じつは義妹でした。特別短編小説

『じつは兄貴の部屋でベッドに寝っ転がっていたんだけど……』(晶視点)

 僕の名前は姫野晶ひめのあきら、高一。


 最近母さんが再婚して、義理の兄ができた。

 名前は真嶋涼太まじまりょうたくんといって、僕の一つ上。

 僕は「兄貴」と呼んでるけど、兄貴はそう呼ばれると嬉しいらしい。


 容姿は……普通?

 かっこいいほうだとは思う。


 ちなみに勉強はそこそこできるらしい。

 この夏休み中、全然やってる様子はないけど……。


 性格は、面倒見が良くて優しい。

 でも、ちょっと変わってて、鈍感なのが玉に瑕……。


 なにせ僕を三週間近く妹じゃなくて弟だと思ってたらしいし、お風呂で——まあ、その話はおいといて……。


 そんな兄貴に僕は甘えつつ、いつも一緒にダラダラと過ごしている。

 今は兄貴の部屋で、僕は兄貴のベッドに寝っ転がってソシャゲをやっていたんだけど——


「兄貴〜、暑いよ〜……」


 今日はこの夏一番の暑さらしく、エアコンがきいていてもちょっと暑い。

 机で雑誌を読んでいる兄貴にちょっとだけ甘えてみる。


「あおいで~……」

「人のベッド占領してるやつが言うセリフか?」

「じゃあジュースでもいいよ?」

「…………」


 兄貴は呆れた顔で雑誌を裏返し、机の上に置いた。


「いかんいかん! せっかくの夏休みなのにシャキッとせねば!」


 そう言うと兄貴は立ち上がり、


「汗かいたし、シャワー浴びてくる」


 と言った。


 僕は「ういー」と気のない返事をした。

 相手にしてもらえてないみたいで、僕としてはちょっとだけ寂しい。

 そういえば——


「——僕もけっこう汗かいちゃったな……」


 兄貴がいなくなったところで、襟ぐりを引っ張ってみる。


「うわっ……ベトベト……——」


 ——はっ⁉︎

 ここ、兄貴のベッドだった……!


 慌ててシーツの上を確認してみたけど——ちょっと湿気ってる⁉︎


 汗臭くないよね……?

 汗臭かったらやだなぁと思いつつ、枕をくんくんと嗅いでみた。


 だ、大丈夫……!


 ちょっとだけホッとした。

 汗臭い子だと思われたらどうしようと思ったけど、今のところセーフ。

 ちょっとだけ臭いがするけど——


「——これはたぶん、兄貴の……」


 ……

 …………

 ………………


 僕は枕をじっと見つめた。


 枕だ……。

 兄貴の枕……。

 兄貴の、枕……——




 ――ガチャ。




「——さっぱりした〜。ついでにジュース持ってきたぞー」

「…………」


 兄貴が部屋に戻ってきて、僕は夢から覚めたみたいになった。


 でも、しまった。

 この体勢はマズい。

 今、僕はうつ伏せになって兄貴の枕に顔を埋めている……。


 どうしてこうなったのか?


 ちょっと、魔が差しちゃったんだ……。

 だって、この枕も布団も、僕の大好きな——


「あれ? 寝てるのか、晶?」

「…………」


 僕はそのまま寝たフリをする。


「そんな枕に顔うずめて読んで——」


 寝ている僕を起こさないような、小さな声。

 兄貴は僕の背中にそっと布団をかける。


「好きなんだなぁ、その漫画」


 兄貴はそのあとも僕を起こさないように、静かに雑誌の続きを読み始めた。


 優しい。

 嬉しい。


 でも、ごめん、兄貴。

 じつは兄貴の枕の臭いをかいでました、なんて、恥ずかしくて言えない……。


 なんで僕、こんなことしちゃったんだろ……?


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<告知>

お読みいただきまして、ありがとうございます!

この短編小説は、1月7日発売

「じつは義妹いもうとでした。」コミカライズ1巻!

(作画:堺しょうきち)


ゲーマーズ店舗特典描きおろし漫画を、逆ノベライズしたものです。

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