配信1『見習いメイドうさぎは大バズりの夢を見るか』(3)

 そして運命の亜理紗さんの第一声。配信に乗ってしまった彼女の素。

「いや、あの!! 本当に借金返済の催促無視してすみませんでした!! 後日改めてご連絡しますので、どうか今は勘弁してもらえませんか!? 後生です、一生のお願い!!」


・情けない懇願が丸聞こえだwwwww

・クッソ事故ってるwwwwww

・ほ、放送事故だぁぁぁぁぁ!!

・これは痛恨のミュートミスですねぇ……

・借金話も全部マジなのかよwwwwww

・草

・こんなん草

・わろたwwwwww

・切 り 抜 き 確 定

(祭だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! リスナーのノリが良くて本当に感謝!!)

 そうしてコメント欄は大盛り上がり。誰もが事故を楽しんでいる。

「か、返す当てはあるので、もう一か月だけ待ってもらえませんか!? これが成功すれば利息分までまるっとお返し出来ちゃうんで!! へへっ、お願いしますよぉ……」

・三下ムーブ出ちゃってるよ

・これは流石に草

・どうしてこんなことに……?

・最高wwwwww

「次は無い? そりゃ勿論ですよ!! あって堪りますか、二度もこんな状況が!! ははっ!! はい、はい……。本当にすみませんでした……以後気を付けます……はい……」

・最終的には笑う元気も無いの本当に笑う

・このリアルさは演技じゃない。仮に演技だったら末恐ろしい

 そこで対応が終わったのか、彼女はおぼつかない足取りでPCの前に戻って来た。

(問題はこの後……!! 亜理紗さんのリアクション次第で事故か伝説か決まる……)

「クソが……せめて配信中には来ないでほしかったって……空気ぐらい読め……。はぁ……。皆様、お待たせしました……。メイドがご主人様を待たせるなど言語道断――」

・戻ってきたwwwww

・切り替えが早いwwww

・追い返してて草

・全部聞こえてたよ……

「――はひゅッ!? み、ミュート出来てなかった!? 嘘ッ、さっきの全部聞こえ……」

 コメント欄を見て血の気が引き、彼女は画面越しで分かるぐらい息を呑んだ。

「え、えぇぇぇぇぇぇ!? 絶対ミュートしたってぇ!? 何で、何で!? あぁぁぁぁぁぁ!! 終わった、あんなの聞かれたら終わってますがな!! いや、本当に何でぇ!? やだぁ!!」

(……俺は本当にやばいことをやってしまったんだな……。好奇心はメイドを殺す……)

・やっと気づいたwwwww

・二重人格かよわろた

・祭だろこれはwwwwww

・これは流石におつエリ

「馬鹿、私の馬鹿!! メイドでイキってるところ見られるのは本当に恥ずかしいが!!」

・心配するべきポイントがずれてて草

・とんでもない放送事故の方をまず心配してもろて

「そうか、放送事故か!? 取り敢えず全員消そう今の記憶を!! 今から一人ずつ頭殴りに行くから正座して待ってて!! 私がリア凸されたからリスナーもされようね!! うん!!」

・うん、一回落ち着こうか

・壊れてて草

「優しく囁けば分かるかな……? 今から三秒数えるから、それでぜーんぶ忘れようね」

(疑似ASMR!? マイクに寄っただけだからそれを感じられるのは俺だけなんだが!?)

 ほぼ吐息まで感じられる距離まで口をマイクに近付ける。こんなの耐える自信が無い。

「はい三……二……一……。ゼロ!! ゼロ!! ゼロ!! オラッ、全部忘れろお前ら!!」

・ゴミみたいな催眠音声で笑ってしまう

・迫真のゼロ連呼でもうダメだった

・忘れらんねぇよこんなのじゃwwwww

・ゼロ連呼で耳ないなったわ

(内容は内容だったけど、流石に至近距離で推しの声聞くのは心臓が……。愛した……)

「まっずいこれは……!! 最終手段も通じないなら私に出来ることなんて何も……!!」

・取り敢えず一旦落ち着こうエリンちゃん

・これこそ放送事故なんだよなぁ……

・草が抑えられん

「そうですね。一旦お茶でも飲んできますので、好きにコメントしておいてください」

・うわぁ!? 急に冷静になるな!?

・この情緒のイカれ具合は大物の予感

・本当に突然メイドが現れて、正しくプロなんだなって……

 もうよく分からないことになってしまった配信。それでも止める気は無いようで。


「――要点だけまとめますと、借金でもういっぱいいっぱいなのです私は」

 泣きそうになりながらお茶を飲んで。ようやく落ち着いていた。

・要点まとめられてえらい

・リアルの話だとは流石に思わなんだ……

「も、勿論鏡の国からのあれですよ? 鏡の国からの使者はなかなか執念深い奴等でしてね。あいつら本当に許せねぇですよなぁ? 皆様もそう思いますよね?」

・追ってくるのは当たり前なんだよなぁ

・全く悪びれてないのほんまwwww

・鏡の国が産み落とした悲しき怪物

「これで私が鏡の国にいられない理由が分かったでしょう? 逃げてるんです、実際は」

・実際は現実から逃げてるんだよなぁ

「ふふっ、上手いこと言ったおつもりですか? ご主人様ポイント高めですねこれは」

・喋り方は丁寧なのにふてぶてしさが増してて頭バグる

・謎のポイント制になってしまった配信

 改めて見ても事故後の対応力が本当に高い。最強だ、加々宮エリン。

「そうでした。これは配信最後に伝えようと思いましたが……加々宮エリン、遂に収益化の条件達成いたしました!! 遂にスパチャ解禁!! 色付きコメント最高でございますね!! 現在申請してますので。この配信の事故が収益化ポリシーに違反してたらさよならです」

・あまりにも際どいラインで何にも言えん

・おめでとうだけど、スパチャの意味合いが変わってきてるんよ

「恐らく、きっと大丈夫でしょう。メイド、最強ですからね。負ける気がしません」

・そのメイドに対する絶対的な信頼感は何なんだよ

・問題なのはメイドじゃなくて借金の方だろwwwwww

「全て壺が悪いのです!! あんな割れやすいところに置いていることこそ、本当の悪」

・その、言える範囲で良いんだけどお幾らぐらいの……?

「そうですね、五十億ペルムぐらいですか。そんなもん適当に置いとくなって話ですよ。因みに現世の貨幣価値で換算いたしますと……良さげな新車が購入出来るぐらいかと」

・あっ……(察し)

・一円は大体五百〜千ペルムぐらいと……

 この設定も作ってたんだろうな……。努力は嘘を吐かない。

「鏡の国は非常に健全な国ですので、一発逆転出来る手段が存在しないのもまた問題となっております。せめて、せめて……国営で競馬ぐらいはやっていてほしかった……!!」

・出ちゃってる出ちゃってる、本性が

・そうか、原因はギャンブルか……

「ギャンブル? はて? 私は玉やメダルなどをお金と交換したことはありませんが?」

・知ってる!! 絶対知ってるよこのメイド!!

(やっぱギャンブルか!! たまにそれっぽいこと言ってたもんなぁ……)

「一つ一つは小さな積み重ね……。それがいずれは大きなものになっていくのです。いいですか? これはまだ勝ちの途中なのです。結局は壺が悪いのです……」

・いい話風にまとめようとするな

・つまりは負けまくったって話だよな、草しか生えない

・誤魔化しは無用

・ギャンブルという名の蠱毒こどくに負けた女

・最終的には壺(財源)が割れたのね……

「黙って聞いていれば言いたい放題ですね、ご主人様の分際で。奉仕やめましょうか? そもそもチャンネル登録をしただけではご主人様になったとは言えないでしょう。そうですね、近いうちにメンバーシップでも作りましょうか。そこからが本当のご主人様道」

・今日の何処に奉仕要素があったんだよwwwwww

・仮に見習いじゃなくても分際だけは言っちゃいけなくて草

・俺達はまだ登り始めたばかりなんだ、この果てしなく長いご主人様道をよ……

・この女、本性が知れてからどんどん付け上がって来るな

「そうでした、一つだけ忠告を。皆様は絶対に私の領域までは来てはいけませんよ……。少なくともご主人様達に無理だけはさせたくありません。本当に、この低みは辛いのです。だからこそ私は、自分の好きなコンテンツで最後まで頑張ろうと決めたのです……!!」

・声のトーンからしてもうガチなのが伝わる

・泣きながら笑ってる今

・どん底故の優しさ

・応援するよ!! 無理しない程度に!!

 俺もリスナーと同じ気持ちだ。マイクじゃ無ければ号泣していた。

「あ、鏡の国でも配信って流行ってましてね? ほら、現世の方がこのうさ耳はきっとウケるでしょう? やべっ、ウケるとか言っちゃいけませんか、普通に口が滑りました」

・分かったから、もう分かったから!!

・いいよもうこのスタイルでwwww

「……これからもちゃんと加々宮エリンとして頑張るから見捨てないでね、ご主人様」

・急にしおらしくなるのやめてよ……こんなの投げたくなる……

・アカン、刺さった。スパチャあったらやばかった

(今月のバイト代消えるところだった!! マイクでスパチャ出来なくてよかった!!)

「勿体無いことしましたね、これは……!! 最終兵器として取っておくべきでしたか」

・感情がジェットコースターのように揺さぶられる

「ふふっ、未熟なメイド故お許しを。これから成長していく見習いメイドですので」

(前よりずっと表情が生き生きしてる。これからの配信が益々楽しみだ)

「それでは盛大に事故ったことですし、本日の配信はここまでに致しましょうか」

・加々宮エリンの新たな一面が見れた配信だった

・今日の配信は確実に切り抜かれる、何なら俺が切り抜く

「切り抜きがもたらすのはバズか炎上か。この運否天賦うんぷてんぷが、私の一番好きなものです。では本日もまた一人前のメイドに……近付けた気は全くしませんが。恐らく加々宮エリンの大きな分岐点になったと思われます。そしてご主人様達に、溢れんばかりの愛と感謝を」

・おつエリ!! なんか応援したくなったよ

・こんなメイドが一人ぐらいいてもいい。おつエリ!!

「では、次のご帰宅は財布を潤わせてからでお願いいたします。おつエリ、でした!!」

 手を振って柔和な笑顔で。エンディング用の一枚絵を設定してしっかりミュートに。

「――あははっ、ミュート出来てないとは恐れ入った!! ちゃんとしたと思ってたけど、マイクのトラブルか何かかな? まぁ、君のお陰でなんか面白い状況になったよ!!」

 豪快に笑いながらも亜理紗さんは怪我の功名と言わんばかりにマイクを優しく撫でる。

 こそばゆい思いをしながらも俺は、無理矢理にハイリスクハイリターンな展開に持ち込んでしまったことを反省していた。というか役得過ぎて感情が追いついていないが。

「春人君の言った通りだったね。Vの界隈っていうのは、思ってた以上に奥が深いよ」

(!? 俺がマイクになってること、バレてないよな? 話しかけてる風だけど……)

「さ、今日はもう寝よう!! 明日以降どうなってるかは明日の私に期待ってことで」

 切り替え早く、すぐにPCの電源を落としながらマイクの電源も同様に切る。

 自分で言っていたように、今日の配信はきっと加々宮エリンというVの分水嶺。

 途切れ行く意識の中、俺は彼女が炎上だけはしないように精一杯祈り続けていた。


【本日のスパチャ額 ¥0(収益化申請中の為)】

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