今年も「次にくるライトノベル大賞」が発表となり、『バスタード・ソードマン』が単行本部門で2位となりました!
そこでキミラノでは著者のジェームズ・リッチマン先生にインタビューを敢行! 基本的に主人公がほとんど戦わない、抜け具合が最高なスロー冒険者ライフがどうやってできたのか、お話を伺ってみました。

──「次にくるライトノベル大賞2024」上位入賞おめでとうございます! まずは今の感想をお聞かせください。
(ヽ◇皿◇)ありがとうございます。
さまざまな良作がノミネートされているつぎラノの単行本部門で、2年連続2位という輝かしい結果を残せたことには、応援してくださった読者の皆様に対する感謝でいっぱいです。数ある素晴らしい作品の中からあえて『バスタード・ソードマン』を選び応援してくださった皆様、本当にありがとうございます。
──主人公モングレルは「周囲には隠しているが実はすごい力を持つ」という王道の主人公ながら、何か大きな事件を解決するということもなければ成り上がっていくということもなく、ギルドマンとして地に足のついた日常を送っているのがとても珍しく感じました。本作を書こうと思ったきっかけを教えてください。
(ヽ◇皿◇)元々、現代文明の知識や記憶を持った男主人公による一人称のファンタジー小説を書きたいと思っていました。俗っぽい言い方をすると、「ファンタジー異世界転生モノ」ですね。流行りですし、言うまでもなく今でもとてもウケているジャンルですが、これを自分の好みで書いてみたらどうなるのだろうという興味が主でした。
私はどちらかと言えば物語性のある山あり谷ありのストーリーよりも、ファンタジー世界の日常生活を観察したり体験したりする話の方が好みなので、自分の趣味嗜好を全開に書き出しました。主人公のモングレルが成り上がりよりも日常を重んじたり、目立たないように生きるのを好んでいるのは、異世界で日常生活を送らせるためのキャラ付けでもあります。
ただそれ故に、他の一般的なファンタジー作品と比べると、極端に平坦に感じられるかもしれません。
ですがその地味な味付けが人気を呼んだようなので、何が受けるかわからないもんですよね。
──本作はもともと小説投稿サイト「ハーメルン」に掲載されていました。リッチマン先生が小説を書くようになったきっかけを教えてください。
(ヽ◇皿◇)小説を書くようになったのは、携帯小説サイトがきっかけでした。ジャンルもファンタジーでしたね。
ガラケーでぽちぽちと物語を紡ぎ、今からするとかなり物足りない文量でも勢いで投稿し、アクセス数が1回増えるだけでも本当に嬉しい、そんな時代でした。今ではもうその投稿サイトは消えてしまいましたが、それからも掲示板で台本形式のSSを書いたりだとか、なろうに投稿したりだとか、ハーメルンで二次創作をしたりだとか、場所を変え題材を変えながら、物語を書き続けています。
小説を書くのは本当に楽しいです。皆さんも是非気軽に投稿サイトなどで書いてみてください。楽しいですよ。
──小説を書く上で何か影響を受けた作品がありましたらジャンル問わず教えてください。
(ヽ◇皿◇)『山賊ダイアリー リアル猟師奮闘記』(講談社)や『ゴールデンカムイ』(集英社)などの狩猟系漫画からは特に影響を受けました。雪山でサバイバルする「The Long Dark」というゲームのカツカツな資材でやりくりする雰囲気も好みです。「Minecraft」の軌道に乗る前の乏しい環境も良いですよね。
なんというか、自然の中で、あるモノでなんとかするような作品全般が好きなのだと思います。そういう嗜好が『バスタード・ソードマン』には強く滲み出ていると思います。
──釣りや狩りといった異世界らしいレジャーにくわえて、野営の際のキャンプや仕事で行う薪割りなど、本作では様々なアウトドア描写がとても印象的です。これらのアウトドア描写にはリッチマン先生の趣味が反映されているのでしょうか?
(ヽ◇皿◇)作中に登場するアウトドア全てが体験に基づくものではありませんが、私はキャンプをよくやります。限られた物や環境の中で工夫を楽しむのが好きですね。キャンプしている間は、プチ異世界感を味わえるのが得難いというのもあるかもしれません。
ただ、車のない異世界ですと、キャンプで使う大荷物は全て自分で背負って運ばなければなりません。軽い道具も少ないでしょうし、現代のオートキャンプのような快適性はほとんどないと思います。そう考えると、自分のやっているキャンプは色々制限されているようでいて、相当に恵まれた技術や環境の下に成り立っているのだなと考えさせられます。
まあそれはそれとして、キャンプで飲むウイスキーは最高です。

──モングレルは「ケイオス卿」として様々な現代の発明品を異世界にもたらす一方で、高い金額を払って変な武器を購入しているのが印象的です。モングレルが発明した商品、そして購入した武器で印象に残っているものを教えてください。
(ヽ◇皿◇)モングレルがケイオス卿名義で発明したものは色々ありますね。俗にいう前世知識チートというやつになるのでしょうか。
一番印象に残っている発明品は、スクリューキャップですね。ペットボトルの蓋のような、締めた時に水漏れしないパッキン付きのキャップです。この世界では革がパッキンの役目を担っています。水分を溢さずに持ち歩けて開閉も楽という道具は、現地民にとってはかなり画期的な発明だったのではないでしょうか。
モングレルの買った武器で一番印象に残っているのは、ランタンシールドですね。見た目が非常にかっこいい。作中ではイロモノ武器として登場していますが、一応は実在した武装ではあるようです。実際にどれほどの規模で使われていたのかはわかりませんが……本当に便利だったんですかねぇ、これ。
──異世界ならではの日常を楽しむモングレルの生活の中でも、特に印象に残るのが酒場で行われる猥談バトルです。このようなバトルを思いついたきっかけは何なのでしょうか? また登場人物が語る猥談の中にリッチマン先生の実体験が反映されたりしているのでしょうか?
(;◇皿◇).o(とんでもねぇ質問が来たな……)
そうですね、猥談バトル。『バスタード・ソードマン』の中でも特に人気の高いエピソードであると、作者も認識しています。皆さん下品な話がですね、好きなんですよね……。
作中のギルドマンという人々は荒くれ者の多い集まりです。そんな彼らの金の使い道といえばやはり、酒と賭博と煙草とウフフなことだと思います。彼らの生活を描く上で、えっちで下品な話で盛り上がる場面というのは欠かせないものでした。
実際、下ネタって面白いじゃないですか。面白いんですよ。男たちがそれで盛り上がるのは、異世界でも当たり前のことだったと思うんですよね。しかし現代とは違って医学ベースによる詳しい知識までは持っていなかったでしょうから、その点で考えると特に現代知識が活かせる場所でもあるのだと思うんです。作中では主人公も前世知識で下ネタ無双してますからね……。
おっと、紙面が足りなくなってしまいましたね。実体験に基づくかどうかにつきましては、また別の機会にお話ししましょう。
──別の機会を楽しみにしております。そんな荒くれ者のギルドマンたちですが、モングレル以外にも、ヒロインのライナやウルリカが所属するアルテミスの面々や、ベテランのバルガー、猥談バトルを主宰するディックバルトなど一人一人が個性的です。彼らを描く上で気を付けていること、また一人だけお気に入りを選ぶとするなら誰か教えてください。
(ヽ◇皿◇)『バスタード・ソードマン』は主人公がギルドで働く人間なので、自然と同じギルドマンの知り合いが多く登場していますね。ギルドマンは主に魔物退治などを請け負う人々ですが、正規兵と比べると実力が低い、あるいは気質が兵に向いてないという扱いをされています。ですから、キャラ作りにおいては実力があっても性格に難アリですとか、色々とだらしない部分があるだとか、訳ありな過去を持っていたりといった、それぞれの背景を持たせるようにしています。
皆個性的なので、それぞれに思い入れもあるのですが……その中でも私のお気に入りのキャラを一人選ぶとなると、ウルリカになるでしょうか。かわいくてえっちですからね。ウルリカ、お前はお色気で売っていく……。
──一般的なファンタジー作品では強敵の象徴となるドラゴンなどが登場せず、代わりにハーベストマンティスやイビルフライといった虫系のモンスターが猛威を振るったりします。また4巻ではクヴェスナという何に分類したらいいかわからない不気味なモンスターも登場しました。これらのモンスターはどのようにして着想を得たのでしょうか?
(ヽ◇皿◇)作中には多種多様な魔物が登場します。おっしゃる通り、虫系の魔物も存在感がありますね。
魔物の生態系を考えますと、虫系は繁殖力があるので設定に組み込みやすいというのがあります。逆にあまりに大型の魔物になりますと、ニッチの奪い合いになりやすく、あまり目につかない感じです。空を飛ぶタイプのドラゴンに関しましても、一定の高度を超えると現れるタイプの理不尽モンスターによってニッチを奪われていますからね。逆に生態系に全く干渉することのない謎系魔物といった例外もありますが……。
基本的には生態系を意識して魔物を考えてますね。もちろん、ファンタジー世界なのでさまざまな種族を出すためにちょっと無理のある設定を捩じ込んだりもしています。やはりファンタジーといえば魔物ですからね。魔物の設定を考えるのはとても楽しいですよ。
──ギルドマンの日常をメインに描く本作ですが、3巻ではモングレルの持つギフトの片鱗がお披露目され、4巻では国の戦争の前兆が描かれるなどシリアスな展開の予感もあります。今後、モングレルは時代の大きなうねりに飲み込まれていったりするのでしょうか? また彼のギフトの全貌が明かされる日は来るのでしょうか?
(ヽ◇皿◇)『バスタード・ソードマン』なんてタイトルの本作ですが、基本的に主人公がほとんど戦わない、ガチ戦闘をしないような作品です。が、それでも物騒な世界観ではありますから、否応なく戦いに巻き込まれてしまうことはあります。主人公のモングレルはそういった戦いを避けるのが上手いキャラクターではありますが、常に完璧にかわせるわけではありません。運悪く強敵に遭遇してしまうようなこともあるでしょう。
作者としましては、ゆくゆくはそういった『バスタード・ソードマン』らしからぬ熱い戦いを書籍でお見せできたらと思っています。未だ読者の皆様にほぼお見せしていないモングレルのギフトやスキルなども、ケチ臭くちまちま開示していけたら嬉しいです。
とはいえ、『バスタード・ソードマン』の物語は特にそういった主人公のアクションをメインにはしていませんので、気長~~~に待っていただけたらと思います。いつか忘れた頃、不意打ち気味にやりますので。
──今回投票してくださった読者に、そして今回のランキングを機に本作を新たに知った読者へのメッセージをお願いします。
(ヽ◇皿◇)投票してくださった読者の皆様、本当にありがとうございます!二度目の2位受賞。皆様のおかげで再び次の次にくるライトノベルになれました。こらからもよろしくお願い致します!
そしてこれを機に当作品に興味を持っていただいた皆様。読んどいた方が良いですよ……! 『バスタード・ソードマン』は……!
ヾ( *・∀・)シ どうもアリガトウ!
──ありがとうございました!
取材・執筆:マイストリート
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次にくるライトノベル大賞とは
「次にくるライトノベル大賞」は、次世代にブレイクするであろうライトノベルを一般読者自らがエントリーし、またユーザーの投票でその頂点を決めるアワードです。
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バスタード・ソードマン
著者: ジェームズ・リッチマン イラスト: マツセダイチ
ほどほどに戦いよく遊ぶ、これが理想の異世界生活
バスタードソードは中途半端な長さの剣だ。ショートソードと比べると幾分長く、細かい取り回しに苦労する。ロングソードと比較すればそのリーチはやや物足りず、打ち合いで勝つことは難しい。何でもできて、何にもできない。そんな中途半端なバスタードソードを愛用する俺、おっさんギルドマンのモングレルには夢があった。それは平和にだらだら生きること。やろうと思えばギフトを使って強い魔物も倒せるし、現代知識でこの異世界を一変させることさえできるだろう。だけど俺はそうしない。ギルドで適当に働き、料理や釣りに勤しみ……時に人の役に立てれば、それで充分なのさ。これは中途半端な適当男の、あまり冒険しない冒険譚。
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バスタード・ソードマン 5
著者: ジェームズ・リッチマン イラスト: マツセダイチ
戦争勃発!?
夏が終わり肌寒さが増してきた九月のある日、隣国サングレールが宣戦布告をしたという知らせが届いた。サングレール軍を迎え撃つため、レゴールに所属するギルドマンたちにも召集命令が下る。故郷を守り戦果を挙げようと意気込む者が多い中、「いのちだいじに」をモットーとするモングレルは新人たちと共に補給拠点の兵站部門に配属され、仲間を支援する任務を任される。一方、先日の遠征で新スキルを獲得しシルバーランクに昇格したライナは“アルテミス”の仲間たちと共に前線へと派遣され、初めての対人戦闘に挑むことに――!?