【レビュー】世界は厳しい…けど垣間見える人情にグッと来る!『かくして少年は迷宮を駆ける1 強欲の迷宮と借金まみれの新米冒険者』
【新作ラノベ先読み感想文レビュー】をお届けします! 今回はMFブックスから5月24日に刊行されるあかのまに先生×深遊先生の新作です。みなさんの感想も聞かせてくださいね!
かつて、迷宮攻略RPG「ウィザードリィ」というゲームがあった。プレイヤーがイチからキャラメイクし、成長しても、時に蘇生失敗などからのキャラ消滅がありうるという、シビアなゲームシステムだった。この歴史的名作の流れをくむ迷宮探索小説群は、無名な冒険者が運と巡り合わせの中で力をつけていく展開と相性が良く、本作もその系譜に連なる作品のように感じた。
この世界では倒した魔物の魔力が人を強くする。これがゲームなら時間をかけて地道にレベルを上げれば、どんな試練もいずれ乗り越えられるはずだが、あいにく物語は主人公ウルの成長を辛抱強く待ってはくれない。
返しきれない借金のカタにされた妹アカネを救うため、ウルは小さな迷宮に挑まざるを得なくなる。突如現れた少女シズクとともにどうにか迷宮で生き延びるが、その後事態はさらに悪化して…。
ウルを取り巻く状況はとにかく悪い。しかも彼には確たる素質も見当たらない。金貸しのディズは無理難題を押しつけてくるし、ギルドの訓練所で教官を務めるグレンは怠惰なくせに指導は苛烈だ。
そんな過酷な世界にもかかわらず、人々の情がそこかしこに感じられる。酒場に集う冒険者たちだけでなく、ディズやグレンなどからも窺えるそれの裏に隠された真意とは…?
軽妙な会話が時にコント並みのテンポの良さをもたらし、スピーディな展開が持ち味の本作、そのラストシーンは今後に何かを期待させてくれる美しさがあった。
文:髙橋義和
ざっくり言うとこんな作品
1)才能なんて特にない。冒険者なんてろくでもないと思っている。それでも冒険者として迷宮に入ることを選択した少年が主人公。
2)「凡人」から始まる、迷宮攻略物語の王道。不運や悪縁に恵まれつつもそれを時には逆手に取って、逆境を生き抜いていく。
3)生成される迷宮とそこから湧き出る魔物に追い詰められつつある人類。切迫した社会は歪んでひずみ、それでも人には情もある。
主要キャラ紹介
謎の美少女。無垢な性格で魔術の才に恵まれ、ウルと組むことに。
金貸しギルド【黄金不死鳥】の娘。ウル兄妹の生殺与奪を握る。
元凄腕冒険者。現在は冒険者ギルドで新米冒険者たちの教官を務める。
ウルの妹。精霊の力をその身に秘め、様々な姿に変身できる。
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かくして少年は迷宮を駆ける 1 強欲の迷宮と借金まみれの新米冒険者
著者: あかのまに イラスト: 深遊
何も持たない少年は全てをかけて迷宮に挑む――これは冒険の物語!
迷宮大乱立時代。あらゆる経済が迷宮都市を中心に回り、我もまた栄光を掴まんと人々が迷宮踏破に夢を見る世界。
少年ウルは窮地に立たされていた。
一.借金を残して親が他界
二.妹が借金の担保にされる
三.買い戻したいなら金貨一〇〇〇枚
金もない。地位もない。力もない。
理不尽を超えるための何もかもを求め、全てを打開するため、迷宮で出会った魔法使いシズクと共に少年は迷宮へと足を踏み入れる。
迷宮を踏破し、魔物を倒し、賞金首を刈る。
地道にコツコツ実績を――などと言っている暇はない。
嵐のように迫る試練を乗り越え、凡庸な少年は迷宮を駆ける!
凡才ながら妹のために人生を賭ける少年。だがその根底には……。