関係者の愛が深すぎた……! 号泣必至のライトノベル『ある魔女が死ぬまで』ってどんな作品?
2024年6月末に『ある魔女が死ぬまで』(電撃の新文芸)のアニメ化が発表されたのは記憶に新しいところ。そんな本作は知る人ぞ知る「泣ける名作」としてラノベ読みの間でささやかれていた作品です。
今回、アニメ化記念ということで著者の坂さんやアニメ監督を務める濁川敦さんに制作裏話を聞きに行ったのですが、みなさん、作品に対する愛が深すぎました……。
はたして『ある魔女が死ぬまで』とはどんな作品なのでしょう? その魅力に迫ります!
「この作品のことは本当に大切に思っていたので、夢のようですね」
2021年12月に電撃の新文芸より第1巻が刊行された『ある魔女が死ぬまで』。
泣ける名作として知られていたものの、第1巻刊行後、今回の続報が出るまで実に2年半以上が経過していた。
しかしこのたび、『ある魔女が死ぬまで』を愛する人々の想いが結実し、TVアニメ化が決定した。
メインキャラクターを青山吉能さん・榊原良子さんが演じることとあわせ、2025年の放送開始が発表。7月17日には小説第2巻も刊行されたのだ。
「アニメ化を担当さんから伝えられたときは、作家人生が続いたことがなにより嬉しかったです(笑)。この作品のことは本当に大切に思っていたので、夢のようですね」
そう語るのは、原作者の坂。本業のかたわらで書き始めた『ある魔女が死ぬまで』がカクヨムで実施された電撃の新文芸2周年記念コンテストの《熱い師弟関係》部門賞を受賞し、デビューを果たした作家だ。
デビュー作となった本作執筆のきっかけは、あるアニメ作品の影響があったという。
「魔法学校に通う魔女見習いたちの姿を描いたアニメ『リトルウィッチアカデミア』が大好きで、魔女ものを書きたくなったんです。そこから脳内でキャラクターが動き回る映像をイメージしながら原作を書き進めた覚えがありますね」(坂)
そんな本作はコンテストを通して、電撃の新文芸の編集者の手に届く。
担当者は「仕事を忘れるほど感情を揺さぶられる作品にはめったに出会えないが、『ある魔女が死ぬまで』に関しては編集作業時にも涙をこぼすくらい、感情を揺さぶられた」と語るほど、この作品に愛を注いでいた。
その愛に呼応するように、アニメ『ある魔女が死ぬまで』で監督を務める濁川敦も、原作小説に初めて触れたとき、「不覚にも泣きそうになった」と語る。
「初めて読んだのは、別作品の制作が佳境になるタイミングでした。かなり多忙な時期だったんですけど、読み始めたら最初のエピソードから涙腺を刺激してきて。仕事場だったにもかかわらず、思わず泣いてしまいそうになったんですよね」(濁川)
こうした人々の作品に対する思いが関係者の心を揺り動かし、アニメ化という快挙の原動力になったといえるだろう。
「油断していたところで泣かせに来る新鮮なキャラクターですよね」
そんな『ある魔女が死ぬまで』は、見習い魔女のメグ・ラズベリーが呪いにより余命1年であると師匠の魔女・ファウストから宣告されるところから幕が上がる。
死なないためには人間の嬉し涙から作られる命の種を手に入れなくてはならない。そこでメグは、嬉し涙を得るためにさまざまな人々と出会っていく——というストーリーだ。
「メグは口が悪いところもあるけれど、油断していたところで泣かせに来る新鮮なキャラクターですよね。メインキャラクターは全員オーディションを行ったのですが、メグ役の青山さんのお芝居は以前『恋愛暴君』でご一緒したときのことを想起させられました。ファウストは弟子に対して厳しいけれど、ピンチになったときには現れる昭和の職人のような印象があって。榊原(良子)さんに説得力のある演技で表現していただいています」(濁川)
「もともとメグはパワーのある元気な女の子にしたかったのですが、それだと何だか物足らなくて。そこで僕が関西出身なので関西弁要素を入れてみたら、自然と口が悪くなっていったのです。ファウストは『千と千尋の神隠し』の湯婆婆とか、いろんな作品に登場する魔女のイメージを混ぜながら作ったんですが、自然と現在の形に落ち着いていきましたね」(坂)
ところで先ほども触れた通り、本作はようやく第2巻が出たばかり。つまり、原作ストックがほとんどない中でのアニメ化となったわけだが……。
「当初はシリーズ構成案が2パターン存在していたんですよ。一つは第1巻の内容を軸にしつつ、オリジナル要素や第2巻以降のお話を拾っていくというもの。もう一つは第1巻の内容だけで1クールを構成するというものでした。最終的にどうなったかは放送を見ていただきたいのですが、シリーズ構成の大知(慶一郎)さんが上手く纏めてくださったのでとても助かりました」(濁川)
「エピソードの内容自体はカクヨム版と書籍版でそこまで変わっていないんですよ。でも、カクヨム版ではメグの成長に着目して執筆していたのに対し、書籍版ではメグとファウストとの別れに焦点を当てていて。なので、必然的にカクヨム版と比べて書籍版のほうではファウストのキャラクター性を深めています」(坂)
「じんわり涙腺を刺激するような物語にしたいな」
これまで『勇者パーティーを追放されたビーストテイマー、最強種の猫耳少女と出会う』や『異世界ゆるり紀行 〜子育てしながら冒険者します〜』など、異世界ものアニメの監督を務めてきた濁川。
本作はそれらと違い、現実のイギリスらしき場所が舞台の現代劇だ。魔法が使える世界とはいえ、過去の監督作とは異なる雰囲気作りが求められる。
「派手なエフェクトが出るような作品ではないので、じんわり涙腺を刺激するような物語にしたいなと考えています。観終えたあと、何かを感じ取ってもらえるようにすることが、『ある魔女が死ぬまで』における僕の挑戦ですね。日常シーンと魔法を使うシーンとでは画の印象も変えているので、楽しみにしていただけると嬉しいです」(濁川)
「アニメは小説と表現方法が異なるので基本的にはスタッフさんにお任せしつつ、お色気要素だけは入れないようにお願いしました。それが入ってしまうと『ある魔女が死ぬまで』らしさがなくなりますからね」(坂)
そんなアニメ『ある魔女が死ぬまで』の放送・配信は来年2025年を予定。追加キャストの発表など、今後の続報が待ち遠しい。
「テクノロジーが発展している現代が舞台ではありますが、魔法が使える世界でどのようにメグが人々と感情を通わせていくのか。そこがキモになっているので、ぜひメグの立場を自分に置き換えながら感情移入してご覧いただければと思います」(濁川)
「原作小説では映画のオマージュを入れていたり、敬愛している乙一先生がデビュー作で用いた表現手法を参考にしている部分もあるんです。アニメの放送は来年なので、ぜひそこまでに原作小説もチェックいただいて、この描写はアニメだとどうなるのかな、なんて想像していただけるとより楽しめるのではないでしょうか!」(坂)
刊行されたばかりの原作小説第2巻を読みながら、その刻に備えたいところだ。
取材・文●太田祥暉
プロフィール
坂(さか)
作家。ライターとして活躍するかたわら小説の投稿を始め、2021年に『ある魔女が死ぬまで』で「電撃の新文芸2周年記念コンテスト」大賞を受賞。同作でデビューを果たす。2024年には第8回カクヨムWeb小説コンテストプロ作家部門特別賞を受賞した『龍の子、育てます。』が富士見L文庫から書籍化された。
濁川敦(にごりかわ・あつし)
演出家。日本アニメーションにてキャリアを開始し、『NARUTO -ナルト-』シリーズや『忍たま乱太郎』など数多くの作品に絵コンテ・演出として携わる。2015年に『あにトレ!EX』でテレビシリーズ初監督後、様々な作品で監督を務めている。主な監督作に『恋愛暴君』『ハクション大魔王2020』など。現在、監督作である『異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~』が放送・配信中。
作品紹介
魔女見習いのメグ・ラズベリーはある日、自分が呪いによって18歳で世を去ることを師匠にして『永年の魔女』ファウストから宣告される。現在17歳のメグにとって余命は残り1年。そんな彼女に師匠は、延命できるたった一つの手段を提案する。それはなんと、人の嬉し涙を1000粒集め、寿命を超越することができるという「命の種」を生み出すことだった……。
1年=365日で1000粒。つまり、一日あたり2~3粒は嬉し涙を集めないと、メグは死んでしまう! メグは嬉し涙を集めるためにたくさんの人々と触れ合い始めるが、その過程で彼女は大切な「何か」を見つけ出していく。
メグが巻き起こすドタバタな日常と、人々との交流によって描かれる感動ストーリー、その両翼によって紡がれる本作。テンポの良い会話に笑っていたら、いつの間にか泣かされていた……なんてこともあるはず。はじめはぽんこつ魔女見習いだったメグが、ファウスト以外の「七賢人」たちからも認められるほど八面六臂の活躍を魅せていく様にも注目あれ。
なお、映画好きな著者が名画をモチーフにしたシーンも存在。第2巻では『エクソシスト』をモチーフにした場面があるというが、「ここは何の映画をイメージして書いたのだろう……」と想像しながら読んでみるのも面白いかもしれない。
原作小説
シリーズ最新刊
-
ある魔女が死ぬまで 2 蒼き海に祝福の鐘は鳴り響く
著者: 坂 イラスト: コレフジ
未熟な魔女の不屈の心が、いま奇跡を起こす――世界魔女編。
見習い魔女のメグは十七歳の誕生日に、師である『永年の魔女』ファウストから余命宣告を受ける。呪いを解く方法は嬉し涙を千粒集めて『命の種』を生み出すことだけ。
念願の『二つ名』を与えられたメグは、祝福の魔女ソフィのはからいで二十年に一度開催される『魔法式典』に招かれる。メグはそこでも新たな縁を結び、その出会いは彼女の運命を大きく変えようとしていた。
人々の想いを受け取り、かけがえのない約束を交わし、もちろん失敗だって何度もして。だけど魔女は諦めない。たとえ、どんな絶望を前にしても。
「メグ、笑いな。偉大な魔女はね、逆境にこそ笑うんだよ」
明るく愉快で少し切ない、魔女の師弟の物語。別れの冬を乗り越えて、旅立ちの春へと向かう第二幕。
既刊
-
ある魔女が死ぬまで 終わりの言葉と始まりの涙
著者: 坂 イラスト: コレフジ
定められた別れの宣告から始まる、魔女の師弟のひととせの物語。
★電撃の新文芸2周年記念コンテスト〈熱い師弟関係〉部門 大賞★
「お前、あと一年で死ぬよ、呪いのせいでね」
「は?」
十七歳の誕生日。見習い魔女のメグは、師である『永年の魔女』ファウストから余命宣告を受ける。呪いを解く方法は、人の嬉し涙を千粒集めて『命の種』を生み出すことだけ。メグは涙を集めるため、閉じていた自分の世界を広げ、たくさんの人と関わっていく。出会い、別れ、友情、愛情――そして、涙。たくさんの想いを受け取り約束を誓ったその先で、メグは魔女として大切なことを学び、そして師が自分に授けようとするものに気づいていく。
「私、全然お師匠様に恩返しできてない。だから、まだ――」
明るく愉快で少し切ない、魔女の師弟が送るひととせの物語。
コミカライズ
コミカライズが電撃コミックレグルスで連載中!(漫画:雨霰けぬ)
本棚からこの作品がなくなります。