚姻可能になっています」

「アヤノさんは大げさだなあ」

 アヤノさんは軍事方面には詳しくないのか、ぼくやスズハの戦力を過剰に評価しすぎるきらいがある。

「それはともかく、領地拡大に伴う事務仕事の増加は、サクラギ公爵家から送りこまれた人材で十分にカバー可能だと思われます」

 いきなり領地が倍になって困ってたぼくに、手を差し伸べてくれたのがサクラギ公爵。

 つまりユズリハさんの父親で。

 トーコさんが来るのと前後して、かなりの人数の事務官僚をローエングリン辺

「わたしもこの目で確認しましたが、サクラギ公爵家は相当に気合いを入れていますね。どの人材も間違いなくトップクラスで、大国の上級官僚も余裕でこなせるレベルですから。いかな公爵家といえど、あれだけの質と量を兼ね備えた人材を送り込むのは相当苦労したはずですよ」

「そうなんだ──ユズリハさんだけじゃなくて、父親のサクラギ公爵も本当いい人だよね。ぼくなんかにそこまで協力してくれてさ」

「むしろ閣下だからこそ、最大限の協力をしてくれたのだと思いますが?」

「……否定できないかも……」

 サクラギ公爵、ぼくを謎に買いかぶっているフシがあるんだよなあ。



 アヤノさんと別れたぼくは、他のみんなに調査に出かけると伝えに行く。

 中でもユズリハさんとスズハの騒ぎようと言ったらなかった。

「そうかキミ、旅に出るのか! ならばわたしも相棒として、キミの背中を護るために、一緒に行かねば仕方あるまい──!」

「もちろんわたしもご一緒します、兄さん!」

 なぜか知らないけれどえらく喜んでいる二人に、女騎士となると定期的に盗賊退治とかゴブリン退治とかしないとストレスが溜まるのだろうか……などと考えていると。

 くいくい、とズボンの裾を引っ張るメイドが一人。

 言うまでもなく、この城で唯一のメイドであるカナデだ。

 その頭には今日も、彷徨える白髪吸血鬼(ホワイトヘアード・ヴァンパイア)が姿を消した後に現れた謎の幼女、うにゅ子をちょこんと乗せている。

 うにゅ子は本格的にメイド見習いに就任したみたいだ。

「……ご主人様。その旅、カナデもついていきたい」

「うにゅ」

「カナデとうにゅ子も? うーん……」

 普通に考えたら、お世話係のメイドでもない限り、旅には一緒についていかない。

 そしてカナデはウチにいる唯一のメイドで、ぼくのお世話係などでは断じてないのだ。

 普通に考えたらうにゅ子と一緒に城に残るべきだろうけど──

「カナデはできるメイド。ご主人様のお世話も、情報収集もばっちぐー」

「うにゅー」

 そうなのだ。

 ウチのカナデは以前、あらゆる屋敷の天井裏の情報を仕入れてきたメイド。

 なんでもカナデに言わせれば、情報収集はメイドの基本技術ということらしい。

「じゃあ、カナデも一緒に行く?」

「……いく!」

「うにゅー!」

 ぼくが聞くと、カナデが心底嬉しそうに飛び跳ねた。すごく揺れた。

 なぜかうにゅ子も一緒に喜んでるけど、まあ見習いメイドらしいから、メイドの仕事を道中いろいろ教えてもらうのだろう。多分。



 旅に出ることが決まった。じゃあ次は、どこに行くかという問題になり。

 この点で、みんなの意見は完全に分かれた。

 会議室のテーブルに広げられた大陸地図を前に、それぞれが己の持論を披露する。

「──いいですか兄さん。トーコ女王に渡された訪問リストを順番に並べると、少しだけ遠回りですが、こうして海岸沿いに進むのが──」

「しかしそのリストを見ると、トーコが国交の無い国を並べているだけじゃないのか? それよりも情報が見込める場所に焦点を絞るべきだ。具体的にはこちらの地方を──」

「それって、サクラギ公爵家の支配する領地のすぐそばじゃないですか。ユズリハさんが里帰りしたいだけでは……?」

「それを言うのならスズハくんのルートだって、海水浴と各地の海産物食べ歩きがしたいだけじゃないのか……?」

「そ、そんなことはあんまりありませんっ!」

 スズハとユズリハさんが熱い討論を繰り広げる様子を見ていると、女騎士の作戦会議もこんな感じなのだろうかと思う。ぼくは軍人じゃないので詳しくは分からない。

 それよりぼくは、メイドのカナデの様子が気になった。

 表面上は一歩引いて議論を眺めているけれど、なにか秘策を持っているような、そんな雰囲気を醸し出している。

 それにメイドには、独自の情報網があるっていつも言ってるし。

「カナデは、なにかいい案ある?」

 ぼくの言葉で、スズハとユズリハさんの注目も集めたカナデは。

「まーかせて」

 自信ありげに胸を張って、地図の一点をびしっと指した。

「えっと、ここは……谷かな?」

「谷ですね。ですが兄さん、この周辺には集落など何もないようですが」

「それは当然。ここは秘密の場所、人呼んでメイドの谷」

『メイドの谷?』

 ぼくはもちろん、スズハやユズリハさんも聞いたことが無いみたいだ。

 カナデがますますドヤ顔を深めて、

「そう。優秀なメイドを養成するための秘密のばしょ、人呼んでメイドの谷」

「そんな場所あるんだ……」

「わたしもそこの出身。凄くひみつだから誰にもいっちゃだめ」

「たった今カナデから聞いたんだけどね……?」

「ご主人様は、カナデのご主人様。だから特別」

 それならばスズハやユズリハさんはどうなるのさと思ったものの、面倒な話になってもアレなので黙っておこう。

「メイドは情報収集のプロ。だからメイドの谷には、世界中のひみつ情報が集まってる」

「ふむ……カナデの言うことも一理あるかもな」

「ユズリハさん?」

「カナデの言うとおり、メイドは時に貴族すら凌駕する横の情報網を持っていたりする。トーコの示した小国よりも、こちらの方が情報量が多いかも知れない」

「…………」

「な、なんだスズハくん。なにか言いたいことが──?」

「この場所ですと、山を二つ越えた先はサクラギ公爵領ですね?」

「い、いやあ!? それは気づかなかった、偶然だな──!」

 なぜか額に汗をかいて弁解するユズリハさんはさておいて。

「とりあえず、最初の行き先は決まったね」

 メイドさんは情報収集のプロだ。少なくともウチのカナデは。

 ならばひとまずは、カナデの提案を採用しよう。


 というわけで、ぼくたちはメイドの谷を目指すことになった。

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