近年増え続けるラノベミステリー。気になるけどまだ手に取っていない人はいませんか? ファンタジー、青春ラブコメ、ホラーなど様々なジャンルが好きな人も楽しめちゃうのが、ラノベミステリーの良いところなんです。
今回キミラノでは、角川スニーカー文庫からミステリー作品を刊行している現役作家の水鏡月聖先生&駄犬先生、小説系VTuberの書三代ガクトさん、ラノベ系ライターのあいさきゆうじさんにお集まりいただき「ミステリーラノベ座談会」を実施いたしました。ミステリーの原点は? いまどんなミステリーが人気なのか? どんなミステリーがもとめられているのか? 徹底的に語っていただきました!
座談会メンバープロフィール
水鏡月聖(みかづきひじり)先生
『僕らは『読み』を間違える』にて第27回スニーカー大賞《銀賞》を受賞。青春ラブコメとミステリー好き読者の心をわしづかみにし「このライトノベルがすごい!2024」にて文庫部門で7位、総合新作部門で5位を獲得。新作の『白いドレスと紅い月がとけあう夜に』ではファンタジー×百合×ミステリーという新境地をひらいている。
駄犬(だけん)先生
角川スニーカー文庫刊『誰が勇者を殺したか』にて2023年ライトノベル新作“歴代売上第1位”を達成。新進気鋭の作家として、老若男女様々な層から人気を集めている。「このライトノベルがすごい!2025」では総合新作部門第1位、文庫部門第2位をそれぞれ獲得している。
書三代ガクト(しょみだいがくと)
小説をこよなく愛する猫VTuberとして活動中。ミステリー研究会に所属していたこともありミステリー小説が大好き! 小説紹介動画や読書会を開催している。
あいさきゆうじ
ラノベライター系VTuberとして活動中。ライトノベルに関しての執筆や、小説投稿サイト「カクヨム」で公式レビュー連載中。
あなたのミステリーはいつから? 歴代ミステリー作品をおさらい!
あいさき まずはざっくり私からラノベミステリーのお話を....ラノベミステリーの始まりといえば「青春ミステリー」でしょう。80~90年代の少女向けレーベルだった集英社コバルト文庫の赤川次郎さんや日向章一郎さんの作品などが思い出深いですね。男性向けレーベルでは2000年に富士見ミステリー文庫が創刊しました。桜庭一樹の『GOSICK』が代表作でしょうか。
この頃に講談社から西尾維新さんの『クビキリサイクル』が登場して業界全体に激震を与えましたし、米澤穂信さんの『氷菓』も日常にひそむ謎を解き明かす、青春ミステリーの新しい王道を作り上げたと言っていいでしょうね。
近年では『ビブリア古書堂の事件手帖』が社会人層にヒットしましたし、MF文庫Jの『探偵はもう、死んでいる。』や『シャーロック+アカデミー』などの学生探偵が主人公の作品が人気で、知能バトルの魅力が再評価されつつあります。
皆さんは思い出に残っているミステリーや影響を受けた作品はありますか?
水鏡月 僕がミステリーを好きになったきっかけは乙一さんの『GOTH』でしたね。
駄犬 自分は東野圭吾さん作品全般でしたね。米澤穂信さんの『さよなら妖精』の印象が強いですかね。
書三代ガクト 米澤穂信さんが『氷菓』でスニーカー・ミステリ倶楽部から刊行されたあと、東京創元社さんのミステリ・フロンティアで出された作品ですね。今や米澤穂信先生も直木賞作家さんでして、似た経歴でいえば桜庭一樹さんも思い出します。桜庭さんですと、先ほども出ましたが『GOSICK』がまさにラノベで、ファンタジーミステリーをされていますね。
あいさき ファンタジーでミステリーというと、山形石雄さんの『六花の勇者』など人狼ゲーム系の作品が流行っていて、あれもミステリーラノベと言われていましたよね。ラノベではたまにゲームチェンジャー的な作品が登場しますよね。
水鏡月 入間人間さんの『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』なんかも青春ミステリーに含めていいかなと思っていますね。
あいさき 壊れたキャラクターや独特な語り口調が特徴的な作品でしたね。
書三代ガクト 私は岬鷺宮さんの『失恋探偵ももせ』の恋愛と謎解きがリンクしたストーリーが印象深くて、青春とミステリーってやっぱり相性がいいなと思いました。
駄犬 恋愛と謎解きでいえば『"文学少女"シリーズ』も当てはまりますね。あとは時雨沢恵一さんの『アリソン』などは叙述トリック的な文章が特徴でしたし、『されど罪人は竜と踊る』なども、事件の裏に潜む陰謀劇を解き明かす部分がミステリー的だなと思いました。
書三代ガクト 良い作品ばかりですね!
あいさき 水鏡月先生の前作『僕らは『読み』を間違える』も純文学になぞらえたミステリーといった趣で、『"文学少女"シリーズ』の感覚を覚えましたが、いかがですか?
水鏡月 『"文学少女"シリーズ』の影響を受けた部分は結構あります。ライトノベルでかなり早いうちにのめり込んで夢中になった作品です。
書三代ガクト モチーフになっている作品にも謎があって、それをキャラクターに反映させたところが物語の面白味であり、再解釈というのがミステリーのひとつのテーマです。駄犬先生の『誰が勇者を殺したか』も登場人物の中でいろいろと解釈の幅があり、謎があってそれを解いていくミステリーとは違った面白味があって好きですね。
駄犬 私は東野圭吾さんのエンタメ方面の影響を受けているんですよね。最初に読んだ作品が『悪意』で、結末に驚かされました。『誰が勇者を殺したか』の構成は浅田次郎さんの影響でしょうか。
ファンタジーから学園ものまで...広がり続けるミステリーの裾尾を感じる
書三代ガクト みなさんは、いま注目しているラノベミステリーはありますか?
あいさき 自分は最近のものですと、小学館のガガガ文庫から出ているロケット商会さんの『魔王都市シリーズ』ですかね。魔王が支配する都市で魔王が失踪し、その後釜を巡ってギャング同士が抗争を繰り広げる世界観で、ヒネクレ不良捜査官と堅物の新米女性捜査官が事件捜査に挑むという凸凹コンビのバディものです。海外ドラマなんかでも中年のベテランと若い女性捜査官というギャップのあるバディは鉄板ですよね。
書三代ガクト 冒頭でまとめていただいた作品の中ですとライト文芸ですが『ビブリア古書堂の事件手帖』が印象的でしたね。この頃は学園ミステリーも流行っていまして、それこそ米澤穂信さんを筆頭に、似鳥鶏さん、初野晴さんも一気に人気が上昇しました。レーベルとしては重なっていないのですが2010年代から一気にミステリーの裾野が広がって、いまに至っているように思います。
水鏡月 それをいうと青崎有吾さんの『体育館の殺人』なんかも結構ライトノベル感が強いんですけど、ロジックでいうとものすごく本格的でした。もともとライトノベルを目指していた方で、『アンデッドガール・マーダーファルス』なんかはバトルもあり、ロジックもありで熱かったですね。
書三代ガクト 青崎さんはエンタメがうまい印象がありますね(笑)
あいさき 今年のエンタメよりのヒット作というと『変な家』はどうでしょう。不動産とミステリーという着眼点が個性的で面白いなと思いました。
水鏡月 ホラーですが小野不由美さんの『残穢』も、事故物件のミステリーを紐解いていくようなドキュメンタリーになっていてとても好きでしたね。
駄犬 小野不由美さんというと『ゴーストハント』なんかもミステリーっぽさがありますよね。
書三代ガクト 読み進めるうちに真実が明らかになっていく展開もそうですし、読者に気付きを与える謎解き要素はいろいろなジャンルでも作ることができて自由度がある。だからこそラノベが入っていけるのが大きいのかも知れませんね。
あいさき そうなんですよね。ミステリーの受け口が広くなったおかげで、ファンタジーだったり、学園ものだったりからミステリージャンルへ参入してくる作家が多いんじゃないでしょうか。
注目のラノベミステリー『僕らは『読み』を間違える』『誰が勇者を殺したか』について
あいさき まずは水鏡月先生の作品に触れていきたいと思います。前作『僕らは『読み』を間違える』は、純文学のストーリーを独自解釈し、それが現代の主人公とヒロインの関係性をも暗示していくというストーリーでした。
水鏡月 ラノベの新人賞に最初に投稿した小説です。1回目は落選でしたが、他の作品を書きながらもリライトを続けて、第27回スニーカー大賞にて銀賞を頂きました。自分が一番書きたいものを詰めた作品です。もともとはミステリーを書いたつもりはなくて、伏線をいっぱい仕込んだラブコメ作品を目指して書いてみたら結果的にミステリーっぽくなってしまったんです。
あいさき 推理力や読解力はあるのにヒロインから寄せられる想いに主人公が気づかない青春のすれ違いがもどかしかったですね。
書三代ガクト 読書感想として作者の想いを読み取っていく部分が、ミステリーの謎解きと構造的に近しいものを感じさせました。ミステリーとしての答え合わせよりも、青春のもどかしさに焦点を置いていてラブコメ色も強かったです。
あいさき ラブコメ好きだけでなくて、文学好きにも刺さりますよね。読者がここから文学にも興味を抱きそうな、いい入門書になる作品だと思います。
書三代ガクト 登場人物の文学作品に関する感想のシーンが好きで、キャラに共感しながら読んでいました。
あいさき 続いて駄犬先生の『誰が勇者を殺したか』についてうかがいます。もともとは『小説家になろう』で連載されていた作品からの書籍化で、初登場で今年度の『このライトノベルがすごい!2025』でも総合2位、新作1位を受賞しています。おめでとうございます。
駄犬 ありがとうございます。自分ももともとは謎解きよりは、『壬生義士伝』や『永遠の0』のようなインタビュー形式の物語を意識して作ったもので、さまざまな視点から見えてくる真実という群像劇を書きたかったんです。真相もほぼ中盤で明かしてしまっていますし、あくまでもミステリー要素を含んだファンタジーというのが正しいかと思います。
水鏡月 僕はこの作品のタイトルの付け方がすごく好きです。この「誰が勇者を殺したか」というセリフを作中の人物がいろんな意味合いを持たせて使うたびに二重三重の意味が込められていくんです。
あいさき 『このラノ』の読者アンケートでは「伏線回収の綺麗さ」、「予想できない結末」、「才能と努力という視点で勇者という存在を考えさせられた」と評価されています。物語が一冊で綺麗に完結していて無駄のない構成だと思いました。
書三代ガクト 証言から物語が進んでいく中でいろいろな解釈が生まれて、何が真実なのかと読者の興味を引く構造になっていて、真相が明かされたときの伏線の積み上げ方が自然とキャラクターの心情とセットになっていて、驚きましたし楽しんじゃいました。
あいさき 青春要素もあるんですよね。証言の回想シーンでは学園の中での勇者アレスとの思い出を語っているので、ファンタジーでありつつも学園ものなんですよね。才能はあるが性格に難のある脇役たちが努力家のアレスと出会い、自分の至らなさに気づいて成長していく人間模様が青春でしたね。
「こういう使い方があるんだ」ファンタジーとミステリーが合わさると...?
あいさき では、再び水鏡月先生にお戻りして、最新刊『白いドレスと紅い月がとけあう夜に』の話をお尋ねします。前作から一転してファンタジーですが、今作はどういった思いで作られましたか?
水鏡月 普段ミステリーを読んでいない人にもミステリーの面白さを体感してもらいたいのが一番にあります。ミステリーのようなトリックもありますが、1巻ではなるべく簡単なトリックを用意して、どんどんヒントを与えて読者が自分で答えにたどり着く快感を味わってほしいと思いました。
あいさき 今作はポップというか、キャラクターが明るいですよね。言動に注意を払って向き合わなくてもよい、軽めのキャラクターが多くて、敷居を下げていたように思います。なにかキャラクターで意識した部分はありますか?
水鏡月 そうですね。やはりキャラの関係性は最初に意識しました。恋愛要素というよりは、人間と魔族という相容れない者同士が信頼関係を築いていく姿を描きたかった。両者の齟齬を埋めていくことで絆というものにたどり着ければと思いました。
駄犬 私も推薦文を書かせて頂きました。最初の謎などはうまくファンタジーの世界観を利用していていいなと思いました。「こういう使い方があるんだ」と驚きました。
水鏡月 ファンタジー設定でやるからには、ファンタジーでないとできないことをやりたかったんですよね。
あいさき ファンタジー好きの読者の皆さんがどんな感想や評価をつけるのか期待したいところですね。表紙も可愛いですし、恋愛もののようで読者も手に取りやすいように思いました。
駄犬 逆にミステリーに見えないかもしれない。
一同:(笑)
水鏡月 冒頭でいきなり事件現場ですから、そこで関心を持ってもらえればいいかと。
あいさき そこがミステリーの強みですよね。謎がわからないままだと気になって途中で読むのを止められないじゃないですか。
水鏡月 ラノベはキャラクター小説と言われていて、ミステリーもキャラクターが大事なんですよ。
あいさき そうですね。とくに探偵役というのはキャラが立っていないといけない。
水鏡月 ミステリーという部分だけを押し出すと、難しさから敬遠してしまう方が多いので、そういう方にこそ読んで欲しい。だから恋愛要素やバトル要素を積極的に取り入れ、いろんな方がミステリーに触れるきっかけになって欲しいと思って作りました。
書三代ガクト シャーロック・ホームズもバリツ(シャーロック・ホームズシリーズに出てくる架空の武術)で戦ったりします。ライトノベルでいうと推理力も戦闘力もどちらも兼ね備えているキャラとして、すでに読者に受け入れられているのかもしれませんね。
文=愛咲優詩
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いかがでしたか? 振り返ってみると数々の名作を生み出してきたライトノベルのミステリー。いまミステリーが注目されているのも過去の名作が積み上げてきた信頼や、ジャンルを広げてきた成果なのかもしれません。水鏡月聖先生の最新刊『白いドレスと紅い月がとけあう夜に』は、角川スニーカー文庫から発売中。試し読みキャンペーンも実施中です!
10月7日ミステリー記念日に公開した、【2024年版】ミステリー好きにおすすめしたいライトノベル10選はこちら! ライトノベルが好きな人にはもちろん、ミステリー小説やミステリードラマが好きな方におすすめしたい、一癖も二癖もあるラノベミステリーを作品キーワードと一緒にご紹介しているのでこちらもチェックしてみてください。
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僕らは『読み』を間違える
著者: 水鏡月 聖 イラスト: ぽりごん。
すれ違う恋と、掛け違う推理。第27回スニーカー大賞《銀賞》受賞作!
学生という生き物は、日々「わからないこと」の答えを探している。
明日のテストの解答、クラス内の評判、好きなあの子が好きな人。
かく言う僕・竹久優真も、とある問いに直面していた。
消しゴムに書かれていた『あなたのことが好きです』について。
それは憧れの文学少女・若宮雅との両想いを確信した証拠であり、しかしその恋は玉砕に終わった。
つまり他の誰かが?
高校に入学した春、その“勘違い”は動き出す。
「ちょうどいいところにいた。ちょっと困っていたとこなんだよ」
太陽少女・宗像瀬奈が拾い集めてくる学園の小さな謎たち――
それらは、いくつもの恋路が絡みあう事件《ミステリー》だったんだ。 -
誰が勇者を殺したか
著者: 駄犬 イラスト: toi8
勇者は魔王を倒した。同時に――帰らぬ人となった。
魔王が倒されてから四年。平穏を手にした王国は亡き勇者を称えるべく、数々の偉業を文献に編纂する事業を立ち上げる。かつて仲間だった騎士・レオン、僧侶・マリア、賢者ソロンから勇者の過去と冒険話を聞き進めていく中で、全員が勇者の死の真相について言葉を濁す。「何故、勇者は死んだのか?」勇者を殺したのは魔王か、それとも仲間なのか。王国、冒険者たちの業と情が入り混じる群像劇から目が離せないファンタジーミステリ。
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白いドレスと紅い月がとけあう夜に
著者: 水鏡月 聖 イラスト: 古弥月
通じ合えた時、謎は解ける。女剣士と吸血姫が挑む謎解きファンタジー!
人間と魔族が共に暮らし始めるも、なお絶えない両族間の事件にあたる《特務隊》。
ある夜、事件現場に駆けつけた剣士の隊員・リンが目にしたのは――血濡れた可憐な吸血姫・ラヴィアと、特務隊員の首なし死体だった。
リンは現場証拠からラヴィアに犯行は不可能と考えるも、彼女は唯一の容疑者にして上級魔族の吸血鬼。
ラヴィア確保を主張する隊長を説得するため、リンはラヴィアと「自分以外の人間の血を吸わない契約」を結ぶ!
行く当てのないラヴィアを住まいに招き、真犯人を捜すために始まった同棲生活。
事件の謎を解きながら、血と情が溶け合う日常は、次第に種族を超えた絆を深めていく――。
★『誰が勇者を殺したか』駄犬、驚嘆!!
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幻想と謎に満ちた、蠱惑的な物語。
その手があったかと驚嘆し、美しくも淫靡な描写に心が揺れる。
こっそりと覗くように読んで欲しい。
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