【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
今回はファンタジア文庫から10月19日に刊行される『魔王を斃した後の帰り道で』です。みなさんの感想も聞かせてください!
やっぱり違いますね、ベテランは。榊一郎先生の作品は過去、何冊か読んだことがありますが、新たな一面がみられたというか、長年書き続けられている確かな小説力みたいなのを感じました。
あとがきでも触れられているのですが、世界観や設定に特殊な要素がなくて、オーソドックスな剣と魔法のファンタジー世界が舞台です。だからこそ物語でみせたいところがダイレクトに伝わってきました。こちらもあとがきに書かれていて納得したことなのですが、魔王討伐後の勇者パーティという流行のモチーフを取り入れつつ、文体にまで拘られているとのこと。一味違ったさすがベテランといった読み心地です。
託宣によって選ばれた一人の勇者と五人の仲間たち。苦楽を共にして命を預け合って、やっと魔王を倒した後。王都に還れば富も名誉もほしいままのはずなのに、一人、また一人と語られるメンバーの生い立ちや背景は、それまでを覆すような内容もあって驚かされます。驚かされるんですが、それだけじゃなくて不思議と納得もさせられるところがありました。
そういえば自分も様々なことを経験して、誰かに支えられて、時には何かを乗り越えて生きています。でも支えてくれた誰か、恩人や友人、ともすれば親兄弟だって、十分に理解しているかと言われるとそうじゃないのかも……。
勇者パーティが語ることは決して明るい話ばかりじゃなくて、むしろその逆、辛いことが多いです。もしかしたら自分も同じで、嬉しいと感じていたことが、誰かにとっては悲しいことだったのかも、と思うと胸にくるものがあります。
けれど最後まで読み終わってみると、驚かされる真相や、辛い告白があったはずなのに、それぞれにそれぞれの生活があって当然だし、同じ感情を持っている必要なんてなく、これでよかったのかもと前向きな気持ちにさせられました。本当に、さすが、です。
文:勝木弘喜
ざっくり言うとこんな作品
1)魔王を斃した勇者パーティが、凱旋を待つ王都へ還るまでの道程。報奨金と栄誉が約束されたはずの一行だが、一人が離脱を宣言した理由とは……!?
2)託宣で集められ、死線を何度もともにしながらも、互いのことは何も知らず。やがて帰り道の中で語られる「仲間たちの身の上話」は次第に驚愕の真実を浮かび上がらせる!
3)一人一人には違った生き方と想いがあり、出会いがあって、別れがある。それでも前向きな気持ちにさせてくれる、勇者たちの物語。
主要キャラ紹介
勇者ユーマ
農民の子ながら託宣に『魔王を討ち滅ぼす勇者』と告げられた、素直で純朴な少年。初期に魔王の軍勢に滅ぼされた開拓村の生き残り。
魔術師ラウニ
精霊の力が及ぶ万象を意のままに操る、精霊魔術を能く修めた妖精族の魔術師。悪戯好きで自由奔放、童女のような容姿をしており非力。
僧侶グレアム
優秀な法術の使い手で、迫力のある体躯をしており質実剛健を絵に描いたような男。説法が仕事の僧侶だけあって、物腰は至って温和。
聖騎士レオナ
先祖代々の武門貴族の聖騎士であり、ユーマの剣術の師。容姿端麗にして優雅、常に自分を律し続け、仕草一つですら洗練されている。
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魔王を斃した後の帰り道で
著者: 榊一郎 イラスト: 芝
勇者は、魔王を斃した仲間達の事を何も知らなかった――
勇者と五人の仲間達によって、魔王は斃された。
後は王都に還り、報奨金を受け取って英雄と讃えられるだけ。しかし――
「馬鹿な。どちらも吐き気がする」
仲間の一人・弓手のジャレッドは、それを拒否しパーティから離脱する。そこで初めて勇者ユーマは、命懸けで冒険をしてきた――僧侶グレアム、魔術師ラウニ、聖騎士レオナ、斥候兵ボニータの事も何も知らなかった事に気付き……。
王都までの帰り道で、お互いの身の上話をする事になるのだが、仲間達から次々と衝撃の真実が明かされ――。
『英雄』の喪失と再生を描くエンディングファンタジー。