プロローグ

「国一番のブサイクって……、あのルース・サントリナ辺境はく様のこと、ですよね……?」

 私の言葉に、父は苦々しい表情でうなずいた。

 同席していた面々はみな、どうやら私に対する同情から、そろって悲痛なおもちだ。なみだぐんでいる者すらいる。

 信じられない。ありえない。

 でも、どうやら本当のことらしい。

「つまり、ルース様に、私がとつぐ。……そんな、そんなの……」

 ああ、声がふるえる。

 表情を律することができない。

 しようどう的に動きたがる自分の体をおさえつけるのすら一苦労で──、

「ただのごほうじゃないですかっ!」

 ついれた私の心からのさけびに、その場のみんなが、ぴしり、とこうちよくした。

 ああ、どうしましょう。

 私、今きっと今生で一番いいがおになってしまっているわ。

 しあわせすぎてねたい気分。ばんざいとかしても……、いえ、だめよね。

 本当は、笑顔も引っ込めなくてはいけないの。

 だって、今は、悪役れいじようである私の断罪の場面なのだから。

 そんな場にはまったくそぐわなかったのだろう私の【ご褒美】発言からの満面の笑みに、まだ場のみんなはこおりついたままだ。

 ……そんなにおかしかっただろうか……。

「ん、んんっ。失礼、取り乱しました」

 気まずくなった私がせきばらいをして、精いっぱい表情を引きめてそう言うと、ようやくみんなの時間が動き出した。

 さっきのはなにかのちがいかな……? とでも考えているのか、一同こんわくした表情で首をかしげている。

 仕切り直すかのようにかぶりった父が、重々しくうなずきながら口を開く。

「ああ、いや、あまりにとつぜんの話だ。混乱して当然だろう。ただ、安心してほしい。まだこんやく、事情が変わればできる段階だ。そのためにも、私は今実際のこんいんを結ぶ時期をできる限り引き延ばすよう動いているところで……」

「いえ、かまいませんわ。私、ルース様に嫁がせていただきます。先方がおっしゃっているように、一ヶ月後学園を卒業したら、すぐにでも」

 私ががんばって表情を引き締めるあまりにきりりとしながらそう言うと、父のまゆがへにゃりと下がった。

 今にも泣いてしまいそうだ。泣くことじゃないのに。

「し、しかし、サントリナ辺境伯は……、その……。いや確かに、人格いえがら能力はすべて、お前の結婚相手として申し分はない。ない、が……。いや私が言えたことではないが……、けれど私から見たってあまりに、あまりにその、……みにくい、だろう。無理をせずとも……」

「かの方の姿は、私にとってはなんの問題にもなりません」

 私が父の言葉をさえぎってそう断言すると、ほろり、と、父のひとみからひとつぶの涙が落ちた。

 いやあの、やせまんとかじゃなくて、国家へのけんしんとかでもなくて、まして推定ヒロインながみのいとし子様にやらかしてしまったことへの反省なんかでもまったくなくて、ただの本心なんだけどなぁ……。


 だって、この世界の【醜い】だの【ブサイク】だのって、ただただ【色素がうすい】って意味でしかないんだもの。

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