プロローグ

 どうしたの? アン。ねむれないの?

 いいのよ。そんな日もあるわ。

 ならママが、昔話をしてあげようか。ハイランド王国に伝わる、ようせいのお話。

 そう、妖精。うすい羽が、背中にある人たちのことよ。お金持ちの家なんかで、働かされているのを見たことあるでしょう?

 ほら、はやく毛布にくるまって。そう、いい子。それじゃあ、始めるわね。

 ずっとずっと昔。人間が火を使うことも知らなかった、大昔。この国には、妖精の王国があった。妖精王がいて、妖精たちは王を中心にして、平和に暮らしていた。

 妖精は自分たちの王国を、ハイランドと呼んだ。すべての生き物の『いちばんてっぺんに立ってる国』って意味でね。そして彼らは、そのころも力もなかった人間を、れいにしていた。

 ええ、そう。

 今は人間が、妖精を使えきしているけれど。大昔は逆だった。妖精が、人間を支配していたの。

 いい? 続けるわよ。

 妖精たちは、平和を愛した。彼らは常に、美しいものと楽しみを追い求めた。

 何百年も妖精は変わらず、おだやかに暮らした。

 けれど人間はちがった。少しずつ、変わっていった。

 人間は努力して、いつしか火を使うことを覚えた。知恵もつけた。そして人間たちは、とうとう気がつくの。自分たちは、妖精に支配される必要はないってことに。

 今から五百年前。

 人間たちは反乱を起こし、ハイランドを手に入れた。そして妖精を、人間の下僕としたの。

 え? うん、そうね。

 今の妖精は、可哀かわいそうね。世間の人は妖精のことを『遊び暮らしたから人間に負けた、おろかなやつら』って言う。けど、ママはそうじゃないと思う。妖精は人間よりも数が少なくて、人間との力比べに、負けてしまっただけだと思うの。

 どうしてかって? だってね、砂糖りんから銀砂糖を精製する方法を発見したのは、妖精だと伝えられているからよ。この世ではじめて砂糖を作ったのは、妖精なの。

 あんなてきなものを作る人々が、愚かであるはずない。

 だから私たち砂糖菓子職人だけでも、妖精をさげすんじゃいけない。

 友達として、つきあわなくちゃいけないと思うの。

 あなたも、ね、アン。アン?……あら。眠っちゃったのね。いい子ね、アン。おやすみ。

 よく眠って、笑って。そして砂糖菓子みたいに、やさしい女の子になってね。

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