じつは義妹でした。 ~最近できた義理の弟の距離感がやたら近いわけ~

プロローグ


 夏休み終盤のある晩のこと、俺はベッドで背中に一人分の熱と重みを載せていた。

あきら、そろそろ降りてくれ。いい加減重くてしんどい……」

「もうちょいこのまま──っと、兄貴、いきなり揺れないで! 操作ミスったし!」

「はぁ、そりゃすまないな……」

 さっきから俺の頭上でソシャゲの音が鳴り響いている。

 ベッドにうつ伏せになって漫画を読んでいるのは、高二の俺ことじまりょう

 その俺の上で、さらにうつ伏せになってソシャゲを楽しんでいるのは高一の晶だ。

 どうして俺が晶とベッドのサンドイッチ状態になっているのか?

 こいついわく、「兄貴の背中は僕のベスポジだから」とのこと。

 そもそも高校生にもなってこの密着性はなんだか不自然な気もする。というよりも気まずい。気まずくないふりはしているが、それでも、やっぱり、気まずいものは気まずい。

 俺が「あとどれくらい?」と聞くと、晶は「あと五分くらい?」と返してくる。さっきからその繰り返しで、かれこれ二十分以上この状態が続いていた。

「あちゃ〜、また負けちゃった……」

「じゃあもう降りてくれ」

「やだ。もっかいする」

「おい晶、俺だってもう限界だって──」

「ちょっ兄貴! うわっ!」

 俺が急に腕をついて上体を起こそうとしたせいで、晶はバランスを崩してそのまま落ちた。

 ベッドの上で晶の軽い身体からだがちょっとだけ跳ねる。

「あ、悪いっ!」

「もう! いきなり立ち上がらないでよ〜!」

「すまん、つい……」

「ごめんって思ってるなら……今晩一緒に寝る?」

「なんでそうなる!」

「いいよね、一緒に寝るくらい? 僕、前から『きょうだい』で寝ることに憧れてたんだぁ」

「いやいや、良くないって……。このとしになって『きょうだい』で寝るのは……」

 すると晶は悪戯いたずらっぽい顔で俺を見た。

「……兄貴、僕に対していろいろしたよね? 僕のお願いくらい聞いてくれてもいいんじゃない?」

「いや、それに関しては、大変申し訳ないと……。でも、ちょっと、寝るのはなぁ〜……」

「……な〜んて、ずるいこと言っちゃった。ごめん兄貴、困らせちゃったね?」

 俺が「なんだ冗談か」とほっとしたのもつか、晶は俺のとんに潜り込んだ。

「まあいいや。じゃあお休み〜……」

「おい、晶」

「むにゃむにゃ〜……」

「俺の布団で寝るなよ〜……」

 つくづく、弟だったらなぁ、と思う。

 弟だったらいい。

 弟だったら背中の上に載せてソシャゲをするのもありだ。

 弟だったら背中から振り落としてもきっと気を使う必要もないだろう。

 弟だったら一緒に寝ることも……ありかもしれない。

 寝たふりをしたままの晶を見ながら、俺は「弟だったら」の前置きを「妹だから」に変換してみる。

 後の文の結果がそのままだったら問題ない。けれど、導き出された結果がまったくべつのものになってしまうのは、俺が晶をもう弟だと、同性だとは思っていないから。

 ほんの数日前まで俺は晶に対し、冗談では済まないような勘違いをしたまま接してしまっていた。

 そもそも、どうしてそんな勘違いをしてしまったのか?

 それに、そのことを誰かに話せばどんな反応をするだろうか?


 ──義理の弟だと思っていた晶が「じつは義妹いもうとでした」なんて言ったら……。


 馬鹿にされるか、あきれられるか、そんなことはわかりきっている。

 知りたいのはその先の反応。俺と晶が周囲からどんな目で見られるのか。

 いや、周りのことよりも今は俺と晶の関係が問題だ。

 俺は、この無防備で、弟みたいに距離が近い義妹とどう接していけばいいのだろう?

 晶の兄として、俺はこの数日間そのことについて悩み続けている。

 とにかく晶。

 お前は義理の弟じゃなくて、

 義妹いもうとで、

 女の子で、

 わいすぎて、

 とにかく困る……。

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