第2話
まさかの訪問に、すっかり目も覚めた。
もちろんこの先、いつかは学校のどこかで会ったりすることはあると思っていたが、このような形で最速で再開するとは思っていなかった。
しかも、会う形が大胆すぎてクラスメイト全員にこの現場を見られてしまった。
彼女が、次の授業の準備へと向かったのを見送った後、自分の席に戻るまでの間に変な注目を言うまでもなく浴びた。
「斗真〜? あの子は一体どういうことかな?」
「さっきまで彼女欲しいっていう話は何だったんだよ!」
席に戻ると、早速二人からの質問攻めが始まる。
「いや、そんなお前らの思うような関係じゃないって」
「そんなわざわざ隠そうとす必要なくね? わざわざ会いに来るくらい熱々なのに、隠すのも無理だぞ」
「本当にそういう関係じゃないんだってば……」
校内への噂の広がり方はえげつないので、どんなに友人でもはっきり否定しておかなければならないことはしておく必要がある。
……特に恋バナは。
あの子の容姿なら、すでに高い注目を浴びているに違いないし、恋愛事情も気になるはず。
ありもしない噂が入学早々広がって、あの子の友達とかにも広がると、あの子にとって困ったことになることは確実なのだから。
「じゃあ、何でわざわざお前に会いに来たんだ?」
「妹の一番仲が良い友達なんだよ」
「それだけでお前に挨拶に来るのか?」
「まぁ家に遊びに来たときとか、会ったりしてたからだな」
否定することはあっても、友人に対して話すことは何も隠さなくても良いので、素直に全て話す。
「なーるほど、純粋に人の良い感じの子なのか?」
「いやほんとその通り。何で妹と一番仲が良いのか、未だによく分かってない」
「お前が嘘をつくことはないだろうから、マジなんだろうけど……」
「だろうけど?」
「ぶっちゃけ気になったりしないの? あの子すごく可愛いぞ。正直なとこ、それなりに有名になるくらいには。それで性格もいいんだろ?」
「そうね……」
その言葉は確かにそうなのだが。
俺だって、この二人の立場ならそういう言葉をかけたに違いない。
確かに、あの子は非の打ち所が無くて、とても魅力的。
それは、中学から見ている俺は理解しているつもりだった。
でも踏み込めない。踏込もうとは思わない。
そしてその理由は――。
「まぁ、妹の友達だからねぇ。そういうことはあり得ないよ」
この言葉が全てである。
そもそも、年の近い兄妹の友達と仲良くなるということ自体が、非常にレアなことだと思う。
そして俺も妹も、中学から高校と、思春期真っ只中。
色々と隠したいこともあるし、触れられたくないこともあるはず。それも異性だから尚更のはず。
それでも素直さは変わることなく、何でも話してくれるし、協力してくれる妹。
そんな妹の大切な親友に、そんな気持ちを抱いて接することなど、していいわけがない。
妹がどれだけ傷つくか、想像することは出来ない。
そして何より、妹同様に信頼してくれているあの子が困るようなことはしたくない。
この二人を困らせれば、関係性が崩壊するかもしれない。
学校が異なっても、お互いに支え合えるような関係性を壊すような愚かな兄にはなりたくない。
「……何か面倒な事情があるってことが、お前の顔見てりゃ分かるわ」
「だな。まぁこれ以上は聞かないでおくわ」
「すまん。理解が早くて本当に助かるわ」
いつも軽いノリの二人だが、大事な時はすぐに察して気を遣ってくれる。
どこまでも俺にとって、恵まれすぎた友人でしかない。
話が一通り落ち着くと、二時間目の授業を知らせるチャイムが鳴った。
それぞれ席を立って話をしていた生徒たちが一斉に自分の席に戻って授業の体勢に入る。
「はーい。二年生の古文を担当します――」
新学期恒例の、科目担任の自己紹介が始まっている。
「凛ちゃんね……」
妹の親友で、自分にとっても多少なりとも近い存在になったこと。
そして妹の親友であるからこそ、普通に年の近い女の子という存在ではなくなった。
近いからこそ、知っていることもある。
だからこそ、色んなことを考えてしまう。
(早紀に、凛ちゃんに声かけてもらったことを報告しておかないとな……)
数日前からずっと俺に凛ちゃんの事を話していて、気になっていることは間違いない。
このことを話せば、きっとこれから俺が凛ちゃんを助けやすくなったと安心して喜ぶことだろう。
そしてあくまで俺は、妹が大切にする友達を助けられるような存在だけでありたいところだ。
そうすることで、何も波風が立たず良い流れが出来るはずだ。