プロローグ

 この俺、いとはらとうには一つ年下の妹がいる。名前は糸原

 つまり年子というやつである。

 年が近いこともあって、よく言い合いにはなる関係性だが、それでも両親が仕事で忙しいこともあって妹と力を合わせて生活を送っていた。

 普通に見れば、そこそこ仲のいい兄妹関係だと思う。

「兄さん、明日うちに友達呼びたいんだけど」

 お互いに中学生生活を送っていたある日、妹からそんなことを切り出された。

「……俺に言っても意味なくね? 父さんか母さんに言わないと」

「言ったんは言ったんだけど、部屋綺麗にして変なことしないなら好きにすればって」

「まぁ仕事でいないもんな。別に俺は構わないから、呼んだらいいぞ」

「うん、ありがと」

 特に断る理由もなかったので、承諾した。

 この選択が後々大きな影響を与えることになることなど全く知らずに――。

「こんにちは。お邪魔します」

「……お、おお。いらっしゃい。ゆっくりしていってくだ…さい」

 妹が連れてきたのは、どこかの芸能人かと思わせるような綺麗な女の子だった。

 綺麗な身なりだけでなく、こちらにも丁寧に頭を下げて挨拶までされて呆気にとられた。

「じゃあ、りんちゃんこっちの部屋ね! 兄さん、ジュースとお菓子持ってきてよ」

「ほいほい」

「そ、そこまでしなくても……私にはお構いなく」

「気にしなくて大丈夫ですよ」

 相手は年下であることも考えて、最初から敬語で話すつもりなどなかったのに、なぜか自然と敬語で話してしまうような雰囲気。

 その時から、彼女の雰囲気に取り込まれていたのかもしれない。

「ほい。お菓子とお茶」

「ありがとうございます!」

「あれ、ジュースじゃないの?」

「まともなものがチョコレートしかなかった。チョコレートにはお茶だろ?」

「ま、そりゃそうだ。ナイス選択」

「じゃあ俺は引っ込むから、あとはお二人でごゆっくり〜」

 最初はそれだけだった。

 彼女とは挨拶をしただけで、まともな会話一つすらもなかった。

 それが当たり前。

 そもそも、友達の友達が赤の他人であることが珍しくない。

 ましてや、妹という年の近い家族の異性友達と仲良くなることなど滅多にあることではないのだから。

 最初こそは圧倒されたものの、特にその後は何を思うわけでもなくその時を過ごした。

 しかし、妹と彼女はとても仲良くなったようで、その後も定期的に家を訪ねて来るようになった。

 それに加え、妹の性格から約束しているのに、なかなか用事で家に戻らなかったりすることが度々あった。

「ごめんね。あいつ約束を忘れるとかはないから、多分なんか用事で時間押してるんだと思う。すぐに帰ってくるから」

「いえいえ、お構いなく」

 どんな時にでもニコニコと笑顔を見せる。

 整いすぎた可憐な顔が笑うのだから、可愛くないはずがなく。

 目を合わせるとこちらが焦ってしまうので、挙動不審な動きをしてしまう。

「……」

「……」

 そんなぎこちない空気にならざるを得ない二人だけの時間。

 その頃から俺と彼女、みや凛との不思議な距離感の関係性が始まっていった。



「あ、そうそう。凛、兄さんと同じ高校に入学することになったんだよ」

「……そうなのか」

 春休みの終わり、明日から新学期からというタイミングで妹からいきなりそのような話を切り出された。

 妹の口から出た名前の人物を俺自身もよく知ってはいる。

 本格的な受験シーズンに入ってからうちに来なくなったが、数カ月前まではよくうちに遊びに来ていた

 ちなみに妹は音楽を専行する学校に進んだため、俺とは同じ高校にはならなかった。

「でも、俺が特にあの子と関わることは無くないか? そもそもお前が連れてきたことで会ってどうもってくらいだし」

「まぁそうかもしれないけどさ。何かあったらよ」

 仲が良いが故に、かなり気にかけている。

 良い友情だが、いくら妹からの頼みでも、進んで関わりに行くことはしない。

 ただ、良い娘であることは俺もよく分かっている。

そのため困っているようであれば、何かサポートが出来る方が良いだろう。

ただ、妹の考えているようなサポートする関係の形とは、異なってしまうような気もする。

ただただ同じ高校の先輩後輩、という形で支えることが出来ればと思った。

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