両親の借金を肩代わりしてもらう条件は 日本一可愛い女子高生と一緒に暮らすことでした。2

第3話 勉強会 in 愛の巣

 迎えた週末。10時過ぎにしんおおつきさんが家にやってきた。一体何時間勉強する気なんだとあきれるが、どうせ昼ご飯を食べたら集中力が切れて中だるみするからちょうどいいのかもしれないな。

「ポテチよし! チョコレートよし! コーラもよし! 準備万端! これで勉強がはかどるね!」

 ニャハハと笑う大槻さんのテンションは無駄に高く、パートナーである伸二も苦笑いしている。ちなみに今日のかえでさんは伊達だて眼鏡をかけている。理由を尋ねたら、

『フフッ。家庭教師感を出そうと思いまして。どうですか、似合っていますか?』

 控えめに言って最高、と返しておいた。眼鏡姿の楓さんはお姉さん感が増してとてもい。甘えたい。

 おっと、変なことを考えるのはこの辺りにしておこう。

 その楓さんは大槻さんが持ってきた大量のお菓子をお皿に盛りつけてテーブルの中心に置いた。この絵面だけを見れば勉強会というよりただのお菓子パーティーだ。本当にやる気があるのか早くも不安になってきた。

あき。真面目にしないとそろそろまずいと思うよ? 二学期の期末試験も赤点ギリギリだったよね?」

ぐれ君の言う通りですよ、秋穂ちゃん。しっかりやらないとお昼ご飯は抜きですからね? お菓子も没収しますからそのつもりで」

「そ、そんなせっしょうな!? 今日の一番の楽しみは楓ちゃんの手料理なんだよ!? それを私から奪うなんてひどいよ! 酷すぎる!」

 そうか。大槻さんは見かけによらず成績があまりよろしくないのか。楓さんは入学以来学年一位を死守しているし、俺と伸二はちょうど真ん中か下くらいの成績。

 今回俺は学年ベスト10に入ることを目標にしている。ひとつ楓の彼氏として恥ずかしくない自分でありたいのと将来のことを考えての設定だ。

「残念でしたぁ。今日のお昼ご飯は私ではなくゆう君お手製のラザニアです。勉強をしないなら私が秋穂ちゃんの分まで食べちゃいますのでそのつもりで」

「ヨ、ヨッシーの手料理……だと? うそ、ヨッシー料理できるの!? しかもラザニアとはなんてオシャレな物を……」

「勇也君が早起きして準備した特製のラザニアですよ? 本当なら独り占めしたいところを必死で我慢しているんです。それをいらないというのはどういうことですか! 怒りますよ、秋穂ちゃん!」

 勉強をさぼろうとする大槻さんへの怒りから俺が作ったラザニアを食べないつもりでいる大槻さんへの怒りへと変わっている。まぁ大槻さんは食べないとは一言も言っていないんだけどな。

「た、食べたいです! ヨッシー特製のラザニア食べたいです! だから勉強頑張ります!」

「よろしい。ではそろそろ始めますよ。秋穂ちゃんは私が見ておきますので勇也君と日暮君は自由に進めてください。わからないところがあれば聞いてくださいね!」

「ありがとう、一葉さん。うちの秋穂をよろしくね」

 自分の娘を敏腕家庭教師に預ける親のように頭を下げる伸二。体育会系の俺達より勉強ができないとなるとかなりの強敵だと思うが、楓先生なら大丈夫か。俺も楓先生に指導してもらいたいなぁ。

「フフッ。勇也君には今夜、特別指導してあげますから楽しみにしていてくださいね?」

 眼鏡をクイッと持ち上げてようえんに微笑む楓さんに俺の心臓は一発で撃ち抜かれた。やばい、過呼吸で死ぬかも。

「また始まったよ……シン君、生きてるかい? ちなみに私はもうダメかもしれない」

「秋穂……頑張ろう。頑張って耐えよう。もし来年二人と同じクラスになるようなことがあれば四六時中この様子に付き合わないといけなくなる。今から……慣れない……と……」

 二人がぶつくさ言っているが気にしない。楓さんの特別指導をごほうに勉強頑張るぞ!


    *****


「もう……ダメ。無理。頑張れない……」

「まさか、ここまでとはね……」

 机に突っ伏して真っ白に燃え尽きている大槻さん。天井を仰ぎ見ながら口から魂を放出する伸二。

 時刻は現在17時半を過ぎたところ。適度に休憩をはさみ、時には雑談をして中断することもあったがそれなりに勉強は捗ったと思う。

 昼に出したラザニアは楓さんを含んだ全員に好評で星三つ頂きました。楓さんの「すごく美味おいしいです」という一言が一番うれしい感想だった。

「二人ともお疲れ。こうして集まって勉強するのもいいもんだな。明日もやるか?」

 楓さんと過ごす二人きりの時間が減るのは惜しいが、試験でそれなりの点数を取るためには我慢するしかない。最初は気が乗らなかった勉強会だが、周りで自分以外の誰かが集中している姿を見ると自然と気が引き締まるので環境としては悪くない。

 しかし、伸二は力なく首を横に振った。

「時折見せつけられる勇也と一葉さんの新婚ぶりに僕らはすでにグロッキーだよ。こんなのを連日見せつけられたら多分僕らは早死にするね。死因は糖尿病かな?」

 こいつは何を言っているんだ? と思ったがふらふらと顔を上げた大槻さんもうんうんとうなずいた。

「使った食器を当たり前のように洗い出すヨッシーと、洗った食器を丁寧に拭いていく楓ちゃん。自然と始まった見事なまでの分担作業にこの二人は本当に私達と同級生なのかって疑っちゃったよ」

 そうか? ふと顔を上げた時に楓さんと目が合うことは何度もあったが愛を語り合ったりはしていないぞ?

「ヨッシーは集中していたから気付かなかったと思うけど。楓ちゃんてば私が問題解いている間はずっとヨッシーのこと見つめていたからね。しかもすごくとろけた顔で。『あぁ、集中している勇也君、カッコイイですぅ』って心の声が聞こえてきたよ」

「あああ秋穂ちゃん!? 私は別にそんなつもりで勇也君を見ていたわけではありませんよ!? というかなんですか心の声って!?」

「それじゃ楓ちゃんは一体どういうつもりでヨッシーのことを見つめていたのかなぁ? 勉強も手についていなかったみたいだし?」

 今日の楓さんは教師役に徹していたから自分の勉強が進まなかったとしてもどこもおかしくはない。ちなみに楓さんは毎日の予習復習が土台にあるから俺達のように苦労することはないはずだ。そんな話はどうでもいい。大事なのは楓さんが俺を見ていたという理由だ。

「───っこいいなぁって思って見てました」

「なにかなぁ? 最初の方がよく聞こえなかったからもう一度言って欲しいなぁ? ヨッシーも聞こえなかったよねぇ?」

「あ、あぁ。最初の方は小さかったからよく聞こえなかったな。楓さん、もう一度言ってくれないかな?」

「うぅ……カッコよかったからです! 真剣な表情をしている勇也君がすごくカッコよかったかられていました! いけませんか!?」

 テーブルをバンっとたたきながら楓さんは顔を真っ赤にして怒鳴るように言った。その剣幕にあおっていた大槻さんは驚き、伸二は苦笑い、俺は恥ずかしくなって明後日あさっての方向を向いた。

「大好きな人がいつもはあまり見せない表情をしているんですよ!? 目を奪われるのは仕方のないことだと思います! だからついつい見つめちゃって、ふと目が合った瞬間に心の中で勇也君、好き、とつぶやくのも仕方のないことです!」

 楓さんが暴走モードに突入している。これは止めないとダメなやつだ。大槻さんから早くなんとかして! という無言の訴えが飛んでくる。そもそもこの状況にしたのはあなただから責任は大槻さんがとるべきでは?

「そもそも! 秋穂ちゃんだって日暮君のことをじっと見つめて手が止まっているときがありましたよ? 私が気付かないとでも思いましたか!? とても蕩けたわいい顔で日暮君のことを見つめていました。そんな秋穂ちゃんにとやかく言われたくありませんね!」

「かかか楓ちゃん!? わ、私は別にシン君のことを見つめていたりなんかは───」

 きゃあきゃあと楽しそうに口論を繰り広げる楓さんと大槻さん。こうなってしまっては男二人が介入するのは容易ではない。さて、どうしたものか。

「ハハハ。放っておくのが一番だと思うよ。下手に口出しすれば飛び火するだけだから。それでも止めたいっていうなら方法はそう多くないよ?」

「……お前が得意げな顔をしている時はたいていろくでもないことを考えている時だと思うが、一応聞こうか」

 伸二が語ったのは作戦とは言えない強引な力技。伸二と同時に決行するのはとても恥ずかしいが、二人を落ち着かせるにはこれしかないと策士伸二は言った。俺は一つ深呼吸をして覚悟を決める。静かに移動して、アイコンタクト。よし、行くぞ!

「秋穂。君の気持ちはわかったよ。でもその辺で終わりにしてそろそろ帰る準備をしようか」

「楓さんの気持ちは十分伝わってきたよ。ありがとう。だからこの辺りで終わりにしよう?」

 顔を突き合わせていたそれぞれの思い人を後ろから抱きしめて無理やり引き剝がして耳元でささやいた。するとどうでしょう。あんなに騒がしかった楓さんと大槻さんが借りてきた猫のように大人しくなったではありませんか。

「ゆ、勇也君……」

 楓さんの思いは十分すぎるくらいわかったからね。ありがとう。大好きだよ。そう思いを込めて頭をでた。もしこの場にいるのが俺と楓さんの二人きりだったら口に出していたのだが、さすがに伸二達がいる前では恥ずかしいからやめておいた。

「えへへ……勇也君に撫でられるの好きです。もっと撫でてください!」

「フフッ。わかったよ。たくさん撫でてあげるね」

 嬉しそうな表情を見せる楓さん。うん、すごく可愛い。

「なんだろう。すごく負けた気がするんだけど……」

「シ、シン君も大概だけどヨッシーはそれ以上かも……楓ちゃんのデレ顔の破壊力もやばいね」

 楓さんの気が済むまでハグしたままナデナデしていたかったのだが、伸二と大槻さんが帰ると言い出したことで強制終了となった。

 それからすぐ。どこかげんなりした様子の二人を見送り終えると騒がしくも楽しかった勉強会という非日常空間となっていた我が家に静寂が戻ってきた。ソファに腰掛けるとどっと疲れが押し寄せてきた。

「あぁ……夕飯どうしようか。何も考えてなかったわ」

「勇也君が作ったミートソースがまだ残っているので今夜もスパゲティにしちゃいますか? 私は全然いいですよ?」

「そう? 二日連続で悪いけど今日もスパゲティにしようか。お湯沸かさないと……」

「私がやりますよ。でもその前に、頑張った勇也君にご褒美をあげないとですね」

 それは朝言っていた特別指導ですか!? このタイミングでくれるの? でも一体なにを───?

「フフッ。それはですね……こういうことですよ」

 ほほむ楓さんがとった行動は。なんとびっくり! ソファに座っている俺の上にまたがるということだった。それはダメだよ、楓さん! しかも跨るだけじゃなくてコアラのように首に腕を回してきた。

「夜の特別指導は……こういうのはどうですか?」

 耳元で囁き、そのままはむっとあまみされた。驚きと同時に身体からだに電流が走る。

 これはまずい。楓さんの甘い吐息と一緒に押し寄せてくる形容しがたい感覚に身体が熱くなり何も考えられなくなる。

「フフッ。勇也君、ビクってして可愛いのでもっとしたいところですが、今日はこれくらいにしておきます。夕飯の準備は私がしますから、勇也君はゆっくりしていてください。これ以上は私の理性が持ちません……」

 最後はボソボソと呟いていたので聞き取れなかった。

 楓さんは俺の上からゆっくりと立ち上がると台所へと向かう。俺はほうけた頭でその後ろ姿を見つめた。

 それにしてもなんて恐ろしい特別指導だったんだ。こんな指導をもう一度されたら俺は多分おおかみさんになるかもしれない。

 いや、本当の狼さんは俺ではなくて楓さんなのでは?

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