【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
今回はMF文庫Jから9月25日に刊行される『パルパネルは再び世界を救えるのか』です。みなさんの感想も聞かせてください!
タイトルに「再び」とあるように、主人公の勇者パルパネルは物語冒頭ですでに魔王を倒し一度世界を救っている。言うならば本作は王道の英雄譚のエンディング後の世界を描いた話と言える。
平和をもたらした後は悠々自適なスローライフが待っている……と思いきや、そう簡単な話ではない。だって彼にはやりたいことも欲しいものも何もないのだ! そのうえ神様からのご褒美で不老不死となったのだが、生きる目的もないのに永遠の命があるというのも逆に残酷である。
時にはかつての仲間が頼み事を持ち込んでくれるのだけど、こうした依頼の背景には宗教組織の権力争いや国家間の冷戦が絡んでいてひどくきな臭い……。
こんな生活を送っていたらものすごく鬱屈した空気になりそうだが、それを解決してくれるのが同居人の存在。やたら人間臭い能天気な天使とツッコミ上手な蛙(元霊王)のおかげで、パルパネルの周りでは常に愉快な会話が飛び交っている。パルパネル本人がどう思っているかわからないが、読者としては彼らが織りなす日常はとっても楽しめた。また作品の背景となる国家や宗教の設定が細かく作りこまれており、本筋以外のエピソードも楽しく読ませてくれるのが嬉しい。
それでも物語のメインとなるのはパルパネルがどう生きるか、だ。彼の行動次第では世界を救うどころか、逆に滅ぼすことにもなりかねない。それだけ強大な力を持った存在はどのように在るべきなのか? この答えを知るためにも、先の展開を追っていきたいシリーズに思えた。
文:柿崎憲
ざっくり言うとこんな作品
1)魔王を倒し不老不死となってしまった勇者。しかし特にやりたいことはなし。無限の時間を持て余したままのスローライフの行く先は……?
2)ダウナーな勇者の同居人はハイテンションな天使とツッコミ役の蛙。個性がバラバラな三人(?)のやり取りが楽しい!
3)世界を救った勇者が放っておかれるはずがない! 彼とその力を求めて、かつての仲間が次々とトラブルを抱えてやってくる……!
主要キャラ紹介
▼パルパネル
魔王討伐を果たした勇者。その功績で神によって不老不死にされるも、特にやりたいこともないので人里離れてスローライフを送ることに。他人に本心を打ち明けない秘密主義者
▼天使
天上を追放されてパルパネルと共に暮らすことになった天使。いつもテンションが高くて、ダウナー気味なパルパネルにもぐいぐい絡んでいく。思ったことはすぐ口に出す
▼アルダモート
パルパネルの同行者。元々は死者の軍勢を操り人類を脅かした不死の霊王……なのだが現在はパルパネルによって無力な蛙の姿にされている。真の姿は妖艶な美女
-
パルパネルは再び世界を救えるのか
著者: 十文字青 イラスト: しおん
長い旅の末、勇者は魔王をぶち殺しました。物語のはじまりはじまり──
たった一人で魔王討伐を果たした勇者だが、その表情は浮かない。一体何が? 光を失いし天使と一匹の蛙とともに勇者が送るスローライフの実態とは? 勇者が直面する突然の求婚。麗しき薔薇の王子の企て。果たして勇者は再び世界を救うことになってしまうのか――
登場:救世の勇者パルパネル/西の王/霊王アルダモート(蛙)/大巨人ディガノール/天使/神/アダツミ/神姫タラソナ/魔術師フォーネット/地底の王モザニ/シーディア/薔薇の王子ギャロ/デクスター/ウィアセント/魔女イルミナ