両親の借金を肩代わりしてもらう条件は 日本一可愛い女子高生と一緒に暮らすことでした。

第1話 人生何が起きるかわからない その4

    *****


 震える一葉さんをリビングに案内して、お茶を飲んで一息ついたところで一葉さんはゆっくりと口を開いた。

「さて、勇也君。今あなたが置かれている状況を説明しますね。と言っても一言で済むと言えば済む話なんですが」

 ごくりと俺はつばを飲み込み、一葉さんの言葉を待つ。

「勇也君は私の所有物となりました。以上です」

「うん。わかった。説明する気はないな? そうだな?」

「長々と話しても仕方がないと思ったので端的にまとめてみましたがいけませんでしたか?」

「ダメに決まっているだろう! いつ俺が君の所有物になった!? ペットを買った報告じゃないんだ! ちゃんとわかるように説明してくれ!」

「ペット。そうですね。勇也君は今日から私のペットになりました。うん、いいですね。素晴らしい響きです!」

 状況を説明する気がない上に人の話をまったく聞こうとしない。腕を組み、頰を赤らめながらウフフと妄想にふけっている。それすらも絵になってしまうのだから美人というのは実に反則だ。俺はズズズとわざと音を立てて茶をすする。

「ダメですよ、ポチ。そんな飲み方をしたら───って、ごめんなさい、勇也君。少し遊びが過ぎてしまいました。どこまで話しましたっけ?」

「……俺が一葉さんの所有物になったところまでかな」

「そうでした。なんで勇也君が私の所有物になったか、って話になりますが、それは他でもない、あなたのお父様が私の母に泣きついて来たからです」

 どうして父さんが一葉さんのお母様に泣きついたか。その理由をかいつまんで説明するとこういうことだ。

 我が家のくそ野郎な父さんと一葉さんのお母様は小中高と同じ学校に通っていた所謂いわゆる腐れ縁だったそうだ。風のうわさで父さんのダメっぷりを耳にしていたようだが高校卒業以来一切連絡を取っていなかった。それがひと月ほど前になって突然連絡があったらしい。

 内容はずばり『助けてくれ』。

「最初はお母さんも断るつもりだったみたいです。いくら腐れ縁だからと言って自分の愚かな行いで首を絞めたのは他でもない自分自身。止めずに声援を送り続けていた勇也君のお母さんも同罪だと言っていました」

 あのクソおやは本当に何を考えているのだろうか。所帯持ちのおさなじみの女性にSOSを求めるなんて信じられない。海外から帰って来たら気の済むまでぶん殴ってやる。

「ですが、勇也君のお父さんは泣きながら言ったそうです。息子だけは助けてくれと。勇也は何も悪くないし、俺と違って才能もある。あいつの将来を潰すようなことはしたくない。そう泣きながら言ったそうです」

「…………」

「まぁそれでも母が首を縦に振る義理はないんですけどね。だからなんだとむしろ火に油でした」

 それはそうだろう。一葉さんのお母様からしたら俺は赤の他人。息子を引き合いに出して助力を得ようなんて水たまりくらいの浅さしかない短絡的な言い訳だ。もう少し頭をひねれよ馬鹿親父。

「では、どうして私の母が助ける気になったのかそうめいな勇也君なら疑問に思っている事でしょう。その理由はもちろん! 何を隠そう私がわがままを言ったからです!」

 えっへん、と胸を張ってドヤ顔をする一葉さん。ニットセーターの上からでもその大きさがわかる双丘がたゆんと揺れる。しかも身体を反ることでより強調されて目のやり場に困る。俺は少し視線を外しながら、

「ひ、一葉さんのわがまま? それがどうして俺の父さんを助けることにつながるのさ? わがまま言ったくらいで他人の借金を肩代わりしないよね、普通」

「私はこう見えて、これまで一度もわがままを言ったことがない、素直で従順な良い子でした。そんなわいい一人娘が生まれて初めてわがままを言ったので両親、祖父母、そろって大喜びでした。赤飯は炊きませんでしたが」

 今さらっと自分のことを素直で良い子って言ったけどそこは聞き流そう。そしてわがままを言ったくらいで大喜びする家族って中々ぶっ飛んでいる。

「私のわがままはです。一つは勇也君を助けてあげてほしい。勇也君は悪いことをしていないのだから当然ですね。勇也君のご両親がどうなろうと知ったことではないんですけど、勇也君が悲しい思いをするのだけは見過ごせませんでした」

 どうして一葉さんが俺なんかのことを気にかけてくれるのか。そもそもそこが疑問ではあるが、誰かに心配されるというのはとてもうれしいことだ。

「そして二つ目のわがままですが。これこそ勇也君が私の所有物になった、私史上最大のわがままです。なにせ私はあなたと一緒に暮らしたいと言ったのですから」

「よし! ますます意味が分からなくなった! それはもうわがままじゃないな! 告白とかプロポーズとか色々な過程をすっ飛ばして同棲したいってご両親に言ったのかよ!?」

「だって……勇也君と一緒にいたいんだもん……」

 はい反則! 女神のような可愛い一葉さんが指をもじもじさせながら口をとがらせて上目遣いで照れた感じで『だもん』なんて言ったらどんな男も即落ちだ!

「それで……私のわがままと初恋の相手ってことでみんな盛り上がっちゃって。お父さんが小切手を用意して、お母さんが勇也君のお父さんに連絡して……それで決まったことがこれです」

 初恋の相手という聞き捨てならない言葉に触れようか迷っていると、一葉さんから一枚の紙を手渡された。それはいわゆる誓約書のようなもので、一番下には父さんの署名なついんがあった。その内容は───

「一つ。勇也と一葉さんが同棲することを許可する。二つ。勇也が十八歳となり高校を卒業したら籍を入れて一葉家に婿入りすることを了承する。なお、同棲開始後は吉住夫妻から吉住勇也への接触は永久に禁止とする。なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁっ!!??」

 いや、絶叫するに決まっているだろこんなの。

 俺が、一葉さんと同棲するだけじゃなくて高校卒業と同時に結婚!? 婿入り!? うちの両親はそれを許可したの!? あっ、ばっちり署名されているから二つ返事で了承したのか。笑顔でサインしているクソ親父と無駄に笑顔で「これでユウ君も幸せになれるわぁ」とかのんきに言っている母さんの顔が浮かんでくる。

「安心してください。私としては勇也君を養っていくつもりですが、それでは気が済まないという立派な精神を持っている勇也君には婿入り後は父のそば付きとして働いてもらい、行く行くは一葉グループの社長になっていただきます。これは決定事項です」

 どうなってんだよこの親子は!? うちも家だが一葉家も一葉家だ! 顔を合わせたこともないただの高校生の俺と大事な一人娘の結婚を許した上に、俺を次期社長にするとかどう考えても頭のネジが吹き飛んでいるとしか思えない。

「あなたのご両親、私の両親、双方が許可をしたのです。そして勇也君。残念ながらあなたに拒否権はありません。もし断れば……どうなるかわかりますね?」

 あぁ。なんとなくわかる。俺は間違いなく一葉グループの社員として奴隷のように働かされるのだろう。もしくは漫画の世界のように地下行きになるのだ。死ぬまで太陽を拝めない地獄の日々が俺を待っている。

「フフフ。さすが勇也君。察しがいいですね。拒否すればあなたは私専用の執事として一生そばに居てもらいます。執事ですからね、エッチなことはおろかキスもできません。私が無防備な姿をさらしても勇也君は手を出せない地獄を味わうのです」

 地獄は地獄でも違う地獄だった。一葉さんの口からエッチとかキスとか聞く日が来るとは思っていなかったが、顔を真っ赤にしていることから大分無理をしているのだろう。執事としてお嬢様に仕えながら禁断の愛にちていく。悪くない。

「ダメです! 禁断の愛には堕ちません! それはそれで悪くないですが、やはりそこはその……やっぱり……純愛がいいといいますか……堂々とラブラブしたいといいますか……」

 何この子すごく可愛いんですけど。学校での一葉さんは常に完璧で清廉潔白。近寄りがたいたかの花の美少女だが今の彼女は全く違う。

 れんにして純潔。まるで少女漫画をこよなく愛するどこにでもいる普通の女の子のようだ。これが彼女の本当の姿なのかもしれない。もしそうだとしたら俺は一葉楓の素顔を知る数少ない男になっているのではないか?

「わ、わかった。その話、受けるよ。そもそもわざわざ断るような話じゃないし、俺にとっては奇跡のような申し出だからね。一葉さんのような人と一緒に暮らせて結婚だろう? 夢のような話じゃないか。最高かよ」

 努めて明るく振る舞って。俺は湯のみの茶を飲み干した。ツッコミで渇いた喉にみ渡る。早鐘を打つ俺の心臓に落ち着きをもたらしてくれる。

 あぁ、言っちまった。勢いに身を任せて同棲からの婿入りの話を当事者である俺も了承してしまった。でもこれでいい。一葉さんのような超絶美人と同棲出来て結婚、いずれは社長の椅子が待っている。だからこれでいい。別に寂しくなんて───

「勇也君! どうしたんですか!? どこか痛い所でもあるんですか!?」

「……え? どうしたの、一葉さん。俺は別に痛い所なんてどこも……」

「ならどうして……勇也君は泣いているんですか?」

 頰を触る。指がれる、冷たい感触があった。おかしいな。馬鹿な両親から解放されて自由になれたのにどうして涙が止まらないんだろう。どうして胸が張り裂けそうになるくらい痛くて苦しいんだろう。どうして───

「大丈夫です。大丈夫ですよ、勇也君。私がそばに居ますから。ずっと、あなたのそばに居ますから」

 気付けば俺は一葉さんに抱きしめられていた。優しく、小さな子をあやすように背中をさすりながら声をかけてくれる。慈愛に満ちたその声音。俺は思わず彼女の腰に腕を回してぎゅっと抱きしめ返す。

「突然一人になったんです。寂しいのは当然です。でもその分、これから幸せになりましょうね、勇也君」

 女神様の抱擁はとても気持ちが良かった。このまま溶けてしまいたいくらいだ。

「落ち着いたら荷造りしてください。このおうちは取り壊しますから」

 なんて幸せな気分を味わっていたら現実に引き戻された。え、この家なくなるの? うそでしょう?

「一度更地にしてから家を建て直して貸家にします。その家賃収入も私達のふところに入ります。あぁ、私達の愛の巣なら大丈夫です。すでに用意していますから。幸いなことに明日は土曜日で学校が休みなので、色々買い物に行きましょうね」

 俺は鼻水をすすりながらうなずいた。ヨシヨシと笑顔で頭をでてくる一葉さん。一体全体何がどうなっているのやら。

 俺の身体からだにもしっかりダメ親父の血が流れているらしく、勢いで人生を左右する大事な決断をしてしまったのかもしれない。

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